PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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 新年最初の投稿です


30話  静かな終結

 昼間の札幌が一気に戦場になる。銃声が響き渡り、グレネードが爆発する轟音、逃げ惑う民間人の悲鳴が支配していた。当然、警察も対応するが訓練されているのか、押され気味であった。

「社内から敵がわんさか出てきやがる、なかなか進めないな」

 敵を倒しながら進むものの、想像以上に数が多いため社内に入り込めないでいた。敵は何も一階から出てくるだけではない、上の階からも銃撃の雨が降るのだ。

「くそ、いくら俺でも進めねぇ」

 倒した敵から鹵獲したM18スモークグレネードを投げ、仮の壁を作りながら少しずつ進んでいく。その時、宏美から連絡がくる。

「ケビン、このビルの裏にある非常口が空いてるわ。そこから入り込めそうよ」

「ラジャ。命令違反はしたが、いいアシストだ」

 時間の経過と同時に雨脚も緩やかになり、ケビンはビルの脇を通り、非常口を目指す。そこには腰を抜かしPx4片手に震え、涙目の宏美がいた。

「・・・どうした?」

「人、初めて撃ったのよ・・・怖いの、引き金を引くだけで命が終わると思うと」

 彼女の足元を見ると、倒れている兵士の姿があった。ケビンは応急薬と止血剤を取り出し、首に打ち込んだ。

「おい起きろ、お前には生きてもらう」

「・・・・・・・」

「うちの事務員に人を殺してほしくないからな。それと、対馬はどこだ?」

「地下だ。それにしても、結構アマちゃんなんだな・・・」

「まぁな。宏美、彼に肩を貸してやってくれ」

 ケビンは二人を立たせるとビル内に入り、対馬救出に戻る。地下に続く階段を探しながら一階のフロアを制圧していく。弾薬がそこまでないことに気がつくと、M629に持ち替え、慎重に進む。一つしかないドアのノブに手をかけ、勢い良く開け、瞬く間に制圧した。

「クリア。遅かったか」

 部屋の真ん中に対馬の遺体があった。散々刃物で痛めつけられた挙句、頸動脈を切られ絶命しているのがわかった。遺体の左手に書かれたメモには753と書かれていた。

「罠かもな。だが、そこにいるのは間違いない」

 

 

 

 

 

 車に戻り、ケビンは新千歳空港に向かうことにした。カーナビで場所を設定し、現場に急行する。

(ゴーストの目的が中村であるのは確かだ。だが、わざわざ目立つ空港に向かうか?)

 753、これは普通に読んではいけない。シチゴサンと読み、札幌付近でそれに関連していそうなキーワードが千歳、高飛びできそうな場所を想像すれば大方ターゲットの居場所が特定できるというものだ。

『緊急速報をお伝えします。新千歳空港に向かう道路が何者かに爆破され、現在、渋滞が発生しています』

 耳を疑うニュースだった。まさかこちらが移動してくることを計算していたかのようで、絵厚PAに車を止める。

『速報です。中村建築社長、中村洋二氏が新千歳空港で何者かに射殺されました。頭をほぼ真上から撃たれた模様』

 ゴーストは先回りし、任務を果たしたようだった。悔しさのあまりにドアを叩く。

「札幌に戻って姉妹に報告だ」

 事務所に戻り、任務を終えたことを鹿角姉妹に告げた。恩人が亡くなったからだろうか、晴れた表情ではなさそうだ。このとき、誰もかける言葉を失った。

 

 

 

 

 

 後日、宏美と二人、フェリーに乗り東京に帰還する。深夜、ケビンは冴えない表情で報告書を書くことにした。

(完全に後手だった。あのスナイパーにはバックに何かある、彼一人で仕事していないことは確かだ。今後、彼が動いている情報があれば、早急に仕事を終わらせよう)

 電話が鳴り響く。ケビンは受話器を取った。

「こちらトライデント・アウトカムズ」

「ケビン。札幌の任務、お疲れ様」

「CEO、任務は失敗しました。ターゲットがゴーストにやられました」

「そうだけど、ゴーストに始末されなくてよかったよ。情報屋によれば、CIAの汚れ仕事を専ら請けてるって話だったからさ。まぁ今回はフリーランスだったけどね」

 渋い顔しながら紅茶を飲む。

「っで、誰が彼の依頼人だったか、わかった?」

「対馬氏でしょう。彼が今回の事件の渦中にいるようなものでしたから」

「実はもう一人いたんだ。誰だったと思う?」

「?・・・なるほど、依頼人が一人だけなら放棄も考えられますが、二人なら別ですね。だったら、彼女しかいないでしょう。鹿角理亞、対馬が以来した際に彼女も同席していたなら、説明がつきます」

「ビンゴ、ドミニクが彼女を簡単に聴取して発覚したんだ。しかし・・・悲しいものだね、いたいけな少女が暗殺者に殺人依頼なんて・・・」

「この時代、おかしくもないでしょう。では書類が書き終わってないので、また」

 受話器を戻した直後、再び電話が鳴り響いた。

「・・・はい、トライデント・アウトカムズ」

「どうだった?俺の描くショーは?」

 ボイスチェンジャーを使った誰かが相手だ。思わず構える。

「誰だ貴様?」

「ゴーストと言えばわかるか?」

 込み上げる憎悪を必死に堪え、平静に応対する。

「あぁ。貴様がここにかけてくる理由がわからんがな」

「簡単だよ、札幌のハンティングショーの感想を、一番のVIPに聞くためだ」

「狙撃がショーだと?ふざけたことを言うな!」

「お気に召さないみたいだったな。もっと華麗な狙撃術を披露したっていいんだぞ・・・まぁ、これから日本を離れるから見せられんがな」

「今度日本に貴様が現れたら、絶対に眉間を撃つ。せいぜい覚悟しておけよ」

「おぉ怖い、用心しておくよ」

 電話が切れ、受話器を戻す。ケビンは複雑な気持ちで書類を書き終え、机に飾られている、優しい顔をして写る家族写真を見つめた。

(俺、誰かを守れたかな?)

 事務所の戸締りを終え、2階の居住スペースに戻って行った。




 

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