PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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27話  行動開始

 まだ滞在しているジョセフに事件のことを教えた。すると、R5を渡してほしいと頼まれた。

「相手はスナイパーだってな。だったら今の装備じゃキツイだろう、俺が改造してやる」

 トラックの工房でR5に小型のレーザーサイトをハンドガードの左側面に取り付け、バレルも新品のヘビーバレルに取り替える。

「そうだ、CEOから連絡があるんだ。日本にヤバイ奴が入ってきたぞ」

「誰だ?」

「これまた海兵隊出身のスナイパーらしい。ケビン、もしゴーストがそいつだとしたら厄介だぞ」

「確かにな」

 R5を持ってみる。少々重くなっているが、的に向かってフルオートしても高い精密性を維持していることに驚く。

「これはいいな。戦えそうだ」

 

 

 

 

 

 

 朝、彼女達の通う高校まで送迎する。スクールアイドルはあくまでも高校生であることが条件だ、無論、登校中にゴーストから狙撃があってもおかしくない。学校から少し離れた場所で姉妹を降ろし、しばらく車内で見守ることにした。共学なのか、男子生徒・女子生徒問わず彼女達に声をかけてくれる。ケビンはこれまで3つのグループを相手に見てきたが、男は全員彼女達より年上ばかり。だから新鮮に映るのもおかしくない。

「よし、ドミニク。お前は今からすすき野に戻ってゴーストの調査。俺は周辺で聞き込みをする」

 車から降り、ジェラルミンケース片手に歩くことにした。

(敷地は広いな。周辺は住宅地で学校以外に高い建物はない、あっても二階建てのアパートのみ。おしゃれな喫茶店が良い味を引き出している・・・っと、俺がもし襲うとするなら、裏口に防犯カメラが1台だけみたいだし、そこからだ。だが、狙撃銃はなしだ。建物内は防寒のために風を通さないようになってるし、廊下は体育会系男子高校生3人分ぐらいしか広さがない。つまりアサルトカービンかサブマシンガン、ショットガンを装備して歩くのがベスト。無論、短い打撃武器でもよい・・・また逸れた。狙撃がしにくい環境だ、いくらゴーストでも彼女達を学校内で狙う可能性は低いだろう)

 それでも警戒は怠らない。何も殺すだけなら狙撃でなくていいからだ。

「早速、近所の人達と仲良くなっておこう」

 ケビンは喫茶店に入り、店内にいる全員と会話し、心をつかむことに成功する。探偵の基本としてターゲット周辺の人々とは信頼関係を築いておく。そうすれば彼らしか知り得ない情報も入手しやすいし、いざ困っても味方になってくれるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 すすき野に戻り、ゴーストの調査に当たっていたドミニク。雑居ビルの屋上で証拠品を探していると、溝の排水溝に詰まっている金色の筒を見つけた。それを拾ってみると、7.62NATOの空薬莢だとわかった。

(本当にここから狙撃したみたいだな。・・・ん、何か彫られている)

 小さくI’m Sniperと彫られている。その薬莢を袋にしまい、同行していた知り合いの警官に提出する。

「ドミニクさん。アンタも大変だね、まさか勤め先が吸収されて上司が出てこのビルを調査するなんて」

「まぁいい人っぽいからいいけど、ケビンはどんな人なの?」

「調べた結果。元アメリカ陸軍75連隊レンジャー出身のハーフらしい。去年日本に帰って来て東京の難事件を解決してきたらしいんだ」

「確かに射撃の腕は本物だけど」

「マーキュリーセキュリティーってPMCが不正した事実を調べたのも、そのケビンなんだ。探偵としても優秀な部類なんだろうな」

 左側面から殺意の籠った視線を感じる。ドミニクは本能的に警察官を突き飛ばした瞬間、彼の左腕に穴が開いた。そこから赤黒い血液が流れ出る。

「痛ってなぁ!って、ドミニクさん大丈夫か!?」

「あぁ、大丈夫だ。まずは身を隠さないと」

 穴の開いた部分を押さえ、素早くビル内に入る。警官が買ってきた止血剤でどうにか止血し、ケビンに電話を入れる。

「くそ、撃たれた。ゴーストが俺達を狙っていたんだ!恐らく証拠品の空薬莢をわざと残して狙ってやがった」

「わかった。一応、病院で治療を受けてくれ。詳しい話はあとで聞く」

 

 

 

 

 

 

 

 電話を切り、ケビンは迎えの車を校門近くに停める。

(容赦ない奴だ。・・・そろそろ下校時刻だな、迎えに行こう)

 ジェラルミンケース片手に学内に入ろうとした矢先、校舎の方から爆発音と悲鳴が響き渡った。ただ事ではないことを察知し、声のした方向に走る。

「み、みんなはここから離れなさい!」

 女教師が生徒達を遠ざけている。目線の先には頭部が爆ぜた男子生徒だったものが倒れていた。右手に何か握られている。

「ちょっと、あなたは!?」

「俺は鹿角姉妹の護衛をしてる探偵です、少し調べさせていただきます」

 ケースを置き、ポケットから手袋を取り出しそれをつける。握られたものをよく見てみると、ピストルグリップだとわかった。

「もういいでしょう。あとは警察に任せます(どういうことだ、何故学生がピストルを・・・まさか、彼に恨みのある人物が不良品銃を渡したのか?)」

 数分後、警察が到着し取り調べを受け、それが終わった鹿角姉妹と一緒に車内に戻った。

「亡くなった学生の名前、中村君だっけ?どんな生徒だっだの?」

 理亞が答えた。

「同級生で、趣味が悪いDQN」

「DQN?そんなにクソッタレだったの?」

「だって毎日口説いてくるし、生傷絶えないし喧嘩早いし、好みじゃないし」

 延々と続く彼の愚痴に痺れを切らした。

「言いたいことはわかった。でも、君の愚痴でお腹いっぱいだ」

「だって、どんな人間か聞きたいって言ったから」

「個人的なことはわかったから、客観的に見ての評価だよ」

「たぶん、みんな同じこと言うと思うよ」

 そこまで嫌われている人間がいることを考えると、悪い仲間に唆されて不良品銃を渡され殺されてもおかしくない。ケビンはゴースト事件を一旦保留し、学校内暴発事件の捜査をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。警察の調査資料が事務所に届く。中村青年が握っていたグリップは、池袋であったSaint Snow狙撃未遂で使用されたのと同じ種類の中国製マカロフだと判明。これにより中村青年をはじめとする犯人達は特定の人物と接触した可能性が浮上した。ケビンはドミニクを中村邸に派遣し、友好関係を調べるよう指示、ケビンは護衛さながら学校付近で聞き込みをすることにした。仲良くなった近所の人の集会場、喫茶店に入る。

「探偵さん、昨日大変だったね」

「マスター。中村青年に関して、知ってることある?」

「あぁあの悪ガキか。一昨日は退学した人間と一緒にこの店に入って騒ぎまくっていたんだ・・・なぁ、事件と関係ないかもだけど、見慣れない男が混じっていたの覚えてるぞ」

 客の一人が写真を撮っていたらしく、それを見せてもらう。派手な髪色の男達のなかに、一人だけ浮いている黒髪でスーツ姿の地味な男がいる。

「その後。白い袋を配ってさ、コーヒー代払って立ち去って行ったんだ」

「防犯カメラ、見せてもらえるかな?」

 バックヤードにあるカメラ映像を見せてもらえた。証言と写真の通りの人物達が一つのテーブルに張り付き、白い袋をそれぞれに渡しているのがわかる。

(男の顔がよく見えないな。だが、解析できれば大きな一歩になる)

 映像を警察に提出するよう進言し、喫茶店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 車の中で待機していると、ドミニクから電話がかかってきた。

「どうした?」

「中村の通っていたたまり場がわかったぞ、場所はすすき野のバー。未成年のクセにそんなとこ行くなんて、金持ちじゃないと考えられないぜ」

「お疲れさん。狙撃には注意しろよ」

 電話を切ると車を出し、事務所に帰ることにした。

「そういえば探偵さん、中村の奴、金持ちなの思い出した」

「ほぅ」

「中村建築って会社だけど、最近古い町並みを壊して新しく創り直すって話があるんですよ。でも、知り合いの不動産屋に話によるとですね、耐久年数はまだ余裕があるって話なんです。なんかおかしくないですか?」

「確かに情報収集する必要がありそうだな」

 こうして、中村建築も調べることになった。この行動が事件の転機になることになろうとは、夢にも思わなかった。




 時には味方キャラも撃たれてもいいかと思いまして

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