それはどんなに乱暴に扱っても弾が出る信頼性が高い銃だからだ
10:00池袋のサンセットビル屋上に仮設のステージが建てられている。北海道で人気のスクールアイドルSaint Snowがライブに来るらしく、ミコト曰く、かなり勢いのある姉妹とのことだった。しかし、ケビンにはスクールアイドル全体が同じように見えるため、彼女の言葉の意味は分からなかった。
「北海道から東京に来るなんて、なかなか無い勢いです。二人ともクールでアクロバティックなダンスが見物なんですよ」
「と、言われてもなぁ・・・」
確かにバック宙返りや激しいステップは魅了できるものはある。
「なんか違和感があるんだよなぁ・・・」
演技自体の完成度ではなく、姉妹の深層心理に違和感を感じていたのだ。余裕がない、そんな感じが肌に感じたのである。演奏が終わる少し前に、視野に映った何かに気がついた。
「!?みんな伏せろ!!」
ケビンはBGMを超える声量で叫び、右斜め前にいた客が握っている拳銃に目掛け、警棒を投げつけた。命中し拳銃を飛ばすと一気に駆け寄り無力化してみせた。
「・・・何者だ、こりゃ」
飛ばした拳銃を調べてみる。グリップに黒い星が刻まれていたため、中国製であることがわかった。
「マカロフのコピーモデルか。マガジンには弾丸が10発ほど・・・」
薬包紙を取り出し、弾丸を調べることにした。火薬に触れた瞬間、男のしようとしたことに違和感を覚えるようになる。
「先生・・・どうしたんですか?」
「どうなってんだ、花火で使う火薬が入ってる・・・」
「?」
「銃の弾に使われる火薬は、いわゆる爆薬ではない。無煙火薬と呼ばれる、いわばロケットを飛ばす燃料みたいなものなんだ。だがこれは違う、花火が空に撃ちあがって爆発する爆薬が入っていたんだ」
「もし、このまま撃っていたら」
「この量だとコイツは死ぬし、周囲の人間もケガするな」
Saint Snow殺害未遂事件は豊島署に任せ、二人で行きつけのピザ屋に入ることにした。
「捜査しないんですか?」
「休暇中に仕事はしたくない。それに、積極的に捜査に参加できる立場じゃないんだ」
「そう・・・」
「もちろん気になる点がある。あのマカロフは右手用だったが、男は左手で握っていたんだ。つまり」
「左利きの素人?」
「その通りだ。無論、一時的に左手に持ち替えて戦うこともあるけど、もし二人のどちらかが対象だったとしても、通路寄りの席より、むしろ真ん中の席につくだろうね。人混みに紛れやすい。何より、使用する弾をオーダーメイドにするなんて珍しい。市販品で十分だ」
「確かに・・・じゃああの弾は?」
「男を憎んだ人物が友好的に近づいて渡したものだろう。爆発する弾をね」
これ以上はわからないと言わんばかりにカルボナーラパスタを口に運んだ。
「ここ、ご一緒してもいいですか?」
「「?」」
よく似た雰囲気の姉妹が声をかけてきた。
「ん?イベントは中止になったのかい?」
「あんなショッキングなことがあったら、中止にせざるえません。申し遅れました、鹿角聖良と申します」
「鹿角理亞です。お兄さん強いんですね」
「これでも体は毎日鍛えているからね。まぁ立ち話も難だから座ってくれ」
鹿角姉妹を座らせ、本題に入ることにした。
「用件は?」
「その・・・助けてくれた人にお礼が言いたくて・・・」
「誰からここにいるって聞いたんだい?」
「えっと、そ、それは・・・」
理亞がツインテールの髪をいじりながら口ごもってしまった。どうやら言い辛いことがあるらしい。
「まぁいい。どうせつけてたんでしょ?最初からわかってたよ」
「「え、どうしてわかったんですか!?」」
「気配だよ。消すのが下手すぎるし、1メートルぐらいじゃ尾行するには近すぎるんだ。それに殺気も感じない。それに音も理由に上がるね」
「・・・あ、もしかして普通のスニーカーだから?」
「尾行は音にも注意を払う必要性があるからね・・・っと、話が逸れた。気持ちはわかったよ、もう十分だから何か好きなものを取ってきな」
二人が料理を取りに行ったことを見計らい、ミコトと話すことにした。
「それにしても、どうしてわざわざ礼を言いに尾行したのでしょうか?」
「簡単だよ、他にも尾行がいた」
「え!?」
「俺が目的じゃない、彼女達だ。簡単な質問をしようと思う」
二人が戻ってきた。
「本当の目的、俺に相談があるんじゃないか?」
「そ、その通りです。北海道にいた時から・・・」
二人の目線の先にはサングラスをつけた男がピザを堪能している。しかし、こちらに目線を向けていた。
「追っかけか何かかい?」
姉妹は首を横に振る。
「なるほど。見覚えもないってことだね」
突然男は立ち上がり、Vz61サブマシンガンを向けてきた。だが、ケビンのショルダーホルスターから抜かれたM629リボルバーに撃ち砕かれ、床に部品がばら撒かれた。
「俺の目の前で女子供に銃向けるなんて、ずいぶん良い度胸してるな」
急に非日常な空気に晒された姉妹は気が動転し震えながらミコトに抱き着いてきた。
「ななななんで銃持ってんの!?東京じゃ普通なの!?」
「ヒィィィ!」
「そんなわけないですよ、あの人が特別なの」
ケビンは男に近寄り、耳元で尋問する。
「誰に雇われた?」
「くっ・・・」
「さっさと吐け、苦痛が短い方がお互いいいだろう?」
M629リボルバーの銃口を顎にくっつける。
「わ、わかった話す。黒いパーカーの男に依頼されたんだ、北海道すすき野の路地裏で二人の写真を見せられて、それで銃も渡されたんだよ」
「銃を渡された?」
男を駆けつけた警察に引っ張ってもらい、再び席に戻る。
「あ・・・あのぅ?」
「?」
「あなた、何者なんですか?」
「おっと忘れてた。俺は秋葉原に事務所を置く特別警備会社の日本支部長、ケビン菊地だ。これどうぞ」
名刺を渡し、それを受け取るがどうも顔色が悪い。
「・・・ごめんね、物騒なもの見せて」
「どうして持ってるんですか!?」
「ちょっと莉亞、恩人になんてことを」
「まぁ理解されない仕事だから仕方ないよ。俺達の仕事は猫探しから護衛までなんでも引き受ける、言ってしまえば探偵と一緒だよ、違いがあるとすれば国から銃携帯と発砲の許可を持ってる。でも、殺しとか誘拐とか犯罪に関わることは一切拒否してるから安心して」
「そう・・・ですか。さっきのおじさんはじゃあ?」
「彼は君達を殺しにきたらしい。けど不審なんだ、覚えてると思うけど、サンセットビルの男もさっきも銃に不備があるものを渡されてるんだ。通常銃を使うなら信頼性を最重要視するんだけど、彼らの持たされた銃にはそれがなかった。つまり、彼らは素人である可能性が非常に高い」
先ほど騒動があったにも関わらすフライドポテトを三枚ほど美味しそうに食べ、すぐに平らげた。
「恐らく君たちは狙われていない。狙われたのは襲撃者の方だってことさ・・・金は俺が払うから、ゆっくりくつろいでくれ」
妹の理亞はミコトの顔をじっと見つめている。
「何かしら?」
「もしかしてもしかすると、二宮ミコトちゃん?」
「そうだけど、サイン上げないわよ」
「ふーん・・・どうして一緒に行動してるの?」
「今日はあなた達のライブに行く予定だったの。でも、どうしてここまで事件を引き寄せるか、不思議なものね」
「・・・なるほど、結構危険な目にあってんだ」
「まぁそうね。ファンに帰り道尾行されて公園で押し倒されそうになったりしたから、それよりはマシよ」
修羅場の経験が自分以上と判断した理亞はこれ以降質問してこなかった。