この日は事件が無く、二人は休みを取っているため特にやることがないため一人くつろいでいると、ミコトと穂乃果が事務所に遊びに来た。最近流行りなのだろうか。
「どうしたんだい、依頼か?」
「そうではなくて、顔が見たかったので」
「そっか。・・・穂乃果ちゃん、顔色悪いよ?」
「え!?いや、その・・・」
「さては勉強がイヤで逃げてきたのか?まぁ、いいよ。せっかく来てくれたんだし、俺と少しクイズでもしないか?」
「クイズですか先生?」
「クイズと言っても、しっかり考えないとわからないから、問題をよく聞いてね」
こうして、ケビンは過去に解決した事件をもとにクイズを作った。
蒸気機関車による、満員の観光列車が駅に着いた。機関助手が慌てた様子で車掌に連絡する、その内容はなんと、機関士が発狂して飛び降りたのだった。驚いた車掌は客室乗務員全員に事情聴取したが、誰も飛び降りる様は見ていないという。冬なので雪が積もっており、足跡の一つや二つ残っているはずだが見当たらなかった。さて、機関士はどこに消えたのだろう。
「電車って繋がってるから、お客さんのフリでもしてたんじゃないの?」
「・・・穂乃果さん、機関車による列車の場合、客車とは行き来できませんよ。でもこれがヒントになりますね」
年下であるミコトが彼女を引っ張っている。
「機関士は基本的に客車には乗らないよ」
ケビンもヒントを出し、助け舟を出す。
「うーん・・・あ、わかった、屋根の上に隠れてたんじゃないかな?」
「煤だらけになって、落ちてる姿が発見されてもおかしくないかと・・・」
「あ、そっか」
「逆にこう考えればいいのです、機関助手しか見ていないってことですよ」
「そうなの?」
ミコトは答えが分かったらしい。
「うーん・・・」
考えるのが苦手な彼女が必死に考えている姿を見て、ケビンはミルクティーを振る舞った。
「穂乃果ちゃん。この写真見てくれる?」
D51機関車を横から見た写真を見せた。
「・・・もしかして、石炭の入ってる中に機関士さんが?」
「それならまだよかったよ。ミコトちゃん、答え言ってみて」
「火室の中で焼かれてたんです。犯人は機関助手。スコップで殴り殺した後、大きな火室の中に詰め込んで処分したんです」
「御名答。炎の中じゃ見てわかんないし、臭いも走行中に消える。まさに走る火葬場だ」
「ひぇぇぇ・・・」
あまりに物騒な答えだったので、顔が青ざめている。さすがに刺激が強かったと反省する。
「いきなりごめんね。でも、これは序の口だ」
バレンタインの日、検問で持ち物検査をしていた。先日、宝石店強盗事件が発生し、盗難届が提出されていたからだ。頭の良い強盗は検問を通過するため、ある方法でバレないようにし、見事通過したのだが、どうやって通過したのだろう。
「これでも簡単にした方だ。っと言うわけでヒントなし」
「えぇ~ひどいですよ!」
「穂乃果さん、本当にリーダーだったの?」
呆れて本音がこぼれたミコト。決して他力本願ではないだろうが、ここまで考えるのが苦手な人間を初めて見た。
「思い立ったら即行動だったから、考えるのはちょっと・・・」
「海未さんや真姫さんがいなかったら、μ’s無くなってた可能性大ですね」
言われたい放題言われ、HPがほぼ無くなりかけている。不憫に感じたケビンは、彼女に冷蔵庫の中にあったチョコレートを出してあげた。
「君が悪いんじゃないよ。でもね、ここでモノの見方を変えて考えることを覚えて欲しいんだ」
「モノの、見方?」
「そう。例えばこの問題、普通に持って行ったらさ、絶対に引っ掛かるよね。でも、検問を通過したってことは極めて自然だったってことだよ」
「あ、そうか、怪しかったら声かけますもんね」
「しかもバレンタインデーですよ、木を隠すなら、森の中です」
「バレンタイン・・・チョコレート・・・あ!わかった、宝石をチョコレートでコーティングしたんだ!バレンタインデーだから持ってても不自然じゃないもん!」
「素晴らしい、御名答だ。考える基本は、どうやったら自然かをシミュレーションすることだ。次は難しいぞ」
朝方、海鮮料理が名物のレストランで殺人事件があった。被害者の宮川は店のシェフで腹部を一突きされており、警察は全力で凶器を探したが全く見つからなかった。殺人の凶器はいったいなんだろう。
「これはミコトちゃんでも難しいぞ」
「手強いですね・・・」
「見方を変えるってのが肝ですよね?」
「今回の場合、犯人は計画性があったとも取れるね。包丁やナイフとかいっぱい厨房にはある、しかし、それらには全く彼の血痕が付着していなかったんだ」
「う~ん、質問していいですか?」
「どうした?」
「傷口の形はどんな感じですか?」
「そうだね、小さなカラーコーンの先みたいな形状だったよ」
(もしかして、調理器具じゃない?)
ミコトは内心感づくが、あえて喋らないことにした。
「キッチンでそんなものあったっけ?ロウトかな?」
「さすがにわかるのでは?穂乃果さん、先生の言っていた、モノを見る基本に戻ってみましょう」
「えっと、どうやったら自然になるかって話だったよね?」
「常識だけで考えるって意味じゃないですよ。人間に傷をつけられるのは、なにも道具だけとは限りません」
「道具だけじゃないって、ミコトちゃんのイジワル!」
「そうやって考えるのをやめたら、一生バカって言われ続けますよ」
「ぐぅ・・・他に思いつかないよ」
「そうですね。さっきも言いましたが、道具じゃないなら、別のモノに変化するものが凶器になります。厨房が舞台でしたよね。っで、あれば、食材に注目できると考えられませんか?」
穂乃果はミコトの着眼点に度肝を抜かれた。
「え?へ?」
「尖がっていて太さのある食材。お祭りでも見ることができると思いますよ」
「なんだろう、リンゴ飴と綿菓子しか」
「・・・イカですよ。凶器は冷凍されたイカ。実際にそれでスイカに穴を開けることが出来るほど強度がありますから、人間の腹部にも穴が開きます。恐らくそのイカは調理して自分で食べたか何かしたんでしょう。違いますか?」
「相変わらず素晴らしい推理だ。御名答、凶器は冷凍イカだ。それなら血を洗った後に解凍して調理してしまえば隠滅が可能だからね」
問題に集中するのも疲れるため、タイムアウトを取ることにした。出された菓子やお茶を満喫していると、ジョセフが事務所に入ってきた。
「よぉケビン。仕事か?」
「いや、ちょっとしたクイズで遊んでた」
「驚いた。ケビンが遊ぶって言葉使うとはな」
「どういう意味だ」
「悪い悪い、ところで転職者が来たって聞いたからどんな奴か見たくてよ。どこにいる」
「二階の客間だ。会って見てやってくれ」
「珍しいこともあるもんだ、ヒヒヒ」
意地悪な笑いをしながら階段を上る。新垣は事件の後、入社を志願し経理兼オペレーターとして活躍したいと志願してきたのだ。彼は元々自衛官だったらしく、任期満了で退役したあと、雇われ税理士として生きてきた。だが雇い主は権力に弱いうえに恐ろしいケチで給料が安く人望が薄いため、今か今かと機会を待ち続け、トライデント・アウトカムズに入社したのだという。防衛省にも届出しているため、あとは武器を自分で選ばせるだけだった。
「ホント、にぎやかになったな」
「最初の事務所、一人だけでしたから」
「まぁな。凶悪事件があまり起きなかったから、一人で十分だったけど、最近はそうはいかん」
「何があったんですか?」
「銃撃戦プラスカーチェイス。おかげで車がお釈迦になるところだった」
「そうでしたか・・・無事で何よりです」
彼女達の見せる穏やかな笑顔。
「さて、クイズの続きをするか。今度はちょっと難しいぞ」
その後3問ぐらい出し、終わるころには日が沈む時間になっていた。
「もう帰る時間だ、今日は送っていくよ」
二人を送り届け事務所に帰ってきた。新垣が書類の山を整理しており、ため息をついていた。
「菊地さん。銃、高いです・・・」
「89式ほどじゃないだろう」
「そうですが、SCAR-L CQBカスタムが6万するなんて・・・」
「まぁ最新モデルは高い。っで、何を買ったんだ?」
地下射撃場に行き、買ったものを並べてもらった。しかし、あったのはベレッタM9A1だけだった。
「おいおい、M9だけって本当に金無いんだな」
「くぅぅぅ泣けてきた・・・」
「仕方ない。サイガ12貸してやる」
「本当ですか!?」
「ただし、ちゃんと働いてもらわないと買えないから覚悟しておけ」
ケビンは思った。アイドルのライブ見に行くお金を回したらどうだと。しかし、プライベートまで指導するわけにはいかないため、黙っておくことにした。