ソードアート・オンライン ~IF 黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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こ、更新です。
今回は、少し短いかも。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


第7話≪思い出の場所へ≫

授業が終了し、中庭のベンチに腰掛けた時には、空は夕焼けに染まっていた。

 

『和人……今日はホントにありがとう。 凄い楽しかった……。 ボク、今日のこと、絶対に忘れない』

 

木綿季は、真剣な口調で言う。

 

「何言ってんだ。 先生も、毎日授業を受けても良いって言ったじゃんか。 もっと見たいとかあるか? 連れてってやるぞ」

 

木綿季はいつものように笑った後、暫し沈黙した。

 

『……あのね。 一ヵ所、行ってほしい所があるんだ。 学校の外なんだけど』

 

プローブのバッテリーもまだ余裕があるし、携帯端末がネットに接続出来る場所なら、移動の制限がない。

 

「OKだ。 んで、何処だ?」

 

『ホント!? あのね……ちょっと遠いんだけど……横浜の、保土ヶ谷区、月見台ってところまでお願いしていいかな?』

 

「おう、いいぞ。 何処でも連れってやる」

 

何処でもと言っても、俺が手の届く範囲までなんだが。

 

『ふふ、ホントに和人は優しいね』

 

「そうか?」

 

『そうだよ。 ボクが言うんだから、間違いなしっ』

 

話しながら、荷物を持って校門を潜る。

学校のある西東京市から、中央線、山手線、東横線と乗り継いで、俺は保土ヶ谷区へ向かった。

電車の中では、ひそひそと囁くだけに留めたが、それ以外の場所では、周囲の目を気にする事なくブロープ(木綿季)と話し続けた。

目的地の星川駅で電車に降り、ロータリーの中央に立つ時計の針は、午後五時を回っていた。

すぐ近くに木々が残る丘陵が広がってるせいか、冷たい空気の味も、東京とは随分違うような気もする。

 

「綺麗な所だな」

 

『ごめんね。 ボクのわがままのせいで、こんなに遅くまで……。 お家の方は大丈夫?』

 

「問題ないぞ。 妹は合宿で居ないし、親も仕事でほぼ家に居ないからな」

 

『和人って妹がいるんだ』

 

「義理だけどな。 まあでも、自慢の妹だ」

 

そう言いながら、俺は歩き始めた。 駅前の小さな商店街を、木綿季の案内に従って通り抜り過ぎて行く。

木綿季は、馴染のパン屋や魚屋、郵便局や神社の前を通りたびに、懐かしそうに呟いていた。

そう、この街は、かつて木綿季が暮らしていた街なのだ。

向かう先もまた、俺は察する事が出来た――。

 

『……その先を曲がった所の、白い家の前で止まって……』

 

木綿季の声は、僅かに震えていた。

公園を沿い右に曲がると、左側に白いタイル張りの壁を持つ家が建っていた。

数歩進み、青銅製の門扉の前で立ち止まった。

 

「……そうか。 ここが木綿季の家か」

 

『うん……。 もう一度、見れるとは思ってなかったよ……』

 

白い壁と緑色の屋根の家は、周囲の住宅と比べやや小さめだったが、その分広い庭が備えられていた。

芝生には、白木のベンチがつきのテーブルが置かれ、その奥には赤レンガで囲まれた花壇が設けられている。

しかし、テーブルは色をくすませ、花壇も枯れた雑草、両側の窓ガラスも雨戸で閉められている。

そう、この家には誰も帰って来ないので、温かみが消えてしまっているのだ。

 

『ありがとう、和人。 ボクをここまで連れてくれて』

 

「気にするな。 俺が好きでやってる事なんだから」

 

木綿季は、もう大丈夫だよ。と言っていたが。 俺が見たいと言い、向かいにある公園の膝の高さの石積み腰を下ろした。

此処からなら、木綿季の視界に敷地全景が映るはず。

この家で暮らしたのは一年、 母は感染症の心配をしていい顔をしなかったらしいが、木綿季はお姉さんと、備え付けられていた庭で一緒に走り回って遊んでいたらしい。

ベンチでバーベキューをしたり、父と本棚を作ったりもした。

 

話が大きくなり、第22層ログハウスでバーベキューパーティーをすることになった。 メンバーは、俺の仲間たちとスリーピング・ナイツ、大勢で楽しむことを約束した。

その約束をした後、僅かに木綿季が寂しそうにした。

 

『今ね……。 この家のせいで、親戚中大いに揉めてるらしいんだ……』

 

「……どういう事だ?」

 

『取り壊してコンビニにするとか、更地にして売るとか、このまま貸家にするとか……。 皆で色々なことを言ってるみたい……。 この前なんか、パパのお姉さんって人がフルダイブしてまでボクに会いに来たんだよ。 病気の事を知ってから、リアルじゃ避けてたくせにさ……。 ボクに……遺言を書けって……。 でも、ボクはね。 こう答えたんだ。 現実世界じゃボク、ペンを持てないしハンコも押せないけど、どうやって書くんですか?って。 叔母さん、口をパクパクしてたよ。 ……あ、ゴメンね。 変なこと言って』

 

だが、この家を残したいが、おそらく取り壊されてしまうと言う事だ。

その前に、もう一度見ておきたかったと。

俺は頭を悩ませ、ある事を思いついた。

 

「ふむ。 現実的な手としては、結婚があると思うぞ。 夫が、この家の所有者になっちゃえば問題なしだな。一件落着だ」

 

木綿季は暫し沈黙し、あははははは!と大声で笑った。

 

『あははは、和人は凄いこと考えるね!……なるほど、それは思いつかなかったよー! うーんそっかー。 いい考えかも、婚姻届なら、頑張って書こうって気にはなるしね!――でも、相手がいないかなー』

 

俺は首を捻った。

 

「うーむ、ジュンとかいい感じゃないか? タルケンかテッチで凸凹コンビとか?」

 

『あーだめだめ。 あんなお子様じゃ! そうだねぇ……えーと……』

 

急に悪戯っぽい響きを混ぜて、木綿季は言った。

 

『ね、和人……。 ボクと、結婚しない?』

 

「は? 何言っちゃるんでございますか? 木綿季譲……」

 

……やべっ。 動揺しすぎて、言葉使いが変になってしまった……。

 

『そうなると、桐ケ谷木綿季だねっ!』

 

木綿季の中では、未来予想図が展開さてちゃってるの?

え、何。 俺の将来決まっちゃったの?

 

「俺、18歳になってないからなあー。 俺が18歳になるまでに、木綿季が元気になる条件で考えてしんぜよう」

 

木綿季は、驚いたように声を上げる。

 

『か、和人。 じょ、冗談だよねっ』

 

「いや、本当と書いてマジである」

 

『うぅ~、冗談のつもりだったのに。 まさかのマジ返し……』

 

「ま、考えといてくれ」

 

いやなに、これって俗にいうプロポーズ的な?

まあでも、木綿季との生活は楽しそうだ。という俺の考えもあったりする。

 

『え、えーとっ。 きょ、今日はありがとうっ』

 

逃げたな。

まあいいけど。

 

「気にするな。 さっきも言ったけど、俺が好きでやってる事だ」

 

『でも、ホントにありがとう。 この家をもう一度見られただけで、ボクは凄い満足してるんだ。 例え、お家がなくなっても、思い出はここにある。 ママやパパ、姉ちゃんと過ごした楽しかった頃の記憶は、ずっとここにあるから……』

 

ここ、という言葉は、家のある土地ではなく、心を指す言葉であることが俺には解った。

この家の優しく穏やかな佇まいは、木綿季の中に刻まれている。と言う意味でもあるのだ。

また、木綿季とお姉さんが薬を飲むのが辛かった時、母はイエスの話をして、皆で祈りを捧げたらしい。

だが、木綿季はそれが不満であり、聖書の言葉ではなく、母の言葉で話して欲しいと、ずっと思っていたと言っていた。 けれども、母は言葉じゃなくて、気持ちで自分たちを包んでいてくれたと。 辛くても、悲しくても、最後まで前を向いて歩けるよう祈ってくれていた。 再び家を見たことで、解ったと言った。

 

「……そうか。 お前は俺と違って、強いな」

 

『ボク、強くなんかないよ。――ボクは、パパとママの一番奥の気持ちに気付いてから、病気でも元気だって、振る舞うことしかできなくなってたんだと思う。 本当のボクは、弱いのは間違いないと思うんだ……。 でも、たとえ演技でもいいや……って。 強いふりをしているだけでも、みんなが笑顔でいられるなら、ぜんぜんかまわないじゃない、ってさ。 ほら。 ボクはもう、あんまり時間が無いから。 誰かに触れ合う時に遠慮して時間を掛けちゃうよりも、最初からどかーんとぶつかってさ。 もし嫌われてもそれでいいんだ。 距離を縮めることが大事だって、その人の近くに行けたことには変わらないから。――それにボクは、みんなの支えがあったからこそ、強く見せられただけだよ。 ボクは、和人も強いと思うよ』

 

木綿季は一拍置いた。

 

『和人は、ボクが逃げても一生懸命追いかけてくれた。 ぶつかってくれた。――ボクの病気のことを知っても、ボクにもう一度会いたいってくれた。 ボク、ホントに……ホントに、泣いちゃうくらい嬉しかったんだ。 だから、和人は弱くないっ。 ボクが保証するよ』

 

俺は目尻に滲む涙が零れないように、上を向いた。

そして、ポツリと呟く。

 

「……そうか。 ありがとう」

 

『どういたしまして』

 

「――行くか」

 

『そうだね』

 

俺は腰を上げ、駅に向かう為歩き出したのだった。

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たちは談笑しながら駅に到着した。それと同時にブロープのバッテリー残量アラーム鳴った。

 

「じゃあ、木綿季。 また明日」

 

『うんっ、また明日っ』

 

俺は明日も木綿季と授業を受ける約束をし、端末の接続を切った。

空に輝く星は、俺たちを見守ってくれてるようだった――。




和人君、天然やね(笑)
はい。自分には無理っス……。

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