ソードアート・オンライン ~IF 黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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更新が遅くなって申し訳ない<m(__)m>
またまた、違うのを書き初めてしまって……。あちゃーって感じです(-_-;)
で、でも、IFを書きあげました。

で、では、どうぞ。


第5話≪真実を知りに≫

絶剣ユウキがアインクラッドから姿を消して三日が経過していた。

送ったメッセージ等も、全て《送信相手がログインしていません。》という自動リプライを繰り返してたし、その後開封された様子もなかった。

 

「はあー、やっぱダメか……」

 

そう言いながら溜息を吐いてしまう。

今日は特にやることもなかったので、第22層の湖の周りを散歩していた。 芝生の上に座りぼんやり空を見上げていたら、一通のメッセージを受信した。

差出人は、《スリーピング・ナイツ》メンバーのシウネーだ。 内容は、『話したい事があります。 ロンバールの宿屋までお願いします。』とあった。

俺はすぐさま翅を羽ばたかせ、第27層《ロンバール》の宿屋へ急いだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

宿屋に到着し、店内のドアを潜りいつもの席へ向かう。

其処には、白に近いアクアブルーの髪を両肩に長く垂らし、伏せた長い睫毛の下には寂しそうな瞳のシウネーの姿。

俺はシウネーと正面になるように腰を下ろした。

 

「こんにちは、キリトさん」

 

「ああ、久しぶりだな。 ボス戦以来か。 どうかしたのか?」

 

シウネーは、ゆっくりと話始める。

 

「実は、私たちもあれからユウキと連絡が取れないんです。 ALOだけでなく、フルダイブ自体してる様子ありませんし、現実世界の彼女について知っている事も殆んどありません。 それに……」

 

シウネーは言葉を切り、何処か気遣わしそうな視線で俺を見る。

 

「キリトさん。 たぶん、ユウキは再開を望んでないと思います。 誰でもない、友人のあなたに」

 

俺は重い口を開く。

 

「ああ、そうかもしれない。 もしかしたら、ユウキにとっては迷惑な事なのかもしれない。 だが、俺はもう一度会って、ちゃんと話をしたいんだよ。 例えば、好きな物や嫌いな物。 他にもどんなVRで遊んでたのとか、最近あった事柄とか。 些細な事でも構わないんだ。 もし、彼女が悲しんでいたら、傍にいてあげたいとも思ってる」

 

俺の言葉を聞いたシウネーは、今にも泣き出しそうだった。

 

「……本当にありがとうございます。 あの子が今の言葉を聞いたらどんなに喜ぶか……」

 

シウネーは俺の言葉を聞き、何かを考え込んでるようだった。

その表情は、真剣を纏っている。

 

「……今日はお別れにしようと思いましたが、……――――気が変わりました。 私とユウキに共通するのは、『病院』です。 私もこれだけしか解らないのです。……キリトさん、ユウキをよろしくお願いします」

 

ゆっくりと頭を下げるシウネー。

 

「ああ、任せといてくれ。 大事な友人な為だ。 何でもやってやるさ」

 

俺は立ち上がりシウネーに一礼をし、宿屋を出て、第22層のログハウスに戻り現実世界に帰還した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

現実世界では既に三学期が始まっていた。 授業を受け、今日の放課後にある場所へ足を向けていた。 目的の場所は『横浜港北総合病院』だ。

病院の二重ドアを潜り、エントランスに踏み込み、面会受付のカウンターに向かった。

備え付けられた用紙に、住所氏名を書き込み、面会を希望する相手の名前を書く欄で手が止まる。 そう、俺は彼女の本名を知らない。 知っているのは、ユウキと言う名前だけだ。

だが、諦める訳にはいかない。

面会相手の欄を空欄にし、カウンターへ向かう。

 

「面会ですね?」

 

「ええ、まあ、そうなんですが……。 相手の名前が解らないんです」

 

「はい?」

 

訝しそうに眉を寄せる看護師に向かって、懸命に言葉を探す。

 

「ええと、名前はユウキって子だと思うんですが」

 

「此処には、沢山の入院患者さんがいますから、それだけでは判りませんよ」

 

その時、カウンター奥にいた年配の看護師が手を上げると、じっと俺の顔を見る。

次いで、俺と話していた看護師に耳打ちをする。

 

「失礼ですが、お名前は? それとVRネームもお願いします」

 

「ええと、名前は桐ケ谷和人です。 VRではキリトと名乗ってます」

 

そう答えながら、申請用紙を差し出す。

看護師はそれを受け取ると目を落とし、奥の同僚に渡す。

 

「何か身分証が出来るものはありますか?」

 

「あ、はい」

 

コートの内ポケットから学生証を取り出し、看護師に手渡す。

学生証の顔と、俺の顔を見比べると、しばらくお待ち下さいと言って傍らの受話器を取り上げ、何処かに連絡を取った。

 

「第二内科の倉橋先生がお会いになります。 正面エレベータで四階に上がってから、右手に進んで、受付にこれを渡してください」

 

差し出されたトレイから、学生証とパスカードを取り上げ一礼した。

四階の受付前のベンチで数十分待っていると、早足に近寄ってくる白衣の姿があった。

おそらく、この医師が倉橋先生なんだろう。

 

「ごめんなさい。 お待たせしちゃって。 桐ケ谷和人さん。 ですよね?」

 

「はい、そうです。 桐ケ谷和人です」

 

「僕は倉橋といいます。 紺野さんの主治医をしております」

 

「紺野……さん?」

 

俺は首を傾げた。

はて、紺野さんとは誰の事だ?

 

「すいません。 フルネームは、紺野ユウキさんです。 ユウキは、木綿に季節の季と書きます。 僕は木綿季くん、って呼んでますが」

 

倉橋医師は、右手でエレベータの方を差した。

 

「立ち話もなんですので、上のラウンジに行きましょう」

 

案内された場所は、広々とした待会スペース。 其処の奥の席に、俺と倉橋医師は向かい合わせに座った。

俺は話したいことがあったが、どう口にしていいものか迷っていた。

この沈黙を破ったのは、倉橋医師だ。

 

「桐ケ谷君は、木綿季くんとVRワールドで知り合われたんですよね? 彼女が、この病院のことを話したんですか?」

 

「いえ、『病院』のキーワードで辿り着いたんです」

 

「ほう、それでよくここが判りましたね。 いやね、木綿季くんが、『もしかしたら、ボクと面会をしたいって言う男の子(キリト)が来るかも。』と、受付に、その旨伝えておいてくれと言うものだから。 でも僕は、この場所が判る訳がないよ、と答えたんですが、さっき受付から連絡が来た時は、驚きましたよ」

 

「木綿季は、倉橋先生に俺のこと話したんですか?」

 

倉橋医師は、大きく頷いた。

 

「それはもう。 ここ数日の面談は、桐ケ谷君の話ばかりですよ。 ただね、木綿季くんは、桐ケ谷君の話をした後は、決まって泣いてしまってね。 自分の事では決して弱音を吐かない子なんだが」

 

「え、なんでですか?」

 

「 “もっと仲良くなりたい。でもなれない……。 会いたい。けどもう会えない。”と言うのです。 その気持ちは……判らなくもないんだが……」

 

倉橋医師が、初めて沈痛な顔を見せた。

俺は深呼吸をしてから、意を決して訊ねた。

 

「ですが、何故会えないんですか?」

 

倉橋医師は、暫く無言のままテーブル上に視線を落としていたが、やがて静かに答えた。

 

「……そうですね。 それではまず、《メディキュボイド》の話から始めましょうか」

 

倉橋医師の話によると、メディキュボイドとは世界初の医療機器のフルダイブマシンだそうだ。

また、医療(メディカル)直方体(キュボイド)を組み合わせた用語だという。

それについて説明を受け、それによって患者にどのような効果があるかを聞いた。

 

「……なるほど。 つまり、アミューズメントを目的としたアミュスフィアとは違う、現実的なVR機器。……謂わば、夢の機械ですか」

 

「ええ、まさに夢の機械です。 しかし……機械には、当然限界がある。 メディキュボイドが最も期待されている分野の一つ……それは《ターミナル・ケア》です」

 

その言葉に、俺は全身の血の気が失われていく感覚に陥った。

 

「…………終末期医療」

 

倉橋医師は、労わるような表情を浮かべ言う。

 

「……そう、桐ケ谷君の言う通りです。 あなたは、後で、ここで話を止めてよかったと思うかもしれません。 その選択をしても、誰もあなたを責めたりしません。 ただ一つだけ、――木綿季くんは、本当にあなたのことを思ってるから、こんな方法を取っているんですよ」

 

確かに、ここで話を切り上げるのも一つの選択かもしれない。

だが、聞かないで後悔するより、――聞いて後悔したほうがいい。

俺は顔を上げ、言う。

 

「いえ、続けてください。 その為に、俺は今ここにいるんです」

 

倉橋医師は大きく頷くと、

 

「そうですか。 僕も覚悟を決めましょう。 木綿季くんからは、桐ケ谷君が望めば、彼女に関する全てを伝えて欲しいと言われています。 木綿季くんの病室は中央棟の最上階にあります。 少し遠いので、歩きながら話しましょう」

 

「わかりました」

 

ラウンジを出て、俺はエレベーターを目指す倉橋医師の後を歩き始めた。

スタッフ専用のエレベーターの傍らに設置されたパネルに倉橋医師がカードをかざすと、穏やかなチャイムと共に音が鳴り、扉がスライドした。

エレベーターに乗り込むと、加速度も殆んど感じさせないままに上昇を始める。

 

まず、最初に説明を受けたのは、《ウインドウ・ピリオド》についてだ。 これはウイルスに感染したと思われる時、主に血液検査を行う。

検査の方法としては二つ、一つは血液中の抗体を調べる《抗原抗体検査》。

もう一つがそれよりも感度の高いウイルス自体のDNA・RNAを増幅して調べる《NAT検査》だ。

その《NAT検査》を用いても、感染直後から十日前後はウイルスを検出できない期間を《ウインドウ・ピリオド》と呼ぶらしい。

そのウインドウ・ピリオドで、あることがほぼ必然的に起こってしまうことがあると倉橋医師は言った。

それは、献血によって集められた輸血用血液製剤の汚染。 無論、感染の確率は何十万分の一程度のものらしい。 つまり、感染の数字をゼロにすることは現代の医療では不可能。ということでもある。

 

「木綿季くんは、二〇一一年五月生まれです。 難産で、帝王切開が行われました。 その時……何らかのアクシデントにより大量の出血があり、緊急輸血が施されたのです。 その時使用された血液の中は――」

 

俺が、倉橋医師の言葉を引き継ぐ。

 

「……ウイルスが感染してた」

 

「ええ、残念な事にその通りです。 今となっては、確かな事が判らないのですが、おそらく、木綿季くんが感染したのは、出産時かその直後、お父さんはその一ヶ月以内でしょう。 ウイルス感染が判明したのは九月、お母さんが受けた輸血後の確認血液検査によってです。 その時点で……家族全員が……」

 

深く息を吐いて、倉橋医師は足を止めた。

通路右側の壁にスライドドアがあり、その壁に嵌め込まれたプレートには、《第一特殊計測機器室》とあった。

倉橋医師がカードを持ち上げると、パネル下部のスリットに通した。電子音が響き、ドアが開く。 倉橋医師に続いてドアを潜ると、内部は奥行きのある細長い部屋だった。

左壁は一面横長の大きな窓だが、硝子は黒く染まっていて内部を確認する事が出来ない。

 

「この硝子の先は、エア・コントロールされた無菌室なので入ることは出来ません。 了承してください」

 

そう言うと、倉橋医師は窓に近寄り何かの操作をした。

それと同時に、窓の色が急速に薄れ、透明な硝子に変化して、その向こうを露わにした。

その奥を、俺はじっと見詰めた。

其処には、青いジェルに沈むように一人の少女が横たわっていた。

胸元まで白いシーツが掛けられており、喉元や両腕には様々なチューブが周囲の機器へと繋がっている。

頭部を飲み込むようにベットで一体化した白い直方体に覆われている為、顔を見ることは出来ない。

――だが、俺には確信があった。 今横たわっている少女は木綿季であることに。

 

「……久しぶりだな、木綿季。――先生……木綿季の病名はなんですか?」

 

倉橋医師は短く頷く。

 

「……《後天性免疫不全症混群》……AIDSです」

 

「……覚悟はしてましたが、そうですか」

 

例えHIVに感染しても、早期に治療を始めれば、十年から二十年という期間で発症を抑え、薬をきちんと飲み、健康管理を徹底すれば普通の生活との変わらない生活を送る事が出来る。 しかし、新生児がHIVに感染した場合の生存率が、成人と比べて低下するのも事実だった。

家族全員の感染が判明し、家族で死を考えた事があったが、木綿季の母親はカトリック信徒だったこともあり、信仰と父親の支えもあって、危機を乗り越え、病気と闘い続ける道を選んだのだ。

 

木綿季は、多くの薬を定期的に飲み続けるという辛いことからも逃げずに立ち向かい、小さい体でも元気に育った。

小学校にも入学して、殆んど休まずに登校し、成績は学年トップを取り続け、友達も沢山いて、いつも笑顔でいた木綿季。

だが、木綿季が小学校四年生に上がった頃の出来事。 学校の健康診断で、伏せられていたはずのHIVキャリア、それが一部の保護者に伝わってしまったのだ。

噂は広まり、差別や嫌がらせなどが始まり、通学に反対する申し立てなどもあった。 結果として、一家は転居を余儀なくされ、木綿季も転校することになった。

 

「木綿季くんは、涙一つ見せることなく、新しい学校にも毎日通い続けたそうです。 ですが……残酷なものですね。 ちょうどその頃から、免疫力低下が始まり、AIDSの発症が始まってしまいました。 免疫が低下する事で、通常では容易に撃退できたはずのウイルスや細菌に冒されてしまう。 木綿季くんは感染症を発して、この病院に入院することになりました。 木綿季くんは、いつも元気でしたよ。 笑顔を絶やさないで、絶対に病気に負けないとも言っていました。 辛い検査にも、泣きごと一つ漏らさなかった」

 

しかし、入院しても、木綿季の体は細菌に蝕まれていった。 丁度その頃、世間ではSAO事件が発生しており、フルダイブ技術封印論が浮上する中、メディキュボイドの試作一号機が完成し、この病院に搬入された。

どんな影響が出るか分からずリスクも不明な中で、倉橋医師は紺野家にある提案をした。

それがメディキュボイドへの被試験者、クリーンルームという環境下に入ることで、《日和見感染》のリスクを大幅に低下させることが出来る。 そう提案したのだ。

悩んだという紺野家。 それでも、木綿季は被試験者となることを受け入れ、それ以来ずっとメディキュボイドの中で生きている。

二十四時間ダイブしたまま、三年間。 つまり、あの戦闘能力、反応速度は、このダイブによって培われたものなのだ。

そしてもう一つ。

無菌室に入っていても、体内に存在する細菌やウイルスを排除することは出来ず、免疫系の低下に合わせてそれらは勢力を増している。

木綿季は《サイトメガロウイルス症》と《非定型抗酸菌症》というのを発症していて、視力のほとんどを失っている。

更に、HIVそのものを原因としている《脳症》も進行している。 HIV感染から十五年、AIDS発症から三年半、その他の病魔の進行、彼女の体は既にボロボロで………症状は末期なのだ。 そう、これこそが、俺の前から姿を消した理由。

 

「……そうですか」

 

俺は倉橋医師の話を聞き、胸が一杯になってしまった。

また、もう一つの疑問が。 そう、《姉ちゃん》という言葉の意味――。

 

「先生、木綿季には姉がいたんじゃないですか?」

 

倉橋医師はしばし迷った様子だったが、ゆっくりと頷いた。

 

「ええ、そうです。 木綿季くんは、双子だったんです。 全ての端緒となった帝王切開が行われたのも、それが原因です」

 

姉の名前は《紺野藍子》。 元気で活発な木綿季をいつもニコニコと静かに見守っていた人。

倉橋医師が言うには、纏う雰囲気が、どことなく似ていたと言われた。 もしかしたら、木綿季は、俺と姉を無意識に重ねていたのかもしれない。

又しても残酷な真実……木綿季の両親は二年前、お姉さんは一年前に亡くなっていたのだ。

失うこと、の意味は知ってるはずだった。

あの世界で、人の命が消える瞬間を目の当たりにしてきた。 自らも、その淵を覗き込んだ何度もある。

理解していた。――そのつもりでいた。

時が来れば、人の命は失われる。 どんなに足掻いても、死は逃がしてくれない事も。

だが、俺が戦ったのはたったの二年間と少し、彼女が闘っているのは十五年間、生まれてからずっとだ。 その苦しみは、想像を絶するものだ。

 

「……そうか。 お前は戦っているんだな。 俺と違ってずっと……」

 

気づけば、目許に涙が溜まり、視界が歪んでいくのがわかった。

――その時、柔らかな声が降り注いだ。

 

『泣かないで、キリト。 そんな顔をしないで』

 

そう、俺の大事な友人の声。 紺野木綿季の声だった――。




現実で再会しましたね。
MR編は、書いてて面白いっス。ご都合主義満載ですが(^_^;)
後、呼び方等の変え方はわざとなどで、突っ込まんといてください。

また、完結まで時間がかかると思いますが、お付き合いしていただけると幸いです。
てか、キリト君。カッコいい言葉の連続だぜ。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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