ソードアート・オンライン ~IF 黒の剣士と絶剣~ 作:舞翼
いや、まじで、うん。やっちまったな。的な感じですな……。
だが、後悔はしてない!!
この小説はIFものです。もし、キリト君だったらというIFですね。
では、本編をどうぞ。
新生アインクラッド第二十二層に広がる森は、白い雪に覆われていた。
現在、リビングルームの床から生えた切り株型のテーブルには、お馴染のメンバーの面々が座っていた。 幼馴染である
アスナを除く三人は、うーん、うーんと唸っていた。――冬休みの宿題と戦っているのだ。
まあ、俺も揺り椅子の上に座り、レポートに励んでいるのだが。 そして俺は、真っ黒装備の
最後にホロキーボードをタッチし、冬休みの宿題を終わらせた。
「ぜ、全部。 終わったぞ……」
俺は大きく伸びをした。
「パパ、お疲れ様です」
今そう言ったのは、薄桃色のワンピース姿の小妖精ユイだ。 ユイは隣に丸まっていたピナの上に座っていた。
ユイは、わけ合って、幼馴染のアスナと暮らしていた時に出会った、旧SAOサーバーから生まれた人工知能だ。――俺の事をパパ。 アスナの事をママと呼んでいる。 まあ、こう呼んで貰っているのだが、俺とアスナは、旧SAOでは結婚はしてないぞ。 一緒に暮らしてただけだ。 それもそれであれだけど……。 まあこれには、海よりも深ーい事情があったんだ。 うん、深ーい事情があったんだぞ。 大事なことなので二回言ったぞ。
その時、座っていたリズベットが、此方に振り向いた。
「キリトは、絶剣と戦ったけ?」
「いや、まだデュエルはしてないぞ。 たしか、デュエル専門だっけ? てか、まだ見たことないし」
毎日午後三時になると絶剣が現れ。立ち会い希望者とデュエルを行っているのだ。
今の所、挑戦者全員が返り討ちにあってるらしいが。
この場にいる全員(俺を除く)も戦ったらしいが、やはり負けたらしい。 挑戦者の中で一番HPを削れたのは、《閃光》の異名を持つアスナらしいが。
「そうそう。 24層の主街区を離れた、ちょっと北にある小島の観光スポット」
「ま、賭けてるものがOSSだからな。負けても挑む挑戦者は絶えないだような」
絶剣が賭けてるのは、OSSの計十一連撃だ。
OSSについても説明しておこう。
OSSとはその名の通り、《独自で編み出した剣技》だ。 プレイヤーが編み出し登録出来るソードスキル。 まあここだけの話。 俺は二刀流の《スターバースト・ストリーム計十八連撃》をOSSで再現してるんだが。 だが、二刀流は封印してる為、この技の出番は無いと言っていい。
また、OSSには、【剣技継承】というシステムも存在する。 技の【秘伝書】を他のプレイヤーに伝授する事が可能なのだ。
「全領主もやって負けたんだから、あとは、あんただけよ」
「いや、他に挑戦者が居るじゃないか」
アスナが溜息混じりに口を挟んだ。
「こう言ったら何だけど。 一般プレイヤーでは絶対に勝てないわ。 SAO帰還者のわたし達も負けちゃったし、ALOでは、あとキリト君だけなのよ」
俺は頬を掻いた。
「そこまで言われると照れるぞ。 幼馴染よ」
俺は顎に手を当てる。
「そうだな。 明日戦ってみよう。 その、絶剣とやらに」
「そうこなくちゃ。 わたし達は観戦かしら」
アスナがそう言うと、他の全員が首を縦に振った。
……皆さん、テンション上がってない?
「さて、そろそろお暇するか」
「じゃ、わたしも」
俺とリーファはそう言い、メニューウインドウを開き最下位部にあるLog outボタンまで移動させた。
「んじゃ、また明日」
「皆さん、また明日です」
全員に手を振られ、俺とリーファはLog outボタンに触れ、現実世界に舞い戻った。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
チチッ。という短い電子音と共に、アミュスフィアの電源が落ちた。
ゆっくり瞼を持ち上げ、アミュスフィアを頭から取ってから傍らに置いた。 それから上体を起こし大きく伸びをした。
「……絶剣か。 どんな奴なんだろうな。 筋肉マッチョ系な奴なのか。 やっぱり」
ベットから降り立ち、立ち上がった。 たしか今日は、直葉と食事当番だったはず。
扉を開け、廊下に出から階段を下り台所へ向かう。 其処には既に直葉の姿があった。 やっぱり、何事にも早い奴である。 うむ、我ながら出来た義妹だ。
「すまん。 少し遅れた」
「うんん、全然待ってないよ。 わたしも、さっき始めた所だから」
「そうか。 そりゃ良かった」
二人で台所に並び立ち、直葉が大根を磨って大根おろしを作っており、俺はシャケを焼き、焼きジャケを作った。 とても簡素な料理だが、これがとても旨いのだ。
直葉が綺麗に盛りつけをし、白米と焼きジャケ二人前をテーブル上に置く。
ちなみに、俺は既に指定席に着席している。 直葉も指定席に座った。
「いただきます」
手を合わせてから、直葉が音頭を取る。
「いただきます」
それに俺も続いた。
飯を食べてる時に、直葉が俺に聞いてきた。
「お兄ちゃん、明日のデュエル勝算はあるの?」
「うーむ。 三割といった所か。 何か、勝てる気がしないんだよな」
「お兄ちゃんがそこまで言うなんて、絶剣は強いんだね」
「ま、やってみなくちゃ何とも言えないけどな」
途中から、母翠も合流し、直葉が飯を温め直してから眼前に置いた。
それから、翠の晩酒を含めながら雑談をし、この日の夜食が終了した。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
新生アインクラッド第24層主街区《パナレーゼ》。 巨大な湖の中央に築かれた人工島で、そこから四方八方に延びる細い浮橋が、無数の小島を繋いでる層だ。
上空を見上げると、皆俺の頭上を飛び越して目的地の大樹へと移動していた。
そこの大樹の島で、絶剣が辻デュエルを行っているらしい。
俺が皆を待っていると、手を振りながら待っていた人物が姿を現した。 アスナにリズベット、リーファにシリカだ。 ちなみに、俺の頭上にユイも座わってるぞ。
「さて、行くか」
皆が頷いてから、横一列になり翅を羽ばたかせ飛翔を開始した。
数分飛翔した時、世界中の小型版のような根元の一角に、沢山のプレイヤーが目に入った。
島が微妙に揺れてると言う事は、既にデュエルが始まっているのか?
空きスペースに、一行は着陸した。
その時、一人の男性プレイヤーが樹の中から落下していた。 ふらふらした体で起き上がるが、勝敗は決していた。
「ま、参った! 降参! リザイン!」
これで六十七抜きらしい、まじで凄ぇな。
降下してくるシルエットが映った。 種族は
その間に対戦相手の
……てか、絶剣って女の子なのね。 筋肉マッチョの男性プレイヤーだと思ってた。
「今日もお集まり頂きありがとうございます。 早速ですが、次に対戦する人いませんかー?」
その声は、実に可愛らしい響きであった。 口調もまた、無邪気さを漂わせてた。
てか、この視線は何。 『最後の砦の、ブラッキー先生』『一発かましてくれ、黒の剣士様』的な感じの視線は。
昨日ああ言ったが、コミュ症の俺にはハードルが高いぞ……。 旧SAOでは気にならなかったんだけど。
何故か知らんが、
「そこの真っ黒のお兄さん。 デュエルしようよ。 お兄さんは強いと見た」
俺は自身を指差した。
「お、俺のことか!?」
俺は覚悟を決め、
「……了解した。 じゃあ、やろうか」
「そうこなくっちゃ!」
少女は満面の笑みで応える。
俺は歓声を浴びながら歩き、一定の距離を取り、少女の前に立った。
「で、ルール内容はどうするんだ?」
「もちろん、魔法もアイテムもバンバン使っていいよ。 ボクはこれだけだけどね」
少女は、剣の柄を軽く叩いた。 なるほど、剣だけということか。
「んじゃ、俺も剣だけだ」
少女は、きょとん顔をした。
え、ホントにそれでいいの?とでも言いたい顔だ。
「あ、地上でも空中戦でも、どっちでもボクは構わないよ」
「ふむ。 それなら、地上戦のジャンプあり、翅なしはどうだろうか?」
「お、ボクの好きな条件だね」
「なら、これでやろうか」
「OKー」
俺と
ユイも頭上から飛び立ち、アスナの肩に乗った。 去り際に『パパ、頑張ってください』と言われた。 このデュエル、負けるわけにはいかない。
少女を見ると、HPバーの左横にギルドに所属してる、白い翼を伸ばしたアイコンが記載されていた。
少女はシステムウインドを開き、デュエル申し込みの窓が開いた。
【Yuuki is challenging you】。
この少女の名前は、ユウキ。 アバターと名前がとてもマッチしていた。
窓の下には、三つのオプションがあった。
《初撃決着モード》《半減決着モード》《全損決着モード》だ。 旧SAOで使用は有り得なかった、《全損決着モード》にタッチした。 あちら側のカラー・カーソルにも【kirito】と刻まれたはずだ。
俺は漆黒の片手剣を背の鞘から抜剣し、中段に構えた。 絶剣ユウキも、左腰の装備した鞘の剣の柄を右手で握り、細い黒曜石のような、深い半透明の色合いを帯びた片手用両刃直剣を抜剣し、中段に構える。
中央に出ていた、デュエル窓がゼロになり【DUEL!!】の文字が閃光すると同時に、俺は全力で地を蹴り、約七メートルの距離を瞬時に駆け抜けた。
駈け出したと同時に、右手に持った片手剣を斬り上げた。 この攻撃は、ユウキが剣を斬り下ろし受け止める。 剣がぶつかり、凄まじい火花が散る。 今、俺と絶剣ユウキは笑みを零しているのに間違えはない。 そして、互い見つめ合い距離を詰めるような形になるが、これでは埒が空かない。 なので俺は、無理やり剣を斬り上げ、剣を弾き斬り下げるが、ユウキは煙るように腕を動かし、剣を頭上で横にして受け止めたのだ。
これには、俺は息を飲んだ。
「(マジかよ……。 ハンパない反応速度だな)」
顔には出さないが、内心冷汗が僅かに流れた。
左上段攻撃を受け止め、右に薙ぎ払い攻撃を後方へ回避。 腹部を突こうとするが、寸前の所でパリィしてカウンター。 だが、その斬り上げ攻撃を、剣を振り下ろして受け止める。
「はぁあッ!」
「やッ!」
これは剣の交流と呼べばいいのか。 剣を交える舞と言えばいいのか。 それとも、リズムを刻む演武といえばいいのか。 何処までも加速し、高く行ける。 互いに真剣勝負しているが、わくわくが止まらない。
だが、お互いに赤いライトエフェクトを飛ばしていた。 その証拠に、互いのHPが徐々に削られていった。
連撃最後の上段斬りを剣で弾くと、俺は間髪入れず単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》を放った。
ジェットエンジンめいた金属質のサウンドと共に、重い突き攻撃がユウキの腹部に狙う。 この距離でのソードスキルならば、実質回避することは不可能だ。
「おおおッ!」
有り得ない事に、体を捻り寸前で回避したのだ。 だが、僅かにだが攻撃は通った。
俺は硬直時間が課せられる。
「ははぁあ!」
背部を片手剣ソードスキル、ホリゾンタル・スクエア、水平四回連続を放なたれる。 その水色に光る正方形の軌跡が直撃した。
俺のHPは約3割。 ユウキのHPは約4割だった。
硬直が解け、体を捻りながら、俺は後方に跳んだ。
俺は、剣を中段に構えながら大きく息を吐いた。 対するユウキも中段に構える。
「あの攻撃を避けるとか、お前、凄いな?」
自惚れていた訳じゃないが、俺は反応速度が速いと自負している。 だが、ユウキの反応速度は、俺より上なのかもしれない。
彼女はSAOプレイヤーではない。 もしそうなら、《二刀流》スキルは彼女に与えられていたのだから。
まあ、人の事を詮索するのは止めよう。 今は、このデュエルだ。
「えへへ、凄いでしょ」
「うん、冗談抜きで凄すぎるぞ。――さて、仕切り直しもここらへんでいいか」
両者は深呼吸をした。
「続きしようかッ!」
「だなッ!」
両者は同時に地を蹴り、距離を詰め鍔競り合いに持ち込んだ。 キンッ!と甲高い音が響き、摩擦で生じた凄まじい火花を散る。
そして先程と同じように、斬り上げ、斬り下ろし、薙ぎ払い、受け止めカウンター、高速突き、パリッと互いの剣技の先に読めるかのようだった。 俺は片手剣単発ソードスキル、スラントの斜め斬りでユウキが右手に持つ剣を撥ね上げた。
「ここだッ!」
俺は
――――だが、この攻撃もやはりと言うべきか、この攻撃は全てパリッされ受け流された。
先程の単発重攻撃だった為避けられたが、高速連撃は避けるのは、パリッされるのは不可能という俺の予想が外れた形になった。
「(……ったく、どんな反応速度してんだよ)」
そして彼女の代名詞。 OSS《マザーズ・ロザリオ》計十一連撃が放たれた。 俺は硬直時間が課せられ避けることも、パリッすることも不可能だ。 紫色を纏った片手剣の突きが流星のように襲いかかる。 最後の十一連撃目で、俺のHPを吹き飛ばせたが、その十一連撃目が腹部の寸前で停止し、武器を下ろした。
「…………は?」
俺は意味が分からず、目をパチクリさせる。
絶剣ユウキは何を思ったのか、俺の右肩をぽんと叩き笑みを浮かべた。
……いや、まじで意味が分からないんですが。
「うーん、すっごくいいね! お兄さんに決ーめた!」
「待て待て待て待て。 何が決まったんだ、意味が分からん。 どういうこと?」
俺はこの言葉に、更に混乱するだけだ。
絶剣の少女は大きく頷くと、嬉しそうに言葉にした。
「ずっと、ぴぴっとくる人を探してたんだ。 ようやく見つけた! ね、お兄さん。まだ、 時間大丈夫?」
「……あ、ああ。 まあ、大丈夫」
絶剣ユウキは剣を鞘に仕舞うと、回復結晶でHPを全快にしてくれてから、右手を差し出した。
俺も剣を背の鞘に仕舞うと、その右手を取った。
「じゃ、ボクにちょっと付き合って!」
「あ、ああ。 それは構わないが」
二人は黒い半透明な翅を広げ、地を蹴り急上昇。
「ちょっと、キリト。 どこ行くのよ!?」
「いや、分からん。 あとで連絡するから、先に帰ってていいぞ」
リズベットにそう言うと、二人は大空に飛翔した。
これが、俺と絶剣の初邂逅だった。
SAOはキリト君がクリア。
ALOは幼馴染のアスナさん救出。
GGOはキリト一人で解決。
簡単な設定ですね。
次回もよろしくです!!