オーバーロード〜不死人と聖職者〜   作:倒錯した愛

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おまたせ。
今回は会話多めの話、昔話的なやーつ。


40の神(多すぎる?充分少ないと思うよ?)

no side

 

 

ヴィクトリアは今日も、村に来ていた。

 

いや、村に泊まっている振りをして、夜中寝静まった時間にナザリックへとゲートを通じて帰って策を練る毎日を送っていた。

 

そして、着々と村全体への洗脳が広まっていった、まるでバイオテロのように。

 

1人から広まった話は村の隣人たちへ、その隣人、さらにその隣人たち、やがて村人全体に広がっていく。

 

そして、全員が感染した数日後、ヴィクトリアは村を出ることにした。

 

表向きは布教のためであるため、そう長く居座ることもできない、もはや布教済みの村にいる意味はさほどないのだ。

 

「それでは皆さん、今日までありがとうございました」

 

「いえいえ!こちらこそありがとうございました」

 

「行ってしまうのですか?」

 

「えぇ、もっとたくさんの人に、40神への信仰を広めたいので」

 

40神とは、ナザリックNPC風に言うなら【至高の42人】の中でも【リアル】の世界で戦う40人を神を超えた神、その偶像として信仰を集めるのに適した形にしたもののこと。

 

かつてのナザリックの40人のプレイヤーを崇拝の対象にする、悪魔崇拝的なものである。

 

40人のプレイヤーがもともと人間であったこともあり、世俗的な部分を多く含む40神教は、社会的地位の低い村人たちを対象にしてあるため、とても親しみやすいものとなっただろう。

 

「せめてもの別れの挨拶として、あなた方の信仰が40神の耳に届くことを祈らせていただきます…………祝福あれ」

 

「ありがとうございます神官様!」

 

「神官様も、お付きの方々も、お気をつけて」

 

「はい、それではまた会いましょう」

 

会釈してカルネ村(ヴィクトリアは随分後に知った)を後にするヴィクトリアとセバスとユリ、向かうのはここからもっとも近い大都市、『リ・エスティーゼ王国』のエ・ランテル。

 

だがまだ向かうべきではない、まずはアインズのゴーサインを待たねばならない、と、村からだいぶ離れたところまで歩いてから、3人はヴィクトリアのゲートを通じてナザリックへと帰還した。

 

「セバス、ユリ、2人ともご苦労様、今日はもう休んでいいよ」

 

開口一番そう言い放つヴィクトリアにいきなりすぎて固まる2人。

 

「えっ………し、しかしアインズ様への報告が残っております、主への報告もなしに惰眠をむさぼるわけにはいけません」

 

「私もプレアデスとしての業務が………」

 

やんわり断るセバスとユリだが、時すでに遅し。

 

「いいっていいって、報告なら僕がやっておくし、プレアデスのほうには事前に伝えてある、それに2人には近いうちにまた無茶な任務を頼むことがあるだろうから、今のうちに休んでおいて欲しいんだ、ちなみにこれ、副首領としての命令ね」

 

「か、感謝の極み……」

 

元よりモモンガによってプレアデスに根回しは済んでおり、2人は休暇を取る以外に道を失った。

 

「もちろん無理して休むなとは言わないけどね…………僕もアインズさんも形は違えど魔法職、詠唱には時間がかかるし、その間は無防備になる、そこは戦士職の2人ならよく知ってるよね?」

 

とはいえ、アインズレベルにまでなるとその隙というのも3秒あるかないかという短い時間である。

 

ついでにヴィクトリアは回復魔法であれば即座に発動可能である。

 

「はい」」

 

「ぼ……私も、ルプスレギナやナーベラルが魔法職なのでわかります」

 

「良かった知ってて、今回、アインズさんはわざとレベル40程度の戦士職に偽装して大都市エ・ランテルにて剣士として冒険者登録をするわけだけど………有事の際、例えばナザリックの敵が現れた時、アインズさんは即座に偽装を解いて全力で潰すはずなんだ」

 

みんなが大事だからね、と小さく付け加えるヴィクトリア、もちろん耳の良い2人にはしっかり届いているため、2人は嬉しさから少しうるっと来た。

 

「そんな時、詠唱中に護ってくれる盾役が充分に機能しないといかにアインズさんでも危ないんだ、だから………………わかるよね?」

 

ニコッと聖女のように微笑んだだけであるが、2人はまるで背中にコキュートスの一撃を受けたかのように硬直した。

 

「2人がその程度の護衛も完遂できないなんて微塵も思っちゃいないよ、アインズさんが攻撃を受けてHPが半分以下になることもないと思う」

 

でもね、と区切る。

 

「この世界は未だ未知数で、僕もアインズさんも知らない危険なものがあるかもしれない、例えば、『状態異常無効を貫通して死ぬまでダメージを与え続けるワールドアイテム』とか、そんなものがあるのかもしれない」

 

「無論、アインズ様の身に何かあれば、私やユリ・アルファが身を呈してでもお守り致す所存です」

 

「うん、その言葉を信じるよ、でも約束、決して死なないように、いい?」

 

「「はっ!」」

 

死なれては困るし蘇生魔法がどこまで効くのかまだわからないから、そして何よりヴィクトリアは悲しいことが嫌いだからだ。

 

この世界の人間には蘇生は効いたが、ナザリックNPCに効く保証はないのだ。

 

それに蘇生魔法にも種類がある、もっとも低位のレベルを5下げて蘇生する魔法はこの世界の人間には効いた、ではより高位の、デメリット無しのそ魔法は効くのだろうか?と。

 

「それじゃあ、僕はアインズさんのとこに行くから」

 

「「行ってらっしゃいませ、ヴィクトリア」」

 

玉座の間へと転移もせずに歩いて向かうヴィクトリアの背中を眺めるセバスとユリ。

 

「……………本当に、底なしにお優しいお方です」

 

「その通りでございますセバス様」

 

かつてのフリー時代、まだアインズ・ウール・ゴウンに入っていなかったただのヒーラー時代のあだ名、【地上の女神】、【慈愛の熾天使】に相応しい姿だろう。

 

しかし入った後から役目が変わり、それに伴いあだ名も変わり、【終末を呼ぶ聖女】、【制圧前進の伝承者】などと呼ばれ始めたのはヴィクトリアのはとって懐かしい思い出。

 

制圧前進に関してはその通りであり、ダメージを負っても近くで爆発エフェクトが起きても目くらまししようと、すべてを無視して回復しながら防御姿勢も取らずに歩いてくるからだ、しかも笑顔で。

 

だいたいそう言う時はテンションが上がってるため、孤立して集中砲火でボコられるのだが……………それでもHPを削る速度に悠々と追いついてしまう中位のリジェネ魔法さえあれば無敵というクソ仕様のためそれでも死なないのである。

 

事実、たっち・みーとのタイマンで勝負がつかないのはヴィクトリアくらいのもので、高位神官スキルの常時HPリジェネ効果で通常攻撃は無効化、高位HPリジェネと回復魔法で大技も即回復、もしやられても蘇生魔法の重ねがけでHP全回復&起き攻め防止、MPは神官職最高位のスキルで徐々に回復する仕様。

 

結果、『たっち・みーさんが2人以上かつ同時に大技を当てないと殺すことができない』という結論に至った、というのも、生粋の戦士職のたっち・みーさんのMP量ではどうやっても厳しく、課金アイテムで数十秒ほど無限MPにしてもダメだったため、最低でも2、3人での大技じゃないと無理ということになった。

 

なお、この計算はヴィクトリア自身の防御バフとたっち・みーへの攻撃デバフをまったく考えない状態、素の状態でのダメージ計算であることを留意しておいて欲しい。

 

最強じゃね?と思うかもしれない、だがこれから出すヒントを以ってよく考えて欲しい。

 

ヒント『ヴィクトリアの攻撃力』

 

神官系統に特化したヴィクトリアでは異業種に大ダメージを与えるのは簡単だが、肝心の攻撃力がレベル30の戦士職くらいしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリアside

 

 

ふ〜〜、やっと帰ってきたよナザリック。

 

アインズさんは…………やっぱり玉座の間にいるみたい、状況を報告しに行こうか。

 

「アインズさん、やっほー」

 

「あ、お帰りなさいヴィクトリアさん」

 

玉座の間に入ると珍しいことにアルベドもプレアデスの誰かもいない、1人で玉座に座っているみたいだ。

 

「無事に村は出ることができたみたいですね」

 

「うん、それじゃあ報告だけど……〜〜〜………ってわけで、大都市エ・ランテルに向かうってところからかな、っと」

 

家具アイテムの椅子を玉座の横に並べて置いてそこに座る、横の玉座にはアインズさんが座っている。

 

「なるほど、よくわかりました………しかし、40神教とは考えましたね」

 

「ウルベルトさんの昔話に感動するデミウルゴスを見てたらピンときてね、こっちに来れなかった40人の自慢の最高の仲間たちのことを少しでも多くの人に教えたくなったんだ」

 

そう、総勢42名という少数ながら、ユグドラシルのトップギルドとして栄華を誇った輝かしい、戦友(仲間)たち。

 

宗教の偶像となっているけれど、ただの自慢もいいとこだ、でも実際最高のギルメンだし、自慢もしたくなるってもんよ!

 

「とても良いアイデアだと思います、ですがこの世界に他のプレイヤーがいた場合は少し危険かもしれませんね、私たち………俺たちは、ユグドラシルでトップレベルの悪党ギルドでしたから、逆恨みもありえます」

 

「なら、なおさら悪らしくいかなきゃ、それがナザリックだし、ウルベルトさんも世界の一つくらい征服してやろうって言うと思うし」

 

「ははは、そうなったら、たっち・みーさんが止めに来るでしょうね」

 

「次元の壁を超えて【正義☆降臨】するのかな?ちょっと面白いww………ほんと、あの2人の絡みは面白かった〜」

 

「あれ?今思い返すと……………ヴィクトリアさん、二人を焚き付けてませんでした?」

 

「あ、バレてた?」

 

「やっぱりじゃないですか!もー!止めるの俺なんですよ!?」

 

「あははははは!いいじゃないですかアインズさん、それに、なんだかんだあの時が楽しかったわけですし」

 

「そうですね…………42人、42人です、超大規模ギルドのメンバーがたったの42人だけだったなんて、今思い返しても信じられませんよ」

 

「僕も時々思います、あそこには確かに42人しかいなかった、でも本当は100人、いや、1000人以上の個性ある面白頼もしい最高の仲間がいたんじゃないか、って」

 

「それほどに心血を注いで作られているんですね、このナザリックは」

 

「ええ、ナザリックだけでなく、その子供達、モブであるはずのNPCにまで名前と役割を与え、活気づけてくれた」

 

「タブラさんの凝り性にはちょっと困りましたけどね、アルベドの設定覗いたらどれだけスクロールしても底がなかなか見えなくて」

 

「うわっ、さっすがタブラさん………僕ももうちょっと凝ったもの作ればよかったかな」

 

設定結構雑にしちゃったからなあ。

 

「え?ヴィクトリアさん、NPC作ってたんですか?」

 

「えぇまあ、と言っても、戦闘向きじゃないので」

 

「参考までに、どれくらいですか?」

 

「素の状態のデミウルゴスに対抗もできないくらい、囮がせいぜいかな?」

 

「あぁーー…………」

 

素の状態のデミウルゴス、というかデミウルゴス自体戦闘向きじゃない。

 

とは言ってもデミウルゴス自体の能力は強力なものが揃ってるし、現在のナザリックにおいてデミウルゴスは参謀として非常に優秀。

 

戦闘もこなせる内政NPCって感じ、実際素の状態でも最高位天使(笑)程度には余裕で勝てるだろうし、決して弱くはない。

 

むしろ他の階層守護者が強すぎてインフレしちゃってるのがナザリックNPCのデフォ。

 

アルベドなんかはそれの代表格だけど、一番戦いたくないのはセバスかな。

 

「まあ、戦闘用NPCとしての能力は無いに等しいけど、プレアデスくらいの能力はついてるよ」

 

「うーん………どう扱ったものでしょうか」

 

「あぁ、『戦う』よりも、『使う』方が便利だよ、戦闘形態をとれば」

 

「え?変形するってことですか?」

 

「変形というか変身かな?見ます?」

 

「ぜひ!」

 

何やらウキウキした様子のアインズさんに僕のNPCを見せる。

 

「どうですか?」

 

「えっと……………これは、槍?ですか?」

 

「そう、意志を持つ武器、【エルキ・ドゥ】」

 

「NPCなのに、武器なんですか?」

 

「階層守護者は充分にいるし、世話係はプレアデスがいる、宝物庫はアインズさんが担当だから、じゃあ僕はみんなが使える武器を作ろう!って思ってさ」

 

「みんなの武器?使用者にワールドチャンピオンのように全武器を使えるスキルを付与するとかですか?」

 

「ノンノン、アインズさんのクリエイト・グレイター・アイテムでも創れる物は限られて来るし、鍛治職人がいつも狙って理論値最強武器を作れるわけじゃ無い、でもNPCとしてならパラメータ設定は自由、だから………チェンジ、バトルアックス」

 

僕が唱えると手に持った槍は流体金属に変わり、戦斧へと形を変えた。

 

立ち上がって軽く振り回してポーズなんてつけちゃってみる。

 

「と、このように、状況に応じて武器の形と属性を変えることができるっていう機構を備えた、言うなれば戦闘補助NPC!」

 

「う、うおおお!?すごいじゃないですか!」

 

「NPCとしては弱いけども!武器形態なら使い手次第で無敵!」

 

「なんというロマン性能!…………あっ(鎮静化)」

 

「あっ………(察し)」

 

やっぱり鎮静化されちゃうのか…………感情も表現できないなんてアンデットって不便だなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

「盛り上がっていた気分が一気に…………」

 

「なんかごみん…………そうだ、エルキ・ドゥはアインズさんも使えるようになってるから」

 

「え"っ!?マジですか!?俺戦士職のスキル何も持ってなくて装備できないはずですが………」

 

「ところがドッコイ!このエルキ・ドゥはスキル要らずであらゆる武器に変形する完成された武器なのダァ!」

 

というのも、そもそも設定が【NPCでありながらギルド武器】扱いのためである。

 

つまり、アインズ・ウール・ゴウン所属なら、それこそ低位のメイドですら扱えてしまう最強装備なのだ。

 

「ドッペルゲンガーなどの種族のNPCのスキルなら、武器になることも可能?…………いやいやいや、そんなまさか」

 

「ふっふっふっ、ならば、試してみるといい!アインズ!」

 

「おぅ!試してやるぜ!」

 

変なテンションで戦斧を差し出すヴィクトリアと、同じく変なテンションで受け取るアインズ。

 

深夜テンションのようなノリで最強武器を受け取ったアインズは、さっそく変形を試して見た。

 

「チェンジ、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン!」

 

すると戦斧は流体金属と化して見る見るうちにアインズの傍らで浮遊するスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと同等の見た目のものができた。

 

「お、おおおお!!」

 

あまりの完成度の高さに鎮静化が追いつかず、ものすごい光がアインズの周りで発生しまくっている。

 

「これはすごいですよヴィクトリアさん…………?……あれ?」

 

喜びも束の間、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは命令を待たずして流体金属に代わり、元の槍へと戻ってしまった。

 

「槍に戻った?なにもしてないのに」

 

「実は…………それがエルキ・ドゥの欠点で………」

 

ヴィクトリアは苦い表情で話し出した。

 

「ギルド武器扱いとはいえ、NPC、つまり厳密には『武器への変身能力を持った生き物』なんだ」

 

「なるほど、ではもともとエルキ・ドゥはなんの種族なんですか?」

 

「スライム種をベースに肉体を流体金属で構成した、言わばメタルスライム(重流体金属生命体)のようなもので、何も命令が無ければ今の槍の形態か、武器ストレージから出せば人型形態を維持するようになっていて、命令があれば命令通りに変形するんだけど……」

 

そこで一旦切って、ひとつ溜息を吐いてからまた話し出す。

 

「…………変形・変身能力の時の流体金属になるでしょ?そこから形を変えて凝固するわけだけど、それには膨大なMPを消費する必要があって、形を維持するのにもMPを必要とするんだ」

 

「じゃあ今のは、俺のMPが枯渇したから自動的に戻ったと?」

 

もはやお分かりだろう、魔法職のアインズのMPが枯渇するほどの消費量を誇るのだ、つまり………。

 

「そういうこと、アインズさんで無理なら、他の人に使えるわけない、プレアデスも階層守護者も領域守護者も、誰であれこのエルキ・ドゥを使うことができないんだよね」

 

「俺のMPでもたったの数十秒………でもヴィクトリアさんなら」

 

「そう、MPはリジェネするからほぼ問題なく使えるよ、逆に言えば神官職でも無ければ使えないってことになるね」

 

「惜しい武器です………使って見たい武器のお試しができると思ったのですが………」

 

「なんかごみんね…………でもNPCという設定上仕方ないんだ、それに武器だと強化制限はあるけど、このエルキ・ドゥにはMPの分だけ火力が出る構造になってるからMP量の多さと火力がイコールになる」

 

「はぁ〜〜…………それなら確かに、ヴィクトリアさんのあの大技がトンデモ火力には納得ですね」

 

アインズは答えを得た、なるほど確かに、このエルキ・ドゥに瞬間的にMPを多量に流し込めば火力はそれに応じて増大する。

 

その状態で使えばその威力は計り知れない………。

 

「半分正解!ま、ここまでいうと分かっちゃうよね」

 

「これで半分?」

 

アインズは首を傾げる、正面に立ったヴィクトリアは笑顔で言う。

 

「そ、半分、残り半分は秘密だよ?」

 

「そういう隠し方卑怯じゃないですか!?うわぁ気になる……」

 

「ふっふ〜ん、片手間に考えて見てよ、このナザリックの最終防衛機構の秘密をさ」

 

「そういえばそういう設定でしたね、懐かしいなあ」

 

「そういえば、元はと言えば僕を除いた41人の暴走に対処できる単体での抑止力、だったかな?」

 

誰が言い出したか、『悪の組織なら、身内の暴走を止めたり粛清したりする役割とかあったほうが面白くないか?』という冗談半分の発言に真面目になって当時のモモンガがスカウトしたのがヴィクトリアなのだ。

 

「入ってから大変だったなあ、すごい警戒されたし」

 

「たっち・みーさんの説得がなかったら危なかったですね」

 

見た目が人間で異業種とは程遠い姿のためか初めは警戒されたが、たっち・みーの援護もあって打ち解けた。

 

なお、当然のことであるが、反対意見を出していたのは(もちろん)ウルベルトだった。

 

「ウルベルトさんの頑固っぷりといったら……ぷくく……」

 

「やっぱりか!って思いましたよ」

 

そんなこともあって、優しい神官様プレイのフリー時代から一転、悪の組織の司教としてのプレイへと代わり、ヴィクトリアの非公式ファンクラブは相当荒れた。

 

荒れたが、ファン層がちょっと変わったくらいですぐに収まった、寧ろ腹黒さを見せたためか増えた。

 

あだ名や通称も悪役に相応しい(?)ものに代わり、ナザリック内でも新しい通称が決まった。

 

ギルドマスターであるモモンガすら一撃で葬り去れること、あらゆる攻撃や状態異常を無効にできることから付いた名前は【ナザリックの絶対防衛機構】、【アルティメットバスター・クレリック】と呼ばれる。

 

まあ、モモンガ自体のステータスは特別強いわけじゃないが、対外的に『やべぇ』と思う見た目のモモンガを一撃で、と言った方がわかりやすい。

 

「あだ名の【アルティメットバスター・クレリック】はさすがにちょっとないでしょ」

 

「かっこよくないですか?」

 

「えぇ………」

 

もっともよく呼ばれたものとして【全能司教】というのがある、これは公式非公認ラスボスと呼ばれたアインズ・ウール・ゴウンの攻略サイトにあった人物紹介欄にデカデカと書いてあったもので、サイトを覗いた者は大抵それで覚えている。

 

「【全能司教】のほうがヤベー奴感あっていい感じだと思う」

 

「それはありますね、【ナザリックの絶対防衛機構】もセンス高いですよね」

 

「そうそう」

 

サイトにて紹介されるヴィクトリアは、その高い防御力と非常識な状態異常無効の数々を指して『動く城』とまで言われる始末。

 

なお、ナザリック(墓)に城が入っているという絵を想像してナザリック一同は失笑した模様。

 

「タブラさんったらそれ聞いた途端に即興の脳内設定が出るわ出るわ、大変だったー、涙で」

 

「まさかのたっちさん裏切り展開からの『これが僕の仕事だからね……(悲しい笑顔)』っていうのは不覚にも涙腺にくるんですよね」

 

「ニグレド、アルベド、ルベドを創っちゃうくらいの設定魔は伊達じゃない!」

 

「そうだ、アルベドの設定資料の一番下に、『ちなみにビッチである』って書いたあったんですよ」

 

「うぇい!?アインズさんそれマジ!?あんな『貞淑な伴侶』って言葉が似合うアルベドがビッチ…………タブラさんってギャップ萌えだったのかな?」

 

「設定もそうですが、『濃い』人でしたからね」

 

「ですです、まさか最新のゲームでテーブルゲーム、しかも本格的なルールブック持ち込んでCoCをやるとは思わなんだ…………」

 

「容赦ないGMっぷりで生き残った人いなかったですよね」

 

「そうそう、まさかたっち・みーさんが一番先にリタイアとは………ってアインズさんもファンブルで自爆してたよね?」

 

「うっ…………そ、そう言うヴィクトリアさんだって、『ここで決めちゃる!』からのクリティカルファンブルとか出してたじゃないですか!?」

 

『この体力………いける!どりゃぁ!(クリティカル&ファンブル)……はっ?』

 

『『『『えぇ………(困惑)』』』』

 

『あのさぁ………処理に困るんだけど……』

 

『許してください!なんでもしま聖杯!(ワールドアイテム)』

 

上のようなやり取りがあったとか、なかったとか。

 

「うぐぅっ!?だ、ダイスの神様がご機嫌斜めだったから…………その日の運勢も最悪だったし………」

 

夜も更けていく中、2人の談笑は続く、終わったのはヴィクトリアの睡魔が限界に達したところだった。

 

ヴィクトリアが床についた頃にはすでに太陽が昇り始める時間だった。

 




『エルキ・ドゥ』
通称:意志を持つ武器
性別:可変
身長:可変
種族:重流体金属生命体(スライム種)
属性:0(中立)

重流体金属で構成される意志を持つ生命体。
基本形態は槍や人型形態などの形を取っており、『装備ストレージ』に入れるか『装備』することで、NPCでありながら『武器』として使用可能になる。
NPCとしてのスペックをそのまま武器に転写できるため、大火力と高耐久値、また形態変化によるリーチ、重量、バランス、大きさなどを自由自在に変えることであらゆる状況に対応するフレキシブル・ウェポン。
NPCとして習得した各種戦闘職スキルが、テンデど素人な使用者を達人の域にまで強化することが可能。
欠点として形態変化時に多量のMPが必要であり、また装備するとともに各種戦闘職スキルなどを発揮するため等の理由で徐々にMPを消費してしまうため、性能で見れば基本的に魔法職などMP最大値の高いプレイヤーの最後の足掻き用武器。
それでも長時間の先頭には向かず、ものの数分でMP切れを起こしてしまう。
ヴィクトリアは神官職特有のスキル(MPリジェネ)によってエルキ・ドゥによる継戦能力が極めて高い。
余談だが、MPを意図的に多く流し込むことで火力が跳び上がるように増加する。
どの形態であっても喋ることができず、コミュニケーションはジェスチャーかメッセージに限定される。
人型形態はプレアデスのメイド服に似た格好の姫カットの美少女がデフォルト設定されている。
なお、全身真っ金金は確定である。


40神教
『40の神を讃えよ!』
42人からアインズとヴィクトリアを抜いた40人を神様として祭り上げ崇拝の対象としたもの。
もちろんナザリックNPCは全員入信している。
アインズとヴィクトリアも入信している。
世界へと広め、かつての栄華を誇った時期以上の栄光と喝采をギルド【アインズ・ウール・ゴウンに】にもたらす為に。
今日も世界は異形の神を崇拝する。

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