オーバーロード〜不死人と聖職者〜   作:倒錯した愛

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前回のとってもかっこいい(中二病全開な)創造は作者が結構長く考えて書いた自信作です!(笑)

オペラ【パルジファル】よりヒントを得て作りました、この作品の作者はリヒャルト・ワーグナーです。

今後も好きなようにやって行きますんで、どうぞよろしくお願いします。


第3者(視点が多めです)

no side

 

 

魔法結界に引っかかった謎の監視魔法の術者が死んだことを片隅に入れつつ、ヴィクトリアは荒れてしまった地面の土や草を魔法で違和感のないよう修復するなど、後片付けのすべてを終わらせて村に戻ると、珍妙な光景を目にした。

 

それは、様々な年齢の男女に囲まれ、話し相手となっているセバスと、大勢の子供達の世話をするまるで教師のようなユリだった。

 

『善』の2人を選んだのは正解であったと、ヴィクトリアは自分の選択が正しかったとホッとした、陽光聖典を殲滅していたあの短時間で、恐ろしい速度で村人に取り入り、もはや村人の一員と言われても違和感のかけらも感じなかった。

 

ヴィクトリアに気づいたセバスとユリは視線を向け臣下の礼をする、そこで視線の方向に気がついた子供の1人がその先にいるヴィクトリアに気づき。

 

「神官様だ!」

 

と声を上げた、一斉にヴィクトリアのそばに集まる村人たち、困惑しつつも対応するヴィクトリア、その様子を微笑ましく見守るセバスとユリ。

 

先ほどまで襲われそうになっていたとは思えないほどの平穏………平和な村のちょっとおかしな日常がそこにはあった。

 

日が沈み、村長の家に集まった5人の男女、ヴィクトリア、セバス、ユリ、村長、そして王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。

 

「ヴィクトリア殿、セバス殿、ユリ殿、あなた方がこの村を1人の犠牲者も出さずに守ってくださったこと、感謝してもしきれません、気持ち程度ですが、報酬は望むものを用意いたします」

 

「神に仕える身として、目の前で困っている神の子を見捨てられなかっただけです、報酬は望みません」

 

「なんと寛大な御心………ですがヴィクトリア殿、私も王国に仕える身、こう言ってはなんですが、私共としましても、面子というものが保たなくなってしまいます、どうかお願いできないでしょうか?」

 

ヴィクトリアはガゼフの報酬を突っ撥ねるが、向こうにも国家としての面子がある、ガゼフ自身もこの村を守ることができなかったため、その後悔や救ってくれた感謝も含めてどうしても受け取って欲しいのであった。

 

ヴィクトリアはガゼフをセバスとユリの事前のメッセージで聞いた通りの男だという評価を下した、どこまでも一直線な性格はいっそ潔く、裏表も何も感じさせない佇まいはとても好感が持てた。

 

一方でガゼフはヴィクトリアを困惑とともに警戒していた、セバスとユリからヴィクトリアの人となりを聞いて如何様な聖者なのか、と疑問に思った。

 

そこで遠く離れたところで巨大な光の十字架が浮かび上がり、一瞬にして爆ぜたのを目にし、怖がる子供たちをあやすセバスとユリの言葉から、あの巨大な光の十字架はヴィクトリアの魔法によるものだと推理した。

 

そして実際に目の前で見てみると、なんということだ、まだ齢15、16ほどの子供ではないか、そのうえ、村人たちには男のように振舞っているが、微妙な胸の膨らみ、股間のイチモツがないように見えたことから女性、いや、少女であるとガゼフは見抜いた。

 

ならばなぜこのただの純粋な聖少女が、あの美しき救済の十字架の魔法を使えたのか、セバスによれば、彼女は異国出身の神官の身で、神への信仰を広めるための旅をしているのだと聞いた、怪しくも思ったが、ヴィクトリアの身なりは神官としては最高位に上等なものであり、疑いようがなかった。

 

そんなガゼフの思考もつゆ知らず、ヴィクトリアとりあえず組織のトップに連絡するのがスジだろうと、アインズに向けメッセージを送る。

 

『モモンガさん、ガゼフの言う報酬はどうします?どうにも受け取らないことには帰ってくれそうにないんですけど……』

 

『そうですね………それじゃあ、冒険者組合への推薦状を3人分繕ってくれるようにお願いしてください』

 

『………あぁ、なーるほど、モモンガさんは意外と大胆な策を考えましたね』

 

ヴィクトリアはアインズの言葉から、モモンガ自身が冒険者として世界の表側へ出ることを考えていることを悟った。

 

『あはは、バレちゃいましたか………その通りです、この世界の通貨や物価、どの程度のモンスターなどが人間にとって脅威になるのか………今後必要になると思いましたので』

 

『いい考えですね、僕も行ってみたいですよ………この未知だらけの世界を知りたいです』

 

『本当はヴィクトリアさんに頼む予定だったんですが、そこの村で一番馴染んでいるのはヴィクトリアさんですし、ナザリックにも近いので防衛や管理を任せたいのですが、大丈夫ですか?』

 

『問題無いですよ、モモンガさん、この僕………ナザリック地下大墳墓アインズ・ウール・ゴウン第41位ヴィクトリア・ローゼの名に誓って、守り抜きます』

 

『あ!その口上かっこいいですね!それじゃあ私も……えー……私はナザリック地下大墳墓アインズ・ウール・ゴウン第1位アインズ・ウール・ゴウンだ!』

 

『うっふぉおおお!今の最ッ高にクールでしたよモモンガさん!』

 

『そ、そうですか?なんだか照れますn………あっ(沈静化)』

 

『あっ(察し)』

 

馬鹿っぽい言い合いで高ぶった感情を沈静化されるモモンガ、沈静化されるモモンガを差し置いて今後の身の振り方を考えるヴィクトリア。

 

最終的に、モモンガはセバス、ユリとともに冒険者としてアインズ・ウール・ゴウンの組織名を広げるために行動、ヴィクトリアはナザリック地下大墳墓の防衛・管理、及び近隣の村との交流を深めることで2人だけの脳内会議は一時休憩となった。

 

「それではガゼフさん、報酬の件ですが、冒険者組合への直筆の推薦状を3人分いただけませんか?それから、できることなら、いくらかお金を頂きたく思います」

 

「お安い御用です、推薦状を3人分ということは………ヴィクトリア殿も冒険者に?」

 

ガゼフは一瞬ではあるが、ヴィクトリアの中の獣性を垣間見たような錯覚を受けた。

 

「あぁ、違います、私の友人がとても腕が立つ者でして、私も、セバスもユリも、友人も、異国出身ですので、彼らの生活資金を稼ぐにはちょうど良いと思ったまでです」

 

「なるほど、それでしたらそのご友人のお名前を教えてください」

 

「友人の名はモモンガと言います、私が神官見習いからの知り合いでして、見聞を広げたいとお願いをされてしまいまして………唯一無二の友人の願いなので、どうしても叶えてあげたくて」

 

「素晴らしい考えだと思います、ヴィクトリア殿、そのお方は剣士なのですか?」

 

ガゼフは考える、目の前のヴィクトリアが王国戦士長である自分に推薦状を書かせてまで冒険者にしたい男、ただ純粋に興味がわいたのがひとつの理由、もうひとつは、友人という彼が剣士であった場合、前衛3人と後衛1人のチームが組めてしまうのだ。

 

セバスとユリから僅かながら溢れ出る強者のオーラ、ヴィクトリアの使った見たこともない強力な魔法、このふたつの材料から、その友人が只者であるはずがないと、何か裏があるのではないかと、より警戒度をヴィクトリアたちにばれないようやや高くした。

 

しかしヴィクトリアはただ単純にモモンガの推薦状をさっさと書いて欲しいがために急かす意味も込めて言ったのである。

 

推薦状を1人1枚、計3枚を書き終えたガゼフは、王国戦士長の直筆の推薦状であるという証に判を押してヴィクトリアに渡した。

 

「ありがとうございます、ガゼフさん」

 

「いえ………では次のお金の話ですが」

 

お礼を受け取りつつガゼフはフル回転で頭を回していた、目の前の神官が納得するほどの金貨は持ち合わせていない、最悪部下からも出してもらい後で王国に請求すれば良いと覚悟を決める、しかし………。

 

「あーその、お金のことなのですが、この村の宿の一泊分だけでいいので、いただけませんか?」

 

「一泊分、ですか、は、はぁ……」

 

拍子抜けしたガゼフであったが、ヴィクトリアとしてはいくら村人が良いと言っても結果を見ればこの村で無金寝泊まりと無銭飲食をしたのだ、小市民であった自分のモラルがそれを許せないのであった。

 

「えぇ、村の方の善意とはいえ、私も聖職者の端くれ、貫き通さなければなりませんから」

 

ガゼフはヴィクトリアの無欲さと謙虚さに好感を抱くが、宿の一泊分も払えないほど金に困っていながら良く3人で旅に出れたものだな、と思った。

 

きっと困窮していた人に金を渡してしまったのだろう、とガゼフはヴィクトリアの貧乏の理由をこじつけ納得したことにした。

 

ついでに、宿の一泊分は銀貨8枚であった。

 

その後も会話は長い時間続き、日が暮れる前に王都に帰ると言い帰ったガゼフを見送ったヴィクトリアは。

 

「………あんのクソエロオヤジが」

 

胸ばかり見てきたガゼフを、誰にも聞こえないように注意してドスの効いた声で口汚く罵ったのだった。

 

基本的に性に無頓着であるヴィクトリアは、年頃の乙女のように赤面などしたりはしない、だが、だからと言って女であるこの体をジロジロと見られて気分が良いわけがない。

 

他にも理由があるが、この理由に関しては場合によってはヴィクトリアにとって弱点になると考え、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーにも話したことはない。

 

「「………」」

 

セバスとユリにはドスの効いた罵りは聞かれており、2人は見つめ合いうなづくと、どこか危なっかしい至高の御方のヴィクトリア、彼女(の主に貞操)を何としても守ろうと密かに誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー………やっと帰って来れた」

 

「お疲れ様でございます、ヴィクトリア様」

 

「遠方からでございましたが、ヴィクトリア様の妙技、しかと拝見させていただきました」

 

セバスとユリからの労いの言葉を受け取りつつ、ヴィクトリアたちはナザリックの第10階層の廊下を歩く。

 

見ていたとは思うが、一応モモンガに口頭で情報を伝えるのが良いと考え、ヴィクトリアは足を玉座の間へと向けた。

 

その半歩ほど後ろを従者のように付き従うのはセバスとユリ、2人とも執事服とメイド服に着替えていた。

 

「あんなの大したものじゃないよ、派手に見えるけど攻撃力は低めだし、何より発動までが遅いしね」

 

ヴィクトリアの言葉はセバスとユリの度肝を抜いた、モモンガがナザリック全NPC向けのメッセージで、最高の火力を誇ると豪語した必殺技をそうでもないと言い切ったのだ。

 

セバスとユリは困惑した、至高の御方の中でも首席に位置するモモンガが、よもや虚偽の発言をしたというのだろうか?それとも同じ至高の御方の中でも末席のヴィクトリアのほうが虚偽を?

 

セバスとユリは至高の御方を疑うことを酷く恥じた、しかし疑うほどにそれほどまでに衝撃的だったのだ、あの技、『慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)』、あれほどの数の敵を一掃する攻撃範囲を持ち合わせていながら、攻撃力は低いというのか。

 

「ヴィクトリア様、恐縮ながら、先ほどの技についてアインズ様がおっしゃられた言葉と、ヴィクトリア様がおっしゃられた言葉に差異がございます」

 

「うん?モ……アインズさんは何て?」

 

「アインズ様は、ヴィクトリア様の使われた技について『最高火力を誇る技』であると仰りました、しかしヴィクトリア様の先ほどの発言から見て、アインズ様の言葉と食い違いがあるように思えるのですが………」

 

「……ん………ユリは先に行って」

 

「かしこまりました」

 

ヴィクトリアはユリを先行させ、セバスとともに廊下の途中で立ち止まる。

 

「………さて、2人っきりになったわけだ、私の技についての情報の差異について説明しよう」

 

意識的に低くした声音でヴィクトリアは話し始める、セバスは釣られて姿勢を正した。

 

ヴィクトリアとセバス以外に誰もいない廊下、魔法での監視や隠蔽スキルでの盗み聞きもないことを確認して、ヴィクトリアは話しを始めた。

 

「『慈悲深き聖槍(パルジファル・ロンギヌス)』…………あれはある映像媒体よりヒントを得て、長年の研究から創り上げた技………それの『劣化版』に過ぎない」

 

「あれほどの力で『劣化版』とおっしゃいますか!?」

 

ヴィクトリアから語られた言葉の前半はよかった、しかし後半の『劣化版』という言葉は、セバスは精神をゴッソリと削るのに十分すぎるものであった。

 

モモンガでさえ擦れば聖なる力で蒸発しかねない威力、それすらも本来の技の劣化というのか、と。

 

「そうだ、本来の技については言えないが、ただ言えるのは、あの技はまだ私の本気でも全力でもないということだけだ」

 

「………僭越ながら、本来の技について、その一端だけでもお教えいただけませんでしょうか?」

 

セバスは迷いに迷って自らの権限を超えた頼みをヴィクトリアに願った、一般メイド、プレアデス、全階層守護者、守護者統括、そして、モモンガ、この者たち全員を一撃で屠れる威力の技……………それの『完全版』だ。

 

如何なるものかはセバスには想像もつかないものであったが、主であるモモンガすら知らぬ技ともなれば、その危険性は無視ができるようなものではないからだ。

 

「たっちさんのNPCであるお前になら言おう」

 

「感謝いたします」

 

「簡潔に言えば、私が本来の技を使えば滅せない者などいない…………だが、その時、私の体は粉々に砕け散るだろう」

 

沈黙が流れる、あまりの驚愕ゆえに頭を下げたままのセバスは沈黙を破る術を持たなかった。

 

ヴィクトリアの言った言葉に嘘偽りがな事は、支配者であるモモンガのヴィクトリアへの信頼から伺える、事実、ヴィクトリアは本来の技を使用すれば肉体が崩壊してしまう、そしてそれはヴィクトリアの種族に原因があった。

 

「セバス、私の種族が何だかわかるか?」

 

「……『天使』、もしくは『堕天使』でしょうか?」

 

「『人間』だ」

 

「なっ!?」

 

今度こそついにセバスは声に驚きを乗せた、ナザリック地下大墳墓、アインズ・ウール・ゴウンには異業種以外の者は至高の御方に名を連ねる事を許されない、セバスやアルベドなどの一定の権限を持つ守護者はもちろん、末端のメイドですら知っている事実。

 

だが目の前の少女は人間にして至高の御方に名を連ねている、セバスはきっと何らかの処置でモモンガがヴィクトリアを在籍する事を許可しているのだと考えた。

 

ではその理由とは………そこまで考えていたセバスであったが、ヴィクトリアの行動で一旦止めた、止めざるを得なかった。

 

「………とまあ、詳しい事はそれほど言えないし、盟友のモモンガさんにもここまでは教えてないし、今回話したのもセバスがアインズ・ウール・ゴウン最強の騎士、たっちさんのNPCだからだよ?言いふらしたりはしないって、信じてるからだからね?」

 

ヴィクトリアは歩き出す、セバスは数秒遅れて歩き出す、セバスの肩は震えている、それは先ほどまで喋っていたヴィクトリアの目が、この世に存在するどの色にも当てはまらない濁った色をしていたからだった。

 

恐怖で肩が震え動悸が早まる、汗が吹き出し呼吸が乱れる、口内は渇き目の焦点が合わせられない、顔色はすこぶる悪く足取りも不安定………今のセバスは、まるで、今にでも崩れ落ちそうな古城のように見える。

 

家事も戦闘もスペックが高く、守護者ともタイマンを張れるほどの実力者が、ヴィクトリアの目を見ただけでこのように目に見えて弱り切ってしまったのだ。

 

しかしセバスが最も堪えたのは創造主たるたっち・みーを引き合いに出されたからだ、もし先の話を聞いて、ヴィクトリアを裏切るようなことがあれば、それは己の創造主たるたっち・みーへの裏切り、反逆と同義なのだ。

 

ゆえにセバスの行動は決まった、ヴィクトリアの秘密を漏らさぬようにうまく立ち回ること、それが最善だと、己の創造主への忠義だと言い聞かせた。

 

一方、ヴィクトリアとしてはちょっと中二病を拗らせて勢いで言ってしまっただけなのだが、反省の色も後悔の念も見えない。

 

セバスは恐怖と焦燥に打ちひしがれる中、考える…………そもそも、なぜヴィクトリアはここまで自分をひた隠しにするのか?

 

アインズ・ウール・ゴウンにおける最大の防御力と回復魔力を有する代わりにそれ以外のパラメータが底辺のマジックキャスター、と思えば、必殺技である『パルジファル・ロンギヌス』の威力は雑魚とはいえ中位モンスターと陽光聖典特殊部隊の全軍を一撃でこの世から消すほどの火力を発揮して見せた。

 

しかし、その『パルジファル・ロンギヌス』の威力は本来の技の劣化版であり、本来の技の数分の一以下…………並大抵の同レベルのプレイヤーを一撃で粉砕可能な必殺技と、削ったそばから回復するド鬼畜回復魔力、そもそも削らせる気すらない鉄壁の防御力、そして数多の魔法・対魔法スキルや装備の数々………。

 

完全にゲームバランス崩壊のステータスである、『そんなんもうチートや!チーターや!』、そう言われたって文句は言えない。

 

だが、そうとはならない、なぜか?…………そこまで行って、セバスはまた初めから考え始めた。

 

足りないのだ、情報が圧倒的に足りなさ過ぎる………決定的なものが抜けているせいで、セバスは何度も何度も同じ道筋を辿り、折り返した、まるで道のど真ん中に『行き止まり』の看板が立っているかのように、真実に到達できないのであった。

 

ついに玉座の間の前まで来たヴィクトリアとセバス、扉を開けて入ると玉座に座るモモンガの前に進み出た。

 

ヴィクトリアは礼をし、セバスはヴィクトリアの数歩後ろでモモンガに対し跪いた。

 

「ナザリック地下大墳墓アインズ・ウール・ゴウン第41位、ヴィクトリア、ただいま帰還」

 

「………ご苦労であった、ヴィクトリアよ………」

 

荘厳な雰囲気が形成される、玉座の側で佇むアルベド、少し離れたレッドカードの端のところで跪くプレアデス、向かい側には各階層守護者が跪いて待っていた。

 

玉座の間の者たちは、ナザリックを出発する前の軽々しい口調と、聖職者の有する特殊な聖属性のオーラは身を潜め、代わりに全てを押しつぶす圧力のオーラと、何者にも従わないという強固な意思を隠しもせず放出するヴィクトリアに、けおされていた。

 

「しばしの間、休養につくといい」

 

「良いのか?私は一度眠るとなかなか起きないのだぞ?」

 

この時モモンガは『(そう言えば、ヴィクトリアさんってログアウトしてから次にログインするまでの期間が長かったっけ)』と昔のことを懐かしんだ。

 

「ヴィクトリアには新たな任について欲しくてな」

 

「ふふふっ、末席の私に務まる任だと良いのだが?」

 

ニコリと笑うヴィクトリア、半目を開けてモモンガを見る様は、普通の人間にはまるで挑発しているように見えるが、見守る守護者一同には信頼ゆえの気安い態度だと思った。

 

笑顔(ただし、恐ろしい)のおかげか、守護者一同は緊張から解放され、特に聖属性に弱い吸血鬼のシャルティア、意外と怖がりなアウラは呼吸を落ち着かせようと必死になっていた。

 

「安心すると良い、次の任は長い休養に見合うほどに忙しいものだ」

 

「ほぉう?…………それはそれは………なるほど、楽しみにさせてもらおうか」

 

「そうだ、楽しみにするといい、これほどの大任………アインズ・ウール・ゴウン第41位であり盟友であるヴィクトリアにしか頼めぬのだ」

 

「そこまで言われると、気になってしょうがないではないか?ふふっ……どうか教えてはくれないだろうか?我らが首領殿?」

 

「ハハハ……盟友の頼みは断れないな………私は人間の冒険者に扮し、セバスとユリを連れこの世界の調査にあたる、私が不在の間のナザリックの防衛と管理を任せたいのだ」

 

「………我らが首領であり盟友たる卿のその願い、喜んで引き受けよう………ふふふふふふふふっ」

 

両腕を広げ愉快そうに笑うヴィクトリア。

 

「フフッ……フフフハハハハハハハハッ」

 

肩を震わせて笑うモモンガ。

 

守護者一同は改めて認識した、至高の御方の御二方ならば、この宝石箱のような世界を手に入れるのは容易いことなのだと………。

 

だが、当人たちにはそんな気など無い、実はこの会話、ヴィクトリアが玉座の間に着くまでの間の時間にメッセージを使いあらかじめ練っておいたセリフなのだ。

 

要するに、ただのいい歳こいた自称元中二病のオーバーロード(モモンガ)と、中二病上等な聖職者(ヴィクトリア)の気まぐれな戯れだったのである。

 

もちろん、そんなことを知る由も無い守護者一同は、二人がこの世界を手に入れるために動き出したのだと、恐ろしい方向に勘違いをしてしまった。

 

そのため、爪が脚に食い込んで流血しながらも、これから至高の御方二人のために存分に働くことができると思うと歓喜が止まらなく、喜色満面でモモンガが考えるであろう今後の計画について考察を始めるデミウルゴスは、見た者が人間なら這ってでも逃げようとするほどに恐ろいしい姿になっていた。

 

アルベドに至っては、ほぼ至近距離でモモンガの色々な表情(骨だが……)を見て、さらにあまり見られない友人に対する気さくな接し方等がアルベドのハートを直撃、体をビクビクと震わせながら、オツユを垂らし床に小さな水溜まりを作っていた。

 

それだけならまだ良いが、狂喜に歪んだ顔面が変顔の領域でタップダンスをしているため、直視に堪えない。

 

シャルティアもだいたい同じであるが、こちらはアルベドと比べると大洪水である、何がとは言わない、だがひとつ言わせてもらおう…………大洪水である、ばれていないのがせめてもの救いか。

 

コキュートスは、雄叫びを上げたい衝動を必死に抑えるあまり、冷気が漏れ出し床に氷が張ってしまっている、我慢のしすぎゆえか、体の振動が氷の膜を砕き、氷の膜が張られてはまた砕けるといったことを繰り返している。

 

だがそのようなことは何も守護者に限ったことではない、実はこの光景、マジックアイテムを(アルベドの独断で勝手に)利用してナザリック中に生中継されているのである、そのため、ナザリック中のNPCたちはひとり残らず守護者たちのようなことになってしまっている。

 

双首領のどうでもいい戯れのおかげで今この瞬間ナザリックは絶賛防御力0になるという非常事態が起こっているのである。

 

「では、私は休ませてもらおうか………の前に、ご飯食べたいんだけど、食堂って今やってる?」

 

それまでの荘厳なオーラを消して、今までの柔らかな態度になるヴィクトリア、突然真逆のオーラで質問されて戸惑うプレアデスたち、彼女たちの代わりにデミウルゴスが内心肩をすくめながら応えた。

 

「食堂は24時間稼動中です、しかし、ヴィクトリア様がメイドに伝えてくれるのであれば、自室にお運びいたしますよ?」

 

「それはありがたいねえ、でも僕はひとりでご飯を食べるのは寂しくてさ」

 

「……!……わかりましたヴィクトリア様、エントマ、ヴィクトリア様を食堂へ案内しなさい」

 

デミウルゴスは戯けるように言ったヴィクトリアの言葉を反芻し、その真の意味を理解した。

 

デミウルゴスはヴィクトリアがナザリックの者たちと親密になることで、組織としての一体感、連携を強化しようと考えているのだと導き出した。

 

歓喜!狂喜!ヴィクトリアのどこまでもナザリックとナザリックに属する者たちへの深い情愛に、デミウルゴスの凍った心は踊り狂った、そのあまりにも美し過ぎる考え方に、死んでも良いとさえ思った。

 

「は、はイ!……では、ヴィクトリア様はこちらへ………」

 

指名されたエントマがぎこちなく立ち上がり、ヴィクトリアの道案内を始めるため進み出た。

 

「道案内お願いね、エントマ」

 

「お、お任セくだサい!」

 

「うん………頼りにしてるよ、エントマ」

 

「んヒャァ!?」

 

なんとか失態を晒さないように、心を落ち着かせて………と考えていたエントマの思考はヴィクトリアの声で止まり、叫んだ。

 

それも当然か、今までにないほどの近い距離で、優しく、愛おしい声で名前を呼ばれれば、誰でもそうなるであろう………デミウルゴスはエントマの失態に怒りを覚えることはなく、むしろしょうがないものと割り切った。

 

ヴィクトリアとエントマの二人は玉座の間を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリアside

 

 

「うん、やっぱりここのご飯はおいしいや」

 

「そうでございますね……」

 

僕ってモモンガさんと違って人間、お腹が減っちゃう、だからご飯を食べなきゃいけない、それで食堂に行ってご飯を食べるのはナザリック所属の者として当たり前のことだよね。

 

だからさあ、食堂中のNPCのみんな、僕のことガン見するのやめない?いやでもエントマみたいにさっきから目も合わせてくれないとそれはそれで泣くよ?

 

うーん、エントマと二人用の席を選んだのがいけなかったのかな?この注目のされ方はあれだね、ファミレスに入ってきた美男美女カップルを見る目だね、自分で言ってて悲しくなるけど。

 

大きめのテーブルをたった二人で使うのは迷惑だろうし………深く考えてもご飯が美味しくなくなるだけだしね。

 

ちょっと気まずい(?)食事も終わり、ナザリック内の自室のベッドに寝転がる。

 

やらなきゃいけないことは多い、防衛レベルは今のままで十分なのかを確認する必要がある、いくら敵があんなレベル30くらいの雑魚魔法使いとレベル50〜60程度のモンスターでも、数が多いと対処が面倒になってくる。

 

害意あるものがナザリックに近づいた瞬間に転移させたり、範囲攻撃魔法を自動で発動するようなトラップを仕掛けたりする必要が出てくる。

 

まあ、トラップやらはアウラとマーレにやってもらえばいいかな、というかそれくらいはモモンガさんが大抵やってそうだ、明日になったらより密な情報共有をしよう。

 

今やればいいって?やだ、眠いし。

 

「おやすみ…………」

 

帰ってこない『おやすみ』ほど寂しいものはないね。




しばらく不定期になります

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