オーバーロード〜不死人と聖職者〜   作:倒錯した愛

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最終回(ユグドラシル終了的な意味で)

ヴィクトリアside

 

 

23:50………ユグドラシル最後の日、あと10分もしないうちにサービス終了してしまうから急がないと。

 

ログインがパパッとできたのは幸運だった、こういう日はどこのギルドも集まって最後の時を待ったりするものだし、もっと遅れるものかと思っていた。

 

まずはギルドマスターのモモンガさんを探さないと、たぶん円卓の間だと思………あれ?いない、どこ行ったんだろ。

 

たしかマップに………いたいた、10階層の玉座の間かぁ、最後くらい魔王らしくって感じなのかな、こんな時に……いやこんな時だからこそのこだわりってやつか。

 

玉座の間に向かう廊下で、今までを振り返る、たっち・みーさん強かったなーとか、ペペロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんはいつも楽しそうに喧嘩してたなーとか………まあいろいろだね。

 

この道も懐かしい……2ヶ月ぶり、いや、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使うようになってからはナザリック内を歩くことなんてなかったから………半年ぶり、ってところかな。

 

やっと第10階層まで降りてこられた、さて時間は………。

 

23:59:39

 

は!?

 

23:59:44

 

まずい!ゆっくりとしすぎた!間に合わない!

 

23:59:55

 

あぁ、最後くらい。

 

23:59:57

 

モモンガさんと。

 

23:59:59

 

話したかったなぁ………。

 

00:00:00

 

00:00:01

 

あれ?強制ログアウトが起こらない?バグか遅延?

 

………サーバーが落ちないってことは、最後のチャンスをやる、っていう神(運営)からのメッセージかな?

 

そうでなくとも、この延長時間を利用させてもらうけど。

 

玉座の間の扉の前に立つと自動で開き始める、と言ってもかなり遅い、もしこれがゾンビ映画で、5人ほどで逃げている時なら、この遅さだったら4、5人目は中に入れずに食われるかもしれない、それくらい遅い。

 

まあ、分厚くてまるで戦艦の装甲板みたいな扉が、それこそコンビニの自動ドアの如く速度で開いたら怖いけど。

 

長ったらしく言ったけど、この遅さ、それと扉の軋む音もすべて雰囲気のため、演出でしかないんだけどね。

 

玉座にはアンデッドのモモンガさんが座って…………アルベドの胸を揉んでいた。

 

「モモンガ………さん?」

 

「ふぉぉぉお!!??ゔ、ヴィクトリアさん!?」

 

「っぁん!……はぁはぁ、モモンガ様ぁ……ん!」

 

「…………お邪魔しました!!」

 

「ま、待ってください!!誤解ですヴィクトリアさん!!ちょっ話を聞いてください!!!」

 

モモンガさん………っ!あなたは………あなたは(童貞のヘタレだと)信じてたのに!

 

「モモンガさんなんてハラスメント行為で運営に吊るし上げられて仕舞えばいいんだぁああああ!!」

 

「恐ろしいことを言わないでくださいヴィクトリアさん!あとちょっと待って!本当に待って!誤解です!誤解ですから!」

 

数分間に及ぶ鬼ごっこの末に頭が冷めたため、ちょっぴりだけ話を聞いてあげようじゃないか。

 

ふむふむ……………モモンガさん曰く…………ユグドラシルで使えたコンソールやGMコール等が使えないとのこと、しかもNPCが自律行動するという大型のバグ付きで。

 

………バグだったらどれだけよかったか……………。

 

「え?じゃあ、僕とモモンガさんはユグドラシルの世界に閉じ込められたってこと?」

 

「いえ、それがそうでもないみたいで………今、セバスに周辺の地形を確認させています、報告を待ちましょう」

 

「命令できるんだ!?」

 

「えぇ………どうやらナザリックのNPCは私の命令を聞いてくれるみたいです」

 

「コマンド以外の指示でも従う………うーん、極秘に進められてきたユグドラシルの超大型のアップデートとか?」

 

「そうにしても、案内板くらいは用意して欲しかったのですが……」

 

「だよねぇ………ところで、僕らどこに向かってるの?」

 

「第6階層です、転移しても良いのですが………こういう話をNPCの彼らに聞かれるのは………」

 

「あー、まあ、そうですよね」

 

いつもならここで苦笑いの顔文字が表示されるのだけど、モモンガさんをどこから見てもそんな表示は見えない、アップデートにしてはバグ多すぎるなぁ、修正はよ………って冗談もこんな状況じゃ言えないよ。

 

「……モモンガさん、ちょっと、散歩してきてもいい?」

 

「え?いいですけど………危ないと思ったらすぐに帰ってきてくださいよ?」

 

なんか気分悪くなってきたし、外の空気吸ってこよう、ナザリックって地下だし、通気性悪いから気分が悪くなったんだろうね。

 

「当然です、僕はリスクに見合わないリターンは払いませんからね」

 

「はぁ………とにかく、気をつけてくださいね」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで第1階層に転移し、そこから外をぐるっと見渡してみる。

 

…………え?どこ、ここ?見渡す限り平原とかおかしい、ナザリックは沼地のど真ん中にあった気がするし……ガチでゲームん中ってことかー。

 

「うっそでしょー………」

 

ゲームの世界に入り込む………そんなアニメみたいなものが、まさか本当に起きてしまうなんて………。

 

どうしてくれんの!?買ってきたカップラーメン無駄になるじゃん!!

 

はぁ、ま、いいや、ある意味貴重な体験とも言えるわけだし、カップラーメン数個と引き換えに、生活空間がリアルからゲームの世界にシフトとしたって考えれば、お釣りが出るくらいのことだしね。

 

さて、さっそく索敵魔法でも………あれ?どうやって使………あ、念じれば使えるんだね、とりあえず索敵魔法と、魔法強化の魔法をかけて………む、あれは村かな?距離20kmと少しの位置。

 

「情報収集には、使えるかな………」

 

独り言を呟いてゲートを作成、村の入り口付近に座標を設定して、ゲートに向かって歩いた。

 

ゲートを出た先には先ほど見えた村が広がっており、今は夜ということもあって子供はそれほど多く見えない、しかし数人の農夫らしき人間が村にある複数のやぐらに2人ずつ立っていた。

 

情報収集の役には立つかな?程度の認識で村の入り口から堂々と入る。

 

「旅のおかt………!?………あ、あなた様はもしや!?神官様でございますか!?」

 

入り口近くのおじいさんが僕を見てそう叫んだ、神官様って………だいたいあたりだけどさ。

 

対アンデッド火力兼ヒーラーとしてやっていこうと思って、職業もそっち系ばっかり取っていたら、いつの間にか司祭、司教、大司教………現在は最高位の『神の使徒』についているっていうね。

 

服装もゲームでよく見る神官系の服を選んで装備してる、モモンガさんがラスボス的魔王なら、僕は大神殿の大神官ってとこかな。

 

白を基調にしたゆったりとしたローブや縦に長い帽子に、ユグドラシル文字で祝福の言葉などが綴られている神器級の装備。

 

規格外の回復魔力を秘めた廃課金者でなきゃまず手に入れられない超超プレミアムアイテム!手に入れられたプレイヤーは、その手の職業についている中でもトッププレイヤー………いわゆるランカー達のうち数人しか入手できなかった装備なのであーる!

 

ただ、同じ神器級装備にはもっと手軽(熟練プレイヤー基準)に入手できるものが多く、能力値が低い、回復魔力の超大幅向上しか利点が無い、労力と金を注ぐ価値はコレクターでもない限りほぼ無い。

 

イベント限定、能力値は低めということもあり、ほとんど敬遠されていた装備ではあるけれど、僕は何よりもこの見た目が気に入っちゃったんだよね。

 

見てよこれ!この純白のローブ!いかなる状況下においても穢れる事を知らない真っ更な白!かっこいいよね〜。

 

この装備が運営から発表された次の日、気づいたら20kぶち込んでたよ、HAHAHAHAHA‼︎

 

そんなかっこいい格好のぼくを、神官という大きなくくりの中で見れば当たってると言えるね、まさにそれ意識してるしね!

 

「えぇ、そうです」

 

えぇ、そうです(ドッヤァ!!)

 

「おぉ!やはりそうでございましたか!このような村にも神のご慈悲をくださるとは!ありがたき幸せでございます!」

 

このおじいさんテンション高いなぁ………まあ、適当に見つけた村に入っただけで喜ばれてるのなら悪い気はしないね。

 

「ご慈悲………そう、我らが信ずる限り、神は我らをお救いくださるのです……」

 

「なんとも、素晴らしい………」

 

「……心が洗われるようだ」

 

適当に言っただけなのになぁ………あとそこのおじさん、僕の泥水みたいな言葉で心洗わないで、今すぐやめて。

 

いつの間にか集まってきた数十人の村人たちに神の説教を聞かせ、満足した様子の村人たちに村長が誰か聞き、訪ねて話を聞いてみようかと思った。

 

しかし………。

 

「神官様、もう夜更けです、おやすみになられたほうが良いかと思います」

 

「いえ、僕は……」

 

「神官様、わたくしは宿を営んでいる者です、神官様のお疲れを取るために、従業員一同、誠心誠意尽くして準備をさせていただきました!」

 

「神官様、どうか今日は彼の宿に泊まっていただきたく思います!」

 

って言ってもお金持ってないんだよね………いや持ってるけど、村人たちの持ってる銭袋の中身を透視してみたら、ユグドラシルの硬貨とは違ったものだった。

 

聖職者と思われている自分が無銭飲食とかはまずいし、やんわりと断ってみよう。

 

「休みたいのはやまやまなのですが、僕は異国の出でして、恥ずかしながら金銭の持ち合わせがないのです……」

 

「神官様から金銭を頂くなんてとんでもない!なんなら泊まっていただけるだけで良いのです!」

 

あれ?異国の部分無視?

 

「そ、そうなの?………じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 

「はい!いらっしゃいませ!神官様!」

 

「「「いらっしゃいませ!神官様!」」」

 

宿主とその従業員と思われる人たちが一斉に頭を下げてくる。

 

………僕ってそんな偉いわけでもないのに、いいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の少女side

 

 

「すごい………」

 

私はそれしか言うことができなかった。

 

他の村に比べて小さい村、ここカルネ村で生まれて15年、私は生まれて初めて『奇跡』を見た。

 

昨日の夜にこの村に来たという神官様という人物、父や母が言うには神々しい雰囲気を纏い、純白のローブに身を包んだ美しい方らしい。

 

そんな絵本に出てきそうな人なんているわけない、そう思って朝起きて神官様とやらを見に行ってみた。

 

村の広場で子供や大人を集めているようで、私もその一団に加わって話を聞いてみることにした。

 

「………天使という存在は、高貴で高潔な存在です………」

 

言っていることが頭の中に入り込んでスゥッと解けていく感覚、凝り固まった肩がほぐれたような、そんな感覚に襲われた。

 

怖いと思った、神官様の話を聞いているこの時間が、とても心地よく感じてしまっていることが、怖いと思った。

 

神官様の顔を見る、とても優しそうで、時折起こる質問にも丁寧に答えている。

 

その時、5、6歳くらいの女の子が走っていて石に躓いて転んでしまった。

 

ズシャァ……という音に神官様は転けて泣いている女の子のほうを向いて、その女の子を起こした。

 

さらに女の子の服についた土をわざわざ手で払ってあげたのだ。

 

女の子の母親が騒ぎを聞いて駆け寄ってくる、母親は何度も頭を下げている。

 

神官様は女の子の母親に頭を下げるのを止めるように言って、不意にそれをやめた、神官様の視線を追うと女の子の膝に向かっていた。

 

女の子の膝には遠目からでもわかるほど血がにじんでいた、神官様は手を女の子の膝にかざすと、手のひらからキラキラとした淡い光が放たれた。

 

光が収まると、女の子の膝の擦り傷は最初からなかったかのようにきれいさっぱり無くなっていた。

 

これに私はさっき神官様が女の子を起こしてあげた時以上に驚いた。

 

神官様にとっては、旅の途中で立ち寄った村の子供でしかない女の子の傷を、魔法を使って治療をしてあげた………魔法は人を傷つけるものと聞いていたから、とても衝撃的だった。

 

神官様の周りに色々な人達が集まっていく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリアside

 

 

転んで泣いてた女の子を起こして魔法で治療しただけなのに…………なんでこんなに感謝されるのかな?あれくらいの回復魔法………第1階位か第2階位程度の初歩の魔法なんだけど……。

 

もしかして第1階位魔法すら使える人がいない、とか?

 

それなら納得がいくけど………うーん……。

 

「し、神官様!娘の怪我を治していただき、ありがとうございます!」

 

「神の子が目の前で傷ついているのです、助けるのは当たり前です」

 

「なんと慈悲深いお方なんだ!」

 

「あのお方こそ、真に神に仕える神官!」

 

たっちさんと同じようなこと言っただけなんだけど………でもいい気分だね、褒められるっていうのは。

 

ん?メッセージが飛んできた?GMコールとかと同じように使えないんじゃないんだ。

 

『聞こえますか?ヴィクトリアさん』

 

『モモンガさんですか、何かご用で?』

 

『散歩に行ったきり帰ってこなかったので、連絡を入れました』

 

『あはは、ご心配をおかけしました、こっちは大丈夫です、出会った村人にも良くしてもらっています』

 

『そうですか………あの、お手数ですが、その村で情報収集をお願いしてもよろしいでしょうか?』

 

『えぇ、わかりました』

 

『頼みます』

 

メッセージを切って村人のほうを見る………って何このご馳走の数々!?

 

「あの、今日は何かお祭りでもあるのですか?」

 

「いえ、祭りなどは………しかし、今日は祭りと言って良いほどの祝い日でございますゆえ」

 

「昨晩は神官様をもてなすことができませんでしたもので………」

 

まだもてなす気だったの!?正直寝床だけでもありがたかったんだけど………なんか、申し訳ない気分だよ。

 

「もてなすだなんて………私はただの、異国の神官なのですよ?神に祝福されし人々をもてなしはすれど、もてなされるような人間では………」

 

「あぁ、神官様は謙虚であられる………」

 

「どのような山よりも高い徳操と、どのような海原よりも深き慈悲………」

 

「どこまでも、どこまでも感服いたしました!!」

 

もうここの村人たちが怖い。

 

「いえしかし、こんなに豪華な料理なんてとても………いえ、これ以上は無礼ですね………ありがたくいただきたいと思います」

 

純粋な好意とかが1番恐ろしいっていう理由がわかったよ……。

 

リアルじゃこんな待遇ありえないから終始どもりっぱなしだし、神官様とか担ぎ上げられて内心笑顔でバービージャンプしてるなんてバレたら自殺ものだよ。

 

目の前に並ぶ数々の料理、小皿に取り分けて村人と食べる。

 

…………うん、美味しい、認めよう、ここはゲームの中なんじゃない、きっとどこか異世界か何かに、ユグドラシルでの能力を持ったまま転移してしまった………そう考えるしかないようだね。

 

まあ、しばらくここで情報を集めて、数日後に一旦ナザリックに………!!

 

ここに近づく人馬30体を自分にかけた魔法のセンサーに捉えた。

 

レベルにすれば雑魚の雑魚、ドラクエで言うドラキーにも劣る雑魚、それが30体程度………と思うが、ここにいる村人たちのレベルはそれよりも低い、襲われればきっと死人が出るだろう。

 

遠くを見る魔法でよく人馬を見てみよう、まだ脅威だと決まったわけではないので、座って食事を楽しむふりをしつつ、無詠唱で魔法を発動させる。

 

敵なら、情報収集をより円滑に進めるために、ちょっと派手にやらせてもらおうかな。

 


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