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彼は真っ暗な闇の中にいた。
「…くそ、ここはどこだ!何故、俺はここにいる?由夏は、由夏はどこにいる!」
彼の叫び声は、虚しく反響する。
そして、返事は返ってこない。一体、彼の身に何があったのだろうか。
…
時は少し遡る。
黒崎は建物の中を駆けていた。最上階を目指して、ただひたすらに。
律から提供してもらったマップは頭に叩き込んだ。
だから今携帯は使い物にならないが、それでも道に迷う事はない。
だが、彼は次第に焦りを感じていた。いつまで経っても着かないのだ。建物の最上階に。
テロリストの侵入時、一気に占拠されるのを防ぐ為、複雑な作りにしてある。
だが、それでも遅すぎるのだ、このマップが正しければ、今頃最上階に着いているはずなのだ。
俺は最短ルートで進んでいる。それなのに、最上階に辿り着けないのだ。
黒崎は叫ぶ。
「…一体、最上階は、どこだ!」
正確に言うと、最上階へ向かう階段が見つからないのだ、
あるフロアに辿り着いたが、その上の階に行く階段が一切ない。
そして、エレベーターなどと言うものはそもそも使い物にならない。
でもどこかに、最上階へと向かう階段があるはずなのだ。
「…どこにあるんだ!」
彼の叫び声は虚しく反響した。
と思いきや。
「…見つからないよ。何故なら、最上階への階段は全て封鎖した。
オートロックでね。指紋認証がなければ通れないし、人間が叩き壊せるほどヤワじゃない。
だから君は永久に最上階へは辿り着けないよ。私を倒さない限り。」
そこに突然現れたのは仮面を被った男。
「貴様は、誰だ?何者だ?」
黒崎は問う。こいつが何者かは分からない。だが、この男、只者じゃない。
それだけは直感で分かる。だから黒崎は警戒心を強くした。
「…私かい?名乗るほどの名前は無いのだがねえ。
簡単に言えば、この事件を起こした黒幕だよ。」
男はあっさりと、自分が黒幕だと宣言する。それを黒崎は不審に思う。
まさか、影武者?そんな可能性もある。
でも、こいつが黒幕だとしたら。
「…そうか、貴様がやったのか。よくも…由夏を!」
「まあそう言うなよ。これも私の計画の為だ。それに、別に良いだろう?
彼女はまだ無事だ。傷一つない。だから、今ここで私を倒せば、隠し扉のロックを解除出来て、
最上階へ向かい、彼女を救出出来る。簡単な話じゃないか。」
「…そうか、なら話は早い。俺はお前を倒すだけだ。」
黒崎には体力が残っていない。だから、長期戦に持ち込むことは不可能。
一気に勝負を付けようと、仮面の男へと突撃する。
すると、体温が上昇し、身体が熱くなるのを感じる。
さっきと同じで、ゾーン状態になったようだ。
目の前の光景が止まったように見える。自分のスピードも上がった。
このスタンガンで一気に気絶させる。
そう思って仮面の男へ攻撃する。
ヒュン!
スタンガンが空を切る。
「いない!」
なんと、いつの間にか仮面の男は彼の視界から消えていたのだ。
「フハハ、こっちだよ。見えなかったのかい?」
黒崎の後ろに立つ仮面の男。
「能力をまた発動するとは、やるじゃないか。
でもその消耗しきった身体では、私に勝てやしない。
本来君は立つのがやっと。それを能力でごまかしているに過ぎない。
いや、君のは能力なんかじゃないか。ただのゾーン状態だ。」
そう言うと、男は黒崎の首をトンと叩く。
「ぐ…は…っ…」
黒崎はその場に崩れ落ちた。
彼を抱え、仮面の男はどこかへ向かう。
「…多少計画からズレてしまったが、概ね予定通りだ。
さて、次は100億の賞金首を狙うとするか。」
**
その様子をモニターで由夏は見せ付けられていた。
「そんな、お兄ちゃん…」
今度こそ、彼は倒れてしまった。これじゃ…、私が助かる見込みはない。
一体どうなってしまうんだろう。
用済みになって殺される。そんな最悪の可能性が頭をよぎる。
「…嫌だ、まだ、死にたくない!」
彼女の叫び声を、聞くものはいなかった。
仮面の男は気絶した黒崎を抱えて、隠し扉を開け、上へと登って行く。
男が辿り着いた先は、様々な機械が取り付けられた部屋。
「…先ずはここで試してみよう。彼がどれほどの精神力を持つか。」
そう言うと、男は黒崎の頭や身体にいくつかの機械を取り付け、スイッチを入れる。
「さあ、実験を始めよう。どうなるかな?少なくとも、彼は地獄の苦しみを味わう事になるけど。」
***
そして、その機械により、黒崎は幻覚を見せられていた。
「くそ、どうなってる!」
走っても走っても闇の中、いくら探しても、誰も見つからない。
一体何があった?あの男と戦って、そこで意識が途切れて…
恐らく、俺は仮面の男に倒された。そう黒崎は予想する。
じゃあ何故、俺は先の見えない真っ暗闇にいる?
考えても考えても、答えは見つからなかった。
すると、暗闇の中に人影が見える。
「あれは…誰だ?」
俺は慎重にその人影に近付いていく。
うっすらと、その人影は鮮明になって行く。その正体とは…
「由夏!無事だったのか?」
黒崎は慌てて駆け寄る。
「…お兄ちゃん…」
黒崎が由夏の肩に手を置くと、由夏はそう呟く。
「…一体何があった?まあいい、とりあえずここを脱出するぞ。
と言っても、方法が分からんな…
って、嘘だろ…」
なんと、由夏の身体が次第に透けて、消えかかっている。
「お兄ちゃん、さよなら…」
そう言い残して、由夏は消えていった。
「うあああああああああ!」
***
そして、場所は椚ヶ丘。時は経ち、朝日が登っている。
E組の皆は裏山へ向かう。そしてその顔は、どこか暗く、沈んだものだった。
昨日はあんな形で解散してしまった。だから、皆の心にはしこりが残っていた。
そして旧校舎の教室で、朝のホームルームが行われる。
だが、ここで一つ異変があった。
「…黒崎君が、いませんねえ。一体何が…」
殺せんせーが言う。
「まさか、昨日の事が原因で…」
学校へ来なかったんじゃないか。渚が不安げに呟く。
「…彼に限って、そんな事はないと思うんですがねえ。
ちょっと彼の家に行って、様子を見に行きましう。」
そう言うと殺せんせーはマッハ20で窓から飛び出した。
「…黒崎君、どうしたんだろう。」
茅野が心配そうにぽつりと呟く。
「さあねえ。殺せんせーの言う通り、あいつに限って拗ねて来ないなんて事はないと思うけどね。
だからもっと別の理由があるんじゃない?」
カルマが答える。
「じゃあ、その理由って一体?」
「…そこまでは、俺にも分からないよ。」
そして数分後。殺せんせーは帰ってきた。
「ただいま帰ってきました。」
「殺せんせー!黒崎は?」
皆が一斉に問う。
「それが…、家にも居ないんです。携帯にも繋がらず、一体何処へ行ってしまったのか。」
「え…」
皆は絶句する。じゃあ一体何処へ?それが分かったら苦労しない。
謎は深まるばかりだ。
「…何やら、事件の臭いがしますねえ。心配になってきました。」
殺せんせーが呟く。
すると。
「ビデオメッセージを受信しました。この場で再生しますか?殺せんせー。
黒崎さんに関わる物なんですが…」
律がメッセージを受信したらしく、知らせてきた。
「…もちろん見ましょう。何かの手がかりになるはずです。まだ何も分かりませんが…」
「…わかりました。しかし、皆さんはとても辛く、恐ろしい物を見る事になるでしょう。
気を付けて下さい。気持ち悪くなったら、無理しないで下さいね…」
一体なんのことだ?皆は律の言葉の意味が理解できないで居た。
だが、ビデオメッセージが再生されると、皆はその意味をすぐに思い知る事となる…