黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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更新遅れてすみません。
受験勉強、ほんとキツいです…


88話 狂気の時間

「嘘だろ…」

 

地面に膝を付き、息も絶え絶えの黒崎。

 

対照的にヴァンパイアは、余裕そうな風で、退屈そうに黒崎を見下ろしている。

 

「チッ、この程度かよ。もっと楽しませてくれよ。」

 

一体何故こんな事になったか。それは少し遡る。

 

 

ヴァンパイアはナイフを振るう。

 

「うおおおおおお!」

 

(速い!)

 

黒崎は感じた。スピードも、キレも、あの時より段違いに良い。

 

あの時以上に苦戦しそうだ。

 

だが、黒崎とてあれから何もしなかった訳じゃない。

 

あれから4ヶ月。黒崎の実力は、覚醒状態だったあの時の彼を上回っている。

 

特に触手を持った茅野との戦いは、最大限力の限りを尽くした。

 

それでも勝てなかったが、目的は勝つことではなかったので別に良い。

 

武器の扱いは遥かに上手くなった。

 

素の身体能力こそ、南の島の時より低いが、

 

技術はあの時より上だ。

 

俺は、ヴァンパイアの攻撃を見切って避ける。

 

そして、今度は俺がスタンガンを振るう。

 

…目的は殺す事じゃない。だから人を殺しかねないナイフは、メインには使わない。

 

ヴァンパイアにはそれを避けられる。

 

 

だがすかさず向きを変え第二撃を繰り出す。

 

それも見切られたが、今度はもう一方の手からナイフを取り出し、今度は真っ直ぐ刺すように

 

繰り出す。ヴァンパイアは一瞬動揺する。だがこれはフェイントだ。

 

俺は刺すと見せかけ、スタンガンを首元に当てる。

 

 

…だが、決まらなかった。紙一重の所でヴァンパイアは避けていた。

 

「チッ…」

 

黒崎は舌打ちする。流石にこの程度では倒れないか…

 

彼はもう一度スタンガンを振るう。

 

だが、ヴァンパイアはそれを避けて、黒崎の腕を掴み、投げ飛ばす。

 

「ぐはっ!」

 

「…なんだ、この程度か?」

 

ヴァンパイアは黒崎を殴る。顔面を、腹を、だが…

 

「効かねえよ。」

 

「何?」

 

「効かねえって言ってるだろうが。」

 

俺は一瞬動揺したヴァンパイアの顔面を右から殴る。

 

「…どういう事だ?俺の攻撃が通じないだと…」

 

ヴァンパイアは動揺している。当然だ。あの攻撃は生身で受けていたら相当なダメージを受けていた。

だが超体育着ならばそれくらいの攻撃は防げる。

なんせ国が最先端の技術で開発した物だ。

そしてヴァンパイアは超体育着の存在を知らない。

 

「その服、見た目からして怪しいと思っていたが、それほどとはなあ。

だが、そんな小細工じゃ俺は倒せねえぜ。その服はあくまで身を守る物。攻撃には役に立たん。」

確かにその通りだ。けれど、攻撃がほとんど効かない。それは大きなアドバンテージになる。

 

そんな事は、ヴァンパイアだって分かっているはずだが…

俺はスタンガンをヴァンパイア目掛けて振るう。

それをヴァンパイアは避け、ナイフを繰り出してくる。

俺はそれを避け、今度は蹴りを放つ。

ヴァンパイアはそれを掴み払う。そして、俺の顔へパンチを放つ。

超体育着は顔までは守りきれない、その盲点をついて来たのだ。

そんな事を繰り返して、十分ほどが経っただろうか。

戦況は互角、いや、少し俺の方が押していた。

 

ヴァンパイアは次第に防御に精一杯になり、俺は積極的に攻撃を繰り出す。

俺は戦いやすかった。超体育着の防御が効かない顔面だけ守っていればいいのだ。

それに対してヴァンパイアには身を守る鎧はない。

そして遂に、俺の一撃が、ヴァンパイアの喉元へ届く…

はずだった。

 

「おっと危ねえ危ねえ。なかなかやるじゃねえか。

 

少し油断してたぜ。そろそろ、俺も本気を出さなきゃなあ。」

 

ヴァンパイアは間一髪のところで避け切っていた。

 

「今まで本気じゃなかったとでも言うのか?」

 

「…ああ、そうだよ。」

 

そんなはずはない、と黒崎は考える。

 

ヴァンパイアは明らかに余力を残していない。全力で戦っていた。

 

余力を残しているとすれば、

 

「まさか、とんでもない秘密兵器でも隠しているとでも言うのか?」

 

俺は冗談のつもりで呟く。だが、

 

「…ああ、そのまさかだ。」

 

ヴァンパイアはそう言った。

そしておもむろに服の中から錠剤を取り出す。

それを口の中に入れるヴァンパイア。

 

「こいつの力で、俺はさらに強くなる。」

 

「…それは一体なんだ?」

 

「特殊な興奮剤でね、身体能力を一時的に強化すると共に、

 

身体にかかっているリミッターを解除し、限界を超えられる。

 

ようはお前が南の島で突然発動させた能力、あれを薬の力で再現したんだよ。」

 

語っていくヴァンパイアの目はだんだんと血走っている。

 

「…薬で?要はドーピングか。そんな小細工で俺に勝てると…?」

 

「…小細工?馬鹿にするなよ。これはそんなもんじゃねえ。お前の大事な物を頂くに相応しい物だ!」

 

そう言ってヴァンパイアは黒崎の元へ駆け出す。恐ろしいスピードだ。l

 

速すぎて避けきれない。ヴァンパイアは黒崎の顔面に拳を打ち込む。

 

彼は後方まで吹っ飛んだ。

 

「げはっ…」

 

顔から血が出ている。まさかそれ程とは、超体育着を着ていない顔とはいえ…

 

半端じゃない。この威力。

 

だが、顔さえやられなければ大丈夫だ。

 

黒崎は、今度はナイフで攻撃する。

 

容赦している場合ではない、あの強さ、下手すれば殺されかねない。

 

かと言って殺すつもりはないが。

 

黒崎はスピードを最大限出して、真っ直ぐヴァンパイアをねらう。

 

しかし、攻撃はかすりもしなかった。いとも簡単にかわされたのだ。

 

「動体視力も上がるのさ。この薬を使えばな!フハハハハ!」

 

高笑いするヴァンパイア。

 

「じゃあ、こっちからもいかせてもらうぜ。」

 

ナイフを繰り出して来るヴァンパイア。黒崎は顔を護る事を最大限意識して避ける、

 

だがスピードが速すぎて避けきれない。

 

ナイフは彼の腹部を直撃した。

 

だが大丈夫だ、超体育着が防いでくれたはず…

 

しかし、痛い。激痛が腹部を走る。

 

確かに出血はない。だが、鋭い鉄の棒で殴られたような感触だ。

 

異常なまでのスピードで、超体育着の防御機能が完全には働かなかったのだ。

 

それだけではない。パワーが異常なのだ。生身で食らっていたら致命傷になりかねなかった。

 

「…一体どんなドーピングだ?そこまで身体が強くなるなど。」

 

「さあね。お前に教える義務はねーよ。死ねえ!」

 

ヴァンパイアはなおも攻撃を続ける。

 

完全に形勢が逆転した。

 

黒崎は攻撃を避けるのに精一杯だ。

 

避ける事に全神経を集中させなければ避けられない。

 

それでも、一つ、二つと傷が増えていく。

 

「オラオラどうした、その程度かあ!」

 

威勢良くナイフを振るっていくヴァンパイア。

 

それに対して黒崎は、かすり傷一つヴァンパイアに付けられていない。

 

それに加えて、体力を大分消耗している。

 

さっきからずっとフルスピードで、全力で動いている。それが十分ほどだ。

 

疲れるのも当然といえよう。

 

なのにヴァンパイアは疲れていない。

 

息は荒く、汗をかき、目は血走り、それでも動きだけは衰えていないというのだ。

 

「ハッ!」

 

ヴァンパイアが、そこに落ちていた鉄パイプを拾って俺の頭を強打する。

 

「がっ!」

 

頭から血が出て、黒崎は倒れる。

 

「…馬鹿が。経験も、身体能力も、遥かに違うんだよ。ただの中学生であるお前とは。

 

お遊びはここまでだ。さあトドメを刺してやる。」

 

黒崎は頭を押さえながら立ち上がる。

 

(それでも、俺は諦める訳にはいかない。たった一人の妹を助ける為だ。

 

俺が一歩も動けなくなるまで、心臓が止まるまでは諦めない!

 

ここへ乗り込む前にそう決意した。だから。)

 

「俺だって、負ける訳にはいかないんだ!」

 

黒崎はナイフを振るう。力を振り絞って、全力で。

 

その攻撃は、確かに、今度こそ、ヴァンパイアの腕を捉えた。

 

だが、ヴァンパイアはそれを避けていた。

 

「…馬鹿が。」

 

ヴァンパイアは呟く。

 

しかし、気付けば、ヴァンパイアの首元にスタンガンが触れていた。

 

「本命は、こっちだ。」

 

黒崎は、フルスピードでも見切られると分かっていた。

 

だから、ナイフの攻撃に殺気を凝縮させて、全力で狙っているように見せかけた。だが、

 

本命はスタンガンの方だ。ナイフに気を取られてヴァンパイアは気付かなかったが、

 

反対の手で黒崎はスタンガンを投げていた。

 

ドーピングをした所で、限界がある。全てを見切れる訳じゃない。

 

ヴァンパイアは、電流を浴びて倒れる…

 

 

 

 

 

…はずだった。何とヴァンパイアは倒れていなかったのだ。

 

「…大分痺れるじゃあねえか。だが、このくらいの攻撃、倒れやしねえよ!

 

この…、薬の…力でな!ヒャハハハハハ!」

 

ヴァンパイアは狂ったように笑う。身体の耐久力まで、ドーピングで上がっていたのだ。

一方、力尽きた黒崎は、その場で膝をつく。

彼に為すすべはなかった。

 

***

そんな様子を、モニターで眺め高笑いする仮面の男。

 

「…あの薬は成功のようだな。ヴァンパイア、ご苦労だったよ。」

 

全てはこの男の、思惑通りだったのか…?


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