黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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今回の黒崎の言動は賛否両論だと思います。ちょっと不快に感じるかも。



3学期 ~決着編~
84話 亀裂の時間


「殺せんせーを、助ける方法を探したいんだ。」

 

渚が発したその言葉は、黒崎を、皆を驚愕させるのに十分過ぎる物だった。

 

「殺せんせーを、殺さずに助ける?」

 

「つまり、爆発させないでって事?」

 

皆が渚に質問する。

 

「アテはあるの?」

 

と岡野が聞く。

 

「勿論、今は無い。無いけれど、あの過去を聞いちゃったら、

 

もう今までと同じ暗殺対象としては見られない。きっと皆もそうだと思うんだ。」

 

「…」

 

黒崎は黙ったままだ。

 

「3月に地球を爆破するのも先生の意思じゃない。元々は僕らと対して変わらないんだ。

 

僕らと同じように、失敗して、悔いて、それでこの教室に来た。

 

僕らが失敗しないように、導いてくれた。

 

それに、何より一緒にいて楽しい。

 

そんな先生、殺すより助けようって考えるのが自然だよ。」

 

そう渚は語り終えた。

 

すると…

 

「わたしさんせーい!殺せんせーとまだまだ生き物探したいもん!」

 

倉橋が賛成する。

 

「私も。渚が言わなきゃ私が言おうと思ってた。恩返し…したいもん。」

 

片岡も賛成する。

 

「倉橋さん、片岡さん…」

 

渚はホッとした顔をする。

 

「もう十分暗殺はやってきたしね。」

 

「新しいチャレンジしていこうぜ!」

 

「いよいよ新シリーズ開幕!」

 

そう言って皆が次々と賛成し出す。

 

「やらなかったら後悔する。やれるだけやってみよ。」

 

(良かった、同じ境遇の人がいて。)

 

そうして、助けようという雰囲気になった時。

 

黙ってそれを見据えていた中村がこう言った。

 

「…こんな雰囲気の中言うのもなんだけど、私は反対。」

 

彼女は堂々と反対を宣言する。やはり、誰もが同じ価値観を持っている訳ではない。

 

中学生なら尚更だ。

 

「…中村さん。」

 

「殺せんせーと私達が一年間繋いで来た、暗殺者と暗殺対象という絆。

 

殺せんせーもそれを言ってたし、私も本当に大切だと思う。」

 

中村の脳裏に浮かぶのは、1学期、英語で一位を取り触手の破壊権を得た時の事。

 

「…でも、だからこそ、殺さなくちゃいけないと思う。」

 

言葉を失う渚。

 

中村がそう言うと、周囲で何人かが立ち上がる。

 

寺坂達だ。

 

(殺せんせーの命を助けるのに反対な人、中村さんに、寺坂君達も!)

 

渚は驚いた。

 

「助けるって言うけどよ、具体的にどうやるんだ?

 

あのタコを1から作るレベルの知識が俺らにあれば別だが、

 

奥田や竹林の科学知識だってせいぜい大学レベルだろ?」

 

寺坂は反論する。

 

「でも…」

 

「渚、テメーの言ったこと、俺らだって考えなかった訳じゃない。

 

けどよ、今から助かる方法探して、見つからなかったらどうするんだ?」

 

「暗殺の力を1番つけた今の時期によ、それを使わず、無駄に過ごしてタイムリミットを迎えるんだぜ?」

 

村松と吉田が続けて言う。

 

「あのタコが、そんな半端な結末で、半端な生徒で、喜ぶと思うか?」

 

…彼らの言っている事は、正論ではあった。

 

けれど、それを飲み込む事が、渚にはどうしても出来なかった。

 

だから、言い訳を続けてしまう。

 

「でも、考えるのは無駄じゃない…」

 

だがそれは、「彼ら」の逆鱗に触れてしまった。

 

「…考えるのは無駄じゃない?何を言ってる。

 

考える事自体が無駄なんだよ。そんな暇があったら暗殺の為の努力をするべきだ。」

 

黒崎は立ち上がり、そう言った。あまりにも冷徹に、渚の言葉を糾弾した。

 

そして。

 

「…才能ある奴ってさ、なんでも自分の思い通りになるって勘違いするよね。」

 

カルマが呟く。

 

「…え?」

 

「ねえ渚君、随分調子乗ってない?E組で1番暗殺力あるの渚君だよ。

 

その自分がさ、むざむざ暗殺のチャンス投げ出す訳?」

 

「それがどう言うことか分かるよな?才能無いなりに必死に頑張って来た奴の気持ちを踏みにじる。

 

そういう事になるんだぞ?」

 

黒崎とカルマはなおも言う。

 

それに対して渚も反論する。次第に、周りの空気は険しくなっていく。

 

「…違うよ、そう言うんじゃなくて、もっと正直な気持ち!

 

殺せんせーを救いたいだけなんだよ!

 

カルマ君や黒崎は、殺せんせーの事嫌いなの?」

 

そしてその言葉は、触れてはいけない琴線に触れてしまった。

 

「嫌いな訳ないだろう。…馬鹿が。」

 

黒崎の口から、普段は考えられないような言葉が出る。

 

口数こそ少なく口調もぶっきらぼうだが、かと言って、

 

彼は人を侮辱するような言葉を吐いた事はあまり無い。ましてやE組の皆に。

 

「感情論で物事を語るな。これは地球の存亡に関わる問題なんだぞ。

 

お前の下らない感情で地球が滅びるなんて、そんな事はあってはならない。

 

俺だって、暗殺教室を作り上げた殺せんせーには感謝している。

 

でも、中村が言っていた通り、だからこそ殺すんだよ。それが殺せんせーへの恩返しになるんだから。

 

それに救えなかったらどうするんだ?『殺せていたかもしれない』そんな後悔を背負って

 

地球が滅びる。俺は嫌だな。

 

渚、お前の言ってる事は、地球の為にも、俺たちの為にも、殺せんせーの為にもならない。

 

最悪の提案なんだよ。

 

お前は暗殺が無かったらどうなってた?

 

その才能を開花させる事も、使い道に気付く事も無く、操り人形のまま過ごしていただろう。

 

自分の才能を開花させてくれた暗殺から身を引こうなどと、

 

殺し屋になる事すら考えていたお前とは思えないな。」

 

「そうだよ渚君。頭まで小動物なの君?せっかく手に入れた才能を使わないなんて。

 

それってさ、美女がブスに向かって、女探しに必死になるのやめなよっていう感じ?

 

うわっ、嫌味だねえ渚君、そんなに性格悪かったっけ?」

 

カルマも畳み掛ける。

 

黒崎の言葉は、あまりにも現実を冷酷に突いていた。

 

確かに彼の言葉は正しい。けれど、あまりにも軽視しすぎていた。

 

渚の思いを、感情を。だからこそ、渚はそれを受け入れる事が出来なかった。

 

「黒崎は、僕の思いを、感情を、無視すると言ってるの?」

 

「ああ、そうだよ。そんな下らない物より、地球の方が大事だ。」

 

「…!」

 

渚は黒崎を反抗的な目で睨む。

 

「…何だその目は。文句があるなら言ってみろよ。何だって聞いてやるぜ。

 

…受け入れるとは限らないが。

 

いつまでも言い訳ばかり垂れて見苦しい。言いたい事があるならはっきり言え。

 

この男女が。身体だけじゃなく心まで女々しいとはな。

 

 

…もういい、話にならない。今日は帰らせてもらう。渚、お前には失望したぜ。

 

お前がそんな腑抜けだったとは。最後に一言だけ言っておく。

 

例え1%でも、殺せんせーが爆発して地球が滅びる確率がある内は、俺は絶対に暗殺を続ける。

 

お前が何と言おうとな。」

 

そう言って黒崎は裏山を去る。それを止めようとする者は、誰も居なかった。

 

「…」

 

周囲に重い沈黙が漂う。

 

黒崎の言葉は、鋭利な刃物のように、深く皆の、特に殺せんせーを助けようとしていたメンバーの

 

心に、深く突き刺さった。

 

彼の言ってる事は正論だった。でも、だからこそ、こんな結果を生んでしまった。

 

「…とりあえずさ、皆、今日はもう解散にしよう。

 

ごめんね、僕がこんな事言い出したばっかりに、こんな結果に…」

 

渚は暗い顏で言う。彼が1番、黒崎の言葉によって傷付けられていた。

 

正しい、でも違う。その正論を、どうしても受け止められない自分がいた、

 

そしてそのせいで、クラスを分裂させてしまった。

 

渚の中に深い後悔の念が渦巻く。

 

(受け入れれば、良かったのかな。彼の言葉を。)

 

確かに自分は傲慢だった。そう渚は思ってしまった。

 

「…渚のせいじゃ無いだろ。誰のせいでも無い。仕方なかったんだよ。意見が違う以上。」

 

杉野が言う。

 

重い足取りで、皆は帰途に着く。クラスの間に生じた亀裂。

 

それは簡単に埋まりそうもなかった。

 

 

 

「…まさか、こんな結果になるとはな。やはり、お前は過去を話すべきではなかった。

 

俺はそう思ってしまう、この現状を見るとな。」

 

騒ぎを聞き付けやって来た烏間先生は、同じくやって来た殺せんせーにそう呟く。

 

「…大丈夫だと信じたいです。明日になれば、皆も、黒崎君も頭を冷やしてくれるでしょう。

 

そうすれば、きっとまた違った答えが出せるはず。

 

中学生ですから、喧嘩なんて付き物ですよ。それすらも計算には入っています。」

 

「…そうか。ならお前にもう一つ聞きたい。お前は、生徒達が暗殺を続ける事を望むか?

 

それとも止める事を望むか?」

 

「私の望みは、一つしかありません。生徒達が後悔しない結論を出してくれる事。

 

そうであれば、どちらでも構いません。」

 

そう言って空を眺める殺せんせー。その胸中は、誰も察する事が出来ない-

 

***

 

一方その頃、黒崎は家に着いた。

 

彼は冷静になって再考する。

 

言っている事は間違っていない。それは揺るがなかった。

 

けれど、傷付けてしまった。渚を、皆を。

 

彼らだって、決して半端な気持ちで助けようと言ったわけでは無い。

 

そこには、殺せんせーへの感謝、一緒に過ごした思い出、色々な想いがあった。

 

地球が滅びるリスクとて考えていただろう。

 

それを、俺は踏みにじった、容赦無く。黒崎はそう考えた。

 

彼もまた、渚と同じように後悔していたのだ。

 

自分の行いを。

 

「俺のせいで、クラスが分裂してしまった。重い雰囲気になってしまった。

 

それだけは、覆せない事実だな。」

 

彼はそう呟く。

 

そう言えば、茅野はどうしたいんだろう。

 

きっと彼女の事だ、雪村先生の死の真相がわかった以上、

 

殺せんせーに罪を求めたりはしない。なら、彼女は、救うと言う選択肢を選ぶのだろう。

 

なら茅野も、俺は傷付けたのだろうか。

 

「俺は、どうすればいい?」

 

彼は悩む。そしていくら考えても、納得のいく結論は出ない。

 

そうしている内に、彼に新たな災いが、降りかかった。




黒崎が原作を全否定する発言をしてしまった。
さあ、この後どうするのか?

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