黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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過去編は原作通りですね。


79話 覚悟の時間

「ねえねえお姉ちゃん、最近好きな人出来た?」

 

あぐりとあかりは電話している。

 

そんな中、雪村あかりは姉にとんでもない事を言ったのだった。

 

「な、何言ってるの?私婚約中よ!」

 

あぐりは動揺する。

 

「いや、声が明るかったからさ。それに良いじゃん、こんな遅くまでこき使う婚約者なんて別れれば?」

 

「…」

 

「私あの人嫌い。初対面の外面は良いけど、支配下に入ると横暴になるタイプだよ。

 

あの手の人仕事でよく見て来たもん。」

 

「そんな事言わないの!」

 

とあぐりはあかりを諌めた物の、その言葉をはっきりと否定しは出来なかった。

 

「それよりあかり、今夜ちょっとだけ抜けられそうだから、久々に話さない?」

 

「いーね!お姉ちゃんの好きな人の話も気になるし!」

 

「うう…」

 

「無理しないでね、お姉ちゃん。」

 

「うん。あかりもね。」

 

そう言って2人は電話を切った。一方その頃。

 

月面に設置された実験室。内部には地球に近い環境があり、一匹のマウスが全自動で飼われていた。

 

死神の反物質生成細胞を移植し、ある問題の検証の為に。

 

牛サイズの反物質生成体が20頭もいれば、地球の全エネルギーが賄えるという夢の研究だ。

 

ただ、柳沢のチームの唯一の懸念は、生物の老化による不具合だった。

 

細胞分裂が限界を超えた時、反物質はどうなるか?

 

それを検証する為に、人体より老化の早いマウスを使って実験は行われた。

 

まず問題無いと思われたが、念には念を入れ万が一の事があっても問題無い月面で。

 

何も起こらないと思われながら、結果は最悪だった。

 

反物質生成サイクルは、マウスを飛び出し外へ向く、それが月の物質を連鎖的に反物質に変えていき、

 

 

月の直径の7割を、消し飛ばした。

 

研究員が報告する。

 

「この事例から考えて、人間が不具合を起こす時間を計算すると、一年後の今、

 

来年3月13日、同じ事が奴に起きます!ど、どうしましょう、柳沢主任…」

 

柳沢は叫んだ。

 

「…決まっている!奴は処分だ。分裂限界の前に殺せば!サイクルを安全に停止させられる。

 

米国本部に連絡だ、早ければ今日明日には処分を…」

 

研究所内も混乱していて、柳沢が大声で叫んだのも仕方ない事。

 

そしてそれを偶然にも聞いてしまい、実験体ではなく、信頼関係を築いて来た人間として、

 

死神に伝えてしまったあぐりも責められない。

 

あぐりは死神の部屋に走る。

 

「助かる方法を探しましょう。私に出来る事ならなんでもしますから…」

 

必死に訴えるあぐり。だが、死神の耳に、彼女の言葉は届かなかった。

 

…自分の死が見えた瞬間、死神は間違った悟りを開いた。

 

そうだ、人間とは死ぬ為に生まれた物。

 

ましてや夥しい数の人を殺して来た自分が、呪われた死を迎えるのは当然の事。

 

だが、この力、使わずに死ぬのは勿体無いと。

 

「さよならですあぐり。私はここを脱走する。計算上、その為に十分なパワーを得た。

 

この独房は十分破れる。」

 

「ダメ、悪い事する気でしょう、死神さん!私は、楽しいあなたと一緒にいたい!」

 

その光景を見て、目を見開く柳沢。

 

「止める気ですか?君が、その腕で、その力で、その頭脳で?

 

私以上の才能が無ければ、止める事も救う事も出来ませんよ。」

 

そう言ってアクリル板を割る死神。

 

その全身から、触手が徐々に浮き出ていく。感情に左右される触手の状態は、異形に歪んでいく。

 

「…上等だ!モルモット!」

 

「人質にする利用価値すら君にはない。無駄死にする前に去るといい。」

 

そう冷酷に言い放つ死神に、あぐりは涙をこぼした。

 

***

 

そして、死神は何かを吐き出そうとしている。

 

死神が口から吐き出したもの、それは自爆装置だった。

 

「ダメです!ガスも電流も効きません!」

 

研究員が叫ぶ。

 

「バカが!開発した体触手弾を早く撃て!」

 

すると死神は触手を振り回し、至る所に粘液を付ける。

 

粘液で射出口を塞いだのだ。

 

死神は言う。

 

「ありがとう柳沢。君の人体実験の拷問に耐え、私はこの身体を手に入れた。」

 

…予想以上に高い死神の力を目の当たりにし、柳沢は悟った。

 

この実験が、自分ではなく、奴にコントロールされていたのだと。

 

苛立ちながら研究室に急いで戻る柳沢。そこに立っていたのはあぐりだった。

 

「誇太郎さん、お願い、彼を助けて…」

 

そしてあぐりの言葉が、彼を逆上させる引き金となってしまった。

 

柳沢はあぐりを蹴り飛ばす。

 

「このアバズレが!男になら誰でも尻尾振るのか!拾ってやった恩も忘れて。お前も!奴も!」

 

執拗にあぐりを蹴る柳沢。

 

実験の失敗、あぐりの変心、実験体の反逆。

 

ズタズタになったプライドが柳沢を突き動かした。

 

「武装警備員を集結させろ!このラボを通らなければ脱出は出来ない!この場で迎え撃つ!」

 

壁を突き破って現れた死神。

 

それを見て、柳沢がスイッチを押すと、死神の前にフェンスが現れた。

 

「対触手物質で作られたこのフェンス、お前には破れまい!

 

ここで死ね、モルモット!撃て!」

 

3人の武装警備員が発砲する。しかし、死神はいとも簡単に避ける。

 

死神の目は澄んでいた。殺し屋時代の全盛期の感覚だ。

 

触手などに頼らずとも…

 

死神は指先から砂粒を発射し、それが警備員の胸に突き刺さると、胸から血が噴き出す。

 

「大動脈を破壊するだけなら、砂粒だけで十分だ。この1年間、いつでも殺せた、君達程度ならね。」

 

(図に乗るなモルモット、こいつらは捨て駒だ。この兵器が避けられるか!」

 

柳沢がスイッチを押すと、高速で触手が死神に襲いかかる。

 

反物質生成の副産物である強力な触手。これを単体で利用する研究も進んでいた。

 

人間に移植すれば、常人を超えた身体能力が手に入り、

 

センサーを付けた容器に詰めれば、生命体を感知し亜音速で襲いかかる!)

 

何本かの触手が死神の胴体を貫く。

 

「ぐほっ。」

 

吐血する死神。

 

だが、

 

「この程度じゃ死にませんねえ。」

 

死神はあたりにあった机を投げ、フェンスを破壊する。

 

そしてその破片が柳沢の片目に突き刺さる。

 

一年後にはどのみち死ぬ。ここで死のうが地球ごと死のうが同じ事だ。

 

自分の死さえも見えた時、万能の殺し屋は全てが見えた気になった。

 

誰が強いか、誰が弱いか、どれが危険でどちらが生き残るか。

 

研究所内で破壊の限りを尽くす死神には、全部見えていた。

 

(駄目、行っちゃ…、止めなきゃ…。そっちに行ってしまったら、貴方はもう戻れない!)

 

死神の身体に抱き付くあぐり。彼女は、敵でも障害でも無かった。

 

触手地雷が生命体を感知し作動する。

 

それはあぐりの身体を貫く。

 

死神を見ていた彼女の存在が、死神には見えていなかった。

 


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