黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

78 / 109
ここだけ一部台本形式です。
だって演劇なんだもの。


70話 演劇の時間

「さあ浅野理事長、爆弾入りの問題集を開きますか?

 

いくら貴方が完璧でも、爆弾入りの問題集を開けばタダじゃ済まない。」

 

そう告げる殺せんせー。皆も続けて言う。

 

「それに、私達理事長が殺せんせーをクビにしても構いません。」

 

「この校舎を離れるのは寂しいけど、私達は殺せんせーについていきます。」

 

「家出してでも、どこかの山奥にこもってでも、僕らは3月まで暗殺教室を続けます。」

 

その言葉に涙を流す殺せんせー。教師と生徒の、強固な信頼関係があってこその言葉だ。

 

「…今年のE組は、いつも私の教育を邪魔する。これで何度目だろう…」

 

さらに理事長は語る。

 

「殺せんせー、私の教育論ではね、地球が爆発しても、それでもいいんです。」

 

そう言って理事長は爆弾入り問題集を開ける。

 

するとあたりに爆風が巻き起こる。

 

(地球が爆発すれば、結末は全員平等に訪れる。私の生徒だけが不利益を被ることは無い。

 

それは私の教育の理想形だ。)

 

そして爆風に包まれる理事長。しかし…

 

理事長は無事だった。

 

「ヌルフフフ、私の奥の手、月に一度の脱皮をお忘れですか?」

 

理事長は殺せんせーの脱皮の皮で保護されていた。

 

「…そういえばそんな技もありましたね。何故それを最初に使わなかった?

 

自分に使っていればそんな洋梨みたいな顔にならずに済んだものを。」

 

それに対してこう答えた殺せんせー。

 

「貴方用に温存しました、賭けに負けそうな場合、貴方は間違いなく自爆を選ぶでしょうから。」

その言葉は、まるで理事長の心を見透かしているようだった。

 

「何故それを断言出来る?」

 

「…似た者同士だからですよ。お互い意地っ張りで教育バカ。

 

自分の命を削ってでも教育の完成を目指すでしょう。

 

テストの間に聞いてきました。貴方の昔の生徒に。起こったことや貴方の教師像を。

 

貴方が昔目指した教育は、私の教育にそっくりです。」

 

そう語る殺せんせー、そして俺の頭に一つ疑問が上がった。

 

どうして、2人はここまで違ってしまったんだ?

 

同じ事を不破も思ったようで叫ぶ。

 

「そーなの!じゃあどうして…」

 

すると殺せんせーは不破の頭に触手を置く。

 

「私が貴方に比べ恵まれていたのは、このE組があった事です。

 

同じ境遇にいるから、団結して差別に耐えられる。悩みを打ち明けられる。

 

結局貴方は、昔の理想を無意識に再現していたんです。

 

対先生ナイフで殺せるのは超生物だけ。人の命を奪えと教えるわけが無い。

 

私も貴方も理想は同じ。殺すのではなく生かす教育を。

 

これからも、互いの理想の教育を貫きましょう。」

 

そう宣言する殺せんせー。それを聞き、理事長はある事を思い浮かべた。

 

…「池田君、サボりは良くないなあ。外で遊ぶほうが好きなのかな?」

 

校庭にいた彼に声をかける理事長。

 

「へん、子供と言ったら 勉強より運動だろ!」

 

「…そうだねえ、じゃあこうしよう。1日1回、いつでも私を攻撃して良い。

 

それが当たったら、その日の授業はサボっても良いよ。」

 

理事長はそう提案する。

 

「…本当、マジで?」

 

「勿論だよ。」

 

「約束だぜ!最後まで逃げるなよ、途中で止めるのはナシだからな浅野先生!」

 

…かつて理事長が行っていた教育。それは、この暗殺教室にそっくりだった。

 

「…私の教育は、常に正しい。この10年で、強い生徒を何人も輩出してきた。

 

ですが、貴方も今私の教育システムを認めた事ですし、

 

温情をもってこのE組は存続とします。」

 

その言葉に皆の顔が明るくなる。

 

「ヌルフフフ、相変わらず素直に負けを認めませんねえ。それもまた教師という生き物ですが。」

 

そう殺せんせーは言ってナイフを渡す。

 

「…それと、たまには私も、殺りに来て良いですかね?」

 

理事長が問う。

 

「勿論、好敵手にはナイフが似合う。」

 

そして、理事長は少し爽やかな顔で去っていった。

 

そして帰路につく理事長。すると停めてあった車の前に学秀がいた。

 

「…完璧顔が崩れてる。その様子だとまた負けたね父さん。」

 

「…何か用かい浅野君。」

 

「いやあ、この傷の慰謝料プラス、A5ランクのステーキあたりで、

 

負けまくった父親を慰めようと思いまして。」

 

理事長はニヤリと笑う。

 

「ほほう、DVで訴えて法廷で闘っても良いんだよ。君がどんなに成長しても私には勝てない。」

 

「何故そう言い切れます?」

 

「…私も成長を続けるからだ。父親として、教師として。」

 

そう説明する理事長。2人は、徐々に親子の絆を結びつつあった。

 

「裁判の話は車の中でゆっくりしよう。」

 

そう言って2人は車に乗る。

 

「DVだが、名誉毀損で逆告訴すれば君から300万は取れるね。」

 

「甘いですね。殴られた時の精神的苦痛で500万取ってみせますよ。」

 

…少々変わった親子の絆ではあるが。

 

 

一方E組では、皆で校舎を修復していた。

 

「君達には1教室あれば十分です。だって、そこらへんブレねーよなあの理事長。」

 

すると殺せんせーが突然こう言いだした。

 

「みなさん、テストの褒美に先生の弱点を教えたいと思います。」

 

「…弱点?」

 

今度はどんな弱点だ…?

 

まともな弱点だと良いが。

 

「実は先生、スピードに特化しすぎてパワーが無いんです。

 

だから、触手一本なら人間1人で抑え込めます。しかも、触手全部押さえられたら動けません。」

 

つまり、

 

「全員でこっそり近づいて押さえ込めば捕まえられる!」

 

早速実行しようとする。しかし、

 

ぬるん

 

つるん

 

殺せんせーはのらりくらりとかわす。

 

「って、それが出来たら苦労しねーよ!」

 

うん。なんとなく察してはいた。

 

全く、何が弱点だ、こんなの『器が小さい』並に役に立たない。

 

今の所は。

 

***

 

「弱点は分かった、ヒントも得た。そろそろお目覚めかな、怪物君。」

 

そう語るシロ。その怪物とは…

 

 

そしてそれから数日後。学校では演劇発表会がある。

 

正直な所、学園祭も期末テストも終えた今では、ただの余興である。

 

それにしても…

 

「いつも通り、うちらだけ予算も少ないし、セットもE組から選ばなきゃいけないし…」

 

「冬休みの暗殺の準備もしたいのに…」

 

確かに問題だ、だから、

 

「その件について、なんか改善要求とかしたらどうだ?本校舎と違い、俺らは受験生なんだから。」

 

俺はそう提案した。

 

しかし…

 

「俺も不満に思って、クラス委員会で発言したんだよ。そしたら…

 

『短期間でセリフや段取りを覚える。これも学習の内だ。それに、どうせ君達だ。何とかするだろう。』

 

だってさ。」

 

「へえ、言うじゃんあいつ。」

 

浅野も、変わった気がする。俺がA組にいた頃と比べると。

 

この学校も、表向きは何も変わってないように見えるが、

 

軋んでいた歯車が回りだしたようだ。

 

「よし、やると決めたら早速準備始めよう!」

 

「とっとと役と台本決めちゃおう!」

 

そう言って準備を始める皆、すると…

 

「渚君、主役やんなよ主役。」

 

カルマの持つ画用紙には、「阿部定」の文字が。

 

「…止めろ、タグにTSとかBLとかつけたいか?」

 

「メタすぎるよ黒崎!」

 

まあこれは(色んな意味で)危険すぎるので却下。

 

「そんで、どうする?」

 

「こういうのはどうでしょうか?」

 

律が提案する。

 

「一体どういうのだ?」

 

律の考える演劇とは…

 

「過酷な戦場の中でただ1人生き残った身寄りがないクールな少年戦士と、

 

貴族の娘でありながら軍の指揮官でもある少女。そんな2人の物語は…」

 

「あからさまにパクリじゃねえか。あと時間的にも無理だって。」

 

「そうですか…」

 

律案、却下。ネタがマイナー過ぎるし。

 

「茅野さんは?児童園で演じた劇子供に人気だったよ。」

 

神崎さんがそう提案する。茅野主演か…いいアイデアだとは思うが。

 

「中学生には通じねーだろ。幼児体型の奴に感情移入出来ないから。」

 

そう言って茅野の頭を叩く寺坂。

 

それに対し、

 

「…私は、小道具でもやりたいな。」

 

と答える茅野。ちなみに寺坂の頭にはコブができたいた。当然の報いだ。

 

「脚本は狭間、監督は三村が適任かな。主役は…」

 

なんと…

 

「せんせー、主役やりたい。」

 

まさかの殺せんせーが主役志望、

 

「なれるわけね〜だろ国家機密が!」

 

銃弾が飛び交う。

 

「だってえ、一度主役やってみたかったんです。」

 

「…何度もやってるだろう。中の人は。」

 

我ながらメタいな。

 

「いいわよ、殺せんせーを主役にした台本、書いてあげる。」

 

狭間はなんと殺せんせーを主役に据えると言う。

 

「後は杉野、神崎と組んで脇を固めなさい。」

 

「え!俺!俺でよければ勿論!」

 

杉野はすぐに了承する。

 

「演技力なくてもよければ、声は他の人が当てるんだよね。」

 

「標的やら暗殺仲間の望み(目立ちたいとか想い人と共演したい)を叶えるくらい、

 

国語力だけの暗殺者にも出来ることよ。」

 

狭間も変わったな。他人と関わるのを嫌っていたのに。()の中は気にしない。

 

「よーし、そうと決まったら早速練習だ!本校舎の奴らを興奮の渦で湧き上がらせよう!」

 

この時誰も知らない。本校舎の奴らが感じるのは興奮ではなく、絶望だという事を。

 

そして劇当日。

 

現れたのは1個の桃。

 

神崎「桃です。電波エコーで測定しました。これの中で、胎児が育っているようなの。」

 

ナレーター(律)「それを聞き、おじいさんの目の色が変わりました。この桃の価値を瞬時に悟ったのです。」

 

杉野「…本当か!もしそうなら、こいつをマスコミに垂れ込めば、俺は一躍大金持ちだ!」

 

するとおばあさん(神崎)は一枚の紙を出した。

 

神崎「離婚届です。」

 

律「おばあさんは迷っていました。離婚すべきがどうか。しかし、

 

子供の人権を無視する態度。俺という言葉。おばあさんの心は決まりました。

 

2人の間にできた溝は、洗濯に行った川のよう。

 

2人を包む雰囲気は、山を燃やしたCO2のよう。」

 

ビーズで川を再現し煙を七輪で出す。

 

杉野「…この桃は、俺のもんだ。夫婦の共有財産なら、どう分けるかは俺が決める。」

 

すると2人の男女が家に入る。

 

竹林「弁護士です。以後の会話は我々を通すよう。」

 

片岡「桃の件ですが、婚姻関係はとっくに破綻していて、モラハラの慰謝料を考えると、

 

桃一つじゃ足りませんよ?」

 

律 「30年にわたるおばあさんへの暴言暴力。証拠も全て揃っていました。

 

おじいさんに裁判で勝ち目はありません。

 

恫喝に雇った村の男達は、村の警察に連れて行かれました。

 

一方おばあさんは、心が洗濯されたような晴れやかな気分でした。

 

おばあさんの人生はここから始まるのです。」

 

おばあさんは爽やかな顔をしていた。一方。

 

律「犬、サル、キジです。

 

邪悪なのは財産欲にまみれたおじいさんだけ。鬼ヶ島は、私達の心の中にあるのかもしれません。」

 

こうしてE組の劇が終わる。

 

しかし…

 

「…重いわ!メシがまずくなるだろう!」

 

観客からはブーイングの嵐。食器やら残飯やらが舞台へ飛んでくる。

 

「く…、どこまでもE組は!」

 

浅野も思わず呆れる。

 

慌てて俺らは殺せんせーを回収し、逃げるように片付けていく。

 

それをモニターで眺める理事長。

 

(結局私の学校は、1人の怪物にまんまと手入れをされてしまった。

 

だがE組は、この劇のように平穏無事では終わらない。

 

私がこの目で見た物と、防衛省から聞いた限りの情報によれば…

 

私には予想できる。この後何が起きるのかを。

 

その事件が過ぎた後、貴方はまだ教師でいられますか?」

 

理事長の意味深な言葉、その真意を、俺はこの後すぐに知る事となる…




次はいよいよ茅野編。の前に番外編を少し。

茅野編は期待していて下さい、全力で書いてみせます。

ここからが、「黒崎翔太の暗殺教室」ですから。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。