黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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68話 空間の時間

数学の最終問題。生徒の半数はここまですら辿り着けなかった。

 

残り半数もテスト終了ギリギリ。問題の難易度からして、

 

満点を取るのは厳しい。最後まで満点を取れる可能性を残しているのは、

 

この3人だけだった。未知難問に挑む3人。彼らの胸中やいかに、

 

そして彼らはどのようにして、あの問題を解いていくのだろうか。

 

方や奇をてらう発想で問題を解いていく鬼才。

 

方や王道を行き確実に、完璧な解法で解いていく天才。

 

もう1人、地道な努力を重ね答えを導き出す秀才。

 

彼らの答えとは…

 

***

 

カルマは思う。

 

渚君が、昔からよく言ってたっけ。

 

テストが返ってきて、俺や黒崎の点数と彼の点数に大差があった時。

 

「同じ人間なのに、どうしてこんな差が出るんだろう。やっぱり才能が違うのかな。」

 

俺に言わせりゃ、本物の天才はどっちだって話。要するに、人は自分の見えない部分を才能と呼ぶ。

 

杉野みたいに、すぐに人の輪の中に入っていけるやつ。

 

奥田さんみたいに、好きな事には物凄い集中力発揮できるやつ。

 

寺坂みたいに何にも考えずに動ける奴。

 

俺からすればどれも才能だ。人は皆、それぞれ違う才能を持っている。

 

問題なのは、俺の才能でこの問題が解けるかだけど…

 

やべ、これ時間足りなくね。

 

***

 

黒崎は悩んでいた。

 

時間が…、ない、残り時間はあと2分もない。こんな時間で解ける訳ないだろう。

 

体心立法構造とか聞いたこともない。数学の苦手な俺には出来やしない。

 

俺とて、完璧人間じゃないんだ。

 

そういえば、昔からよく言われたな。どうしてそんなに何にも出来るんだ。羨ましいと。

 

俺からしてみれば、そんな才能の有難くもなんともなかった。ただの器用貧乏だ。

 

E組でもそうだ。

 

暗殺の総合成績、俺はE組でトップだった。けれど、各項目で1位はなかった。

 

それが何を意味するか。

 

銃撃戦ではスナイパーに負け、近接戦闘では戦闘職種の人間に負ける。

 

さらには暗殺のスキルでは一流の殺し屋には敵わない。

 

表の世界でも同じようなものだ。

 

俺に言わせれば、菅谷とか、三村とか、岡島みたく、一つの才能に特化していた方がよほど

 

将来役に立つ。そんな才能もない俺は、やはりこの問題を解けないのか、

 

そう諦めかけていた。

 

浅野やカルマみたいな奴には、こういう舞台で一生敵わない。と。

 

どんなに地道な努力を重ねても。それこそ、「才能が違う」のだ。他の皆も。

 

 

一方浅野は冷静に問題を解く。

 

原子とか、体心立法構造とか、余計な言葉に惑わされちゃいけない。

 

問題はただ一つ。敵に囲まれた一つの立方体の中で、自分の領域を求める。

 

敵と自分の力はほぼ互角。そしてちょうど中間でせめぎ合う、

 

そのラインから内側が僕のエリアだ。

 

「見えた!」

 

敵は封印した。立方体の中には8人の敵がいる。つまり封印した体積を立方体から取り除いたのが僕の領域!

 

この箱の中を完璧に把握すれば正解は導き出せる!

 

空間の支配、僕にぴったりのテーマじゃないか。父親とは違う支配の形。

 

今の父は、自分の教育が正しい事を証明する事に取り憑かれてる。

 

それは人を壊しこそすれ育てはしない。

 

僕が間違いを証明する。そのためにE組にはA組を超えてもらい、

 

僕はさらにその上で学年トップを取り、頂点から説教してやる。

 

支配する事、それが僕の親孝行だ!

 

見えた!敵の領域は三角錐3つと六角錐1つ。

 

(浅野のアプローチは正解だった。ここに到達する速さも抜きん出ていた。

 

しかし、彼ほど完璧に解き進めても間に合うかどうかの残り時間。

 

そこに、彼は出題者の意図を感じ取るべきだったのだろう。)

 

 

カルマの頭に電流が走る。

 

「待てよ、これ難しい計算何もいらなくね?今まで立方体一つで考えてたけど、

 

原子が作る構造なら、同じ構造がずっと続いてる。世界はここで終わりじゃない!

 

つまり、世界は箱で終わりじゃない。俺が見てたのは世界のひとかけら。

 

その中で、誰もが同じ大きさで同じ間隔。

 

って事は、一つの箱で切り出すと、8分の1の球が8個と俺が一個。

 

つまり全体で球2個分の領域をってこと。俺が目一杯領域を求めたら、

 

他の皆も同じように求める。俺が取れる領域は立方体の半分。

 

つまり、2分のA3乗。

 

なあんだ。小学生でも解けんじゃん。こんな問題

 

自分の外に世界があるって気付けたら。」

 

 

黒崎は思いつく。

 

そうか!箱は一つじゃなくて無限に続いてる。そう、俺を立方体の頂点にある球に例えるなら、

 

俺が持ってる様々な才能、それは中途半端とも言える。

 

そんな中途半端な才能が、8つの立方体に分散して、小さな領域を主張する。

その合計が1人の人間を産み出すんだ。一つの箱にあるのはそんな風景の一つ。

 

一方もう1人、一つの箱の中で一人前の大きな才能が開花してる。

 

8分の1の才能が8と、一人前の才能が1。合計2人の人が領域を分け合う。

 

人には皆違う才能がある。そんな才能で、役割を、領域を分担して人は生きていく。

 

立方体を2人で分け合うなら、答えは…

 

残り5秒。黒崎は解き切った。

 

 

2人の空間から格子が消え、綺麗な空が見える。

 

黒崎翔太 最終問題20点

 

赤羽業 最終問題20点

 

そして時間切れ。

 

浅野学秀 最終問題17点

 

「浅野君、時間だよ。」

 

浅野は怒りのあまり鉛筆を折る。

 

「くそ!分かっていたのに!」

 

そしてテスト終了。

 

「さてみなさん、集大成の答案を返却します。第2の刃は、ちゃんと届いたでしょうか。」

 

殺せんせーが封を開く。

 

ついに、学の最終決戦の審判が下される。

 

全員にマッハで答案が返却される。

 

「細かい点数をどうこう言うのはよしましょう。

 

今回の焦点はただ一つ、全員が総合トップ50以内に入れたかどうか。」

 

皆は息を呑む。

 

「さあ、今回のテストの結果は、本校舎にも張り出されているはず。順位は一目瞭然でしょう。

 

では、発表いたします!」

 

順位表を殺せんせーが黒板に貼る。その結果とは…!

 

 

「嘘だろ…、俺が、46位!」

 

寺坂が50位以内だ。

 

「うちでビリって寺坂だよな。その寺坂が46位って事は…」

 

吉田が呟く。

 

そう、つまり…

 

「やったあ!全員50位以内達成!」

 

その悲願達成に、皆が飛び上がって興奮している。

 

「上位争いも五英傑を引きずり下ろしてほぼ完勝!」

 

順位表を見ると、トップ10のうちE組生徒が何と8人を占めた。

 

「そして1位は初のカルマと黒崎!」

 

順位表の1番上、そこにはこう記されていた。

 

1 赤羽 業 500

1 黒崎 翔太 500

 

「どうですか、カルマ君、黒崎君。高レベルの戦場で1位を取った気分は?」

 

その質問に、カルマはやや興奮気味に答えた。

 

「うーん、別にって感じ。ただ、この1年皆で過ごしてなきゃ分かんなかった気がする。

 

そんな問題だったよ。」

 

「…」

 

俺は言葉も出なかった。この結果が信じられなかった。

 

俺が、ついにトップに立てた。その事がだ。

 

今までずっと取れなかったトップを。

 

「おーい、黒崎。聞こえてる?」

 

渚が目の前で手を振っていた。

 

「あ、ああ。なんというか、言葉も出ないくらい嬉しいし、驚いてる。

 

俺も、E組で成長してなきゃ解けなかったよ。この問題。」

 

俺はそう言って微笑んだ。本当に、爽やかな気分だった。

 

「いやー、ここまで長かったな。」

 

「暗殺の次に達成したい悲願だったしね。」

 

皆の興奮も冷めないなか殺せんせーが解説する。

 

「今回A組は、テスト前半の教科は絶好調でした。しかし、後半になるにつれ、

 

難関問題でつまずく生徒が続出しました。」

 

それに中村も同意する。

 

「そりゃあそうだよ。殺意なんてそんなに長く続かないもん。」

 

一方A組の面々はショックで脱力していた。

 

「うちらみたいに日頃から暗殺訓練してたって、一日中殺意保つの大変なんだから。

 

殺意でドーピングしたいならさ、もっと時間をかけてじっくり磨くべきだったよ。」

 

中村は語る。その彼女は今回、総合4位、E組内3位と、非常に高い成績だった。

 

そして場面はA組に。

 

「どうしてだ、あそこまでやったのに負けるなんて…」

 

五英傑がふとそう漏らす

 

「君たちの勉強じゃ足りなかった。それだけの事だ。

 

かくいう僕も皆に誇れる成績を出せなかった。この悔しさは忘れない。

 

僕が導く、高校になっても、皆が強者であり続けるよう。」

 

そう宣言した浅野は、どこか吹っ切れた顔をしていた。

 

「浅野君…」

 

しかし、

 

「君は、生死を賭けた勝負の後でも同じ事が言えるのかな?」

 

後ろから化物のようなオーラを放ち呟く理事長。

 

「人生一寸先は闇。その勝負がどのような結果をもたらすかは、終わってからじゃないと分からない。

 

だから君達は勝ち続ける必要があった。卒業まで徹底して教育しよう。」

 

そう理事長は語る。しかし、五英傑は…、何かを悟ったようだ。

 

「理事長先生、はっきり分かりました。今のやり方ではE組には勝てません。

 

僕らの強さは、E組や浅野君の持つ、負けたからこそ得られるしなやかな強さには敵いません。

 

力及ばずすみません。お気に召さないというのなら、どうぞE組に落として下さい。

 

そっちの方が、僕らは成長できる気がします。」

 

そう言って頭をさげるA組の生徒達。

 

そして浅野がそれを聞いて言う。

 

「理事長、これが答えです。」

 

 

バン!

 

すると、理事長は浅野を平手打ちした。

 

浅野は崩れ落ちる。

 

「…?」

 

理事長は解せないといった顔をしていた。

 

「…誤作動でも起こしたような顔をしてる。やっと父親らしいあんたが見られた気がするよ。」

 

そう言ってニヤリと笑う浅野。

 

 

「失礼します。」

 

そしてA組の生徒達は教室を去っていく。浅野は他の生徒の肩を借りながら。

 

空になったA組の教室に、理事長はただ立ち尽くしていた。

 

***

 

場面は再びE組に戻る。

 

「さて、晴れて皆さんこの山を抜けられる権利を得たわけですが、まだ出たい人はいますか?」

 

殺せんせーはそう聞く。だが答えは言うまでもなかった。

 

「誰もそんな事思ってないに決まっている。2本目の刃を確立し、

 

ここからが本番だと思うぜ、この教室は。」

 

「…ヌルフフフ、茨の道を選びますねえ。では…」

 

しかし、殺せんせーの言葉はそこで遮られた。

 

ドカン!

 

校舎が大きく揺れる。

 

「…一体何が?」

 

窓から外を見た片岡が声を上げる。

 

「大変、校舎が半分無くなってる!」

 

窓の外に見えた光景。なんとE組の校舎が重機で半分壊されていた。

 

「今朝の理事会で決まりました。この校舎は、本日を以って取り壊します。退出の準備をして下さい。」

 

理事長がそう言いながら近づいて来る。

 

この校舎を、取り壊すだと!

 

「君達には、来年開校する系列校の新校舎に移ってもらいます。

 

そこで、より洗練された校舎の性能試験に協力してもらいます。

 

牢獄のような環境、私の教育の理想形です。」

 

理事長は淡々と語る。しかしその内容はにわかに信じ難いものだった。

 

何だって…

 




最初だいぶ悩みました。黒崎を499点にして、惜しくも2位って考えもあったんです。

彼は頂点を取れないまま終わると。だけれど、主人公が成長しないと駄目なんで、同点1位にさせました。

ちなみに僕はテストで同点1位になった事があります。奇しくもそれは2学期の期末テストでした。(去年の)

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