黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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戦闘描写苦手。これはどうしようもないです。


57話 死神の時間 4時間目

(…これだけ迅速にトラップを破られちゃ話にならない。思ったよりも化け物だな。

 

このままじゃ追い付かれる。檻の中の人質に動きは見られないし、仕方ない、迎え撃つか。)

 

炎の中を駆け、鎖を無理やり引きちぎり、飛んでくるナイフを歯で噛む烏間先生。

 

対して死神はそれを迎え撃とうとする。

 

曲がり角を曲がろうとした烏間先生が殺気を察知し慌てて引っ込み、銃を構える。

 

「流石だね。殺気の察知も出来るとは。」

 

「…まるでトラップの見本市。あんなに多彩な物は初めて見たぞ。」

 

そう言った烏間先生。数々のトラップを身を以て体験したから言える言葉だ。

 

ただしほぼ無傷で。

 

「スキルを覚えたら、片っ端から使いたくなるのが殺し屋の性でね。

 

お次は人の心を操るスキルさ。」

 

そう言った死神。銃声がして、烏間先生の頬を弾丸が掠める。

 

その銃口を向けたのは、ビッチだった。

 

「…おいおいイリーナ、ちゃんと当ててくれよ。」

 

そう言う死神。

 

「ごめんごめん、次は当てるわ。」

 

悪びれもせず答えるビッチ。

 

そして彼女に銃口を向けながら烏間先生も言う。

 

「…死ぬぞ、イリーナ。」

 

「覚悟の上よ、と言っても、平和な世界で生きてきた貴方には分からないでしょうけど。

 

彼は分かってくれた。僕と君は同じだって。」

 

そう言うビッチ。死神が分かってくれた…とは?

 

「昔話をしてあげたよ。僕は物心ついた時にはスラム街にいた。

 

テロの絶えない、命なんてゴミ同然の荒んだ世界。信じられるのは、金と、己が命と、

 

『殺せば人は死ぬ』って事だけ。イリーナなら僕の気持ちを分かってくれる。

 

例え…、」

 

そう言ってスイッチを押す死神。

 

ドカン!

 

天井が爆発し崩れ落ちる。その下には、烏間先生、そしてビッチも…

 

「僕が君を捨て石として使おうと。」

 

石をどかして立ち上がる烏間先生。

 

「まさか天井ごと落とすとは…」

 

「まあ君が抜けるのは想定内。君とタコだけなら、こんなトラップ時間稼ぎにもなりゃしない。

 

彼女は君達を惑わすためだけに雇った。可愛らしいくらい迷ってたよね彼女。

 

かつての同僚を撃つべきか。そんな彼女に対し君も迷った。結果君は反応に遅延が出た。

 

これで君はここから動けない。さあこれで障害は無くなった。躊躇なく仕上げに入れる。」

 

そう言って去る死神。それを烏間先生は黙って見ているしかなかった。

 

「どうしました烏間先生、今の爆発音!無事ですか?」

 

慌てて通信を送る殺せんせー。

 

「…俺は無事だ。だがイリーナは岩の下敷きだ。しかし構っている暇はない。岩をどかして先へ行く!」

 

そう言い放った烏間先生。つまりそれはビッチを見捨てるという事。

 

「ダメ!!どうして助けないの烏間先生!」

 

思わず倉橋がトランシーバー向かって叫ぶ。慌てて耳を離す烏間先生。

 

「…いいか倉橋さん。これは彼女が、プロとして結果を求めて動いた故に起きた事態。

 

もう責めはしないが、助けもしない。非情と思ってもらっても構わない。

 

だがそれが一人前の大人というものだ。」

 

烏間先生はそう告げる。それは正しく、だがそれ故に冷酷で、非情な宣言だった。

 

「プロだとかどうでもいいよ!ビッチ先生まだ20だよ!15の私が言うのもなんだけど。」

 

そう訴える倉橋。

 

「確かに、経験豊富な大人なのに、時々私達より子供っぽいよね。」

 

矢田も同意する。俺に言わせれば、時々じゃない、常に俺らよりガキだ。

 

怒ると本物の銃振りかざすし。

 

「多分、安心できない環境で育ったから、大人のかけらを幾つか拾い忘れたんだよ。

 

だから助けてあげて、烏間先生。私達が間違えた時みたいに。」

 

そう懇願する倉橋。そこにはプロだとか余計な物はない。ただ1人の女性を助けてという願いだった。

 

「…時間のロスで君らが死ぬぞ!」

 

そう警告する烏間先生。しかし…

 

「大丈夫。死神は多分目的を果たせずに帰ってきますよ。我々の作戦が上手くいけば。

 

俺らは気にしないで助けてあげたらどうです?その子供っぽいビッチを。」

 

俺はそういった。

 

その頃。崖の下敷きになったビッチ先生は、自分が殺し屋になった時を思い出していた。

 

…「村は全滅。この娘1人が生き残りました。何でも民兵の銃を奪って殺し、一晩隠れたとか。

 

どうします貴方。難民キャンプに預けますか?」

 

ロヴロの妻、オリガがそう問う。

 

「…いい目だ。一つ言っておこうお嬢ちゃん。この先戦と無縁な生活を送っても、

 

血の記憶は消せない。平和な世界に生きるほど、残酷な光景は強烈な心的外傷として強く残る。

 

だがお前には選択肢がある。俺は殺し屋だ。お前のその殺しの才能を開花させられる。

 

そうすれば血などただの日常に過ぎなくなる。

 

どうする?平和な世界で血の記憶に怯えるか、暗闇の世界で血を日常として飼い慣らすか。」

 

ビッチ先生は黙り込んでいた。

 

「…血に慣れる為に殺し屋になれなど、子供には酷だな。よし難民キャンプへ…」

 

だが、ビッチはその袖を掴む。

 

「…戻れないぞ」

 

警告するロヴロ。だがビッチは頷く。

 

「よし、俺が暗殺技術を仕込もう、オリガ、お前は房中術を…」

 

こうして、イリーナ・イエラビッチは殺し屋となった。

 

(最初の仕事は親を殺した民兵組織のリーダー。次は戦争を影で操ってた権力者。

 

その先は、私を求める仕事を続け、いつからか血の温もりを、死体の臭いを感じなくなった。

 

これでちょうど良い。裏切って死ぬくらいが。陽の当たる世界を思い出す前に…)

 

しかし、そんな彼女の視界に光が射し込んだ。

 

「さっさと出てこい、重いもんは背負ってやる。」

 

瓦礫を持ち上げ烏間先生はそう言った。

 

***

 

一方操作室を占拠し、水を流そうとする死神。しかし、彼が檻の様子を確認すると…

 

「誰も、いないだと…」

 

そこには誰もいないのだった。

 

(まあ良い、首輪の爆弾を起動すれば良い。2,3人殺せば必ず反応する…)

 

そう言って3人分爆弾を起動する死神。しかし…

 

檻の中で爆弾が爆破されるも、そこには誰もいない。

 

(爆弾を外して脱出しただと…、何て手際だ。誰も居ない操作室に水を流しても意味は無い。

 

様子を見に行こう。まだアジト内にいるはずだ…)

 

そう言って戻る死神だった…

 

 

一方その檻。実はまだ皆檻にいる。

 

「…爆破したって事は、ここの映像を見たのか…

 

烏間先生の所に焦った死神は絶対に戻ってくる。それまで辛抱だ。」

 

「…ぐ、きっついな…」

 

寺坂が辛そうに言った。

 

「それにしても、よくこんな手を考えつきましたね三村君。」

 

殺せんせーも感心している。まあ当然だろう。普通こんな手考えないからね。

 

「保護色になって壁と同化。これで本当に騙せんの?」

 

一方中村はその効果を疑問に思っているようだけど…

 

「ああ、光の加減もバッチリさ。」

 

三村は心配無いと言う。

 

「にしても、ラジコン盗撮の主犯共が大活躍とはね…」

 

片岡がそう言ったのも無理は無い。

 

…「ビッチ先生が投げ付けてった首輪。俺らのと同型だ。どういう構造か分かるかイトナ。」

 

首輪を解析するイトナ。彼の分析によると…

 

「リモコン回線は鍵解除と爆破の二つだけ。外してもバレ無いし乱暴に扱っても起爆しない。」

 

「というわけで、殺せんせー、頼むよ。」

 

殺せんせーに爆弾を外してもらう皆。

 

「お安い御用です。にしても、死神も爆弾を解析されるとは予想外でしょうね。」

 

「まあな。全員の安全を確保したら次は手錠だ。死神にバレないよう慎重に…」

 

「分かってますよ。」

 

今度は手錠を外される皆。渚の番になり手錠が外されると、渚は自分の手を見つめていた。

 

「…」

 

それを見てカルマが声を掛ける。

 

「どーしたの渚君。何か見えてるの?」

 

渚は一瞬ビクッとした後答える。

 

「いや何も、あ、すぐ捕まったふりしなきゃ。」

 

そう誤魔化す渚。大方、死神のクラップスタナーでも浴びた時に何かが変わったのだろう。

 

「それで、三村君、次は?」

 

「岡島、カメラはどうだ?」

 

「…強めの魚眼だな。視野角が広いから一目で全体を把握できる。

 

もう一つあって、そっちは檻の外だから絶対に手が出せない。けれどお前の読み通り。

 

二つのカメラから確認できない死角がある。

 

それがあそこの隅。歪み補正もしてなきゃ檻の外のカメラからは遠すぎる。

 

盗撮するなら高い機材使わなきゃ。」

 

そう言って笑う岡島。それは何か違うと思うぞ…

 

「マジ使える超体育着の迷彩。どんな風景にも同化出来る。」

 

そう言った三村。

 

「カメラに衣装。まるで映像作品の段取りだったね、三村こう言うの好きだよね。」

 

「ああ。」

 

「そういえば殺せんせーは?」

 

「保護色使って擬態してる。みんなの隙間を上手く埋めて違和感消してるんだよ。」

 

「て事は今裸…?」

 

「恥ずかしい、恥ずかしい…」

 

…赤くなるなよ、バレるから…、

 

三村の擬態が無事成功したその頃、

 

烏間先生はビッチの手当てをしていた。

 

「右腕に骨折の疑いがあるな、とりあえず応急処置はした。他に痛む所は…」

 

烏間先生は自分のシャツを脱ぎ、引きちぎって包帯代わりにしている。

 

するとビッチは突然鼻血を出す。

 

「お、おい、大丈夫か!」

 

「いや、あんたがいい体過ぎて興奮して…」

 

駄目だこのビッチ。

 

「脳に異常かと思ったが、こいつはこれで正常だったな。

 

お前に嵌められてもなお、生徒達はお前の身を案じていた。

 

それを聞いて、プロの枠に拘っていた自分が小さく見えた。

 

お前も1人の人間だ、そういう配慮が欠けていた。すまない。」

 

真摯に謝る烏間先生。そこには先程までの冷たさはなかった。

 

「お前の過ごした世界とは違うだろう。だが俺と生徒達の世界にはお前が必要だ。」

 

その時、瓦礫が爆破され、死神が現れた。

 

「イリーナ、烏間は?」

 

巻き添えにしたのにも関わる悪びれもせず聞く死神。

 

「別の道探しにどっか行ったわ。それより酷いじゃない死神。

 

私ごと爆破するなんて。」

 

「別に?僕らの世界は騙し騙されだろう?文句があるなら確実に殺してやるよ。」

 

「構わないわ。だって私も…」

 

そう、彼女は…

 

「私だって、オトコをすぐ変えるビッチだから。」

 

後ろから烏間先生が現れ、死神を羽交い締めにする。

 

「何い!」

 

驚く死神。

 

「…自分の技術を過信せず、信頼出来る仲間を作るべきだったな。

 

ここじゃどんな小細工されるか分からない。広々した場所へ移ろう。」

 

そう言って橋から一直線に底まで落下する二人。

 

「こ、こいつ正気か?」

 

死神は動揺を隠せない。すると烏間先生は問う。

 

「思ったんだが、お前、言う程大した殺し屋か?」

 

2人は水に落ちる。死神はとっさに受け身をとった。

 

「大きな着水音がしたぞ!烏間先生と、死神!」

 

皆もそれに気づく。

 

「受け身は流石だな。たしかに一つ一つのスキルで結果は強引に出すだろうが、

 

お前は詰めも脇も甘い。だから生徒達には踊らされイリーナにも騙された。

 

ブランクでもあったのか?」

 

そう問い詰める烏間先生。それに対し、死神は何かを引き剥がす。

 

「黙って聞いてりゃ言ってくれるね。」

 

そう怒る死神。彼が引き剥がしたのは、自分の顔だった。

 

「顔の皮は剥いで捨てたよ。変装のスキルを極める上で邪魔でしかない。

 

烏間先生。お前を殺して顔の皮を頂こうか!」

 

そう言いながら攻撃する死神。

 

「…お前は生徒達の教育に悪すぎる。この教室から御退場願おうか。」

 

防御を取る烏間先生。2人の人類最強が、激突する。

 


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