黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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52話 ビフォーアフターの時間

「裏山から間伐した木材と廃材を利用して作られた家、狭くて貧弱だった保育施設

 

広くて頑丈な多目的空間へ!」

 

「なんと…、たった2週間で…。」

 

松方さんはとても驚いていた。2週間でこんな建物普通は作れないからだ。

 

まさに匠にしか出来ない業…

 

「コンピュータの計算で強度も完璧。崩れそうな母屋ごと新しい柱で補強しました。」

 

「まるで鳶職人みたいでしたよこの子達。休まず機敏に動き回って。」

 

職員の人も思い出したようにそう言う。

 

「二階は二部屋に分かれ、1つは図書館、子供達が勉強や読書に集中出来ます。」

 

「…だだっ広いな。」

 

確かに部屋は物が少なく広い。それを解説する千葉。

 

「時間と資材が限られていたので単純な構造に。」

 

「近所を回って読まなくなった子供向けの本貰ったの。」

 

そうやって工夫を凝らして作ったのだ。

 

「そして、もう一室は室内遊技場、ネットやマットを入念に敷き安全性を確保、

 

雨に濡れない室内なので、腐食や錆がありません。」

 

「あの回転遊具覚えといてな。」

 

「さ、次は職員室兼ガレージへ。」

 

「ガレージ?」

 

松方さんは疑問に思う。

 

「そう、このリフォームの目玉です。」

 

(-何という事でしょう、倒れて前輪が曲がってしまった自転車を技術班が改造。

 

安全性が高く、大積載量の電動アシスト自転車に。)

 

「上の部屋の回転遊具と充電器が繋がっているので、走行分の大半は遊具で賄えます。

 

つまり、たくさんの子供達が遊ぶ程園長先生が助かる仕組み!」

 

「…上手く出来過ぎとる!」

 

「園長先生の思い出のこもった入れ歯は自転車のベルに…」

 

「そんな匠の気遣いいらんわ!」

 

うん、いらないと思う。

 

「第一、ここで最も重要なのは建築ではなく、子供と心を通わせる事。

 

いくら物を充実させても、子供達と心を通わせられなければ、この2週間を認めんぞ。」

 

そう言って松方さんは入れ歯のベルを鳴らす。皆それを聞き黙り込む。

 

「おーい渚、じゃーん、何とクラス2番!」

 

そこには算数のテストが。

 

「おーすごい、頑張ったね。」

 

「お前の言う通りやったよ、算数テストの時間だけ出席して、解き終わったら速攻で帰った。」

 

「いじめっ子もテストの最中じゃ手出し出来ないでしょ。」

 

「うん。」

 

「自分の一番得意な一撃を、相手の体勢が整うまでに叩き込む。これが僕らの戦い方だよ。

 

さくらちゃん。こんな風に、戦える武器を増やしていこう。」

 

そう語る渚。その柔らかい笑顔がきっと人を惹きつけるのだろう。

 

「…だったら、たまにはこれからも教えろよな。」

 

さくらちゃんは頬を染めてそう言う。

 

色々な意味で…惹きつけるな。

 

「もちろん‼︎」

 

***

 

結論から言うと、松方さんは俺らの事を許してくれた。

 

「もともとお前らの秘密に興味はない。わしの頭は自分の仕事で一杯だ。

 

お前らもさっさと学校に戻らんか。」

 

…だそうだ。

 

こうして俺らは、起こした事故の責任を自分達で果たし、特別授業は終わった。

 

だがそれは中間テストの前日。2週間も授業を受けずに中間テストに臨むとは、

 

この学校では裸でバトルをするようなものだ。

 

結果は惨敗。猛勉強したA組に蹴散らされた。

 

潮田渚 総合54位

 

岡島大河 総合76位

 

杉野友人 総合65位

 

黒崎翔太 総合10位

 

残念ながら俺も順位を下げた。

 

「拍子抜けだったなぁ。やっぱり前回のはマグレだったようだねえ。」

 

「棒倒しで潰すまでもなかったな。」

 

浅野学秀 総合1位

 

「ぐ…」

 

黙り込む皆。俺も何も言えなかった。奴らより低い順位だったからだ。

 

「言葉も出ないねえ、まあ当然か。この学校では成績が全て、下の者は上には逆らえない。」

 

すると後ろから声がした。

 

「へえ、じゃああんたら俺に何も言えないね。」

 

(E組の中で、カルマ君は1人だけ、2週間のハンデに影響されなかった。

 

夏祭りの日、大量の予習の後を先生見逃しませんでした。)

 

「ま、どうせうちの担任は、『1位じゃないからダメですねえ。』とか抜かすんだろうけど。」

 

カルマはテストを見ながら淡々と言う。

 

「気付いてない?今回俺以外はみんな手加減したの。お前ら毎回負けちゃ面目丸潰れだもん。」

 

「なにい!」

 

「でも次は容赦しない、3学期は授業が違うから、同じテストを受けるのは期末が最後。

 

そこで決着つけよ。」

 

「フン、上等だ。」

 

カルマは俺らをフォローしてくれた。きっと敗北を経験したからこそ、敗者気遣えるんだろう。

 

失敗も挫折も、人を成長させる。

 

そして職員室にて。

 

「すみませんでした、烏間先生。」

 

皆謝罪する。

 

「気にしなくていい、これも仕事だ。君らはどうだ?今回は暗殺も勉強も大きくロスしたが、

 

そこから何か学べたか?」

 

「…力をつけ、強くなるのは自分のためと思ってました、殺す力も、学力も。

 

でもその力は、他人を助ける事に使える。地球を救ったり、誰かを助けたり。」

 

「もう下手な使い方しないっす。」

 

それを聞き、落ち着いた表情を浮かべる3人の先生。

 

「いい心がけだ。だが、この状態では訓練は再開できん。何せこの有様だ。」

 

烏間先生が出したのはボロボロのジャージ。

 

「これでは訓練は出来ない。親御さんにも怪しまれる。そこで防衛省からのプレゼントだ。

 

これを機に、君らは身も心も強くなる。」

 

用意されたダンボール箱。中に入っていたのは体育着。けれど普通の体育着ではない。

 

「これより高性能な体育着は存在しないぞ。次回から、訓練はこれを使い行うと。」

 

それは特殊な体育着。

 

***

 

その頃。殺せんせーはバーベキューを楽しんでいた。

 

「ヌルフフフ、フランスの直売所で買ったフォアグラでバーベキュー。

 

こればかりは生徒には内緒です。」

 

すると

 

対先生ナイフを持って中村が急降下する。そしてナイフを振るいバーベキュー台へ着地。

 

「な、なんて場所から落ちてくるんですか中村さん!」

 

狼狽する殺せんせー。

 

慌ててフォアグラを回収している。

 

「すごい!あの高さからバーベキュー台に落下しても痛くも熱くもない。」

 

その威力に驚く。皆は烏間先生の言葉を思い出した。

 

「軍と企業が共同開発した強化繊維だ。耐衝撃性、引っ張り耐性、切断耐性、耐火性。

 

あらゆる要素が世界最先端。丁度製品テストのモニターを探していたからな。

 

君らはうってつけだった。」

 

「すっげえ、ジャージより軽い。」

 

「しかもこの靴すっごい跳ねるよ。」

 

あまりの高性能に俺は言葉も出ない。

 

これなら暗殺の幅も今まで以上に広がる。

 

Case 2

 

ジャンプを読んでいる殺せんせー。

 

「ヌルフフフ、今日は皆落ち着きがないですねえ。でもここなら問題ない。

 

不破さんから買ったジャンプ。じっくり読み…ってにゅやああ!」

 

(特殊な揮発物資に服の繊維が反応する。全5色の組み合わせで、何処でも迷彩効果を発揮する!

 

ジャンプにペイント弾が付く。

 

汚れてページが読めなくなった。

 

「今のは千葉君?ハンターとトリコの二大異世界編が読めない!」

 

Case 3

 

(耐衝撃性に優れたポリマーが全身を守る。空気を入れれば完全防備!

 

危険な場所でも奇襲が出来る。)

 

フィギュアを作っている殺せんせー。

 

「ヌルフフフ、マッハ20の先生とて芸術には時間をかけます。

 

特にこのロケットおっぱいの再現の難しさ!かれこれ1時間はかかりましたね。」

 

すると…

 

窓ガラスを突き破って何者かが殺せんせーに襲い掛かる!

 

対先生弾が一斉に撃たれフィギュアは無残に崩れる。

 

「にゅやああ!今日は一体何なんですか、ロケットおっぱいが…」

 

すると、烏間先生がため息をついた。

 

「全く、手の内を晒すのはやめておけと言ったんだが…

 

生徒達がどうしてもお前に見せたいと言ってな。」

 

そして寺坂が言う。

 

「教えの答えは暗殺で返す。それがこのクラスの流儀だろうが。」

 

「約束するよ、殺せんせー、この力は、誰かを守る為に使うって。」

 

それを聞き、笑みを浮かべる殺せんせー。

 

「満点の答えです。明日から通常授業に戻りますよ。」

 

こうして、騒動は無事集結。E組は、身も心も一歩成長した。

 

(最初は、淀んだ殺意が散らばっただけの暗い空気だった。

 

けれど今は、教室中に暖かい殺意が満ちている。)

 

「あなたもきっと、そんな人に出会えますよ。」

 

思い出されるある人の言葉。

 

(…ええ、目の前に沢山います。)

 

そして放課後

 

「女子のデザインは私が考えたのよ。カラスマったら男女同じデザインにしようとしたのよ。」

 

そう毒づくビッチ先生。何故男女同じデザインじゃダメなんだ?俺には理解出来ない。

 

「可愛いけど防御力ちょっと落ちたよね。」

 

とコメントする女子。何故防御力より見た目を優先したんだ…

 

とそんな事を思っていると、ビッチ先生が柄にもなくため息をついた。

 

「全くカラスマの奴、女心がわかってないんだから。

 

結局私にプレゼントくれなかったし。」

 

「?」

 

一体何の事だ?ビッチ先生の言葉の意味がわからなかった。

 

「あのタコでさえ気付いたのに!あー思い出すと腹がたつ。」

 

えーと、烏間先生がビッチ先生にプレゼント?それに関する記憶を辿ると…

 

はっ。俺は気付いた。

 

「そういえばビッチ先生の誕生日。俺達が課外授業やってた頃に過ぎたのか。」

 

それで、

 

「烏間先生は気付かず、プライドの高いビッチ先生からは言い出せず、か。

 

よし、俺らのせいでもあるんだし、また背中押してやろうじゃん!」

 

そう前原が声を掛ける。

 

「おおーっ!」

 

***

 

その頃。

 

「ヤバイ、あいつ絶対ヤバイ。」

 

あのレッドアイは何者かから逃げ回っていた。

 

そして建物の隙間に隠れたレッドアイ。

 

「さすがはレッドアイ。あの遠距離から身の危険を察知するとは。」

 

現れた1人の男。

 

「な、何言ってんだよ…俺はただの観光客…」

 

そう言ってすかさず銃を抜くレッドアイ。しかし…

 

男はいつの間にかレッドアイの背後を取っていた。

 

そして死神の鎌で狩る。

 

「成る程な。最近腕利きの殺し屋が次々やられてる。殺し屋殺しとは、こいつだったのか…

 

あのロヴロを闇討ちした腕、これは本物だ…、俺が勝てる訳がねえ。」

 

そう言って、レッドアイは崩れ落ちた。そして男は人知れず呟く。

 

「畏れるなかれ、死神の名を。」

 

10月の教室に、死のプレゼントがやってくる。

 

***

 

のキーを弄ぶビッチ先生。

 

(仕事で利用した石油王からの誕生祝い。スポーツカーなんか裏山じゃ使えないし。

 

それに今は…

 

こいつ以外のプレゼントに興味なんてないし。)

 

そう言って烏間先生の方を見るビッチ先生。

 

しかし、烏間先生はそんな彼女の悩みなど知らず、ただ作業を続けていた。

 

(ロヴロ師匠とも連絡取れないし、あーもう孤独ったらありゃしない!)

 

それを窓から見る皆

 

(ビッチ&烏間くっつけ計画第二弾!まずは別の場所へ引き離すべし!)

 

「ビッチ先生、またフランス語会話教えてください!」

 

そう笑顔で話しかける片岡。

 

「メグ!あんたそういや、外国で仕事がしたいんだっけ?」

 

「はい、まだ漠然とだけど…」

 

片岡は作戦とは思えない様に言う。まあ外国で仕事がしたいのもフランス語学びたいのも本当だろう。

 

「しょーがないわね、じゃあそこに座んな…」

 

ビッチ先生の言葉は途中で遮られた。

 

「天気も良いんだし、外でやろうよ!」

 

片岡はやや強引にビッチ先生を引っ張る。

 

「え、ちょっ…」

 

 

「その隙に買い出し班、プレゼントを用意すべし!」

 

と言うわけでプレゼントを買いに行く。のだが…

 

「っつてもなあ、ビッチ先生大抵のプレゼントもらった事あるだろう?」

 

杉野がそうため息をつく。確かに並みのプレゼントじゃ駄目だろう。

 

「クラスのカンパは総額6000円。この金額で、ビッチ先生がもらうにふさわしいプレゼントといったら…」

 

そう簡単には思い浮かばない。

 

すると渚が車を見つけた。花屋のようだ。そしてその花屋とは…

 

「あ、この前救急車呼んでくれた人だ。」

 

すると向こうもこちらに気付いたようでこちらに向かう。

 

「やっぱりそうだ、あの時のおじいさんのケガ、大丈夫だったかい?」

 

「ええまあ、ただ働きして許してもらいました。」

 

「そう、良かった。ところで、プレゼントの話していたようだね。大人にあげるにふさわしい…」

 

どうやら話を聞いていたらしい。

 

「ええ、でも6000円しか…」

 

すると花屋は、花を神崎さんの前に出した。

 

「こんなのはどうかな?」


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