黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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ちょうど5000字。


50話 リーダーの時間

「お前か…。」

 

三山だった。

 

「俺は勉強とかじゃあお前には敵わねえけど、戦闘ならだけはお前とも互角なんだよ。

 

逆に俺がお前に敵うのなんてこれぐらいだけどな。」

 

「フン、勝負だ。捕まえられるか?俺の事。」

 

そして俺は敵陣に向かおうとする、それを三山が止める。

 

あいつの手が俺を捕まえようと伸びたので、それをかわし、包囲の隙間をくぐり抜ける、

 

しかしそれを三山は見逃さず止める。

 

「なかなかしぶといな。」

 

「当たり前だろ。」

 

その後も俺は抜け出せず、三山は捕まえられず、という状況が続く。しかし、

 

「お前は、いや浅野は一つ失敗したな。」

 

「何が?」

 

「俺を捕まえるなら、お前1人で十分だったな。」

 

そう言うと俺はもう1人の敵を捕まえて、そいつの足を払い転ばせる。三山の方に。

 

「うわ!」

 

「じゃあな。」

 

そして俺は再び逃げる。

 

「逃がすか!」

 

だが三山もそれを追いかける。しかし…

 

「深追いするな三山、守備に戻れ。もう十分だ。」

 

そう浅野に言われ、三山は渋々防御に戻る。

 

(A組の目標はE組を潰す事、E組の目標は棒を倒す事。ゴールが違う。)

 

だがそれはA組にとっては不利だ。一見明らかにA組に有利なこの試合。実はそうではない。

 

A組はE組を潰すまで棒は倒さない。だがE組はただ棒を倒せば良い。

 

それに個々の身体能力はE組の方が上。これらを加味すれば人数差は覆せる可能性もある。

 

(…もう敵を抑えるのは十分だ。こちらはすでに防御体制を整えた。

 

この棒倒しが異形になるのは想定していた。こちらは数に任せて棒を倒すのは簡単。

 

叩き潰す前にやってしまうという最終手段だってあるのだ。

 

そうなれば磯貝の校則違反を告発し、2度目という事で退学を要求すれば通るだろう。

 

それが嫌なら攻めてくれば良い。鉄壁の防御で叩き潰す。

 

どちらを選ぶリーダー君。君1人が犠牲になるか味方を巻き添えにするか。)

 

そして追撃を避けながらカルマが言う

 

「ねえ磯貝、そろそろじゃね?」

 

「ああ、」

 

磯貝が答える。

 

(E組の作戦の土台になったのは、椚ヶ丘中名物、客席の近さ。

 

それを利用して客席に逃げ込む作戦、そして次の手だ。)

 

「おいおい、いつまで逃げる気だよ。」

 

守備側はすっかり客席に気を取られている。

 

その隙を突いて、吉田と村松が飛び出す!そして棒に取り付く!

 

「何!」

 

「な、ちょっ…、どこから湧いた!いつの間にかA組の棒にE組が2人!」

 

(こいつら、序盤で吹っ飛ばされた…。)

 

「へっ、受身なら嫌という程習ってるからよ。さすがにあの体当たりはきつかったけどな。」

 

「客席まで吹っ飛ぶ演技、苦労したわ。全くこっちだって大変だぜ。」

 

(そうか、客席まで吹っ飛んで気絶したふりをして、混乱の中密かに客席を回ってこちらまで来ていたのか!)

 

「なっ」

 

そして磯貝が仕掛ける

 

「逃げるのは終わりだ、全員、音速!」

 

「なんとこれを機に、客席の7人が全員追手を振り切り攻撃に転じた!」

 

(…こいつら、これが狙いか…。A組の守りが薄く、奇襲で動揺している時に、一気に仕掛けた!

 

懐に入られたら…!)

 

「どうだ浅野、もう人数差は関係ないだろう?」

 

「絶対絶命だ、A組ー!」

 

このまま一気にE組が押し切る!と思いきや…

 

防具を外す浅野。

 

「支えるのに集中しろ、こいつらは僕1人で片付ける。」

 

そう言うと吉田の手を捻りバランスを崩し落とさせる。

 

「グエ!」

 

そして今度は岡島を回し蹴りで叩き落とす!

 

(訓練を受けたE組の生徒をいとも簡単に…、武道の心得まであるのか!)

 

「なんと浅野君、一瞬で2人を叩き落とした!」

 

「君達ごときがこの僕と同じステージに立つ、叩き落される覚悟は出来ているんだろうね。」

 

そう言うと浅野はE組をどんどん叩き落としていく。

 

「さあ、君達は終わりだ。」

 

磯貝も叩き落される。

 

「くっ!」

 

それを見る女子達が状況を分析する。

 

「ヤバイ、詰みかけてる。客席からA組がどんどん戻って来てる。これじゃあリンチだ。」

 

叩き落された磯貝、彼の脳裏に浮かんだ言葉とは…

 

(1人で戦況を決定づける。磯貝君はそういうリーダーにはなれないでしょう。

 

何故なら、君は1人で決めなくても良いのだから。)

 

「磯貝、ここは俺が…。」

 

「ああ、任せた!黒崎!」

 

そう言うと俺は磯貝を踏み台にしてジャンプし、棒に取り付く。

 

「っ!黒崎、貴様も叩き落としてやる!」

 

「出来るかな?」

 

(厄介な事になったな…、黒崎を叩き落すのは他と違ってそう簡単ではない、

 

かといって素早く叩き落さないとその間にこちらは不利になるだけ…)

 

「お前に僕と同じステージに立つ資格はない。」

 

そう言って浅野は足で俺を払おうとする。俺はすかさず避ける。

 

腕を捻ろうとしてきたので逆に手を掴んで払おうとするが、すかさず防御に転じる。

 

それを見る烏間先生。

 

(やはりな、彼の動きを見て分かってはいたが、武道をやっていたな。

 

あの動きは、おそらく空手か?)

 

浅野は攻撃を続ける。俺はそれを棒を使って上手く避けるのが精一杯だ。

 

「どうした、避けるばかりでは棒は倒せないぞ?」

 

「…。」

 

俺はあえて黙っておく。

 

その後も浅野は攻撃を続ける。

 

かかと落とし、膝蹴り、足払い、というように。

 

次第に俺も避けるのがきつくなっていく。

 

「お前のような一匹狼が、僕に勝てるはずがない。やれ、サンヒョク。」

 

浅野がそう言うと、サンヒョクと呼ばれた男は俺を棒から引き剥がす。

 

「くそっ!」

 

俺は棒から落下した。

 

しかし…

 

「ふっ、お前に勝つ事が俺の目的じゃない。確かに俺はお前とは同じステージには立てない。

 

だがな、よく見てみろ。お前が俺の相手をしている内に…」

 

「!?」

 

棒にはE組が集結していた。そう、これが俺の目的だ。

 

浅野が俺との戦いに気を取られている内に、さっきまで棒に近づけなかった皆を

 

棒に取り付かせる。その数…

 

「おい、あいつらは確か守備部隊のはず…。」

 

「見ろ、E組の守備は2人だけ…。」

 

そう、E組は寺坂と竹林だけで棒を守っている。

 

「どうやって…」

 

すると竹林はメガネをクイと上げ答える。

 

「梃子の原理さ。」

 

すると皆何故か納得する。

 

「というのは勿論方便。流石に2人じゃ無理だ。でも君達、抜けられるけど動けないよね。

 

君達の目標はE組を潰す事。棒を倒す指示はまだ出ていない。

 

そして指示を出す君達のリーダーは、ちょっと忙しそうだ。」

 

浅野は取り付かれ、その相手で精一杯だ。

 

「浅野君の事だから、まだ何かすごい作戦があるのかもよ。

 

大人しく指示を待っていた方が賢明だろうねえ。」

 

そう言ってニヤリと笑い、A組を見下す竹林。

 

「このメガネ腹たつ!」

 

その挑発、担任譲りか。

 

一方A組の棒では。

 

「指示が、出せない…、負ける?」

 

浅野は棒の上の乱戦の中指示が出せない。

 

「慌てるな、落ち着いて1人ずつ引き剥がせ!」

 

A組も着々と戻って行く。すると、

 

「今だ、こいイトナ!」

 

イトナがダッシュで磯貝へ向かう。

 

そこで磯貝の腕に乗り、磯貝が思い切り腕を上げる!

 

するとイトナは物凄い高さへジャンプしていった。

 

そして棒の先端に付き、棒を一気に倒して行く。そして棒は地に付いた。

 

***

 

「とまあ、あれが君の計画した棒倒しの顛末だ。あの転校生のハイジャンプは凄かったねえ。

 

ケヴィン君。ひょっとしたら君と同じで何か肉体改造でもしていたのかもね。

 

しかもあの彼、体育祭であの能力を隠していた。君にマークされないよう。」

 

そう理事長は語る。確かに、そこは綱引きで4人の力を見せつけてしまったA組のミスだ。

 

いや、そもそも見た目からしてマークされるのは必須か。

 

「何が言いたいんです?理事長。」

 

「要するに、君達は完敗と言うわけだ。誰の目から見ても不利な戦いを奇跡的に勝ったE組に、

 

周囲の評価も変わってきた。それが私の教育方針に反する事は分かるね。

 

手段を選ばぬ君の作戦は、負けた事で逆効果になった。しかも彼らは明らかに君の真の目的を知っていた。

 

陽動を駆使し、時には1対1での戦いに誘い込み指揮官である君の動きを封じた。

 

そして最後は秘密兵器で決着をつけた。君は情報戦ですでに負けていた。

 

磯貝君は最前線にいながら状況を把握していたよ。

 

何より君は負けた。これではリーダー失格だ。」

 

理事長の否定の言葉。それを聞いて黙り込む浅野。するとケヴィンが口を開く。

 

「そいつは違うな理事長さんよ。浅野は確かに今回負けた。けどよ、こいつは勝つ為に全力を尽くした。

 

父親ならこう言ってやるべきじゃないか?『負けから得るものだってある』と。」

 

「…なるほどね、ケヴィン君、君の意見に感動したよ。では私にも学ばせてくれないか?

 

一つ勝負をしよう。相手の膝を地面に付かせたら負け。ルールは問わないよ。

 

もし負けたら、私も何か学べるかもしれない。」

 

そう言って戦いを申し込む理事長。その目に宿るものは計り知れない。

 

「大人気ない親父さんだ、この俺とタイマンしたいとは。」

 

「ああ違う違う、4人で構わないよ、君達だって暴れ足りないだろう?」

 

理事長は余裕綽々の表情で笑みを浮かべる。それに対して、4人は額に青筋を浮かべ指を鳴らす。

 

「理事長さんよ、これから起こる事、問題にしたりしないよな?」

 

ジョゼが問う。

 

「勿論、お互いにね。」

 

 

「磯貝先輩、カッコよかったです〜。」

 

磯貝が後輩の女子に声を掛けられる。

 

「くそ〜、イケメンめ…。」

 

まあ磯貝が今回1番活躍したからな。と思っていたら…

 

「黒崎先輩、カッコよかったです!特に浅野先輩との対決!ホント素敵でした!」

 

え、俺?まあこういうのは、適当に、

 

「ああ、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ。」

 

そう言って俺は微笑んでおいた。

 

すると女子は去っていった。キャーカッコいいとかなんか聞こえた気がするが気のせいだろう。

 

(ヤバイ、こいつ天然たらしだ。)

 

(イケメンめ殺してえ…)

 

「えっ…。」

 

後ろから殺気を感じたので振り向かないでおいた。

 

「ま、でも空気変わったよな。俺らを見る目が。」

 

「当然だべ、これだけの劣勢覆したんだから。」

 

「何か俺ら、マジでスゲーのかもしれねーな。」

 

皆喜んでいる。いい事だ。E組はもう落ちこぼれのエンドではない。

 

強者を仕留める立派なアサシンだ。

 

 

「…。」

 

異様な光景だった。床に付いた無数の血痕。傷だらけで倒れ伏す4人。

 

平然と傷一つ無く立ち尽くす理事長と、対照的な光景だった。

 

浅野は怯え、恐れてその場から動けない。そんな中ふと口を開く理事長。

 

「私が空手の黒帯を倒したのはね、空手を始めて3日目だった。

 

初日はコテンパンにやられたよ。30過ぎたオッサンがね、何度もゲロ吐いて倒れた。

 

私だって最初からなんでも出来たわけじゃない。

 

2日目、私が何をしたと思う?ただ見てた。

 

尋常でない屈辱の炎に身を焼かれ、もしまた負けたら私は自分の人格を保てなくなり発狂する。

 

その怒りと恐怖が、かつてない集中力で師範の技を盗み続けた。

 

そして3日目、私は師範に指一本触れさせず勝利した。

 

敗北から学ぶと言うのはそういう事だ。

 

ねえ浅野君?君は負けたのに、何故死ぬ寸前まで悔しがってないのかな?」

 

そう言って浅野を睨む理事長。

 

「…化け物め!」

 

***

 

そして片付けをする浅野。

 

「浅野、二言はないだろうな。磯貝のバイトの事黙っておくって。」

 

「勿論だ、僕は姑息な事はしない。」

 

よく言う、山ほど姑息な手を使っておいて。

 

「でも、流石だったよお前の采配、最後までどちらが勝つかわからなかった、

 

またこういう勝負をしようぜ。」

 

磯貝が握手を求める。しかし、浅野はその手を払いのける。

 

「消えてくれないかな。次はこうはいかない。全員まとめて叩き潰す。」

 

そう言って一枚の紙を投げ、去っていく浅野。

 

「バイト許可証…?」

 

「けっ、負け惜しみか。」

 

鼻で笑う寺坂。

 

「いーのいーの、負け犬の遠吠えなんて聞こえないもんね〜。」

 

中村も余裕の顔をしている。けれど…

 

「彼も君と同じく苦労人さ磯貝。境遇の中でもがいてる。」

 

そう呟く竹林。竹林もまた苦労しているからこそ分かるのだろう。

 

「いや、あいつに比べたら俺なんか苦労人でも何でもないよ。

 

今日なんかさ、皆の力で勝ててさ、貧乏で良かったって思っちゃったよ。」

 

皆彼を見て微笑んでいる。

 

(浅野君のような派手さはないけど、さらっとチームを勝利に導く。

 

磯貝君は前でも上にでも無く、気がついたら横にいる。そんなリーダーでイケメンな暗殺者だ。

 

リーダー対決はE組の完勝!)

 

「まあいい浅野君。帰ってた高級ディナーで打ち上げとしよう。」

 

「おお、これ貰っていいですか!パン食い競争の余り!」

 

(なのか?)

 

リーダーの経済格差はいかんともしがたいな。


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