黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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多分毎日投稿出来るのは今日が最後。これからは2日に1話くらいですね。
受験生なのでこれからは勉強に集中しないと。


48話 イケメンの時間

理事長室にて

 

「-まずいつ、何処で勝ちたいのか考える。次に手段だ。相手の隙を突き、いかに持ち駒を使いこなすか。

 

リーダーの適性、それがなければ私の上には一生立てないよ。」

 

「…分かりました理事長。僕の適性、見せてやりますよ。」

 

浅野のリーダーとしての適性とは…?

 

***

 

放課後、磯貝がバイトしているカフェを偵察に来た俺達。

 

「うーむ、イケメンだ。」

 

磯貝はなかなか仕事を上手くやっていた。

 

「いらっしゃいませー、あ、どうも原田さん、伊藤さん。」

 

「ゆーまちゃん元気?もうコーヒーよりゆうまちゃん目当てだわ。」

 

「はは、そんな事言ったら店長が拗ねちゃいますよ。」

 

「原田さんモカで伊藤さんエスプレッソでしたね。それと店長お勧めのシフォンケーキありますよ。」

 

「じゃあそれ頂こうかしら。」

 

流石だな。接客も上手い。主婦のハートをがっつり掴んでいる。

 

「実にイケメンだ、うちのリーダーは。」

 

前原は賞賛する。しかし誰もがそう思うわけでは無い。世の中…

 

「殺してえ。」

 

岡島の様に嫉妬深く醜い人間もいる。

 

(皆それぞれいい所はあるけれど、E組で1番のイケメンはと聞かれたら、

 

迷わず磯貝君と答えるだろう。)

 

「お前ら粘るなあ。紅茶1杯で。出がらしだけどこれオマケな。」

 

「イケメンだ!」

 

(何よりその人格。前原君やカルマ君みたいな危なっかしさも無く、

 

礼儀正しく優しく、全ての能力がE組でもトップクラス。どんな事でもそつなくこなす。

 

黒崎君だってE組の中でも全ての能力が磯貝君に負けないほど高いし、無口でクール。

 

イケメンだとは思うけれど…、ちょっと怖い。)

 

俺って怖いのか…

 

そして磯貝は大量の皿やカップを一度に運んでいる。

 

「あんなに一度に運べるなんて、イケメンだ!」

 

(E組に落ちたのも、校則違反が原因だけど…、)

 

「何、またお母さん体調崩されたの?」

 

「はい、うち母子家庭なんで、ちょっとでも家計の足しにならないと。

 

バイトがバレて、痛い目にも遭いましたけど。」

 

「イケメンだ!」

 

そう言えば磯貝は校則違反でE組に落とされたと聞いたが、ここのバイトが原因だったのか。

 

家計が危ないなら特例として許可しても良いと思うんだが…

 

俺とて両親はいないが、親戚の1人が仕送りしてくれているお陰で生活出来ている。

 

磯貝のような生活苦にはなった事が無いので、大変さはよく分からないが、

 

立派だな、とは思った。イケメンかどうかは知らんが。

 

「あいつの欠点なんて貧乏くらいだけどさあ。それすらイケメンに変えちゃうのよ。

 

激安店で買った服を上手く着こなしてさ。」

 

「イケメンだ!」

 

それは凄いなあ。

 

「あいつがトイレに行った後、紙が三角にたたんであった。」

 

「イケメンだ!」

 

磯貝だとこの反応。

 

「紙なら、俺も三角にたたんでるぜ。」

 

「汚らわしい!」

 

岡島だとこの反応である。

 

日頃の行いだな。

 

「見ろよ、あの天性のマダムキラーっぷり。」

 

「イケメンだ!」

 

「ああ、僕も近所のおばちゃんによくおもちゃにされるなあ。」

 

「しゃんとせい!」

 

うん、その通りだ。渚はもっとしっかりしよう。

 

「未だにあいつ本校舎の女子からラブレターもらうしよー。」

 

「イケメンだ!」

 

「ラブレターか、私も良くもらうなあ…。」

 

「イケない恋だ…。」

 

それは…可哀想だな。

 

そう言えば、

 

「ラブレターとか告白か…、たまに来るなあ。全部断ってるが。 」

 

「イケメンだ!だけど腹立つ!」

 

何その反応。

 

「イケメンにしか似合わない事があるんですよ。磯貝君や、先生、ついでに黒崎君にしか。」

 

俺はついでか。

 

「イケメン…誰だ貴様!」

 

言うまでもなく殺せんせーだ。

 

「ここのハニートーストが絶品でねえ。バイトはこれに免じて見逃してます。」

 

そんな簡単に買収されるなよ…

 

「でも皆さん、磯貝君がイケメンでも、それ程腹が立たないでしょう?黒崎君には腹立つのに。」

なんか酷くね?

 

「そりゃ、だって、あいつ良い奴だもん。単純に。」

 

「うんうん。」

 

俺だって磯貝は良い奴だと思うが、けれど…、俺の扱いが酷い。

 

「お前ら俺を一体なんだと思ってるんだ…。」

 

「だ、大丈夫。黒崎君だって良い人だと思うよ。」

 

という会話をしていたら、

 

そこに五英傑が現れた。

 

「おやおや、情報通りバイトをしている生徒がいるぞ。」

 

「いけないんだあ磯貝君。」

 

「くっ…。」

 

最悪の事態だ。このままだと磯貝が…

 

「これで2度目の重大校則違反。見損なったよ磯貝君。」

 

浅野が不敵な笑みを浮かべる。見損なったという顔ではない。

 

あの顔、どう見てもしてやったりという顔だ。すると、さっき磯貝が接客していた客の1人が咎める。

 

「ちょっとあんたらゆうまちゃんに何の用?」

 

「失礼、その美しい顔を憤怒に染めたくない。学内の話ですので店の外で話しますね。」

 

榊原が客を諌める。やり方がおかしいが。だが効果はあったらしい。その客は引き下がったようだ。

 

そして店の外で浅野と磯貝が話す。

 

「悪い浅野、今月いっぱいで必要なお金は稼げるからさ、この事は黙っててくれないか?」

 

磯貝が懇願している。

 

「重大校則違反は、生徒会長としてそう簡単には見逃せないよ。」

 

「そこは黙っておくべきだと思うんだがな。」

 

「何…?」

 

俺は続けてこう言う。

 

「磯貝は生活の為にバイトをしているんだ。決して小遣い稼ぎの為じゃない。

 

それすら校則違反として取り締まるのなら…、磯貝を路頭に迷わせることになるぞ?」

 

すると浅野はふと考え込む。明らかに見逃すとか、慈悲を与えるといった顔ではない。

 

これをチャンスにして利用するつもりだ。

 

「そうだな…。そういう事情なら…、出来れば僕もチャンスをあげたい。」

 

浅野は何か良からぬ事を考えている。そんな時は、本当に理事長そっくりだ。

 

「では一つ条件を出そう。闘志を示せたら、君の校則違反は見逃し、バイト許可証でもくれてやろう。」

 

「闘志?」

 

「そう、我が椚ヶ丘中学では、社会で負けないような闘う意思を尊重する。

 

校則違反を取消せるほどの闘志。それは…。」

 

ーーー

 

「要は、E組がA組に棒倒しで勝てば、磯貝のバイトを認めると。」

 

「そういう事。」

 

「でもさ、俺ら元々ハブられてるから、棒倒しには参加しないんじゃ。」

 

木村の言う通り、本来E組は殆どの競技に参加できない。

 

球技大会のような公開処刑は無いわけだが、それも今回…

 

「それにE組男子は17人。それに対してA組男子は28人。とても公平な戦いとは思えないね。」

 

竹林の言う通り、A組とE組には明白な人数差がある。棒倒しに置いて数は極めて重要。

 

A組がE組を叩き潰そうとしているのは明らかだ。

 

「だから、E組がA組に挑戦状を叩きつけた事にするのさ。それもまた闘志として賞賛される。」

 

と浅野は言っていたそうだ。

 

要はバイトによる校則違反をちらつかせ勝負を叩きつけさせ、その上で完璧に叩き潰す。

 

浅野らしい作戦だ。

 

「でもどうする…、受けないと磯貝は2度目の校則違反。下手したら退学だってあり得る。

 

それに受ければ圧倒的な人数差の中勝負をしなきゃいけない。」

 

杉野が悩んだ様に言う。

 

それに対する磯貝の答えは…

 

「みんな、無理に受ける必要は無いよ。痛い目に遭わせたくはないし。

 

退学上等!暗殺なんて裏山のどこかからこっそり狙えばいいのさ。」

 

「い、イケ…

 

イケてねーわ全然!」

 

「ええ!」

 

「何自分に酔ってんだアホ毛貧乏!」

 

ブーイングの嵐。

 

「そうだ磯貝、お前1人が責任を取る必要は無い。お前には16人の仲間がいるんだからな。

 

だから、絶対逃げるなよ。」

 

そう言って俺は磯貝の机にナイフを突き立てる。

 

「…黒崎。」

 

それに皆も同調する。

 

「要は、A組のガリ勉共に勝てばいいんだろう?楽勝だぜ!」

 

前原が続く。

 

「前原…。」

 

「奴らにバイトがバレてむしろラッキーだったな。」

 

「日頃の鬱憤。晴らしてやろうじゃねーか。」

 

「やってやんよ!倒すどころかへし折ってやろうぜ。」

 

「なあイケメン!」

 

皆磯貝を信頼し、一緒に戦おうとしている。これも彼の人徳のなせる業。

 

俺だったらこんな風にはならないだろうな。

 

「お前ら…、」

 

そう、磯貝の1番の強みはイケメンでもハイスペックでも無い。

 

地味な作業も嫌がらずやり、決して驕らないその態度。

 

常に誠実で周りに気を配る。そんな彼の人徳こそが、彼の1番の強みだ。

 

先導者としてのリーダーとして重要な素質だ。

 

「イケメン同士、私も一肌脱ぎますかねえ。」

 

殺せんせーは触手を鳴らす。だからなんで鳴るんだよ。

 

しかし…

 

(棒倒しか、防衛学校で何度もやったが…、あれは野戦だ。

 

人数の差は極めて大きなハンデになる。訓練を重ねた生徒達でも勝てるかどうか…。)

 

烏間先生の考察の通り、人数差と言う覆せないハンデ。

 

それに…

 

(浅野君の真意も気になる。本当に棒倒しで勝ちたいだけなんだろうか。

 

もっと別の真意が…)

 

浅野の腹黒い戦略も不安要素だ。

 

一方浅野は…

 

"It's been a long time,Asano."

 

"I wanted to borrow your unbending Texan spirit."

 

 

 

(浅野にまた会えるのならこの研修留学も悪く無いね。)

 

(そうだな、短い間だが楽しんで行ってくれ。)

 

 

(ありがとうサンヒョク。君のその最強の肉体が必要だったんだ。)

 

(いや浅野、君と出会って強さは体の大きさじゃ無いって思い知った。)

 

 

(ようこそ、地球の裏から。)

 

(おう浅野、俺に早く戦いをさせろ。)

 

なんと4人の留学生を呼ぶ。全員浅野の2倍以上の体格だ。

 

(ぼ、棒倒しでここまでやるか…。)

 

(徹底的にやる、僕は生まれながらの支配者だ。)

 

***

 

そして迎えた体育祭当日。

 

まずは100m走。

 

「A、B、C、D組がリードを許す苦しい展開!負けるな我が校のエリート達!」

 

相変わらずの偏向実況。

 

「うわー、このアウエー感。相変わらずねー。」

 

だがしかし、

 

「こっちにもいるじゃん、味方が。」

 

岡野が指さした方には殺せんせーが。

 

「木村君、こっち向いて、ほらほら、カッコいい!」

 

他人なのに親バカだ。それも重度の。

 

「この学校は観客席が近くていいですねえ。迫力の中応援できます。」

 

しかし、様子を見てみると、トラック競技は木村が1位なものの、他は苦戦していて、

 

2位や3位が目立つ。

 

「烏間先生、トラック競技木村ちゃん以外苦戦してるね。訓練で自信ついてたのになー。」

 

それを倉橋が指摘する。

 

「…仕方が無い。100m走を2秒も3秒も縮める訓練はしていない。

 

開けた場所で走る訓練をしたものには敵わない。

 

君らも基礎的な水準は高いが、その道のプロには勝てないのだ。」

 

烏間先生の言うとおりだ。そもそもあれは基礎的な身体能力が大きく影響する。

 

訓練でそれは上がったものの、元々トップクラスの人間には勝てない。

 

要は何でも上手く出来るが、器用貧乏なのだ。

 

「…まるで俺のようだ。」

 

俺はふと呟いた。

 

「だが、訓練の成果は思わぬ所で発揮される。例えば...」

 

パン食い競争。原さんmは足の遅さから遅れるが、パンを物凄い速さでくわえトップに立つ。

 

「すげえ原さん、足の遅さを帳消しにする正確無比な早食い!」

 

「まあ、ああいうのだ…。」

 

何か違う気がする。こんなオマケ競技で発揮してどうするんだ。

 

だが、完食しないとゴールは出来ない。

 

しかし、原さんはパンを一瞬で飲み込んだ。

 

「飲み物よ、パンは。」

 

前言撤回。確かにカッコいい。

 

「うんうん、こういった意外性は殺し屋ならでは、ねえ磯貝君。」

 

「はい。」

 

まあ、こういう特殊な、イレギュラーな競技でこそE組の強さは発揮される。

 

パン食い競争のプロとかいないし。

 

例えば2人3脚。岡野と前原が、セクハラだの言いながら絶妙のコンビネーションで走っていく。

 

そして網抜け。

 

茅野がダントツの速さで潜り抜ける。普段の訓練はあまり得意では無いが、それが嘘のよう。

 

「あのチビめっちゃ速え!体に抵抗か無いからか?」

 

…この誰かが言った一言のせいで、俺はこの後約10分キレかかっていた茅野を宥める羽目に。

 

「…あのように、各自の個性も武器となります。それを生かすのは君次第です。」

 

とアドバイスする殺せんせー。しかし、頷く磯貝の表情には不安の色が隠せなかった。

 

何故なら、知ってしまったからだ。浅野の、戦略を、真の目的を。


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