黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

52 / 109
46話 執着の時間

「イトナは全身触手の奴とは違う。人間に触手細胞を植えたなら、毎日のように適合処理を

 

施さねば、拒絶反応による激痛が襲いかかる。私がメンテを止めた途端、

 

触手が精神を蝕み、常人なら3日で狂い死ぬね。」

 

一方その頃教室では、

 

鶴田さんがマンガ的なたんこぶを作っていた。

 

「どうしたの鶴田さん?」

 

渚が聞く。

 

「軽率にシロに協力したのを烏間先生に叱られたんだって。」

 

そういう事か。すると園川さんが説明する。

 

「烏間さんの殺人げんこつ、頭髪が消し飛び内出血で頭皮が持ち上がる恐ろしい技です。」

 

「あれデフォルメ的なたんこぶじゃないの⁉︎」

 

そして教室にて。

 

殺せんせーは、唇を尖らせて拗ねていた。下着ドロと疑われたのを根に持っているようだ。

 

「悪かったってば殺せんせー、ごめんね。」

 

「俺らもシロに騙されちゃって。」

 

皆必死で機嫌を取ろうとする。だがしかし、この様子では当分根に持つだろう。

 

「先生どーせ心も体もいやらしい生物ですよ。」

 

(どんだけ口尖らせてんだよ。事あるごとに蒸し返してきそう。)

 

とみんなが思うのも無理は無い。

 

「心配なのはイトナ君の方です。あの触手細胞は人間に植えて使うには危険すぎる。

 

シロさんに梯子を外された今、どう暴走するか分かりません。」

 

結局あの後、防衛省の人も、先生も、俺達も、イトナを発見できなかった。

 

すると杉野が口を開く。

 

「名義上はクラスメイトだけどさ、俺らあいつの事何も知らねーじゃん。

 

どうしてあんなに強さに拘るのか。どういう経緯でシロに出会ったのか。」

 

皆は考える。イトナの事。考えてみれば何も知らなかった。

 

***

 

その頃イトナは携帯ショップの前に立っていた。

 

息を切らし、執念で触手を振り回すイトナ。

 

携帯ショップは粉々に砕けた。

 

「椚ヶ丘市内で携帯ショップが破壊される事件が多発しています。

 

あまりにも店内の損傷が激しい為、警察は複数人による犯行の線もあると…。」

 

これは…

 

「イトナの仕業…、だよな。」

 

「ええ、使い慣れた先生なら分かります。あの破壊は触手でないと出来ない。」

 

触手を使い続けた殺せんせーが言うのなら間違いは無いだろう。

 

そして防衛省でも、烏間先生の上司が、慌てた表情でテレビを見せていた。

 

それを見てシロはこう言った。

 

「ふーむ、あの子の身の上ならやりかねん。」

 

と、動揺もせず、傍観者の様に。

 

「他人事みたいに言ってる場合か!被害が拡大すれば、暗殺の事まで世間に知れ渡る可能性がある!

 

そもそもあの転校生暗殺者は、あんた方のとっておきじゃなかったのか!」

 

対照的にその上司は焦った様にシロの責任を追及する。

 

それに対しシロは悪びれもせずこう言った。

 

「御安心を、とっておきは触手の方。だが放り捨てた私も悪い。責任持って摘み取りますよ。」

 

***

 

「担任として責任持って彼を止めます。見つけ出して保護しなければ。」

 

殺せんせーはそう言った。しかし皆は納得出来ない様子だった。

 

「助ける義理あんのかよ殺せんせー。つい最近まで商売敵みたいだった奴だぞ。」

 

「あいつの担任なんて形だけじゃん。」

 

(放っておいた方が賢明だと思うんだけどねー、シロの性格は大体分かった。

 

あいつにとって他人全てが当たればラッキーの駒。そういう奴は何するか行動が読めない。)

 

カルマの言う通り、シロは人をゲームの駒としか見ていない。

 

そして殺せんせーを殺す為にはいかなる犠牲も払うとシロは宣言した。

 

助けようとした殺せんせーを返り討ちにするつもりかもしれない。。なら放っておいた方が良いと俺も思う。

 

けれど…

 

「それでも担任です。そしてね、先生教師になる時に誓ったんです。

 

どんな時でも、生徒からこの触手を放さないと。

 

…それがたとえ、先生を殺す為にやってきた暗殺者だとしても。」

 

殺せんせーの決意は固く、そこには教師としての信念が見て取れた。

 

それを見て、誰も止めようとは言えなかった。

 

 

また携帯ショップの前に立つイトナ。思い出されるある言葉。

 

「イトナ、近道はないんだぞ。日々勉強の繰り返し。誠実に努力を続けた人だけが大成するんだ。」

 

「…ウソつき。」

 

それは間違っていた。少なくともイトナにとってはそう見えた。だから…

 

イトナはまた、携帯ショップを破壊した。粉々に、無残に、跡形も無く。。

 

すると

 

「やっと人間らしい顔が見られましたね。イトナ君。」

 

殺せんせーが現れた。

 

「…兄さん。」

 

「殺せんせー、と呼んでください。私は君の担任ですから。」

 

あくまで、殺せんせーにとってイトナは兄弟ではなく担任らしい。

 

「拗ねて暴れてんじゃねーよイトナ、テメーとの事は全部水に流してやっから、大人しくついて来い!」

 

寺坂がそう言う。

 

「うるさい…、勝負だ。今度こそ勝つ…!」

 

「良いですけど、お互い国家機密、どこかの空き地でやりましょう。

 

それが終わったら、皆で勉強しましょう、先生の殺し方を。」

 

「そのタコしつこいよ〜。一度担任になったら地獄の果てまで教えるからね。」

 

すると突然爆発が起きた。

 

周囲に粉が舞い視界を奪われる。対先生物質の粉だ。イトナが苦しんでいる。

 

そしてトラックからシロと部下が現れた。

 

「これが今回3つ目の矢。イトナを泳がせたのも予定内。さあイトナ、最後の御奉公だ。

 

追ってくるんだろ、担任の先生。」

 

そう言ってシロはネットでイトナを捕まえ、去っていくのだった。

 

「大丈夫ですか皆さん!」

 

「ああ、なんとか。」

 

「では先生イトナ君を追いかけます!」

 

殺せんせーの顔は少し溶けている。

 

「今、俺らを気にして回避反応遅れたな…。」

 

「あの白野郎…、とことん駒にしてくれやがって!」

 

E組、ついに堪忍袋の尾が切れた。

 

***

 

イトナの元へ着いた殺せんせー。

 

「イトナ君!」

 

イトナは対先生物質でできたネットに捕らえられていた。

 

「さあ、ここが君達の墓場だ。」

 

シロとその部下が現れ、銃口を向ける

 

「狙いはイトナだ、撃て。」

 

そう言うとシロは殺せんせーに光線を当て、動きを一瞬封じる。

 

その間にイトナに向かって一斉射撃がされた。

 

「くっ!」

 

それをかろうじて守る殺せんせー。

 

「フン、服と風圧で防いだか。だがね、チタンワイヤーを対先生繊維で囲んだこのネット。

 

いくらお前でも避けながら救い出すのは不可能だよ。

 

そして先ほどの負傷と圧力光線で動きが鈍っている中、ちょっとでも目を離せば、

 

イトナの触手がやられイトナもろとも死んでしまう。

 

それと一つ分かった事があってね、お前は自分に対する攻撃には敏感だが、

 

自分以外に対する攻撃には反応が鈍る。所詮は自分の身しか守れないモンスターというわけだ。

 

どうする、イトナもろとも死ぬのを拒否して逃げ出すかい?」

 

そう言っている間にも攻撃は続き、殺せんせーは守るのに精一杯だった。

 

(…俺は、無力だ。力が無かったから、協力者にも見捨てられた。)

 

イトナは思い出す。シロに出会った時の事を、土砂降りの雨の中、

 

何もできず座りこんでいた彼の前に現れた、白装束の男。

 

「良い目をしているね、その目には勝利への執念が宿っている。

 

その執念こそ、私の計画に不可欠だ。なあに、難しい事ではない。

 

簡単な足し算を私としてみないかい?君の執念と私の技術。それさえあれば力が手に入る。

 

力さえあれば、誰にも負けないんだよ。」

 

(力への執念があったから、得体の知れない激痛にも耐えられた、

 

勝利への執念があったから、何度も喰らいつけた。

 

なのに、執念は届かず、殺すはずの相手に守られている。

 

俺は、こんな、執念も強さもないザコたちに殺されるのか…。)

 

白い兵隊に銃口を向けられ、イトナがもう駄目かと思ったその時、

 

E組の皆が現れ、兵隊を蹴散らしていった。

 

木の上から蹴飛ばし、急いで簀巻きにする。

 

「くそ、ガキどもか、返り討ちにして…。」

 

その兵隊を突き落とす岡野。

 

「駄目だよ、こっちは烏間先生に追われるばっかで悔しいんだから、

 

このケイドロは、あんた達が泥棒ね。」

 

一方寺坂も兵隊を捕まえる。

 

「これ対タコ用の服だろ。面倒な物着やがって、お陰で俺らが倒さなきゃいけねーだろうが。」

 

こうして全員簀巻きに。

 

「お前ら…なんで…。」

 

イトナは驚いている。すると速水が言う。

 

「カン違いしないでよね、シロの奴にムカついてただけだし。別にあんたを助けたい訳じゃないから。」

 

「速水が、カン違いしないでよねっていった…。」

 

「生ツンデレは良いものだね。」

 

お前らそんな趣味あったのか。てかどこが良いんだ?

 

「黒崎はツンデレの良さがわからんのか。作者は分かると言ってくれたのに。」

 

いや駄作者は知らん。

 

「でさあシロ、こっち見てていいの?撃ち続けて釘付けにさせてたのに、

 

それ止めたらネットなんて根本から外されちゃうよ。」

 

その通り殺せんせーはネットを外していた。

 

「去りなさいシロさん、イトナ君はこちらで引き取って面倒を見ます。

 

貴方はいつも周到な計画を練るが、それは生徒達を巻き込めば台無しになる。

 

当たり前のその事に早く気付いた方がいい。」

 

それを聞きシロはふと考え、こう言った。

 

「モンスターに小蝿が群がるクラスか、うざったいね。だが私の計画の欠陥は認めよう。それに…

 

その子はどうせあと2~3日の命。みんなで仲良く過ごすんだね。」

 

あまりにも非情な言葉だけを残し、シロは去っていった。

 

***

 

「…触手は、意志の力で動かすものです。イトナ君に力や勝利への執着がある限り、

 

触手は強く癒着して離れません。

 

そうこうしている内に、肉体は負荷を受け続け、、衰弱して最後には死んでしまう。」

 

殺せんせーの話によると、イトナは今、生命の危機にあるらしい。それは…

 

「…それは、いくらなんでも可哀想だよね。」

 

「何とかならないの?」

 

皆は解決策を考える。けれど…

 

「でも何で強さや力を求めたかって原因が分からないと…。」

 

すると、

 

「けっ、理由なんてどうでも良いんだよ、人それぞれ悩みとか不安とかあるけどよ、

 

その内どうでも良くなるんだわ。俺らんとこでこいつの面倒見させろ。それで死んだらそこまでだ。」

 

男、寺坂、動く。

 

***

 

寺坂の馬鹿が、イトナがこうなった理由を説明しなかったので、ここで説明しよう。

 

堀部電子製作所。世界的にスマホの部品を提供していた町工場、イトナはそこの社長の息子だった。

 

しかし一昨年、負債を抱えて倒産、社長夫婦は雲隠れ。

 

イトナ1人が残されたのだった。

 

…「ごらんイトナ、この小さな町工場から、世界中に部品を提供してる。

 

ウチにしか作れない技術なんだ。勉強を重ねた腕利きの職人、研究を重ねた製造機器。

 

誠実にコツコツやっていけば、どんな大きな企業とも勝負出来る。」…

 

(そんなのは、まやかしだった。)

 

「どうして、ウチの技術を知ってる君らに辞められたら!」

 

「すいません社長、給料倍って言われたら…。」

 

「ウチらにも生活とか色々あるんで…。」

 

「…外国の企業だとよ、同じ部品をはるかに安い値段で作り始めた。

 

要は、金で技術を盗まれたのさ。あんな事されたらウチら町工場はひとたまりもない。」

 

(勉強も誠実も意味は無い。それを上回る、圧倒的な力の前では。)

 

「…すまないイトナ、叔父さんの家でお世話になりなさい。」

 

(そうして俺は、強さを求めるようになった。)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。