黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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41話 竹林の時間

夏休みも終わり、2学期の始業式。

 

心を切り替え、勉強も暗殺も新たなステージに。

 

殺せんせーの暗殺期限まで、あと6ヶ月。

 

すると…

 

「久しぶりだなE組ども。ま、お前らE組は大変だろーけどよ。」

 

「せいぜい頑張れよE組。キシシシシ。」

 

五英傑without浅野だ。

 

「うわー、出五(出鼻から五英傑)かあー、縁起悪いなあ。」

 

「しかしあいつら威勢良かったよねえ。1学期は悔しがってたのにさ。」

 

「さあ、何なんだろうな。」

 

そして始業式、表彰も終わり、何の問題も無く終わると思ったが…

 

「さて、式の終わりに一つ、お知らせがあります。」

 

お知らせ?一体なんだ?

 

「今日から、3年A組に新しい仲間が加わりました。」

 

何だそんな事か、どうでも…

 

しかし次の言葉は衝撃を与える。

 

「彼は1学期までE組にいました、しかしたゆまぬ努力により好成績を出し、本校舎見事復帰しました。

 

彼に喜びの言葉を聞きましょう。竹林 考太郎君!」

 

竹林が、A組に?

 

皆驚きを隠せない。

 

「僕は、約3ヶ月間E組にいました。その環境を一言で言うと…、

 

地獄でした。

 

やる気のないクラスメイト達、先生方にもサジを投げられ、怠けた代償と、自分の愚かさを思い知りました。

 

そして、本校舎に戻りたいと必死の思いで勉強しました。生活態度も改めました。

 

こうして戻ってこられてとても嬉しいです。今後は、E組に堕ちる事のないよう精進します。」

 

本校舎の奴らも沈黙している。その沈黙の中、浅野が拍手する。

 

「おめでとう、竹林君。」

 

その一言で空気が変わった。

 

「お帰り竹林!」

 

「凄いぞよく頑張った!」

 

「お前は違うと思ってた!」

 

次々と湧いてくる賞賛の言葉と拍手、会場が沸いた。

 

竹林が、彼が昨日とは別人のようだった。

 

始業式終了後

 

「何なんだよあいつ、100億のチャンス捨ててまで抜けるとか信じらんねー!」

 

前原が憤る。彼の怒りも無理はない。

 

何の説明もなしにいきなりあんなスピーチで抜けると言われたら不満だろう。

 

「ここの事地獄とかほざきやがった。言わされたにしたってあれはないだろ。」

 

内容も問題だ、少なくとも竹林に取って、あの場所が、E組が地獄ではなかったように見えたが。

 

まあ理事長の差し金だろうし、彼がE組を抜けるのは彼の自由だ。

 

「竹林君の成績が急上昇したのは事実だけど…、それは殺せんせーがE組で教えたからだと思う。

 

それすら忘れたというのなら…私は彼を軽蔑するな。」

 

片岡が言う。そういえば彼女も竹林と同程度の好成績だったな。

 

「とにかく、放課後あいつの所へ行くぞ、ああまで言われちゃ黙ってらんねー!」

 

という事で放課後竹林へ問いただすことに。

 

「君の進路選択は尊重するし、記憶消去も君を信用して行わない。

 

ただ、新クラスでも暗殺の事は漏らすなよ。」

 

「わかっていますよ、僕がそこまで愚かに見えますか?」

 

そう言って去る竹林。

 

(竹林考太郎。暗殺訓練も真面目にやってくれてはいたが、暗殺成績はE組最下位。

 

勉強もそうだ、要領が悪く…何というか、ガリ勉だった。)

 

「竹林君は勉強のやり方が分かっていないのです。量をこなせばいいと思っている典型例です。

 

彼の為に、彼が最小限の勉強時間で成績が伸びるよう私も最大限努力しましょう。

 

この3ヶ月、彼の成績を飛躍的にアップさせる。腕が鳴りますねえ。」

 

(その触手が鳴るわけないが…、それはともかく、その結果がこれだ、皮肉なものだ。)

 

一方理事長室で殺せんせーが理事長に問う。

 

「なぜ彼を…?」

 

「いつもやっている事ですよ、この時期に成績の良い生徒に本校舎復帰を打診する。

 

頑張って、結果が出れば報われる、弱者でも強者になれる。

 

あの挨拶の後の生徒たちの反応でわかるでしょう。何か間違った事を教えていますか?」

 

その言葉に一片の間違いもない。

 

「…間違っていません。」

 

だから殺せんせーは、引き下がるしかなかった。

 

そして放課後。

 

「説明してもらおうか竹林、一言もなしに抜けるなんて。」

 

磯貝が竹林に問い掛ける。

 

「何か事情があるんですよね。南の島でも竹林君いてくれて助かったし、

 

普段から一緒に楽しく過ごしていたじゃないですか!」

 

そして竹林との思い出を振り返る。ほとんどメイド関連だ。

 

「賞金100億、場合によっちゃ上乗せされるらしいよ、無欲だねえ竹林。」

 

カルマが煽るように言う。

 

「10億…。」

 

「え?」

 

何の事だ?

 

「せいぜい10億、僕が暗殺に成功したとして貰える金額だ。

 

僕1人での暗殺は無理だ。上手い事貢献できたとして、僕の貰える分け前はそれくらいだ。」

 

その言葉を聞き俺はこう言った。

 

「竹林、人間一生で稼ぐ金が平均3~4億と言われているんだ。10億あれば一生楽できる。

 

それにお前ほど医学知識があれば医者にだってなれるだろう。

 

そうすればお前は一生暮らせる金あった上で仕事に就ける、俺ならこんな有利な条件捨てないな。」

 

「うちの家系は代々病院経営をする医者なんだ、父も兄2人も東大医学部出身。

 

10億なんてうちの家庭では10数年程度働けば稼げる金なんだ。

 

『出来て当たり前』の家庭、うちでは出来ない僕は出来損ない扱い、家族として扱われない。

 

僕が10億手にしたとして、良かったな、出来損ないがラッキーで人生救われて、程度の認識さ。

 

昨日初めて成績の報告が出来たよ、その時の言葉が、首の皮一枚繋がったな、だよ。

 

その言葉のためにどれほど頑張ったか。僕にとっては賞金より家族に認められる方が大事なんだ。

裏切りも恩知らずも分かってるよ。ごめんね、君たちの暗殺成功を祈っているよ。」

 

家庭にはそれぞれの事情がある。それを他者が踏み荒らす事は出来ない、けれど…

 

「竹林、お前がE組を抜けるのは止めやしない。家庭の事情には踏み込まない。

 

だがこれだけは言っておく、世の中、認めてくれる家族すらいない家庭だってあるんだ。

 

お前は不幸じゃない、それに比べればな。それと…

 

E組がお前をここまで来させた、これだけは忘れるな。」

 

俺には、家族すらいない。誰も認めてくれない。

 

皆静まり返る。

 

すると神崎さんが呟く。

 

「親の鎖って、痛い場所に巻き付いて離れないの、だから引っ張るのはよくないよ。

 

彼は、そっとしといてあげよう。」

 

(僕達の何人かには、呪いがかけられている。その呪いに、竹林君が殺される気がした。

 

呪いの解き方を、学校の授業は教えてくれない。)

 

家族が居ない、そしてその理由を考えれば…、俺にも呪いがかかっている、と言えるだろう。

 

(E組トップクラスの成績の生徒が、自らの意思でE組を抜けA組に移る。彼らは思い知るでしょう。

自分達が、この学校では2軍、下手すればそれ以下の選手にすぎない事を。

 

烏間先生、あなたには都合が良いでしょう。暗殺だけに専念出来るのだから。)

 

「皆さん、おはようございます。」

 

真っ黒な殺せんせーが。

 

「何で黒いの?」

 

「急遽アフリカに行って日焼けしました。マサイ族と車内でメアド交換出来て良かったです。」

 

何だそのハイテクかローテクか分からん旅行は。

 

「もちろん彼のアフターケアの為。自らの意思でE組を抜けたのは止められませんが、

 

彼が新しい環境で、今後馴染めるかどうか、それを担任教師として見守る必要がある。

 

もちろん君達は普段通りの生活をして下さい。これは先生の役目です。」

 

「…。」

 

「見に行こうぜ、様子、暗殺も含め危なっかしいんだよあのオタクは。

 

同じターゲット殺した仲間だし、見捨てるわけにはいかないな。」

 

「竹ちゃんがA組に行くのは良いけど、理事長の洗脳でやな奴になったら嫌だな〜。」

 

皆竹林を思いやっている。

 

「ヌルフフフ、殺意が結ぶ絆ですねえ。」

 

3年A組にて

 

「授業の準備出来たか竹林、A組の先生は進み早いから気を付けろよ。」

 

「ああ、少し緊張するな。」

 

「君なら大丈夫だ竹林君、せっかく表舞台に戻って来られたんだ。これから頑張ろう。」

 

「あ、ありがとう、浅野君。」

 

そして始まるA組の授業。

 

教師は黒板に書いては消し、早口で説明する。

 

「出来ない奴をふるい落とす為の授業...に過ぎないな。」

 

竹林は呆然としている。

 

(おい見ろよ竹林の奴、手止まってるぜ。)

 

(そりゃそうだ、E組とはまるでペース違うもん。)

 

(やべ、もう板書消してる!)

 

(集中集中!)

 

それを見て竹林は思う。

 

(これがA組の授業?なんて非効率的なんだ、三角関数は要点を絞った方が分かりやすいのに、

 

こんな早口で書いては消し、出来ない人がふるい落とされるだけだ。)

 

竹林の脳裏に浮かんだのは、殺せんせーの授業。

 

「竹林君一押しのアニメ、面白いですねえ。)

 

「ええ、萌えネタは掘り尽くされたと思ったんですがねえ。」

 

「そこでまさかのプロ野球選手美少女化とは。竹林君の苦手な加法定理の解法を、

 

このアニメの二期OPの替え歌にしてみました。」

 

「二期とは分かってるじゃないですか。」

 

「当然です、生徒の好みを知るのは担任の役目です。

 

さあ歌って覚えますよ。」

 

(…酷く音痴だったから、あれはあれで覚えずらいけど、でも…。)

 

そして授業は終わる。

 

「なあ、放課後お茶でもしていかないか?」

 

と竹林が誘う。しかし、

 

「いや、無理に気使わなくても良いよ。俺らこの後塾だし。」

 

そう、A組でもほとんどは余裕が無い。いつも勉強に追われている。

 

余裕があるのは五英傑くらい。

 

「どうだい、A組の授業は、馬鹿げているだろう?」

 

後ろから声がする。

 

「君は…?」

 

「俺は三山、黒崎の旧友さ、あいつも良く言ってたな、こんな退屈な授業は無い。

 

俺もその通り、E組の授業の方がよっぽど良いんじゃないかと思うぜ?」

 

(黒崎の友人か…。そういえば彼は2年の頃A組にいたそうだ。)

 

「そんな事無いよ…と言いたい所だけど、実はそれを否定は出来ない。

 

実際E組の先生の方が分かりやすい。」

 

「ふーん、やっぱりな。そんでだ、黒崎は元気かい?」

 

「ああ、彼は元気だ。前より明るくなったような気がする、無愛想な所は変わらないけど。」

 

…余計な事は言うな。

 

「それは良かった。」

 

「所で君は、塾に行ったりはして無いのかい?」

 

「そんなもん行くだけ無駄さ。俺はA組から落ちないギリギリの成績を維持しとけば良いんだ。

 

ある程度勉強すればそれは出来る。」

 

三山は焦ってはいないようだった、かといって余裕は最低限しかないようだ。

 

…相変わらずだ。

 

「じゃあな。」

 

「ああ、」

 

***

 

俺は小学校頃先生から聞いたこんな話を思い出した。

 

「私の知り合いにね、私立の最難関校の先生がいるんだ。

 

その先生が言うにはね、今は生徒たちは皆塾通いが当たり前で、必死に勉強してる。

 

そういう生徒が集まってるから進学実績が出る訳で、別に学校が凄いわけじゃ無いそうだ、だから...

 

高い金出して塾に無理に通って私立中行くよりは、公立中でのんびり過ごした方が良いんじゃない?

 

黒崎程の学力なら。」

 

その先生の言葉が思い出される。今の受験競争と進学校の歪みの縮図、それが椚ヶ丘中学だった。




最後のくだりは、三者面談で実際に言われた事あります。
小学校を中学に置き換え、中学を高校に置き換えると。

結局ね、進学校に行けば無条件で学力が伸びる訳じゃないんです。
殺せんせーみたいな教師でもいない限り。

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