黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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南の島編、これで本筋は終了。ここまでほぼ毎日投稿、きつかった…

(ストックはもちろん無いです。)


37話 渚の時間

渚はただ、普通に歩く、目の前にいる標的を仕留める為に。

 

「渚、笑って歩いてる、まるでこの前と同じ…。」

 

「いや、どこか違う。」

 

渚はロヴロの教えを思い出す。

 

「必殺技、と言っても、必ず殺す技ではない。

 

優れた暗殺者なら、理想的状況なら必ず成功させる。

 

だが現実はそうはいかない。特に相手が手練の時、警戒され手が出せず、

 

こちらの存在を逆に察知され、戦闘に持ち込まれる。長引けば周囲に気付かれる。

 

そんなピンチに、必ず殺せる状況を作る。その場を『戦闘』から『暗殺』へと引き戻す技だ。」

 

少年よ、私が今行った事を再現してみろ。ノーモーションから、最速、最大音量で。」

 

「は、はい。」

 

渚はロヴロの前で手を思い切り叩く。しかしうまく当たらなかった。

 

「意外に上手く鳴らないだろう。日常でもまずやらない動きだ。

 

だからこそ…少年よ、必ず成功するように練習しておけ。」

 

「はい。でもこれって、相撲の猫騙し?」

 

「ああ、相撲の技術と無関係な筈のこの音は、しかも大抵音が上手く鳴らないにも関わらず、

 

敵の意識を真っ白にして隙を作る。相撲の世界でも、実際に何度も成功し勝負が動いた事がある。

ましてや君がいるのは殺し合いの場、負ければ即死の緊張は相撲の比じゃない。

 

極限まで敏感になった敵の意識を、音の爆弾で破裂させる。」

 

「でもそれだとナイフを手放さないと…。」

 

「それが良いのだ、手練である程、相手の動きを観察する。ならば常識外の行為を行えば虚を突ける。

 

タイミングはナイフの間合いの僅か外!接近する程敵の意識は集中する。

 

その意識ごと、ナイフを空中に置くようにして、そのまま…」

 

渚は鷹岡の眼前で手を強く叩いた。

 

鷹岡に強烈なショックが走り、一瞬体が麻痺する。

 

暗殺者はその一瞬を逃さない。スタンガンを抜くが早いが、相手の首元にそれを触れる。

 

「嘘だ…こんなガキに…二度も。」

 

鷹岡はその場に倒れ込んだ。その場の光景に皆声も出ない。

 

「トドメを刺せ渚、首元にたっぷり電流流してやれ。」

 

寺坂のその言葉を聞き、渚はスタンガンを持ち上げ、鷹岡の顎を突き出させる。

 

「殺意を教わった。抱いちゃいけない殺意と、その殺意から引き戻してくれる友達の大切さを。

 

殴られる痛みを、実戦の恐怖を。

 

酷い事をした人だけど、それとは別に、ちゃんと感謝を伝えなきゃと思った。

 

感謝を伝えるなら、そういう顔をすべきだと思った。だから、」

 

「やめろ、やめてくれ、その顔で終わらせる事だけは…」

 

「鷹岡先生、ありがとうございました。」

 

「やめろおおおおお!」

 

鷹岡はその場にドサリと崩れ落ちた。

 

すると

 

「よっしゃああ!ボス撃破!」

 

皆が歓声を上げた。

 

「よくやってくれました渚君、今回ばかりはどうなるかと。」

 

「ああ、よくやった…渚。お前は立派なアサシンだな。」

 

「いやあ、教わった事をやっただけで…」

 

渚は恐縮したように謙遜する。とてもさっき強敵を倒した少年とは思えない。

 

そこがまた、渚の怖さ…

 

いや、今はそれを考えるのは止めよう。

 

「とにかく、今は薬の事だ。その分じゃ絶対足りない。」

 

すると烏間先生が答える。

 

「下にいた毒使いに話を聞こう、それと俺はヘリを呼ぶ。」

 

しかし、

 

「ヘン、てめーらに薬なんて必要ねーよ。ガキ共、このまま生きて帰れると思ったのかよ。」

 

あの3人組が…

 

皆戦闘態勢を取る。そして烏間先生が口を開いた。

 

「お前達の雇い主は既に倒した、戦う理由はない。俺も十分回復したし、生徒達も強い。

 

これ以上被害が出る事はやめにしないか?」

 

そして殺し屋の答えは…

 

「ん、いーよ。」

 

「諦め悪いな…って、え?」

 

「ボスの敵討ちは契約に含まれてねえよ。それに今言ったろ?お前らに薬なんて必要無いって。」

 

そう言うとスモッグはガラス瓶を取り出す。

 

「お前らに盛ったのはこっち、食中毒菌を改良したのだ。

 

あと3時間は猛威を振るうが、それを過ぎれば急速に活性を失う。

 

ボスに盛れと言われたのはこっち、これ使えばお前ら本当にやばかったけどな。」

 

「実行前に3人で話し合ったぬ。ボスの交渉期限は1時間。だったら殺すウイルスじゃなくても

 

交渉は出来るぬ。」

 

「交渉法に合わせた毒を持ってるからな、お前らが身の危険を感じるには十分だったろう?」

 

そう、殺し屋達は交渉期限から殺す必要は無いと判断しウイルスではなくただの食中毒菌を盛った。

 

俺の予想が当たったようだ。ウイルスなんてこけ脅しだと。

 

「でもさ、お金貰ってるのにそんなことして良いの?命令違反でしょ。」

 

岡野が訊く。確かにそれは契約違反だ。報酬を得るプロとして良いのか?

 

だが…

 

「アホか、プロが何でも金で動くと思うな。

 

ボスの話を聞く限り、最初から薬を爆破するつもりだったらしい。」

 

「冷静に天秤にかけただけぬ。命令違反でプロとしての評価が下がるか、

 

カタギの中学生大量に殺した実行犯になるか。どっちがリスクが高いかをぬ。」

 

じゃあつまり…

 

「そう言うこった。残念だがお前らは誰1人死にやしねえ。その錠剤飲ましてやんな。

 

飲む前より元気になったと感謝状が届くほどだ。」

 

そう言ってスモッグは錠剤を投げてよこした。アフターケアも万全だ。

 

「…信用するのは生徒達が回復してからだ、それまで話は聞くし拘束もする。」

 

烏間先生がそう言う。

 

「まあしゃあねーな。来週の仕事の前には終わらせろよ。」

 

そうして見張りや鷹岡が次々と連行される、そしておじさんぬもヘリに向かう。

 

「ねーリベンジマッチしないのおじさんぬ。俺の事殺したい程恨んで無い?」

 

カルマが煽る。しかし…

 

「殺したいのはやまやまだが、俺は一度も私怨で人を殺した事は無いぬ。

 

だからいつかお前の暗殺依頼が来るのを待つぬ。殺されたかったら狙われるくらいの人物になれ。」

 

そう言っておじさんぬもといグリップはカルマの頭に手を置いた。

 

「そう言うこったガキ共!殺されるくらいの大物になれ!

 

そん時はプロの殺し屋のフルコースをお見舞いしてやんよ!」

 

そう言って殺し屋達は去って行った。彼等なりのエールを残し。

 

「なんか、あの3人には勝ったのに勝った気しないね。」

 

「言い回しがずるいんだよ。こっちがあやされてるみたいに纏めやがった。年季が違うなあ。」

 

やはりプロの殺し屋は俺らより一歩上を行く。

 

一方ビッチ先生も

 

(バイブ3回、潜入完了の合図ね、やるじゃない。)

 

「ねえ、麓の海で夜景を見たいな。誰か案内して下さらない?」

 

男達はこぞって手を挙げる。

 

そういえば…

 

「ヴァンパイアはどうしたんですか烏間先生!」

 

ヴァンパイアの姿がいない。一体どこへ?

 

「殺し屋達が屋上へ向かった時には、いなかったそうだ。」

 

「何?じゃあ奴は一体どこへ…。」

 

ヴァンパイアは何処かへ消えた。これは謎だが、今はそんな事より、

 

ゆっくり休もう。

 

「寺坂君、黒崎、ありがとう、あのとき声を掛けてくれて。道を誤る所だった。」

 

渚が礼を言う。

 

「ふん、勘違いすんな。1人減ったらタコ殺す確率下がるだろうが。」

 

「寺坂は素直じゃないな。いや渚、俺もそうなりかけた。だからこそあの言葉が言えたんだ。

 

でも、礼を言うのはこっちだ。渚がいなきゃ無事俺らは此処にはいない。」

 

「うん、ごめん…」

 

そして、

 

「黒崎君、傷は大丈夫?」

 

茅野が俺の怪我を心配する。無理も無い。俺には10箇所以上傷がある。

 

「ああ、まだちょっと痛いが、まあ何とか動かせはするさ。それよりさ、茅野、ありがとう。」

 

「…え?」

 

「あの時さ、茅野が止めてくれなかったら、どうなっていたか。

 

茅野の一声が、俺を正気に引き戻してくれた。本当に…ありがとう。」

 

「そんな。私はただ、止めたかっただけ。それに、黒崎くんは私を何度も助けてくれた。

 

その恩返しというか、さ。」

 

茅野はそう言って微笑んだ。いつでも明るく振る舞う茅野。そんな彼女が眩しく感じる事もある。

そして今回俺を助けてくれた事、感謝しきれない程だ。

 

だからこそ、無口で俺とは釣り合わないのでは無いか…

 

そう思ってしまう。いや待て、釣り合わないなどと何故考える必要がある…?

 

そもそも…。いや止めよう、これ以上考えても堂々巡りになるだけだ。

 

そして俺たちは皆の待つホテルに戻り、もう大丈夫な事を伝え、

 

それぞれがそれぞれの疲れで泥のように眠り、目覚めたのは、次の日の夕方だった。

皆は海辺に集まる。

 

「皆おはよう、結局ジャージなんだね。」

 

「うん、客いないし、これが一番動きやすいしね。」

 

「全員の私服描写するのエグいしねー。特にうちの駄作者には。」

 

「不破さん?」

 

そういえば烏間先生は?

 

「不眠不休で指揮とってる。対先生弾の中に詰め込んで、爆破するんだって。」

 

「すげーな、あと十数年で俺らはあんな超人になれんのかよ。」

 

「まあなれないだろうな。」

 

そしていよいよ計画が実行される。

 

「爆発したぞ!」

 

しかし、結果は皆わかっていた。

 

爆音がし、俺らの背後に現れるは、黄色い触手の殺せんせーだった。

 

「ヌルフフフ、先生の不甲斐なさから危険な目に合わせてしまいました。」

 

やはり殺せんせーには触手が似合う。

 


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