そして黒崎とヴァンパイアの戦いが始まった。
黒崎の手には寺坂のスタンガンが。
「ヘン、そんなおもちゃで俺を倒せるとでも?」
ヴァンパイアは本物のナイフを手にする。
「さあ、行くぜ!」
ヴァンパイアがナイフを振るう。
黒崎はそれを避ける。
「フン、小賢しい。」
黒崎は的確に攻撃を避け、捌き、かわし続ける。
「あいつ、いつの間にあんな力を…。」
皆は驚いている。
「希望者には放課後護身術を教えている。彼は特別覚えるのが早くてな。」
しかし、
「甘い!」
ナイフの先が黒崎の腕を切る。
「くっ。」
「黒崎君!」
黒崎も抗戦するが、次第にヴァンパイアに押されている。
その後も戦っている内に、黒崎の傷は増えていった。
「さあ、てめえの大事なモノを頂いてやる!」
黒崎はかわし、避け続けるが、それも限界がある。
黒崎も何度か攻撃を仕掛けるが。一方ヴァンパイアに黒崎の攻撃は当たらなかった。
「この俺を舐めやがって、テメーみたいな中坊如きが俺に勝てる訳ねーんだよ。」
黒崎は呼吸も荒く体力を消耗していた。明らかに黒崎に勝ち目は無い。
そして、
「ぐはっ!」
ヴァンパイアが黒崎の腹部を思い切り蹴る。
「さあ、これで終わりだ。お前の大事な物を頂こうか。」
そう言ってヴァンパイアはナイフをかざす。
「そうそう、お前の顔、どっかで見た事あると思ってたんだ。」
「嘘だろ…俺は…お前なんて…知らないぞ。」
黒崎は息も絶え絶えに言う。
「戦ってる途中で思い出した!お前、俺が一番最初に殺したターゲットの2人に、よく顔が似てやがる!
さてはあいつらの息子か?」
「そのターゲットの名前は…何だ?」
黒崎が問う。だが答えは明白だ。
「よくは覚えていないが…そう、黒崎と言ったかな…?」
「!!」
皆が驚いている。無理もない。この殺し屋が黒崎の両親を殺したんだから。
「そうか、お前が…俺の両親を…殺したのか。俺から…何もかも…奪ったのか。」
黒崎は今までより増して強烈な殺気を放つ。
「おいおい、俺は依頼を引き受けたまでだ。悪く思うなよ。しかしたまんなかったなあ。
命を奪う感覚は。」
「お前が両親を殺したというのなら、お前は、この…両親の形見で…殺してやる!」
黒崎はナイフを取り出す。折りたたみ式のバタフライナイフだが、刃渡りは長く刃先は鋭かった。
「黒崎、なんでナイフなんか持ってやがんだ?」
寺坂が言う。そうだ、普通は中学生がナイフなんか持たない。
「ああ、念のためさ。島の下調べをした時、こんな情報があったんだ。
この島は警察からもマークされている危険な島だって。
まさか使うとは思わなかったがな。」
「じゃあ、両親の形見って?」
「両親が死ぬ少し前、俺に誕生日プレゼントとしてくれたんだよ。
お守り代わりにな。だから両親の仇はこのナイフで取る!」
「へっ、その身体で何が出来る、このまま俺に大人しくやられるのがオチ…」
ヴァンパイアがそう言いかけた所で、黒崎はナイフを振るった。
「死ね。」
その時、黒崎の態度が豹変した。さっきまでは殺気を発しながらも冷静に動いていた黒崎。
だが、その時、黒崎の目は血走り、狂気の笑みを浮かべていた。
ヴァンパイアは慌ててかわす。
「まさかまだ戦えるとはなあ。だが良い、今度こそ容赦しないで叩き潰してやる!」
そう言って攻撃するヴァンパイア。だがしかし、黒崎は全ての攻撃を避け、
ヴァンパイアに容赦なく攻撃をする。
「死ねえ!死ねえ!死ねえ!」
(こいつ、さっきより明らかに動きが速くなってやがる。)
黒崎は先ほどより明らかにスピードも速く、攻撃は鋭くなっている。
その動きは洗練されていて、まるで戦場に死を呼ぶ死神のようだった。
「どういう事だ?彼の動きが明らかに今までとは違う、まるで性格も能力も別人のようだ。」
烏間先生が疑問に思う。
「恐らく、あれはゾーン状態と呼ばれるものでしょう。ピンチになると普段以上に力が出る。
限界を超えられる。誰だって持っている能力ですが、
彼はその度合いが強いんでしょうね。今の彼はプロの殺し屋にも引けを取らない。
しかしこれにも弱点があります。」
「死ねえ!死ねえ!」
黒崎はナイフを振るい、攻撃を続ける。
(くそ、俺が、こんなガキに…押される?)
さっきまで劣勢で、止めを刺されかけていた黒崎が、今、殺し屋ヴァンパイアを追い詰めている。
敵を追い詰めてもなお、黒崎は狂気の笑みを浮かべていた。
一方ヴァンパイアの目には恐怖が見て取れる。
それはプロの殺し屋が、数ヶ月暗殺訓練を受けただけの中学生に負ける恐怖か。
それとも死神のように死を呼ぶ少年に魂を狩られる恐怖か。
最初は前者を感じていたのだろう。しかし、後にその恐怖は後者へ変わった。
今、ヴァンパイアは確実に生命の危機に晒されている。
「死神野郎があああっ!」
恐怖のあまりそう叫んだヴァンパイアに、先程までの威勢は何処にもない。
そして黒崎は、もう片方の手に持っていたスタンガンを振るう。
ついにそれは、ヴァンパイアの首元に触れるのだった。
「ぐはっ!」
そう言ってヴァンパイアは崩れ落ちた。
「くそ、この俺が、負けるなどと…。」
「驚いたな、スタンガンを喰らってまだ意識があるのか。」
黒崎がそう言う、そう、彼はあれ程の電流を浴びてなお、体は麻痺していたが意識はあった。
「さあ皆、こいつを拘束しろ。また目覚めたら大変だからな。」
皆が一斉にヴァンパイアを簀巻きにする。
しかし、皆がその場の異様な光景に唖然としていた。
プロの殺し屋を圧倒する中学生。味方である筈の生徒達、そして烏間先生までもが、
彼に恐怖を抱いた。
(まさかあれ程の強さを隠し持っていたとは…。黒崎翔太、彼の強さは一体…。)
「さあ、皆さん、次の階へ…。」
殺せんせーが決まりが悪そうに小さな声で言うが、皆動こうとはしなかった。
その場の異様な状況に呑まれていた。
「‼︎」
黒崎は、ヴァンパイアにナイフを突き付けたのだ。
「俺は殺すと言ったんだ。両親の仇を取ると。さあヴァンパイア。貴様の大事な物とやらを奪ってやる。」
「や、やめろおおおお!」
ヴァンパイアが恐怖のあまり叫ぶ。
「やめなさい黒崎君!人を殺す事を先生は許しません!」
殺せんせーが制止する。しかし、
「許さない?一歩たりとも動けないせんせーが言っても説得力ねーよ。
その状態で何が出来る?」
黒崎は冷淡にそう言った。普段の彼からは考えられない言動だ。
「そんな事は関係ありません!それに黒崎君!君がここで人を殺せば、
君はその後の将来も失う事になる!こんな男の為に、将来を失いたくはないでしょう!」
殺せんせーは尚必死に止める。
「馬鹿馬鹿しい。このホテルは警察すら迂闊に手を出せないホテルなんだろう?
俺が殺しても捜査すら出来やしない。それに向こうは殺す気で来てるんだ。
こちらとて殺す事も必要だ。それに、こいつは俺から何もかも奪ったんだ!
この男のせいで、俺は、俺は…
この罪は、絶対に償わせる、死をもってな!殺せんせー、あんたにこの気持ちが分かるか?
さあ終わりだ、覚悟は出来たか?人殺し。」
するとヴァンパイアは叫ぶ。
「やめろおおおお!頼む、命だけは、命だけは!」
必死の形相で命乞いをする。
「命乞いか、見苦しい、貴様のような屑は社会の害悪になるだけだ。
大人しくここで死ね。」
「うああああああ!」
黒崎はナイフを深く刺し、命を奪おうとした。その時、
「もうやめて!」
1人の少女が叫んだ。