黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

37 / 109
31話 カルマの時間 2時間目

「だめだ、歩けるフリをするのが精一杯だ。30分以内に戦闘ができる状態に戻るかどうか…」

 

磯貝の肩を借りながら歩く烏間先生。毒ガスの影響だ。

 

ここで最大戦力を失ったのは大きな痛手だ。

 

「ていうか象でも気絶するガス浴びて歩ける方がおかしいって。」

 

そう考えればそうだ。烏間先生は身体能力も体の丈夫さも人外と言えるだろう。

 

そしてここは3階、最上階の10階まではまだまだ先だ。

 

だというのに、烏間先生やビッチ先生にはもう頼れない。そして殺せんせーにも。

 

短い間に沢山見てきた。経験と知識の豊富なプロの腕前。

 

そんな人達に、俺らだけで勝てるのか?

 

「いやあ、これぞ夏休みって感じですねえ。」

 

殺せんせーが能天気に言う。随分と気楽そうだ。絶対安全だからか?本当に腹立つ。

 

「何のんきに言ってんだ!安全な形態だからって!」

 

「渚、振り回して酔わせろ。」

 

渚が振り回す。

 

「にゅやああ!」

 

するとカルマが言う。

 

「よし寺坂。これねじ込むからパンツ下ろしてケツ開いて。」

 

「死ぬわ!」

 

皆呆れる。やはりカルマはゲスい。最もそれが彼の個性なのだろうか。

 

そして寺坂は叫ぶ。

 

「んで、これぞ夏休みってどういう事だ殺せんせー。」

 

「夏休みとは、先生の手の届かない場所で自分たちだけで行動する場所。

 

先生と生徒は馴れ合いではありません。大丈夫、普段の体育で学んだ事を活かせば、

 

恐れる事はそう無いはずです。君達ならやり遂げられる。この暗殺夏休みを。」

 

殺せんせーの教師としての特徴、学習面は理解出来ずとも手厚く教えてくれるが、

 

体育では容赦なく教え、マッハ20を基準とした動きをさせようとする。

 

だが今は仕方がない。後戻りができない以上やるしか無い。

 

一方最上階にて

 

「濃厚な魚介ダシにたっぷりのネギ、そして銃!」

 

ラーメンに銃を突っ込む。端からみれば、いやどう見ても異常である。

 

「つけ銃うめえ。銃身内に絡むスープがたまらねえ。」

 

「おい、見てるこっちがヒヤヒヤするぜ、弾入りだろう、その銃。」

 

ボスと呼ばれた男がそう言う。

 

「安心してください、ヘマはしないっス、撃つときにも支障は無いし、

 

ちゃんと毎晩我が子のように手入れしてるっス。

 

その日一番美味い銃が、その日一番手に馴染む、俺の経験則ってヤツですわ。」

 

殺し屋としての拘りというか、流儀というか、そういった類のものだろう。

 

ガストロは銃身をくわえながらそう言った。

 

「使い捨ての鉄砲玉ならいざ知らず、俺らみたいな経験を重ねたプロは、何かしらの拘りが出るっス。」

 

「ほう、他の三人もそうなのか?」

 

「ええ、スモッグは毒ガスの洗練さに拘るあまり、専用の研究室まで作る始末。

 

それとグリップは、ちょいと殺し屋の中でも変わってまして、

 

そして最後の一人、『ヴァンパイア』という奴は、何でも…。」

 

ホテルの通路を行く皆。しかしそこで気配を感じ止まる。

 

窓に男が寄りかかっていた。鋭い目、その雰囲気。

 

「どう見ても殺る側の人間だろ。」

 

「うん、流石に分かるようになってきた。」

 

するとグリップという男は窓ガラスを割った。それも素手でだ。

 

恐らくは素手の戦術を極めた男だな、俺はそう予想をつけた。

 

「つまらぬ、」

 

男が言う。

 

「足音を聞く限り、強い、と思える奴が1人もいないぬ。精鋭部隊出身の引率の教師もいるはずなのにぬ。

 

大方スモッグのガスにやられたようだぬ。半ば相打ちと言ったところかぬ。」

 

それを聞いて皆が思った事がある。だが皆言い出せなかった。

 

「ぬ、多くね?おじさん。」

 

カルマが言った。

 

(よくぞ言ったカルマ!)皆そう思った。

 

「ぬをつけると侍風の口調になると小耳に挟んだぬ。カッコよさそうだから試して見たぬ。」

 

そうか、外国人か。外国人は日本の文化に憧れる事があるというから、その類だろう。

 

「間違っているならそれでもいいぬ。お前ら全員殺してから訂正すれば恥にはならぬ。」

 

そういって腕を鳴らす。

 

間違っているし今から訂正しても遅いと思うが、それは今は関係無い。

 

「素手、それが貴方の暗殺武器ですか。」

「ああ、一見威力は低そうに見えるが、こう見えて身体検査に引っかからない利点は大きいぬ。

 

振り向きざま頸椎を一捻り。その気になれば頭蓋骨だって割れるぬ。」

 

それを聞いて岡野が怯え頭をおさえる。

 

「だが面白いものでぬ。暗殺の力を磨くほど暗殺以外で試したくなる。すなわち格闘。

 

正面からの勝負ぬ。だが今は面白そうな奴はいないぬ。仕方ないぬ。ボスと仲間呼んで皆殺しぬ。」

 

そういってグリップは携帯を取る、しかしそれをカルマが植木鉢を使ってグリップの腕を叩き、

 

携帯を落とす。

 

「ねえおじさんぬ、意外とプロってフツーなんだね。ガラスとか頭蓋骨とか俺でも割れるよ。

 

それに速攻仲間呼んじゃう辺り、ひょっとしておじさんぬ、中坊とタイマン張るのも怖いの?」

 

カルマがそう言って挑発し、戦闘態勢を取る。どうやらグリップと戦うようだ。

 

「よせ、危険だ!」

 

烏間先生が止めようとする。無理も無い。相手はプロの殺し屋。危険なのは確かだ。

 

しかし、

 

「いや、彼のアゴが引けてます。今までの彼なら余裕綽々にアゴを出して見下してたでしょうが、

 

今は相手を正面から見定め観察し警戒しています。テスト以来鳴りを潜めていましたが、

 

敗北を元にしっかり学んだようですね。

 

思い切り自分の力をぶつけなさい!立ちはだかる大人の壁に!」

 

「いいだろう、試してやるぬ。」

 

グリップは受けて立つ。二人が向き合う。

 

カルマ対グリップ 開始。

 

 

そして開始早々カルマが植木鉢をグリップに振りかざす。

 

しかしそれを受け止め潰すグリップ

 

「柔い。もっと頑丈な武器を探すぬ。」

 

カルマが答える

 

「必要無いね。」

 

恐らく下手に武器を使えばやられるので防御中心に戦い相手の隙を突くのだろう。

 

それにカルマの事だ、秘密兵器の一つや二つは用意しているのだろう。

 

そしてグリップがカルマを掴もうとする。

 

しかしそれを避け、捌くカルマ。

 

(相手は頭蓋骨だって潰せる握力。一度でも掴まれたらゲームオーバーの無理ゲーだけど、

 

立場が逆なだけでいつもやってんだよね。その無理ゲー。)

 

「凄い、全部避けるか捌くかしてる。」

 

そしてかわし続けるカルマ。

 

(殺し屋に取って防御技術は重要度が低い。そんな技術が必要になる場面では暗殺は終わりも同然だからだ。

 

だから教えていない。さては、目で盗んで覚えたな。

 

やはり赤羽業、戦闘のセンスはE組でも頭一つ抜けている。)

 

あの防御技術を目で盗んで覚えるなど、並大抵の能力では出来ない事だ。

 

彼の非常に優れたセンスが見て取れる。だが相手はプロ。

 

(避けられるけど、こっちから攻めたら確実に捕まる。どうしようかな〜。)

 

一方カルマも攻撃の糸口を見出せずにいた。

 

「どうしたぬ?逃げるばかりでは抜け出せないぬ。」

 

グリップがそう言う。このままでは永久に終わらない。

 

「いやあ〜、俺が引きつけるだけ引きつけといて、その隙にみんなを先に行かせるというのもアリかなって。」

 

カルマはそう言う。

 

しかし、

 

「安心しなよ、そんな狡い事はしない。あんたに合わせて正々堂々行かせてもらうよ。

 

今度はこっちから、さあ決着つけよう。」

 

「いい顔だな少年戦士よ、お前とならいい戦いが出来そうぬ。暗殺稼業では味わえないフェアな戦いが。」

 

そして二人は闘い始める。

 

しかし俺なら安心出来ないな。カルマが正々堂々と戦うなんて信じられない。

 

カルマの攻撃をグリップが受け止める。

 

カルマが積極的に攻める、そしてカルマの蹴りが膝に当たりグリップが背を向ける。

 

その隙にカルマが蹴りかかる。しかし

 

シュー

 

グリップは振り向きざま毒ガスを噴射。カルマはあっけなく倒れた。

 

そして頭蓋骨を掴む。

 

「一丁上がりぬ。スモッグの奴の毒ガス、一個持っておいて正解だったぬ。」

 

なんと毒ガスを隠し持っていた。

 

「きったねー、そんなモン隠し持っておいて何がフェアだよ!」

 

吉田が叫ぶ、しかし無駄だ。

 

「俺は一度も素手だけとは言って無いぬ。拘ることに拘り過ぎない。

 

これもこの業界で長くやっていくコツぬ。至近距離からの毒ガス噴射、予期しなければ絶対防げぬ。」

 

そしてカルマに危機が!

 

と思いきや

 

「じゃあ予期してれば防げるって事だよね。」

 

そう言ってカルマが毒ガスを噴射する。

 

「奇遇だね、二人とも同じ事考えてた。」

 

「なぜ、お前がそれを持っているぬ、しかも俺の毒ガスを吸って無いぬ?

 

ぬうううう!」

 

そう言ってグリップはカルマに襲いかかる。しかしそれを受け止めるカルマ。

 

そして倒す!

 

「おい寺坂早く早く、ガムテープ持ってきてこいつ縛って、人数無いとこんな化け物相手出来ない。」

 

「お、おう。確かに、テメーが正々堂々タイマンとか絶対無いわな。」

 

俺の予想通り、カルマは秘密兵器を隠し持っていた。こいつに正々堂々なんて言葉は通じない。

 

皆グリップを押さえつけ、縛り始める。

 

「毒使いのおっさんからくすねたんだ。これ使えるね。使い捨てなのがもったい無いくらい。」

 

カルマが悪魔のような顔でそう笑う。

 

「何故、毒ガスが分かったぬ…」

 

グリップがカルマに問う。

 

「とーぜんしょ。素手以外の全部警戒してたよ。素手の戦いしたかったのは本当だろうけど、

 

この状況で素手に拘るのはプロじゃ無い。あんたのプロ意識を信じたんだ。」

 

そう、グリップのプロの意識を信じた。つまり相手の戦術を考え、警戒した。

 

「カルマ君、変わったな。良い感じに。」

 

そう、決して勝負で油断しなくなったのだ。

 

「大きな敗北を経験した者は、弱者だって頑張り努力していると気づくようになる。

 

そうすれば必然的に、相手の能力や戦法をよく観察するようになる。

 

敗北を糧に大きく成長しましたね、カルマ君は。

 

相手に敬意を払い警戒できる。君は将来大物になります。」

 

「負けはしたが、良い時間を過ごせたぬ、少年戦士よ。」

 

グリップがそう呟く、カルマをしっかり認めたようだ。

 

「え、何いってんの?楽しいのこれからじゃん。」

 

カルマはわさびとからしを用意する。まさか…

 

「さっきまで警戒してたけど、この状況じゃ警戒も何も無いよね。

 

さあおじさんぬ、ここからがプロの腕前の見せ所だよ?」

 

「カルマ君、成長したんですかねえ?先が思いやられます。」

 

頼むからカルマ、その頭脳、犯罪には悪用しないでくれ。

 

 

 

場所は再びホテルの最上階へ。

 

ボスと呼ばれた男がモニターの様子を眺める。

 

「ククク、経験を重ねたプロには拘りがある、か。」

 

男はガストロの言葉を思い出す。

 

「グリップはちょっと変わってまして、素手で暗殺をやるっす。そのためにあらゆる拳法や武道をやったとか。

 

そして最後の一人、『ヴァンパイア』という奴なんですが…、こいつは仲間内でもやばい奴として噂っす。

 

なんでも殺し屋になった理由が…。」

 

「『普通は人を殺せば犯罪者だ。だが殺し屋として人を殺せば名声と報酬が手に入る。』か。

 

ケッ、なかなかやべえ奴じゃねーか。まあ、俺が言えたこっちゃねーけどな。

 

何はともあれ、任務さえ果たしてくれれば十分だ。」

 

ボスと呼ばれた男はそう言いながら高笑いした。

 




もうすぐオリジナルストーリーです!黒崎の過去が少し判明します。ぜひ楽しみに。

と言いたい所だが文才は無いので期待はほどほどに。

訂正 3話後でした。申し訳ありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。