黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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27話 いきものの時間

Side渚

 

夏休みが始まり、学校から解き放たれてフリーダム、と思いきや

 

「何で学校に来てるのかな僕たち。しかも早朝に。」

 

「いやあ、皆の前で昆虫採集とか恥ずかしいだろ?俺街育ちだから、こういうの憧れててさ。

 

カルマと黒崎がたまたま虫見つけたっていうからさ。」

 

杉野と僕、前原くんは昆虫採集をしている。

 

(忌み嫌う筈だったこの隔離校舎。今まで気付かなかった色んな事を教えてくれる。

 

何でこんな居心地良いんだろう。)

 

「しっかし前原まで来るなんて意外だなあ。こういうの興味ないかと思ったぜ。」

 

確かに、前原くんの興味のほとんどは女子とデートすることじゃないの?

 

昆虫採集している暇があったらナンパしそうな物だが…

 

「今度の暗殺は南国リゾートでやるわけじゃん。そしたら何か足りないと思わないか?」

 

皆が何?と疑問に思うと前原くんはこう言った。

 

「金だよ!水着で泳ぐ綺麗なちゃんねー落とす為には財力が不可欠!

 

こんなんじゃ駄目だけど、オオクワガタ?あれなんか数万円するらしいじゃん!

 

ネトオクで売って大儲け。最低でもディナーとご休憩場所の料金は確保するんだ!」

 

「前原の奴、15歳の旅行プランとは思えねーな。」

 

「うん、旅の目的忘れてそう。」

 

「ダメダメ〜、オオクワはもう古いよ〜。」

 

「倉橋!」

 

「おっは〜。みんなもおこづかい稼ぎに来たんだね〜。」

 

倉橋さんが木の上から屈託の無い笑顔でそういった。彼女も昆虫採集をしているようだ。

 

「倉橋、オオクワが古いってどういう事だ?」

 

「えーとね〜、私達が生まれた頃は凄い値段だったらしいけど、人工繁殖法が確立されちゃって、

大量に出回って値崩れしたらしいの。」

 

「そんなあー。一クワ一ちゃんねー位の相場だと思ってたのに。」

 

「いやいや、今はちゃんねーの方が高いと思うよ。」

 

「倉橋は昆虫好きなのか?」

 

「うん、いきものは全部好き〜。」

 

天真爛漫な倉橋さんは、生物の話題にめっぽう強い。ゲス方向に傾いていた男子パーティには、

 

心強い助っ人だ。

 

「せっかくだからみんなも一緒に捕まえよう!人数多い方が確実だよ!」

 

そして裏山には沢山のトラップが仕掛けられていた。

 

「へえ、これお前が仕掛けたのか?」

 

「うん、手作りのトラップだよ。昨日のうちに仕掛けといたんだ!

 

20個くらい仕掛けたから、一人あたり千円は稼げるよ。」

 

「じゃあおこづかい稼ぎには丁度いいな。」

 

(探してたアレが見つかるといいな〜。)

 

そう考えていた倉橋さんの上から声がした。

 

「効率の悪いトラップだな。それでもお前らE組か?」

 

「岡島?」

 

エロ本片手に木の上に居座るは岡島くんだ。

 

「セコセコ千円稼いでる場合か?俺が狙うのは当然100億さ。」

 

「100億ってまさか…」

 

「ああ、そうだよ。南の島で暗殺するって予定だから、それまでは殺せんせーも油断してるはず。

 

そこを狙うのさ。」

 

すると大量のエロ本の上でエロ本を読む殺せんせー。思い切り夢中になっている。

 

アレが教師なの?嘆かわしいなあ。

 

「くっくっく、かかってる。俺の仕掛けたエロ本トラップに。」

 

「すげえ、スピード自慢の殺せんせーが微動だにせず見入っている。」

 

「よほど好みのエロ本なんだな。」

 

「ていうか何だあのカブトムシのコスプレは?あれで擬態してるつもりか嘆かわしい。」

 

「どの山にも存在するんだ。エロ本廃棄場所がよ。そこで夢を拾った子供が、

 

大人になったら夢を捨てていく。そうやって夢は受け継がれていくんだ。」

 

ゴミは資源ゴミの日に出そうよ…

 

「丁度良い手伝え、俺らのエロの力で地球を救おうぜ。」

 

「パーティが致命的にゲスくなった…。」

 

「ずいぶん研究したんだぜあいつの好みを。俺だって買えないから拾い集めてな。」

 

「え?殺せんせー巨乳なら何でも良いんじゃ?」

 

「現実ではな。だがエロ本は夢だ、人はそこに理想を求める。

 

日ごとに本を入れ替えつぶさに観察したのさ。ちょっとの違いで反応が違う。

 

お前のトラップと同じだ倉橋。獲物が長時間夢中になるように研究するだろう?

 

俺はエロいさ。蔑む奴はそれでも結構。でも誰よりエロい俺だから分かるんだ。

 

エロは、世界を救えるってー。」

 

「な、何かカッコイイ!」

 

「エロ本の下に対先生弾を繋ぎ合わせたネットを仕込んだ。殺るぜ。

 

誰かこのロープを切れ、そうすれば罠が発動する。そして俺がトドメを刺す!」

 

どんな物でも研ぎ澄ませれば刃に成る。岡島君のエロの刃が、殺せんせーに届くかもしれない。

 

みょーん

 

「な、何だ!急に目がみょーんって。」

 

「あれはどんなのを見た時の反応だ?データにないぞ!」

 

「ヌルフフフ、見つけました。」

 

そう言って殺せんせーはマッハで触手を動かし何かを捕まえた。

 

「ミヤマクワガタです、しかも目の色…」

 

「白なの殺せんせー!」

 

倉橋さんが駆け寄る。

 

「ええ、倉橋さん。ビンゴですよ。」

 

「すっごーい!本当にこの山にいたんだ。」

 

「何だか知らんが、女子中学生とカブトムシがエロ本の上で飛び跳ねてるのは凄い光景だ。」

 

その言葉で気づいた殺せんせー。

 

「恥ずかしい…教育者としてあるまじき姿を見せてしまった。ワナは分かってましたが、

 

どんどん好みになる本の誘惑に耐えられず…」

 

「すんなりバレてた!」

 

「でもさー、なんでミヤマクワガタ?オオクワより安そうだけど?」

 

「最近はミヤマの方が高いんだ。まだ繁殖難しいから。」

 

「しかもこのミヤマクワガタ、目が白いです。アルビノ個体については説明しましたね?

 

体が白くなるあれです。ミヤマクワガタはそれが目にだけ現れるのです。

 

天然ミヤマのホワイトアイは物凄く貴重。学術的な価値すらあり、売れば数十万は下らないでしょう。」

 

そこで倉橋さんが、

 

「ゲスいみんな〜。これ欲しい人手挙げて〜!」

 

「欲しい!」

 

全員が手を挙げた。

 

殺しもエロも生き物も、夏休みの学校は発見がいっぱい。

 

***

 

Side黒崎

 

「ていう事があったんだ。」

 

「良かったじゃん。結局そのミヤマクワガタはどうしたんだ?」

 

「ああ、倉橋さんがしばらく飼うって。」

 

「良かった。岡島とか前原の手に渡ってたらどんな事になってたか。あの二人には呆れたぜ。」

 

「ハハ…。」

 

全く、そして今日は、夏休みに向けた最終暗殺計画のために皆集まっている。

 

勝負の8月、南の島の暗殺まであと1週間だ。

 

「まあまあガキ共、頑張ってるわねえ大層な事に。」

 

偉そうなビッチが来やがった。

 

「ビッチ先生も訓練しろよ。射撃やナイフは俺らと大差ないだろ。」

 

「違うぞ三村、俺らより下だ。」

 

「誰があんたらより下だ黒崎!あんた達よりは上よ!」

 

「へえ、じゃあ俺と勝負する?」

 

「断るわ。大人はズルイのよ、ナイフで勝てなくても上手いこと美味しいトコ持ってくわ」

 

「ほほう、偉いもんだなイリーナ。」

 

後ろからロブロさんが現れた。

 

「ロヴロ先生!」

 

「夏休みの特別講師として来てもらった。プロの視点から君達に貴重なアドバイスをくれる。」

 

「1日休めば体は殺しを忘れる、分かったらとっとと着がえろ!」

 

「へい、喜んで!」

 

「それで、殺せんせーは見ていないだろうな?」

 

「ああ、エベレストで避暑中だ。 部下が監視している。」

 

すると磯貝が質問する。

 

「ロヴロさんって殺し屋の斡旋業者なんですよね。今回もプロの殺し屋を…。」

 

「いや、今回は雇わん。プロの匂いを嗅ぎつけられて、奴ときたら教室まで辿り着かせん。

 

それに手持ちの殺し屋が数名連絡を絶った。だから今回は、慣れ親しんだ君達に殺してもらう。」

 

連絡を絶った?どういう事だ?

 

「さて、暗殺計画だが…。約束の7本の触手を破壊し、間髪入れず一斉射撃で仕留める、

 

というのは分かるが…、この精神攻撃とは何だ?」

 

「まず動揺させて反応を遅らせるんです。殺せんせーテンパりやすいから。

 

この前エロ本拾い読みしてたんです。それをネタにクラス全員でいたぶり尽くします。」

 

「残酷な暗殺方法だ。」

 

殺しのプロにそこまで言わせるとは…

 

「それでだ。肝心なのは最後の一斉射撃。正確な狙いとタイミングが不可欠だが…」

 

「不安か、このクラスの射撃能力は?」

 

「いいや、逆だ。特にあの二人は素晴らしい。

 

千葉龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で右に出る者はいない。

 

速水凛香。動体視力とバランス感覚に優れ、動く標的を仕留めるのが得意な戦士だ。

 

どちらも感情を表に出さず結果で語る仕事人タイプ。俺の弟子に欲しいくらいだ。

 

他の者も良いレベルに纏まっている。この短期間でよく育てた。

 

ふむ、人生の大半を暗殺に費やした者として、この計画に合格点を与えよう。」

 

(それに、E組には優れた才能を持つ者が居る。潮田渚と黒崎翔太。この二人は特筆すべき存在だ。)

 

ロヴロさんは生徒達に指導を続ける。さすが本職。全てを知り尽くしている。

 

すると渚がロヴロさんに聞く、

 

「ロヴロさんの知ってる中で、殺し屋として最も凄い人って誰ですか?」

 

「ふむ、殺し屋の世界に興味があるのか?」

 

「いや、そういうわけじゃ。ただ気になって…」

 

「そいつは俺の斡旋する奴にはいない。この世界ではありふれた事だが、そいつは通り名で呼ばれる。

 

死神、それが奴の名だ。冷酷無比、神出鬼没。夥しい数の屍を積み上げ、死そのものと呼ばれた男。

 

では少年よ、私がプロの殺し屋として、必殺技を授けよう。」

 

「必殺技…?」

 

渚に伝授される、プロの殺し屋直伝の必殺技とは?

 

こうして、南の島の暗殺計画がスタートした。




いよいよ南の島編!さて、オリジナルストーリーが数本入ります。

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