期末テスト。椚ヶ丘中学校では成績が全て。E組を誰にも恥じないクラスにすると意気込む
マッハ20の超生物にとっては、これが1学期の集大成となる決戦の場である。
…
「ヌルフフフ、皆さん1学期の間に基礎が大分出来てきました。
この調子なら期末の成績はジャンプアップが期待できます。」
殺せんせーによるマッハ20の分身授業。今回俺は数学の説明を聞いていた。
今回は総合順位を上げるために数学は何としても伸ばしたいのだ。
「殺せんせー、期末もまた全員50位以内を目標にするの?」
それは俺も気になった。どう頑張っても総合50位以内はハードルが高い。
「いいえ、先生はあの時総合点ばかり気にしていました。しかし気付きました。
皆さんの個性をもっと伸ばすべきだと。そこで今回。この暗殺教室にぴったりの目標を立てました。」
目標?一体なんだろう。
「だ、大丈夫!寺坂君にもチャンスがある目標ですから!」
寺坂にチャンスがある目標か。本当に大丈夫か?
「さて、前にシロさんが言った通り、先生は触手を失うとスピードが落ちます。
一本減るだけでその影響は大きい。ほら、子供の分身が混ざってきた。」
分身ってそういう減り方するものか?
「もう一本失うと、子供分身がさらに増え親分身が家計のやりくりに苦しみます。
さらにもう一本。父親分身が蒸発。母親分身は女手ひとつで子供を育てねばなりません。」
「重いわ!」
どこの昭和のドラマだ。
「茶番はさておきテストについて本題です。
前回は総合点だけで評価していましたが、今回は皆さんの得意科目でも評価します。
各教科と総合で学年トップを取った人には、答案の返却時に触手を一本破壊する権利を差し上げましょう。」
みんな息を呑む。これは相当なビックチャンスだ。
「分かりましたね、五教科と総合でトップを取れば、6本の触手が破壊できる。
これが暗殺教室の期末テストです。賞金100億は皆さんの成績次第。」
なるほどね。要はテストでトップを取れば触手を破壊できる。
やってやろう全力で。
(うちの先生は、殺る気にさせるのが本当に上手い。)
「皆さん、触手一本破壊できるです!頑張りましょう!」
奥田さんがそう言った。彼女がこんな風に張り切るなど珍しい事だ。
「珍しく気合入ってんじゃん奥田さん。」
「はい、理科だけなら、私の大の得意ですから!ようやく暗殺に貢献できます。」
そういえば奥田さんは理科が得意だった。普段の暗殺ではあまり目立たない奥田さんだが、
こういう目標の元では頑張れるのだろう。やはりうちの担任は殺る気の引き出し方が上手い。
「そうだね、一教科限定なら上位ランカーは結構いるから、皆本気でトップ目指して頑張ってるかも。」
そういえばそうだったな。というか茅野、1教科限定って事は、俺とカルマ忘れてるか?
総合4位と21位なのに。
「あと心配なのは、理事長による妨害だな。」
最大の懸念材料、今回も妨害が入るのか…
***
場所は変わり理事長室
「E組の成績を落とす為なら何でもする。そう思っていませんか?」
理事長がそう問う、当然だ。前回あれほど露骨な妨害をしたのだ。
そう疑われても仕方がない。
「いいえ、でも隣の堅物が貴方を疑って聞かないんですの。」
言い方に語弊があるがそういう事だ。烏間としてはあのような小細工をされるのは嫌だろう。
「なるほど、クギを刺しに来ましたか。でも大丈夫。
我が椚ヶ丘中学校では、生徒の自主性を育んでいます。ですから成績を決めるのはあくまで生徒です。
私は…何もしません。」
そう理事長が言い、二人は帰って行った。
「なーんか含みのある言い方だったわね。生徒の自主性がどうとか。」
イリーナが問う。
「ああ、だが前回のような不正ギリギリの小細工は無さそうだ。」
烏間が安心しているのはそこだろう。なにしろあのような小細工対処のしようがない。
「ま、今回は成績が直に暗殺に関わってるみたいだし、私も一肌脱いでやろうかしら。
保健体育なら私に任せて〜。」
そう言って甘えるイリーナに烏間はこう返す。
「外国語はどこへ行った。」
そんな中、廊下で一人、電話を掛けようとしている者がいた。
***
杉野に着信がきた。野球部の進藤からだ。
「よお杉野。」
「進藤か?球技大会ぶりだな。」
「ああ、高校でけりをつけると言ったが、お前が高校に進学できるか心配になってな。」
「はは、相変わらずの上から目線で。」
「というのもな…。3年生のクラスの序列は一番上がA組、横並びのB、C、D組。
そして最下層にお前らE組がいる。その一番上の特進クラスA組が、会議室で勉強会を開いているんだ。
こんなの初めて見る。音頭を取る中心メンバーが、うちが誇る秀才達、五英傑だ。」
「へー。」
「中間テスト総合2位!他を圧倒する、マスコミ志望の高い知識!放送部部長!荒木…鉄平!
総合3位!人文系コンクール総なめー。鋭利な詩人、生徒会書記、榊原…蓮!
総合5位!4位を奪った赤羽への雪辱に燃える暗記の鬼!生物部部長、小山…夏彦!
総合6位!口の悪さとLA仕込みの語学力は追随者ナッシング!生徒会議長、瀬尾…智也!」
「進藤、そのナレーション、お前がやってんの?」
「ああ、一度やってみたかったんだ、こういうの。」
「そして、その頂点に君臨するのが…」
「僕らは太陽、名門、椚ヶ丘中学の皆を照らす太陽だ。しかし、その輝きを覆い隠そうとする、
不穏な暗雲が発生しつつある。あのE組が、中間テストでは全員50位以内を目指していたという。
ならば、僕たちが上位を独占し、その暗雲を晴らそうじゃないか。
地上と太陽の間に暗雲があってはいけない。
彼らの不遜な考えを正し、光を守ろうじゃないか。僕たちの手で。」
「総合1位、全国模試1位、全教科、パーフェクト!支配者の遺伝子を引き継ぐ、生徒会長、浅野学秀!」
そう、理事長の一人息子だ。
「浅野君、この問3なんだけど…」
一人の女子が浅野に質問する。
「ああ、そこ難しいよね、じゃあ一度、平方完成からやり直そうか。軸の方程式は…」
浅野は教え方も非常に上手い。
「人望厚く、成績はトップ。プライドの高いA組の猛者をまとめ上げるカリスマ性。
彼自身の能力に加え…」
「一日に、千里の道を行くよりも、君と一里を行くが楽しき。
さあ学ぼう、美しい言葉が君の動脈を満たすまで…」
「俺が住んでたLAでは、そんな文法じゃ笑い者だぜ。」
「大事なのは、その出来事が社会にもたらした変化の大きさ。
これ分からないと、君、社会から置いてかれるよ。」
「死ぬ気で詰め込めー!中高の理科は暗記で十分だ!」
「全教科パーフェクトの浅野と、各教科のスペシャリスト達。
5人合わせれば、下手な教師より指導力は上さ。
奴等、お前達を本校舎へ復帰させないつもりだ。」
「ありがとう進藤、心配してくれて、でも大丈夫、今の俺たちはE組脱出が目標じゃない。
けど目標のためには、A組に勝てる点数を取らなきゃならねえ。だから見ててくれ、俺たちの努力。」
杉野の決意は真っ直ぐだった。これも暗殺が結ぶ絆か。
「ふん、勝手にしろ。E組の頑張りなんて、知ったことか。」
進藤も、口とは裏腹に心の中では杉野達を応援していた。
そしてその日の帰り。
「各教科1位かあー。」
そう茅野が言った。
「渚、茅野、後黒崎!」
磯貝が俺たちを呼ぶ。俺はついでか?
「磯貝君?」
「明日の放課後、本校舎で勉強しないか?期末狙いで、随分前に予約しといたんだ。
E組は基本後回しだから、俺らにとっちゃ、プラチナチケットだぜ。」
「行く行く!」
「俺も参加するぜ。」
それを殺せんせーが見ていた。
「皆懸命に頑張ってますねえ。触手を賭ける価値ありです。」
僕も浅野のように勉強を教えた事はあります。
「ねえはるぴー、ここの方程式教えて。」
「ああ、その方程式は平方完成を使うとやりやすいよ。二分のxの二乗を…」
「うん、分かった!」
まあ浅野学秀とはだいぶ違いますけどね。
そうそう僕は浅野が好きです。あのキャラに惹かれました。