黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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22話 寺坂の時間

一方その頃イトナと殺せんせーは戦っていた。

 

「前より重い、速い、遥かに!」

 

「触手の数を減らしその分パワーとスピードを集中させた。単純な子供でも扱いやすいようにね。

 

かたや君は水でスピードを奪われますます動きが鈍ってきた。殺すのも時間の問題だ。」

 

「マジかよ、爆破はあの二人が仕組んだのかよ。」

 

救出された皆が戻ってきた。

 

「でも押されすぎな気がする。水のハンデくらいであんな風には…」

 

片岡の疑問ももっともだ。だが、それだけのせいじゃない。殺せんせーの頭上に原がいた。

 

今にも落ちてしまいそうだ。

 

「見ろ、タコの頭上。原がいる。あそこは触手の射程圏内。今にも落ちそうだ。

 

生徒を守ろうとしてうかつに手が出せない。あの野郎、先々まで計算してやがる。恐ろしい奴だ。」

 

寺坂が説明してくれた。その通り。今はとても危険な状況だ。

 

どうする?名案は浮かばない。俺は指揮したり計画を立てるのはそこまで上手くない。

 

「のんきに言ってる場合か寺坂。マジで今やべーぞ!ひょっとしてお前の行動、

 

全部あいつらの差し金だったのかよ。」

 

そう前原が叫んだ。皆気付いたのだ。寺坂は自分で計画建てて動いたんじゃない。

 

シロに操られてたと。

 

「ああそうだよ。目的もビジョンもない俺みたいな無計画な奴は、

 

計算高い奴に裏から操られる運命なんだよ。」

 

寺坂が自嘲的にそう言う。自己嫌悪もあるんだろう。

 

「だけどよ、操られる相手くらいは選びてえ。奴等はこりごりだ。賞金持って行かれるのも嫌だ。

だからカルマ、お前のその大層な頭脳で俺を操ってみろ!完璧に実行してやんよ。」

 

寺坂がそう言った。そう、あいつの様な馬鹿でも実行力のある奴は誰かの指揮の元で

 

行動するのが向いている。決意したような表情。あいつなりのケジメという訳か。

 

「いいよ、けど俺の作戦結構危ないよ。大丈夫かなー?」

 

カルマの作戦、嫌な予感しかしない

 

「いいだろう、こちとら実績持っている実行犯だぜ。」

 

「えっ、まだ作戦考えてないけどもう行くの?」

 

そういえばカルマ何も作戦言ってない。

 

「え、まだなの?」

 

やっぱり寺坂は馬鹿だった。

 

 

そしてカルマがこう言った。

 

「思いついた、原さんは助けずに放っておこう!」

 

駄目だ…。流石カルマ。こいつに作戦立てさせるの間違いじゃない?

 

角を生やして悪魔顔でニヤついている。ゲスい…

 

「おいカルマふざけてんのか?原が一番危ねえだろうが!あいつヘヴィでふとましいし。

 

身動き取れねーし枝も折れそうだ!」

 

原に失礼な気もするが…

 

「寺坂さあ、昨日と同じシャツ着てるよね。そこにしみあるし。

 

やっぱりずぼらだねー。計画立てるとか無理に決まってんじゃん。」

 

そう、寺坂の役割はそこじゃない。

 

「ああ!」

 

「けどさ、頭は馬鹿でも体力と実行力持っているから、お前を軸に作戦立てるとやりやすいんだ。

俺を信じて動きな。悪いようにはならないから。身の安全は保障しないけど。」

 

「馬鹿は余計だ。それでどんな作戦立てるんだ?」

 

その頃殺せんせーは追い込まれていた。

 

「さあ、足元も水を吸ってだいぶ鈍ってきた。さあイトナ。トドメの時間だよ。

 

邪魔な触手を全て落とし、心臓を…」

 

シロの言葉は途中で遮られた。

 

「おいシロ、イトナ!」

 

寺坂が叫んだからだ。

 

「イトナ、てめえ俺とタイマン張れや。よくも騙してくれたな!」

 

「騙した?ちょっとクラスメイトを巻き込んじゃっただけじゃないか。」

 

「うるせえ、てめえは許さねえ!」

 

寺坂は単純に怒っていた。作戦だの関係なしに、それが彼の長所でもあり短所でもある。

 

それが吉と出るか凶と出るかは状況次第。この場合は吉と出たようだ。

 

向こうに作戦を疑われずに済む。

 

「止めなさい寺坂君、君が勝てる相手じゃない!」

 

「すっこんでろふくれタコ!」

 

「健気だねえ。布切れ一枚で。黙らせなさいイトナ。」

 

こうして寺坂とイトナの闘いが始まった。

 

「カルマ君!」

 

渚が心配する。だがおそらく杞憂だろう。

 

「大丈夫、シロだって俺ら殺すのが目的じゃない。原さんだって危ないけど攻撃される様子はないし。

 

死にはしないよ。生きているから殺せんせーが注意を向けるんだ。

 

たとえ何かあっても殺せんせーが助けるっててのは身をもって経験したし。

 

寺坂にも言っといたよ、死にはしないから死ぬ気で食らい付けって。」

 

寺坂はイトナの触手を思い切り受け止め、何とか耐えた。大した耐久力だ。

 

「よく耐えたねえイトナ。ではもう…」

 

「くしゅん!」

 

イトナがくしゃみをした。

 

「寺坂のシャツが昨日と同じ。つまり昨日まいたスプレーが染み込んでるってことさ。

 

殺せんせーを粘液まみれにしたスプレーさ。イトナに効かない訳ないでしょ?」

 

そうこうしている内に殺せんせーは原を助けていた。

 

なるほどねえ。カルマの作戦には舌を巻いた。

 

「お前ら、飛び降りてデケえの頼むぜ。水だよ水。飛び切りのをお見舞いしろ!」

 

「たくっ、しょうがねえなあ。」

 

一斉に皆が水上にやってくる。

 

「殺せんせーと弱点同じなんでしょ。じゃあ同じ事やり返せばいいわけじゃん。」

 

「ま、まずい!」

 

一斉に皆がイトナに水をかける。するとイトナの触手は水を吸い込み膨れ上がる。

 

「だいぶ水吸っちゃったね。これでハンデが小さくなった。

 

でどうすんの?俺ら賞金持ってかれたくないし。ついでに寺坂ボコられてるし、

 

そもそもあんたらの作戦で皆死にかけてるし。」

 

確かにそう。茅野なんか俺が助けられなかったら…

 

想像すると寒気がする。だから俺らは…

 

「まだやるってんなら、こっちも全力で水遊びするよ。」

 

皆が構える。ここまで来たらもうシロとイトナに勝ち目はない。

 

「してやられたね。緻密な作戦が生徒たちの行動で潰されるとは。

 

まあいい。ここは引こう。触手細胞は感情で大きく変わる。

 

生徒を傷つけでもしてあのタコが激昂したら大変だ。

 

帰るよイトナ。」

 

しかしイトナは納得がいかない様子だ。

 

「どうです、楽しそうな学級でしょう?皆で一緒に勉強しませんか?」

 

「ふん!」

 

こうしてプール騒動は一件落着。

 

「ふう、何とか追っ払えたな。」

 

「私たちのお陰だよ。感謝したら?」

 

「ええ、確かに感謝しています。とはいえ、奥の手は用意していました。」

 

そうなのかい。

 

「そういえば寺坂君、私の事ヘヴィだとかふとましいとか散々言ってくれたわね。」

 

やっぱりか。これだから単細胞馬鹿は困る。

 

「あれは状況を客観的に分析してだなー。」

 

駄目だ。完全に地雷を踏んでいる。寺坂は原を客観的に見てデブって言ってるのと同じだぞ。

 

「やかましい、動けるデブの恐ろしさ見せてやるわ!」

 

「あーあ、本当に無神経だねえ寺坂は。そんなんだから他人に操られるんだよ。」

 

カルマは挑発の手を緩めない。

 

「うるせえ!だいたいテメーはサボリ魔の癖に美味しい場面は持って行きやがって!」

 

それには共感出来た。普段はサボリ魔の癖に大事なとこでは颯爽と現れていい所持って行く。

 

ベタなキャラだ。

 

「そうだね、この機会にたっぷり水飲ませようか。」

 

ばしゃん!

 

寺坂がカルマを水中に突き落とした。

 

「何すんだよ上司に向かって!」

 

「触手を生身で受けさせるイカれた上司がどこにいる!」

 

「寺坂君は高い所で計画立てるには向いていない。彼の良さは現場で活かされます。

 

実行部隊として成長が楽しみな暗殺者ですね。」

 

(寺坂君が、かなり乱暴だけどクラスに馴染んで来た。僕もカルマ君も黒崎君も、内心では嬉しくて。

 

けど、この時皆は見落としてた。殺せんせーの最大の弱点を、そして、

 

「触手持ちは泳げない」という事が意味するものを。)

 




「寺坂、覚悟は出来てる?」

「ぶはあ!」

この後寺坂はたっぷりカルマにお仕置きされたとさ。

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