黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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19話 プールの時間

「あちー地獄だ。今日びクーラーのない教室なんて。」

 

気持ちは分かる。俺がE組に来て後悔した事など数少ないがそのうちの一つ。クーラーがない。

 

「温暖湿潤気候で暮らしてるんだから諦めなさい。ちなみに先生は放課後寒帯に逃げます。」

 

「ずるい!」

 

それ以前に説得力が無い。

 

「でもさー、プール開き今日だよねー。早く行きたいなー。」

 

そういえばプールがあったっけ。

 

「そのプールが地獄なんだよ。本校舎にしかプールないから1kmの山道を往復しなきゃなんねー。

特にプールで疲れた帰りの山登りは、人呼んでE組、死のプール行軍。」

 

そんな呼び名があったのか。初めて知ったな。

 

「本校舎まで連れてってよ殺せんせー。」

 

「仕方ないですね…と言いたいところですが無理です。マッハ20でも出来ない事はあります。」

 

「だろうね。」

 

皆何となく分かってはいた。

 

「とはいえ皆さんの気持ちは分かります。裏山に沢があります。そこに涼みに行きましょう。

 

全員水着に着替えて下さい。」

 

こうして皆プールへ行く事に。

 

「あれ、沢なんてあったんだ。」

 

「ああ、と言っても足湯くらいの深さだけどな。」

 

「まあいっか。水かけ遊びできるし。」

 

気休め程度にはなるか。

 

するとカルマがこう言った

 

「ねー、この前の渚君の暗殺凄かったらしいじゃん。見ておけば良かった。」

 

「全く、お前はすぐ授業サボるから…」

 

「だって黒崎、前にも言ったけどあのデブ嫌だったし。」

 

そうこうしている内に沢に着いた。

 

「マッハ20の先生でも出来ない事はあります。その一つが君たちを一瞬でプールへ連れて行く事。

それには1日かかります。」

 

「1日なんて大袈裟な。本校舎のプールなんて歩いて20分でしょ。」

 

「おやおや、誰が本校舎のプールへ行くと言いましたか?」

 

なんとそこにあったのはプールのような空間だった。

 

「何せ小さな沢をせき止めたので、水が溜まるまで20時間。25メートルのコースも作りました。

 

準備に1日。移動に1分、飛び込むのに1秒です!」

 

「ひゃっほう!」

 

皆嬉しそうに飛び込んでいった。俺も泳ぐのは久しぶりだな。

 

(こういう事してくれるから、うちの先生は殺しづらい。)

 

こうして俺たちはプールで楽しい時間を過ごした。

 

「楽しいけどちょっと憂鬱〜。泳ぐのは苦手だし、水着は身体のラインがはっきり出るし。」

 

「安心しろ茅野。その身体にも需要があるさ。」

 

「岡島、二枚目面して盗撮するのやめろ。」

 

「なんで黒崎が怒る?」

 

さー何でだろうなー。

 

「渚、あんた男なのね…」

 

気付くだろ…

 

「今さら?」

 

「まあ仕方ないか。」

 

「ピピー」

 

すると笛の音がした。

 

「木村君、プールサイドを走ってはいけません。転んだらどうするんですか!」

 

「は、はい。すみません。」

 

「中村さんに原さん、潜水遊びはほどほどに、溺れたかと心配します!」

 

「ちえーっ」

 

「狭間さんも本ばかり読んでないでプールに入りましょう!」

 

「菅谷君、普通のプールならボディアートは入場禁止です!

 

岡島君のカメラも没収!」

 

「小うるさい…」

 

皆そう思った。

 

「いるよねー、自分の作ったフィールドで王様気分になっちゃう人。」

 

「殺せんせーはその典型例だね。」

 

「ヌルフフフ、景観から間取りまで綿密な設計。皆さんにはふさわしく遊んでもらわないと。」

 

「カタイ事言わないでよ殺せんせー、水かけちゃえ!」

 

そう言って倉橋が水をかけた。

 

「きゃん!」

 

え、今の悲鳴なんだ?

 

「ぎゃあ揺らさないでカルマ君!落ちる落ちる!」

 

「殺せんせー泳げないんだな。」

 

「いや別に泳ぐ気分じゃないだけだしー。」

 

ごまかすの下手すぎ。

 

そして俺達は直感した。

 

殺せんせーの弱点、泳げない。これは今までで一番使えるかもしれない。

 

水殺、この夏の研究テーマになりそうだ。

 

すると…

 

「うわっ!」

 

茅野が浮き輪から落ちてバランスを崩した。危ない、そう思ったら、

 

片岡が飛び込んで助けた。

 

「大丈夫、すぐ浅い所行くから。」

 

「ふう助かった。ありがと片岡さん。」

 

「ふふ、水の中なら出番ね。」

 

こうして皆は水殺計画を始めた。

 

「まず本当に殺せんせーは泳げないのかを考える必要があるな。」

 

「さっき倉橋が水を掛けたとこだけふやけてた。

 

溺れ死んだりはしないけど、きっとかなり動きが鈍くなる。」

 

「だから私の考えはこう、夏の間、誰かが殺せんせーを水中に突き落とす。

 

それ自体は殺す事じゃないから、殺せんせーも注意が回らないはず。

 

そして水中で私がトドメを刺す!髪飾りに仕込んだナイフでいつでも殺れるわ。」

 

「さすがは去年の水泳部代表ってか。」

 

片岡は計画を立て、率先して行動する。周囲を引っ張るリーダーの素質がある。

 

成績優秀、運動神経も良い。だからこそ…

 

「彼女ほどの出来る人が、何故E組に?」

 

渚がそう疑問に思うのも無理はなかった。

 

その時、片岡は泳いでいた。

 

「律、タイムは?」

 

「26秒08。自己ベストにはあと0.7秒ですね。」

 

「うーんブランクあるなあ。頑張らなきゃ。」

 

「頑張ってますねえ。何を任されたかは知りませんが。」

 

殺せんせーが来た。水殺を悟られてはいけない!

 

と渚も同じ事を考えていたのか、話題を逸らした。

 

「殺せんせー、こないだ女優にファンレター送ってたよね。

 

あなたを見ると私の触手が大変元気になるとか、手ブラじゃ生ぬるい、触手ブラをさせてくれとか。」

 

「にゅやあ!何故それを?」

 

「職員室に置いてあったよ。ていうか普通に考えてセクハラだよね。」

 

「恥ずかしい…」

 

殺せんせーはすでに瀕死だ。こういう精神攻撃はカルマと同じ位渚は上手い。

 

「教師としてあるまじき行為だな。ネットで拡散してやろうか?

 

セクハラファンレターを送る黄色い変態教師ってね。」

 

俺も追い打ちをかけた。

 

「や、やめて下さい!」

 

俺も人の事、言えないか。

 

「片岡さん、多川心菜という方からメールです。」

 

「あー、律読んでくれる?」

 

「はい、『めぐめぐ、勉強おしえてほしいんだあ。とりま駅前のファミレスきてー。^ - ^』」

 

「以上です。少々知能指数の低い方と推測されます。」

 

「こらこら。」

 

「じゃあ、悪いけど3人とも、友達と用事あるから、今日はこれで。」

 

「じゃあねー。」

 

「それにしては暗い顔だったね。」

 

「ヌルフフフ、心配ですねえ。彼女は一人で何でも背負い込もうとしますから。」

 

成る程ね。片岡がE組に行った理由が分かったよ。

 

と言うわけで俺達は片岡を尾行した。

 

様子を見てみると、多川という女子は片岡に勉強教えてもらってるだけなのか。

 

でもこの時期に呼び出されちゃ迷惑だろう。そして…

 

「呼び出し、しょっちゅうされても、今忙しいし。」

 

「何それ、もう呼ぶなって事?酷い、私の事殺しかけたくせに。」

 

今なんて、殺しかけた?

 

「私めぐめぐのせいで死にかけたんだよ。助けてくれるよね。一生。」

 

そういって多川は去っていった。

 

「で、そこの不審者3人組はなんか用?そして黒崎、なんであんたは堂々といるのよ?」

 

「不審者と思われたくないし、悪いか?」

 

俺は扮装などせず堂々といる。

 

「それで何があったの?」

 

「実はね…」

 

片岡の話をまとめるとこうだ。

 

片岡は多川に泳ぎを教えてと頼まれた。海に行くからと。そして一回目で泳げる程度には上達した。

 

けれど海ではそう上手くは泳げない。だからもう一度練習させようとした。

 

けれど多川はそれを何かと理由付けて断った。そういう性格だったのか。

 

案の定行った海で溺れて救助沙汰。片岡のせいで溺れたといって勉強を手伝わせていると、

 

「まるっきり逆恨みじゃないか。」

 

「でもこういうのには慣れっこだし。」

 

「いけませんよ片岡さん、時には突き放す事も必要。頼られてばかりでは頼る側も成長しません。

先生がマッハの泳ぎを教えてあげます。」

 

 


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