黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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8話 修学旅行の時間 後編

***

 

Side茅野

 

倉庫にて

 

「いやあ、お前、どっかで見た事あると思ったら、この写真の女じゃねーか。」

 

不良がそう言って携帯を開くと、茶髪の少女がいた。

 

髪型も服装も雰囲気も違うけど、確かに神崎さんだ。

 

「ダチに、めぼしい娘がいたらすぐ連絡しろって言っといたんだよ。

 

あん時は捕まえられなかったが、まさかこんな所で出会えるとはなあ。」

 

「でも意外。真面目な神崎さんにも、ああいう時期があったんだね。」

 

「ウチは親が厳しくてね、いい成績、いい学歴、いい肩書きばかり求めてくるの。

 

そんな親に耐えきれなくて、去年の夏休み、ゲーセンで遊んでたの。

 

その結果得た肩書きがエンドのE組。バカみたい。もう自分の居場所が分からないよ。」

 

私には神崎さんの気持ちがよくわかった。だって私も同じ。

 

目的は違うけど、姿を変え、本当の自分を隠している。お姉ちゃんを殺したあの怪物への

 

復讐のため、名前も変え、髪型も変えた。でも時々、不安になる。

 

復讐を果たした時、私の居場所はどこにあるのか。E組に居場所はない。

 

かといっても、元の姿にも戻れない。

 

復讐に全てを捧げる、全てを犠牲にしてみせる。そう決意したはずなのに、私の心は迷っている。

だからこそ。

 

「俺らもさあ、肩書きとか死ねって主義でさあ。居場所がないなら、俺らと一緒になればいい。

 

台無しになる方法、一から教えてやるよ。帰る時、何も無かったですって言いな。

 

そうすりゃ誰も傷付かないぜ。」

 

許せなかった。誰かを自分と同じ世界へ引きづり下ろそうとする輩が。

 

自分の人生を自分がどうしようが勝手だ。

 

復讐に身を投じようと、呪縛から解放されることを望もうと。

 

堕落しようと。でもこいつらは許せない。

 

エリートに対する僻みをエリートにぶつけ、自分と同じように堕落させようとする。

 

そんなのはただの卑怯者だ。だからこそ、

 

私は最大限軽蔑した口調でこう言った。

 

「さいってー。」

 

「エリートが粋がってんじゃねえ!舐めやがって、そんな目で俺を見下しやがる。

 

気に食わねえんだよ!お前らが。」

 

そして私は地面に叩きつけられた。

 

イラついた。理不尽な暴力を振りかざす不良共に。

 

いっそ触手の力を解放しようかとも思った。けれどそれは出来なかった。

 

あの怪物を殺す時まで、何があっても耐えてひ弱な女子を演じよう。

 

そう心に決めていたから。

 

すると、

 

錆びた鉄のドアの音が聞こえた。

 

「ほうら、うちの撮影スタッフの登場だ。精一杯楽しませてもらうぜ。」

 

もうダメだ、どうしよう… やはり触手を使うしか…

 

と思っていると、

 

ドサッ

 

不良が倒れた、そこにいたのは黒崎君とカルマ君だった。

 

「きっと二人を誘拐したのは、旅先でオイタをする輩です。」

 

「潜伏先は、先生が作った拉致犯潜伏マップを見ればわかるでしょう。」

 

「全部しおりに書いてやがる。」

 

「やっぱ修学旅行のしおりは持っとくべきだよねえー」

 

「で、どうすんのあんたら、これだけの事してくれたんだ、あんたらの修学旅行は、

 

この先ずっと入院だ。」

 

「ああ、うちの班の女子に手を出したんだ。タダじゃあ返さないぜ。」

 

黒崎君は本気で怒っていた。私のために怒ってくれてるのかな?そう思った。

 

「フン、だが仲間がいるんだよ。お前らが見たこともない不良がよお!」

 

だけどそこにいたのは、渦巻きめがねを掛けたガリ勉だった。

 

「不良などいませんねえ。先生が手入れしましたから。

 

それと、その汚い手とハエの止まるようなスピードで、うちの生徒に触るんじゃない。」

 

「てめえら、先公までエリートだからって見下しやがって!」

 

殺せんせー「彼らは進学校に通っています。ですがそこで落ちこぼれだと差別されています。

 

しかし、君たちの様に誰かを引きずり落としたりしません。

 

大事なのはどうするか。清流で泳ごうがドブ川で泳ごうが、どう育ったかが大事なんです。」

 

そして不良は叩きのめされ、私の縄を黒崎君が解いてくれた。

 

「茅野、怪我はないか?あの不良に何かされてないか?」

 

「大丈夫だよ、黒崎くん。それよりありがとうね、また助けてもらっちゃった。」

 

「良いんだ。困った時はお互い様さ。それに俺だけじゃない。

 

カルマや渚、杉野がいなきゃ助けられなかったさ。」

 

「それでも、やっぱり私を二度も助けてくれたのは黒崎君だけだよ。

 

そうだ、お礼に、駅前に出来たスイーツショップから、一緒に行こう!」

 

「本当か?嬉しいよ。あそこのケーキ、一度食べたかったのさ。」

 

「そう、良かった。」

 

私のありがとうという言葉には、二つの意味があった。

 

けど黒崎君は、それを知る由もなかった。

 

***

 

Side黒崎

 

俺が本気で怒ったのは何故だろう。自分でも分からない。

 

ただ許せなかった。茅野を、神崎さんを攫った不良を。

 

だから、真っ先に茅野を助けた。

 

そしたら、茅野は感謝してくれた。それが俺には嬉しかった。

 

誰かにお礼を言われることなんて、少なかったから。本当に。

 

というか女子とこんなに仲良くなる事自体が初めてだ。

 

そして俺は気付かなかった。

 

男女二人で店で何かを食べる、本人達がどういう気持ちであれ、これは、

 

世間一般で「デート」と呼ばれる物だという事に。

 

翔太の弱点その3

 

恋愛沙汰に疎い

 

***

 

神崎さんは吹っ切れた顔をしていた。さっきの殺せんせーの発言のおかげだ。

 

そして俺たちは旅館に帰った。他の班では、色々なことがあったらしい。

 

スナイパーの銃弾が、八つ橋で、あぶらとり紙で止められ、挙句の果てに殺せんせーが

 

エキストラに混じって武士になりきっていたとか。

 

中村と不破が男湯を覗いていたので、何事かと尋ねると、

 

中に殺せんせーがいるらしい。確かに、中身は気になるな。

 

と思っていると、煮こごりで体を包んでいた。女子かよ。

 

そして通気口から逃げていった。

 

虚しい覗きだった。

 

俺とカルマが部屋に入ると、男子が集まって何かやっていた。気になる女子ランキング?

 

なるほど、1位が神崎さんで、…

 

前原「で、黒崎とカルマは誰なの?気になる女子。」

 

「俺は奥田さん。」

 

「へえー、何で、カルマ?」

 

「怪しげな薬とか作れそうじゃん、俺の悪戯の幅が広がるからさー」

 

悪魔だ。絶対に奥田さんとカルマを接触させないようにしよう。

 

「黒崎は?」

 

「俺は恋愛とか興味ない。」

 

「おいおい、皆言ったんだからお前も言えよ。気になる娘ぐらいいるだろ。」

 

「じゃあ、茅野かなー」

 

「そうだよねー、さっきもなんか二人で話してたもんねー」

 

「勘違いするなカルマ。旅行について話しただけだ。」

 

「本当かなー」

 

言えない。一緒にスイーツショップへ行こうと言われたなんて。

 

そんな事言ったら、カルマに何されるか分からん。

 

あいつの事だ。皆に言いふらしてこっそり尾行くらいはやりかねない。

 

「とにかく、この結果は男子の秘密な。先生や女子に知られたらまずいだろうし。」

 

と磯貝が言ったら殺せんせーがいた。

 

「殺す!」

 

男子全員、殺しにかかった。

 

女子の部屋では

 

「気になる男子誰?」

 

「私烏間先生!」

 

「それはみんなでしょ。烏間先生は無し。」

 

投票結果は

 

磯貝 4票

 

黒崎 3票

 

前原 2票

 

カルマ 2票

 

「やっぱ1番人気は磯貝君かー。」

 

「2位は黒崎君。二人ともイケメンで欠点ないもんねー。爽やかな磯貝君とクールな黒崎君。」

 

「前原は女たらしじゃなければねー。せっかくイケメンなのに。」

 

「カルマ君は顔じゃなくて雰囲気がイケメンよねー。」

 

「ちょっと怖いけど。」

 

「でも普段は優しいですよ。」

 

「野生動物か。」

 

と、こんな感じだ。

 

「やっぱり修学旅行でも暗殺かあ。」

 

「まあそうなるさ。」

 

「そうだね。」

 

「でもさ、修学旅行って何かの終わりのような気がするけど、

 

俺たちの暗殺はまだ始まったばかり。まだまだ暗殺したいな。このクラスで。」

 

「うん!」

 

茅野は明るい笑顔でそういった。不思議とこっちまで心が和んだ。

 

何故だろう。俺にはわからなかった。

 

そしてゲームコーナーにて

 

神崎さんがゲームをしていた。それも非常に上手い。

 

「おおすごい、おしとやかに微笑みつつ手付きはプロだ!」

 

「すごい意外です。神崎さんがこんなにゲーム出来るなんて。」

 

「黙ってたの。遊びが出来ても進学校じゃ白い目で見られる、そう思ってた。」

 

気持ちは分かる、皆そう思ってしまいがちだ。だがそんな事はない。俺だってゲームは好きだし。

 

「でも、周りの目、気にし過ぎてたのかな。」

 

神崎さんは晴れやかな顔をしていた。

 

(ほとんどの候補は仕事の難度を見て断り、唯一受けた腕利きも途中で辞退。

 

この辺が限界だな。ここから先は自由時間だ。)

 

「烏間先生、卓球やりましょうよー。」

 

「ああ、強いぞ俺は。」

 

そして最終日は、純粋に旅行を楽しんだ。

 

皆との旅行、いい思い出になった。

 

誰かと一緒に過ごすのは、こんなに楽しかったのか。そう気付いた。

 




ようやく恋愛を進展させられた…

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