黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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6話 中間テストの時間

テストの季節だ。椚ヶ丘中学では成績を最重視している。

 

だから生徒達はテスト期間、必死に勉強する。

 

と、ここまでは普通の中学でもよく聞く話だ。だが、

 

椚ヶ丘中学には、E組があった。成績も待遇も最底辺のE組が。

 

成績下位者はここに落とされる。

 

95%の働き者と5%の怠け者がいれば良いとする理事長の教育方針だ。

 

だから、生徒達は絶対にE組に落ちたくないという一心で、死ぬ気で勉強する。

 

最も、今年はとある事情により、どんなに成績が低くてもE組には落ちないのだが、

 

本校舎の生徒達は、それを知るよしもないのであった。

 

***

 

「さあ皆さん、中間テストに向け、全力で勉強しましょう!」

 

「気合い入ってんねー殺せんせー。」

 

「やりすぎだろ。」

 

殺せんせーは分身で一人一人に細かく教えている。その分身はハチマキをしていた。

 

生徒それぞれの苦手科目らしい。

 

「なんで俺だけNARUTOなんだよ!」

 

寺坂だけ違った。苦手科目が複数あるかららしい。

 

ちなみに俺は数学だ。

 

「カルマ君、急に暗殺しないで下さい!それ避けると残像全部乱れます!」

 

「繊細なんだなその分身。」

 

そう言いながら俺もナイフを振るう。

 

まあ、本校舎時代から常に20位以内に入ってたし、大丈夫か。

 

帰り、渚が職員室の前で聞き耳を立てていたので、小声で話した。

 

「渚、なにがあった?」

 

「理事長が来てる。」

 

「これはこれは理事長先生。こんな山奥までわざわざお越し頂いて。」

 

ゴマすってどうするんだよ。

 

「いやあ、新任教師の腕前を見に来たんですよ。中々上手そうで安心しました。」

 

「では先生方に問います。このルービックキューブを素早く揃えたい。

 

あなた方ならどうします?」

 

先生達が考えていた。

 

「ヌルフフフ。私なら、マッハ20で解いてみせますよ。」

 

「誠に効率的だ。しかし貴方にしか出来ない。」

 

「俺はできる限り努力する。出来なければ、あらゆる手を尽くす。」

 

「正しく理想的だ。でも素早くは出来ない。」

 

「私だったら、できる人間に任せるわ。」

 

「合理的ではあるが、常にそのできる人間がいるとは限らない。」

 

そう、先生方の解答は当たらずとも遠からず。模範解答はこう。」

 

そう言ってルービックキューブを分解し、並べ直した。

 

「分解して並び直す。理想的で、効率的で、合理的です。」

 

「貴方の事情は多少なり聞いています。全てを理解できるほどの学は私には無いですが、

 

なんとも悲しいお方ですねえ。地球を救う救世主となるつもりが、地球を滅ぼす巨悪に

 

成り果てるとは。」

 

「まあ、私はよほどの事がない限り、暗殺にはノータッチです。十分な口止め料も頂いてますし。

「随分と割り切っておられるのね、そういう男性、嫌いじゃないわ。」

 

「光栄です。しかし私にとっての問題は、地球が来年以降もある場合のこの学校についてです。

 

正直に言うと、このE組はこのままでなくては困ります。」

 

「このまま、と言うと…」

 

「本校舎の担任から相談を受けましてね。

 

うちの生徒が、E組の生徒から蛇のような目で睨まれたと。」

 

渚が肩をすくめた。

 

「暗殺をしているのだから、そのような目つきを身につくでしょう。大いに結構。

 

問題は、成績底辺の生徒が他の生徒に逆らうことです。これは私の教育方針では許されない。

 

以後このようなことがないように。」

 

「以前お話ししましたが、私は95%の働き者と5%の怠け者がいる社会を目指しています。

 

E組のようにはなりたくない、そう思うことで、この比率は達成される。」

 

「あと殺せんせー、1秒以内に解いて下さい。」

 

殺せんせーはテンパって解けなかった。触手が溶けたが。

 

「殺せんせー、世の中には、スピードだけで解決出来ない問題もありますよ。」

 

「にゅやー、スピードでしか解決出来ない問題も有るんですがねえ。」

 

そして、ドアを開けた理事長は俺たちに一声かけた。

 

「やあ、テスト勉強、頑張りなさい。」

 

その乾いた声は、一瞬で俺たちを、暗殺者からエンドのE組へと引き戻した。

 

***

 

次の日、分身はさらに増え、一人当たり3人は付いていた。

 

「先生、さらに頑張って増えました。」

 

「せんせー疲れないの?」

 

カルマが尋ねる。

 

「大丈夫。分身が一匹、休憩していますから。」

 

それ逆に疲れると思うんだが…

 

「でも殺せんせー、どうしてこんなやる気なの?」

 

「それはもちろん君たちのため。」

 

と言いながら、裏では変な妄想をしていた殺せんせーだが、

 

「でもさー、頑張っても意味ないよね。」

 

「所詮ウチらE組だし。」

 

「暗殺の方がよっぽど身近なチャンスだよ。」

 

みんなの反応は薄い。

 

「分かりました。君たちには話をする必要がある。全員校庭に来て下さい。」

 

「殺せんせー、何のつもり?」

 

「さあ。」

 

全員来た所で、先生がこういった。

 

「E組制度の上手い所は、テストで学年50位以内をとり、元の担任が許可すれば、

 

本校舎に復帰できること。一応の救済措置が用意されているのです。

 

そうしなければ、学内差別として文部省から指導が入りかねません。ですが、

 

この劣悪な学習環境に加え、元々成績が低い生徒が入るのですから、50位以内なんて

 

到底無理です。君達は、差別を受け入れ、自分の無力さを呪いながら、絶望の中で生きるのです。」

 

確かにそうだ。考えてみれば、E組は昔の俺と同じだ。

 

退屈な日々の中で何も出来ない自分に失望して、けど諦めることも出来なくて。

 

だからこそ、殺せんせーの言葉に納得できた。

 

カルマや俺なら学年50位以内など簡単に取れる。

 

でも素行不良でE組に落ちた俺たちの復帰を元担任が許すわけもない。

 

「ではイリーナ先生、プロとして貴方に問います。暗殺で用意するプランは一つですか?」

 

「違うわ。最初のプランなんてうまくいくことの方が少ないわ。だから、第二、第三の

 

プランを、状況に応じて使う。それが一流の暗殺者よ。」

 

「烏間先生、ナイフで重要なのは第一撃だけですか?」

 

「第一撃は最重要だ。だが強敵相手では大抵かわされる。そこでいかに第二撃、第三撃を

 

繰り出すかが、勝敗を分ける。」

 

「結局、何が言いたいの?」

 

「もし、先生が他の誰かに殺されたら?何が起きるか分かりません。

 

そんな時、君たちに残るのは無力感だけ。成績最底辺の君たちには、明るい未来はありません。」

 

「危うい君達に、先生から一つアドバイス。『第2の刃を持たざる者、暗殺者の資格なし!』」

 

「第2の刃、いつまでに?」

 

「決まっています。明日の中間テスト。全員学年50位以内を取りなさい。それができないのなら、

私は戦うに値する暗殺者はいないとし、ここから去ります。」

 

「安心しなさい。本校舎の先生に負けるほど、私はトロい教え方をしていません。

 

自信を持って振るいなさい、第2の刃!」

 

そしてテスト当日。

 

進学校のテストは、難易度が高い。だけど、一見難解な問題も、

 

一文ずつ紐解いていけば、実はそんなに難しくない。

 

だから、E組の皆も、最初は順調に問題を解いていった。しかし、背後から、

 

未知の敵に殴り殺された。俺とカルマ以外全員が。

 

「先生の責任です。君たちに顔向け出来ません。」

 

試験範囲の大幅な変更。それもE組には知らせられずに。

 

結果、皆惨敗だ。

 

磯貝 367点、68位

 

渚 315点、105位

 

寺坂 243点、153位

 

「へえー、じゃあ、俺が殺しに来るのもわからないね。俺範囲変わっても関係ないし。

 

あんたが俺に合わせて余計な所まで教えてくれたしね。ねえ、黒崎。」

 

「まあね、でも、お前の点数の前じゃ、恥ずかしくて見せられないさ。」

 

カルマ

 

英語99点

 

数学100点

 

国語98点

 

理科99点

 

社会98点

 

総合494点 学年4位

 

翔太

 

英語96点

 

数学82点

 

国語97点

 

理科87点

 

社会94点

 

総合456点、学年21位

 

やはり数学は難しい。だが、

 

「で、どうすんの?俺はこのクラス出ないよ。黒崎も。」

 

「暗殺は楽しいしな。それに、今殺せんせーが逃げたら、

 

みんな殺されるのが怖いだけって思うさ。それでいいのか?」

 

「にゅやあ!決まっています、あいつらに期末で倍返しです!」

 

結果は出せなかったが、代わりに俺たちは大きなものを手に入れた。

 

 




ちなみに黒崎の点数は実際に僕が中学で取ったことのある点数です。

公立ですがね。

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