黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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あと1話でこのシリーズは終了します。そっからはラストスパートです。
高校が始まって以来忙しくてなかなか書けない……


96話 終幕の時間

銃声が鳴り響く。それは直線上に進み、茅野の頭を撃ち抜く……

黒崎は、駆け出す。だが、防ぐ事は出来なかった。その、はずだった。

 

だが、よく見れば、茅野には傷一つ付いていなかった。どういうことだ?

黒崎は首をかしげる。仮面の男の拳銃からは硝煙が出ている。

まさか……

黒崎が思い立った一つの可能性。

 

「遅かったな。全く、今まで何をしていたんだ?

 

 

殺せんせー。」

 

そこにいたのは黄色いタコ型生物。

「ヌルフフフ。」

といつものように笑う。

銃弾は殺せんせーが自らの身体で受け止めていた、殺せんせーに金属の銃弾は効かないので、

勿論無傷だ。逆に銃弾の方が溶けている。

 

「いやあ、遅れまして大変申し訳ありません。

対先生物質から身を守るスーツ作ってたら時間がかかりまして……。

あ、それからセキュリティシステムの完全無効化、監視カメラのオフ、

そこら辺で気絶していた警備が目覚ましたのでもう一度眠ってもらい……、

烏間先生を会議が終わり次第呼び出してマッハで運んで、

それと……」

 

「もういい。いつまで言ってるつもりだ?」

 

「ああ失礼、でも大事なこと言ってませんよ。」

 

「なんだ?」

 

「君の妹、由香さんを解放しておいたのは私ですよ。」

 

殺せんせーは自分がやってきたことを列挙する。確かにそれだけやってたら、時間もかかるだろう。

殺せんせーの表情にも若干疲れが見て取れた。

本来疲れることの少ない殺せんせーが。それ程までに色々と準備をやっていたのだろう。

でも、黒崎は一つの疑問を抱いた。

 

「殺せんせー、そんな事をしている暇があったら、

さっさとこの男を倒してしまえばそれで終わりだろう。何故そうしなかった?」

 

殺せんせーはその問いに答える。まるで授業で生徒の疑問に答える先生のように。

実際そうなのだが。

 

「それには色々と理由があります。まず、この男は対先生物質でできた服を着ていた。

匂いでわかります。だから倒す事はできない。そしてこのスーツは、対先生物質を防げる代わりに、

移動スピードが落ちてしまう。そうなったら倒せる確証がありませんから。

それに、先生がこの事件を全て解決してしまったら、君は自分の過去に決着をつけられない。

最後だけは、君がやらなければならないのです。」

 

「確かにその通りだな。さあ仮面の男、決着をつけるぞ。

7年間の因縁、ここで果たさせてもらう。」

 

黒崎はナイフを構える。その表情には、確たる覚悟と決意が見て取れた。

もう、迷わない。もう、逃げないと。

 

「黙って聞いてれば言ってくれるねえ。この私に勝てるとでも?

君のことは全部分かっているんだよ。そう、何もかも。

殺せんせーとやら、のこのこやってきたことを後悔するがいい。

君の努力は全くの無駄だったんだ。それを君は理解することになる。さあ、決着をつけよう。」

 

そう言うと、仮面の男は短刀を取り出した。

 

「最後くらいは、正々堂々と戦ってやるか。そうでないと興醒めだろう?」

 

すると男はもの凄い速さで短刀を振るう。

だが、不思議と黒崎には全部見えていた。軌道が、次どこへ攻撃するのかが。

おそらく、薬の効果がまだ続いているのだろう。

 

「どこが正々堂々だ、全く……!」

 

「……」

仮面の男は答えない。

 

「はあーっ!」

 

黒崎は攻撃を避け、ナイフで受け止め、反撃する。

お互いに、周りが目視できないほどのスピードで刃を振るっている。

黒崎は戦闘を続け、徐々に自分が疲れていくのを感じる。

(もしかして、薬の効果が切れ始めたか?)

黒崎は危惧する。自分は今まで尋常でないダメージを負い、それが身体に蓄積している。

そして薬の効果が切れた瞬間、その痛みは全て身体に襲いかかる。

そうなったら、きっとショック死してもおかしくないだろう。

 

(それもまた、報いか……)

不思議と黒崎は、それに対して抗おうとは思わなかった。

今はただ、この男を倒すのみ。黒崎はそれだけに集中した。

その時。仮面の男が振るう短刀が黒崎の身体を裂く。

 

「ぐああ!」

黒崎は声を上げる。

黒崎の身体が、鋭利な短刀で切り裂かれたのだ。勿論超体育着を着ているので、致命傷にはならない。

だが、痛みを感じるようになったということは、薬の効果が切れ始めているということだ。

(時間がない、早く決着をつけなければ!)

黒崎は先程よりスピードを上げ、全力を出す。

彼が暗殺訓練で1年間鍛え上げたナイフ術。それはプロの暗殺者にも引けを取らない。

しかし、仮面の男はそれを見透かしたように攻撃を全て避ける。

 

「全部知っているんだよ。君の攻撃パターンはね。」

 

仮面の男はせせら笑う。

 

「クソッ!」

 

黒崎は諦めず、攻撃を続ける。今度はもう片方の手からスタンガンを取り出す黒崎。

それが仮面の男の首を掠めるが、攻撃は届かない。

今度はナイフで身体を狙う。仮面の男はそれをかわす。

 

だが、

 

 

 

……ナイフはそのまま空を切り、その先には仮面があった。

 

スパッ

 

仮面が切り裂かれ、地面にパラリと落ちる。

 

その光景を見て、衝撃を隠せない黒崎。

 

「嘘だろ……」

 

何故なら、その仮面の奥にいたのは、

 

 

黒崎をずっと助けてきたはずの男、黒崎の叔父である黒崎翔助だったからだ。

 

「ありえない……、そんなことがあって良いのか!」

 

黒崎は叫ぶ。

「残念ですが黒崎君、これは事実なんです。私も出来れば受け入れたくはない。

でも、彼が犯人だとすれば辻褄があう。君のことをどうしてこんなに知っているか、とかね。」

 

黒崎は唖然とした顔で仮面の取れた自分の叔父を見つめる。

 

「フハハハハハ!バレてしまってはしょうがないな。ああそうだよ、私が黒幕だ。

君の父親を脅したのも、両親を殺したのも私だ。警備会社に勤めているというのも、

ただの隠れ蓑にすぎない。あの会社そのものが、裏社会の組織に繋がっているのだよ。」

 

「嘘だ、そんなの……!」

 

黒崎は無我夢中でナイフを振るう。

ショックで冷静さを失っているからか、軌道がブレている。

それを難なく受け止める黒崎翔助。

 

「翔太、君には戦闘の類い稀なる素質がある。君は鍛えれば一流の傭兵になれるだろう。

だからこそ、私は君にここまで執着しているんだ。君を育ててきたのも、

簡単に死なれては困るからね。

君はよくやったよ。これなら十分利用価値がある。君の使えない父親とは違ってな。

兄と来たら…」

 

「なぜだ、何故お前はこんなことをした!」

 

「何故、か。そう言われてもねえ。強いて言うなら、世の中が退屈でつまらなかったからさ。

最初は世の中を守りたいという崇高な志で民間警備会社に就職したが、

実態は酷い物だった。税金を搾り取り領民を苦しめるクソ地主の警備とか、

クーデターに怯える独裁者の警備とか。とにかくロクな仕事じゃなかった。だから私は悟ったんだ。

この世の中、金なんだと。私は会社の弱みを握って上層部を脅迫し会社の金を欲しいままにした。

その金を使って考えたのさ。こんな下らない世界、私が潰してやろうとね。

 

この薬を、軍隊の兵士全員に飲ませたらどうなるか想像してみたまえ。

戦争は一瞬にして変わるよ。今はむしろ、戦闘機や戦車が主役ではない。

テロリストが武装してゲリラ戦を行う、そんな戦いの方が増えたからねえ。

尚更凄いことになるだろうね。フハハハハ!

まあ、殺せんせーとやらが地球を爆破すれば、それは達成されてしまうのだが、

他人の手で行われてはつまらないだろう?」

 

そう言って、注射器を取り出す翔助。恐らく中身は麻酔薬だろう。だが、

その言葉は途中で遮られた。

 

黒崎は、鬼気迫る表情でナイフを腹に突き刺した。

 

「うっ……」

呻き声を上げる翔助。

 

「お前は血も涙もない人間だな。実の親族をそんな風に扱うなんて、信じられない。

もうあんたを恩人とも親戚とも思わない。

だがこれだけは言える。何があろうと……、俺の父さんを侮辱するな!」

 

そう言って血塗れのナイフを抜く黒崎。

 

「やるじゃないか。だが、これでもう終わりだ。」

 

翔助はスタンガンを振るう。しかし、それは黒崎に受け止められ、

黒崎はそのままその勢いを利用し翔助を倒す。

 

「ぐはっ!」

 

黒崎はそのまま、翔助を押さえつけた。

 

「あんたの敗因はいくつかある。

一つ、ビルを張っていた護衛が、精鋭ではなかったこと

二つ、俺たちの力を過小評価しすぎたこと

三つ、殺せんせーに関する情報を集めきれなかったこと」

 

「く、クソ!こんな筈ではなかったのに……

こうなったら仕方ない!」

 

翔助はどこからともなく取り出したボタンのスイッチを押す。

 

「何をした?」

問い詰める黒崎。嫌な、予感がした。

 

「爆弾を起動したんだよ。このビルの地下に仕掛けられた。この建物はあと数分で倒壊する。

そうなれば貴様ら全員の命はない。君を手に入れられないくらいなら、全員を道連れにして死ぬね。」

 

だんだんと翔助の服は血で赤く染まっていく。すると、

ボカン!

と音がした。そして地響きが起き、建物が大きく揺れる。

 

「な、何だと……!」

 

「君を手に入れられないくらいなら、私は全員道連れにして死ぬまでさ。

馬鹿だねえ。君が大人しく従っていれば、こんなことにはならなかtらんだぞえ、翔太。」

 

すると、

「そんなことはさせません、直ぐに、皆さんを避難させます!」

 

殺せんせーが急いで皆を抱え込み、複数人ずつ地上に避難させる。

 

「させるか!」

 

翔助が慌てて銃を抜こうとするが、黒崎に阻止される。

 

「お前に邪魔はさせない。絶対に、お前の思い通りにはさせないぞ。

世界は、お前が考えるほど暗いものじゃない!」

 

黒崎は冷たい声で言い放ち、スタンガンで電流を流す。

「ぐはあ!」

そうこうしてる内に、殺せんせーは数人ずつずつ着実に避難させる。

そして、殺せんせーは、最後の黒崎と茅野を乗せて飛び立とうとする。

「さあ黒崎君、早く!」

 

殺せんせーは手を差し伸べる。だが、黒崎は気付いた。

翔助が、銃口を殺せんせーと茅野に向けていることを。

バン!銃声がする。

「危ない!」

黒崎は殺せんせーの手を払いのけ、窓の外に押し出す。殺せんせーはゆっくりと落下していく。

銃弾は黒崎を掠めて飛んでゆくが、誰にも当たらない。

そんな時、一段と大きい地響きがした、建物の倒壊が、目前まで迫っている。

黒崎は、自分の命がまもなく尽きることを悟った。

 

(なかなか悪くない、人生だったぜ……)

 

全てが、遠い世界のことのように思えてきた。

 


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