渚、カルマが相次いで倒れるその光景を、モニターで眺める仮面の男。
「やるねえ。まあこのくらいやってくれなきゃ困るのだけれどね。
さて、これで私の第1、第2の目的は完遂された。最後、第3の計画だけは残っているが、
まあ良いだろう。これは単なるオマケだ。後は、E組の愚かな生徒が全滅するのを待つだけ。
クックック。フハハハハハ!ようやく、私の野望が実現する時が来た!」
その時、別のモニターから足音がする。
「……何だと?」
仮面の男は、そこに見えた人物に対し、衝撃を受けた。
……
渚に続き、カルマまでもがやられた。
皆の顔に絶望が浮かぶ。この2人が傷一つつけられずやられたのだ。
自分たちに、出来ることはあるのか……
そんな中、皆は一つの可能性にたどり着く。
全員で一斉に襲いかかれば、動きは止められる。
その後で、彼の意識を失わせれば、ここを抜けられると。
皆は一斉に黒崎に飛びかかる。
だが黒崎は、目にも止まらぬ速さで全員の攻撃を見切り、大きく跳躍する。そして背後に回り、
1人ずつナイフとスタンガンで倒していく。皆が振り向いたときにはもう遅かった。
「え……」
1人、2人とまた、気絶していく。
黒崎相手に、なす術なしと思われた。
その時。
黒崎の前に飛び出る1人の影。茅野だ。
その手には注射器が握られていた。
黒崎はその手に持っていたナイフを突き出す。
だが、一瞬だけ遅かった。
茅野は黒崎の腕に注射器を突き刺す。
その中には、麻酔が入っていた。黒崎の身体が一瞬止まる。
(よくわからないけど、多分黒崎君は肉体は強化されていても、
それを制御する神経までは強化されてない。だから……)
恐らく、麻酔ですらも、一瞬動きを止めることはできても、根本的な解決にはならない。
それでも。
黒崎の手は震えていた。身体の神経が麻痺して、動かせなくなったからだ。
「お願い、元に戻って……」
茅野の首元にナイフが当てられる。
それでも茅野はひるまむことなく立ち向かう。
「茅野ちゃん、危ない!」
誰かが叫ぶ。それでも、
「大丈夫だよ。だってこのナイフ、刃が、こっち側向いてない……」
茅野は、倒れていた渚を見て気付いたのだ。
ナイフで切られたのに、ほとんど出血していない。軽い切り傷のようなものがあるだけだ。
黒崎は、ナイフの刃を相手に向けていない。いわゆるみねうちだ。
きっと、正気を失っていても、心の何処かで、皆を傷つけたくないという思いがあったのだ。
だからこそ、彼女は恐れることなく黒崎に立ち向かった。
いや、彼女は例え黒崎が本当に刃を突きつけていても、立ち向かったのだろう。
それ程までに、彼女は黒崎を助けたいという強固な決意をしていた。
「お願い、元に戻って……!」
黒崎の手は未だ震えていた。麻酔のせいではなかった。
例え正気を失っていても、茅野を傷つけることは彼には出来なかったのだ。
黒崎は正気を取り戻しかかっていた。
「うああ……」
その時、足音が近づいていく。
その足音は段々と大きくなっていく。
そして、そこに人影が現れ、叫び声がした。
「お兄ちゃん、私は、無事だよ!」
そこにいたのは、由香だった。
「由香……?」
黒崎は絞り出すような声を出す。
「私は生きてるから、お願い、こんなことはもうやめて!」
必死に叫ぶ由香。
その瞬間、黒崎は目を大きく見開き、その目は眼光を取り戻す。
そう、正気に戻ったのだ。
「生きてた……のか。」
黒崎は、仮面の男により、VRを使って幻覚を見せられていた。
その中で、由香が殺された映像を見せられ、正気を失ったのだ。
その後、仮面の男に洗脳された。
だから、由香が生きていると分かれば、彼の正気は取り戻されるのだ。
「俺は一体何をしていた……?」
「どういうこと?」
皆は状況が把握できていない。彼らは、黒崎が妹を助けるためにここに乗り込み、
捕えられたということしか知らないからだ。
「後で説明します!今はとにかく……」
そう言った由香の声は途中でかき消された。
スピーカーから大声が聞こえたからだ。
「クソ!してやられたな。黒崎由香よ、どうやってそこまで来た?
だがまあいい。こうなったら、私が直々に、全員まとめて倒してやる。」
そう声がした瞬間、どこからともなく人影が現れる。
仮面を被った男がそこにはいた。
「お前が、今回の一連の事件の黒幕か!」
状況は読めなくても、皆それくらいのことは理解していた。
「いかにも。しかし好都合だ。全員がここにいて、その内半数は意識を失っている。
こうなったら話は早い。君達全員を人質に取り、あのタコを呼び寄せる。
それだけだ。」
仮面の男は悪びれもなく話す。
「そんなこと、させるか。」
皆は一斉に仮面の男に襲いかかる。だが、男は超人的な速さでその攻撃を全て避ける。
ナイフ、スタンガン、銃撃、その全てを見切って避けていた。
「無駄なんだよ君達。」
今度は、仮面の男が目にも止まらぬ速さで攻撃し、1人、また2人と倒れていく。
しかも、素手で、一切武器を使わずに、的確に急所を突く。
そして、その場に立っているのは、ついに黒崎と、由香の2人だけになった。
「お兄ちゃん……」
怯える由香。それに対して、兄は答える。
「大丈夫だ、こいつは、今度こそ、俺が倒す!」
彼の目には、固い決意が宿っていた。
だが……
「今の君に私は倒せない。そう、絶対に。」
「何だと!」
「考えてもみたまえ。君は最後、満身創痍のまま私に倒された。
君の身体はもうボロボロのはずだ。それに、私を倒せば、もうここからは出られない。
後ろを見てみな。」
出口は塞がれている。そう、この男を倒してしまえば脱出はできなくなるのだ。
「それに、私に手を出せば、その瞬間ここで倒れている28人全員の命はないと思いな。」
「クソ……、この卑怯者が!」
「卑怯者?私は手段を選ばないよ。君を手に入れる為なら。
大人しく私に従い、この27人を助けるか。それとも、私に逆らって全員が犠牲になるか。
そのどちらかだと考えると、君に選択の余地はないよね。」
黒崎は拳をきつく握りしめる。仲間を人質に取られては迂闊に動けない。
「何の目的があって、ここまでするんだ!」
黒崎は叫ぶ。彼には理解できなかった。何のためにここまでするのか。
どんな目的であれ、こんなことをやる人間はまともじゃない。
「言ったじゃないか。君を手に入れるためだよ。そして君を強力な生体兵器の実験体にする。」
そう言うと仮面の男は注射器を取り出す。
「これは君や殺し屋ヴァンパイアに注入した薬だ。効果は今更説明するまでもないが、
十分に立証された。これをさらに改良し、大多数に投与すれば、最強の軍隊を作り上げられる。
まさに、生きる兵器。世界を混沌に陥らせることも出来るだろうね。」
黒崎は怒りのあまり震えだす。
(なんて奴だ、俺はこんな奴の為に利用されるのか。そんなことは絶対に断る!
こいつだけは、許さない!)
「あまり時間はないよ。私はそんなに気が長くない。そろそろ1人くらい、見せしめに殺そうか……」
仮面の男は銃を取り出し、その銃口を1人に向ける。
銃口の先にいたのは茅野だった。
「やめろ……!殺させて、たまるか。」
黒崎は急いで自分のナイフを取り出し、男の手元に投げ付ける。
だが、銃声は容赦無く、その空間に鳴り響いた。
新高一な訳ですが、課題が異常に多い。進学校だから仕方ないけど。
ヤバい。終わらない……