黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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95話 復活の時間

渚、カルマが相次いで倒れるその光景を、モニターで眺める仮面の男。

 

「やるねえ。まあこのくらいやってくれなきゃ困るのだけれどね。

さて、これで私の第1、第2の目的は完遂された。最後、第3の計画だけは残っているが、

まあ良いだろう。これは単なるオマケだ。後は、E組の愚かな生徒が全滅するのを待つだけ。

クックック。フハハハハハ!ようやく、私の野望が実現する時が来た!」

 

その時、別のモニターから足音がする。

 

「……何だと?」

仮面の男は、そこに見えた人物に対し、衝撃を受けた。

 

……

 

渚に続き、カルマまでもがやられた。

皆の顔に絶望が浮かぶ。この2人が傷一つつけられずやられたのだ。

自分たちに、出来ることはあるのか……

そんな中、皆は一つの可能性にたどり着く。

全員で一斉に襲いかかれば、動きは止められる。

その後で、彼の意識を失わせれば、ここを抜けられると。

 

皆は一斉に黒崎に飛びかかる。

 

だが黒崎は、目にも止まらぬ速さで全員の攻撃を見切り、大きく跳躍する。そして背後に回り、

1人ずつナイフとスタンガンで倒していく。皆が振り向いたときにはもう遅かった。

 

「え……」

 

1人、2人とまた、気絶していく。

黒崎相手に、なす術なしと思われた。

その時。

 

 

黒崎の前に飛び出る1人の影。茅野だ。

その手には注射器が握られていた。

黒崎はその手に持っていたナイフを突き出す。

だが、一瞬だけ遅かった。

茅野は黒崎の腕に注射器を突き刺す。

その中には、麻酔が入っていた。黒崎の身体が一瞬止まる。

 

(よくわからないけど、多分黒崎君は肉体は強化されていても、

それを制御する神経までは強化されてない。だから……)

 

恐らく、麻酔ですらも、一瞬動きを止めることはできても、根本的な解決にはならない。

それでも。

 

黒崎の手は震えていた。身体の神経が麻痺して、動かせなくなったからだ。

「お願い、元に戻って……」

 

茅野の首元にナイフが当てられる。

それでも茅野はひるまむことなく立ち向かう。

 

「茅野ちゃん、危ない!」

 

誰かが叫ぶ。それでも、

 

「大丈夫だよ。だってこのナイフ、刃が、こっち側向いてない……」

茅野は、倒れていた渚を見て気付いたのだ。

ナイフで切られたのに、ほとんど出血していない。軽い切り傷のようなものがあるだけだ。

黒崎は、ナイフの刃を相手に向けていない。いわゆるみねうちだ。

きっと、正気を失っていても、心の何処かで、皆を傷つけたくないという思いがあったのだ。

だからこそ、彼女は恐れることなく黒崎に立ち向かった。

いや、彼女は例え黒崎が本当に刃を突きつけていても、立ち向かったのだろう。

それ程までに、彼女は黒崎を助けたいという強固な決意をしていた。

 

「お願い、元に戻って……!」

 

黒崎の手は未だ震えていた。麻酔のせいではなかった。

例え正気を失っていても、茅野を傷つけることは彼には出来なかったのだ。

黒崎は正気を取り戻しかかっていた。

 

「うああ……」

 

その時、足音が近づいていく。

その足音は段々と大きくなっていく。

そして、そこに人影が現れ、叫び声がした。

 

「お兄ちゃん、私は、無事だよ!」

 

そこにいたのは、由香だった。

 

「由香……?」

黒崎は絞り出すような声を出す。

「私は生きてるから、お願い、こんなことはもうやめて!」

 

必死に叫ぶ由香。

 

その瞬間、黒崎は目を大きく見開き、その目は眼光を取り戻す。

そう、正気に戻ったのだ。

 

「生きてた……のか。」

 

黒崎は、仮面の男により、VRを使って幻覚を見せられていた。

その中で、由香が殺された映像を見せられ、正気を失ったのだ。

その後、仮面の男に洗脳された。

だから、由香が生きていると分かれば、彼の正気は取り戻されるのだ。

 

「俺は一体何をしていた……?」

 

「どういうこと?」

 

皆は状況が把握できていない。彼らは、黒崎が妹を助けるためにここに乗り込み、

捕えられたということしか知らないからだ。

 

「後で説明します!今はとにかく……」

 

そう言った由香の声は途中でかき消された。

スピーカーから大声が聞こえたからだ。

 

「クソ!してやられたな。黒崎由香よ、どうやってそこまで来た?

だがまあいい。こうなったら、私が直々に、全員まとめて倒してやる。」

 

そう声がした瞬間、どこからともなく人影が現れる。

仮面を被った男がそこにはいた。

 

「お前が、今回の一連の事件の黒幕か!」

 

状況は読めなくても、皆それくらいのことは理解していた。

 

「いかにも。しかし好都合だ。全員がここにいて、その内半数は意識を失っている。

こうなったら話は早い。君達全員を人質に取り、あのタコを呼び寄せる。

それだけだ。」

 

仮面の男は悪びれもなく話す。

 

「そんなこと、させるか。」

 

皆は一斉に仮面の男に襲いかかる。だが、男は超人的な速さでその攻撃を全て避ける。

ナイフ、スタンガン、銃撃、その全てを見切って避けていた。

 

「無駄なんだよ君達。」

 

今度は、仮面の男が目にも止まらぬ速さで攻撃し、1人、また2人と倒れていく。

しかも、素手で、一切武器を使わずに、的確に急所を突く。

そして、その場に立っているのは、ついに黒崎と、由香の2人だけになった。

 

「お兄ちゃん……」

怯える由香。それに対して、兄は答える。

 

「大丈夫だ、こいつは、今度こそ、俺が倒す!」

 

彼の目には、固い決意が宿っていた。

だが……

 

「今の君に私は倒せない。そう、絶対に。」

「何だと!」

「考えてもみたまえ。君は最後、満身創痍のまま私に倒された。

君の身体はもうボロボロのはずだ。それに、私を倒せば、もうここからは出られない。

後ろを見てみな。」

 

出口は塞がれている。そう、この男を倒してしまえば脱出はできなくなるのだ。

「それに、私に手を出せば、その瞬間ここで倒れている28人全員の命はないと思いな。」

 

「クソ……、この卑怯者が!」

 

「卑怯者?私は手段を選ばないよ。君を手に入れる為なら。

大人しく私に従い、この27人を助けるか。それとも、私に逆らって全員が犠牲になるか。

そのどちらかだと考えると、君に選択の余地はないよね。」

 

黒崎は拳をきつく握りしめる。仲間を人質に取られては迂闊に動けない。

 

「何の目的があって、ここまでするんだ!」

 

黒崎は叫ぶ。彼には理解できなかった。何のためにここまでするのか。

どんな目的であれ、こんなことをやる人間はまともじゃない。

 

「言ったじゃないか。君を手に入れるためだよ。そして君を強力な生体兵器の実験体にする。」

 

そう言うと仮面の男は注射器を取り出す。

 

「これは君や殺し屋ヴァンパイアに注入した薬だ。効果は今更説明するまでもないが、

十分に立証された。これをさらに改良し、大多数に投与すれば、最強の軍隊を作り上げられる。

まさに、生きる兵器。世界を混沌に陥らせることも出来るだろうね。」

 

黒崎は怒りのあまり震えだす。

 

(なんて奴だ、俺はこんな奴の為に利用されるのか。そんなことは絶対に断る!

こいつだけは、許さない!)

 

「あまり時間はないよ。私はそんなに気が長くない。そろそろ1人くらい、見せしめに殺そうか……」

 

仮面の男は銃を取り出し、その銃口を1人に向ける。

銃口の先にいたのは茅野だった。

 

「やめろ……!殺させて、たまるか。」

 

黒崎は急いで自分のナイフを取り出し、男の手元に投げ付ける。

だが、銃声は容赦無く、その空間に鳴り響いた。




新高一な訳ですが、課題が異常に多い。進学校だから仕方ないけど。
ヤバい。終わらない……

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