翌朝、さとりから
「八雲紫が来るのは夜になるそうです。全く、さっさとすれば良いのに」
と伝えられた。多分、その紫さんはさとりから嫌がらせを受けることになるだろう。南無。
暇になった私はこの館──地霊殿を散策していた。することが無いし、さとりのペットにも会ってみたいし、外に行くと妖怪ども(主に勇儀さん)の手で喧嘩か酒宴に巻き込まれるらしいし、
昨日の酒宴にいつのまにか参加していたさとりに似た女の子のことも知りたいし。足元には変わった黒猫がいる。尻尾が二股だ。
「にしても……広いね」
「紅魔館ほどじゃ無いけどね」
何処からか声が帰って来る。見渡しても誰もいない。と思ったら黒猫が消えて女の子がいた。
「どうも、あたいは火焔猫燐。お燐って呼ばれてる。いやー、さっきから足元にいたのに、まったく気が付かないとは、ほんとにさとり様と同じ能力持ってるの?」
「ああ、あの黒猫が。私はリーナ・ディメント。能力はオンオフできるから、気が付かなかったんだよ」
なるほど、と納得したお燐は黒猫に戻るとどこかへ走って行った。数分して、今度は人の姿で戻ってきた。右腕になんか棒を装着した胸に目の模様の宝石をつけた女の子を連れて。
「おう、いたいた。紹介するよ、霊烏路空だ。空って書いて『うつほ』って読む。お空って呼んでやって。お空、こいつはリーナ・ディメント。さとり様のお客さんだよ」
「へぇ、さとり様の?よろしくね!」
「よろしく。ところでその棒は……はぁ!?核融合!?」
能力をオンにしてお空の心を覗いてみたら、なんか核融合とか出てきた。危険すぎる。
「うにゅ?なんであたしの能力知ってるの?」
「さとり様と同じ能力持ってるんだってさ。で、リーナさんや、一つ聞きたいんだけど」
「……なに?私にはお空が怖いんだけど」
「大丈夫。こいつ馬鹿だけど頭良いから。そうそう制御ミスったりはしないよ。それで、こいし様がどこにいるか知らないかい?」
「こいし?」
あれ?こいしってどこかで……ああ!
「思い出した、あの子さとりの妹か!」
酒宴で見かけた女の子。今の今まで忘れてたけど、さとりの妹だったのか。
「あちゃあ、こいし様の能力のせいかねぇ。無意識に記憶の外側へ押しやってたんだろうさ。で、どこで見たんだい?」
「昨日だから今どこにいるかまではわからないよ」
「残念。さとり様にこいし様を見つけたら来るように言っておいてくれって言われたんだけどね」
「で、私を見かけたから挨拶ついでにお空を紹介して、こいしを見ていたら聞き出そうと」
「そゆこと」
「こいし様なら背中にいるけど?」
「「え?」」
私とお燐の声が重なる。お空の背中には誰も乗っていない。
「あたしじゃなくてリーナの。ほら、そこにいるけど?」
そーっと首だけ振り向いてみる。すると、ニコニコした顔が目の前に。
「うわっ!」
「あははっ、見つかっちゃった!」
私の背中から飛び降りるこいし。いつのまに。
「部屋から出てきてすぐのとこからくっついてたけど?」
この子凄い。それに、一切心が読めない。これが無意識か。
「じゃあお姉ちゃんのところに行こっか!一緒に来る?」
返事をする前に手を引っ張られる。お燐に助けを求めてみようとしたが、諦めろという目線を送ってきていた。なんでさ。