本編にはさとりたちは登場しません。
私が彼女と出会ったのは偶然だった。吸魂鬼の仕事で日本に来てそのまま観光していたら、いつのまにか地下空間にたどり着いていたのだ。
ウィル爺もこの空間のことは教えてくれなかった。その後にわかったことだけど、ここは幻想郷──忘れられたモノの行き着く場所、神隠しの終着点──の地下空間。ウィル爺でも幻想郷の管理者に会ったことがあるだけで、この場所のことは全く知らなかったらしい。
ともかく私は歩き出した。少し遠くに見えていた館に向かって。
「話はわかりました。明日、八雲紫に連絡しましょう。そうすればすぐに帰れるはずですし。明日の理由ですか?」
「今日はもう連絡するなと言われたから、かな?」
「あら、なぜわかったんですか?……ああ、貴女もですか。初めまして吸魂鬼。わたしは古明地さとり、『心を読む程度の能力』を持ってるわ」
「初めましてさとり妖怪。私はリーナ・ディメント。同じく『心を読む程度の能力』を持ってる。オンオフ可能だけれどね」
「切り替え可能とは羨ましいわね。能力を使っていない時は無意識には?」
「ならないよ。貴女の妹みたいなことにはね。と言うよりも、マイナスの感情を向けられたとしても、私は吸魂鬼、感情や魂を食べる化け物だ」
「自らに向けられる負の感情もただの食材と。ああ、わたしもペットを飼っていますよ。一部は人間の姿を取っていますけどね。貴女みたいに」
(へぇ、そうなんだ。あと、能力で会話した方が楽じゃない?)
(奇遇ね。わたしもそう思っていたところよ)
(私のペットは黒猫なんだけどね、とても賢くて可愛いんだよね)
(ほう。ここにも黒猫はいますが、火車と言う妖怪ですね。死体を集めるのが趣味だそうです)
(死体よりは生きてる方がいいかな。苦しめて恐怖やら絶望やらを吸い取れるし)
(わたしよりも悪質ですね。あと、時々心の中に出ているハリーと言う人物は?)
(私の恋人)
(ふむふむ、記憶を見させてもらいましたが、甘酸っぱいですね。なんで半年も恋心に気づかなかったんですか)
(さとりだって、自分の心は読めないでしょ?)
(……そうですね。それに、妹の心も読めないですし。わたしって使えませんね)
(私よりは能力の使い方が上手いと思うけど?)
(慰め……ではありませんね。
さて、貴女が迷い込んで来ただけとはいえ、今日はありがとうございました。外のことが知れて良かったですよ。ヴォルデモートだとか)
(こっちもね。幻想郷のことが知れて良かったよ)
(この後勇儀さんが酒を持ってくるそうですが、どうしますか?)
(酒は飲まないけど参戦させてもらうよ)
私とさとりは同時に立ち上がり、握手をして広間へと向かった。そのすぐ後に一角の鬼──星熊童子こと、星熊勇儀が酒樽を持ってやってきたのだが、匂いを嗅いだ途端私の意識はブラックアウトしてしまった。後でさとりに聞いたら、勇儀さんが持ってきた酒は外の世界ではスピリタスと呼ばれる度数の強い酒だったそうだ。いつも呑んでるのより本の少しだけ度数が強いらしい。
「貴女にもトラウマがあったみたいですね、ええ」
なぜ私が気絶したのかはわからないが、何かのトラウマが刺激されたようだ。一体、どんなトラウマが私にあるのだろう。覚えていないのに。
もう一、二話続きます。
前に出した、『東方キャラを出すかどうかのアンケート』で、『さとりと無言会話してほしい』と言う意見があったので、出して見ました。なお、このIFルートは本編には全く影響しません。完全に平行世界での話なのです。
ちなみに、トラウマの原因は前世での死因。忘れている人はPrologueⅠをもう一度読んで見てください。