吸魂鬼に転生してしまいました。   作:零崎妖識

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「あっはっは、君も難儀なことだね。みんなへの愛を説きながら、愛の前に敗れるだなんてさ?
「ああ、君の愛が足りなかった訳じゃないよ。彼女の愛が強すぎただけだ。麗しく美しく羨ましいほどの家族愛。ああ、なんて甘美なんだろう。
「ああ、ああ、君を愛していない訳じゃないよ。君は僕の性格を、起源を知っているだろう?
「『全愛』。
「『全てを愛する』のが僕なのさ。
「だから君も、君を打ち破った彼女も、彼女の夫も、彼女の息子も、君が導いてきた彼らも、君に反発した彼らも、僕の後輩のみんなも、
「僕は分け隔てなく愛そう。
「君たちの顔を、目を、鼻を、口を、耳を、体を、腕を、手を、足を、腿を、指を、歯を、髪を、骨を、心臓を、胃を、腸を、膀胱を、子宮を、肝臓を、脳を、声を、性格を、人格を、起源を、感情を、誕生を、死滅を、生を、死後を、財産を、思いを、想いを、意志を、意思を、意味を、運命を、種族を、家族を、仲間を、君自身を、
(ころ)したいほどに、愛してる」


列車内

列車の中を、ナニカが蠢く。彼らの周りは空気が凍りつき、極寒地獄(コキュートス)かと思えるほどに冷え付いている。

一体が一つの車両を担当し、探す気のない何かを探す。

とある車両を担当した者は、金髪の男の子に遭遇した。行きあってしまった男の子は、なす術もなく気絶し、恐怖の感情を美味しく頂かれてそのまま放置された。

とある車両では、カブのイヤリングを身につけた少女が、ナニカをジーっと見ていた。彼女もまた、心の中にいつのまにか浮かび上がっていた恐怖と、もともと抱いていた好奇心を、ほんの少し、ナニカに食われていた。

そして、とある車両では。

「……ウィル爺かな?」

老人の吸魂鬼が、生き残った男の子と対面していた。

 

 

(ふむ、どうするかのう。リーナと合わせてやるつもりじゃったが、まさか儂が引き当ててしまうとは。ハリーもがっかりしているし、今からでも交代できないかのう?)

慌てふためくコンパートメントの乗客と、彼らからは見えない位置であからさまにがっかりしているハリー。そして何もせずにただ佇む吸魂鬼。

(まあいい。せっかくじゃし、新鮮な恐怖と恐慌でも味わっていくかのう)

吸魂鬼は息を吸う。彼らの感情ごと。その途端、

「生徒に手を出すな!〈守護霊よ、来たれ(エクスペクト・パトローナム)〉!」

もう一人いた、くたびれた様子の男が出した銀色の狼ーー守護霊(パトローナス)が、ウィルを追い払った。

 

 

ーー数分後、ホグワーツ特急内を探索していた吸魂鬼全てが、ホグワーツ校内禁じられた森へと集まっていた。この先のーー具体的には、シリウス・ブラックの無罪の証拠をつかめるまでのーーそれぞれの担当、分担、シフトの調整をするために。

「リーナ、少しいいかのう?」

「どうしたの?ウィル爺……まさか、ウィル爺の所に?」

「ああ。すまんのう、いや本当に。しかし、あそこに行かんでよかったかもしれんぞ?守護霊の呪文を使える者がおったからの」

「あー、近づかれると痛いんだっけ?私はまだ喰らったことないからわからないけど」

「痛い、と言うよりもものすごい不快感じゃな。なんというか、こう……変な例えになるんじゃが、大量のバカップルの中に独り身でいて、居心地が悪くなるとか、そんな感じじゃ」

「うん、わかんないや」

そうこうしているうちに、担当が決まったようだ。リーナの担当は、主にホグワーツ校内のようだ。

彼ら吸魂鬼の目的は、信頼できる誰かーーできればダンブルドアやマクゴナガル、発言力の問題でファッジやアンブリッジーーの前で、ピーター・ペティグリューを捕獲し、シリウス・ブラックの無罪を確定させること。末っ子の義父、そして彼女の恋人の名付け親でもあるシリウスのために、ひいては末っ子(リーナ)恋人(ハリー)のために。彼らは秘密裏(?)に、面白おかしく行動する。




「ふふ、誰かのために行動できるなんて、なんて素敵な愛なんだろう。
「ああ、諸君、彼らのような崇高な愛を持たない、ただ全てを愛する事しかできない僕を許してくれ!
「贖罪を、僕に贖罪を!
「ああ、世界全てに分け隔てない愛を!
「愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛をっ!!
「……すまない、怖がらせてしまったね。
「怒らせてしまったね。
「でも、僕はその恐怖と怒りも愛そう。
「嫉妬も、憤怒も、怠惰も、強欲も、傲慢も、暴食も、色欲も、
「その罪ですら、僕は愛する。
「……ああ、あれはどこにある。
「あの鏡はどこにある。
「僕を導いてくれる、僕を愛してくれる、僕に全てを与えてくれるあの鏡は!
「……どこにあるんだい?
「……『みぞの鏡』よ」

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