夜。私はハグリッドに聞いたことを思い出していた。確かに、ハグリッドは五十年前の事件で犯人として杖を折られ追放され、ダンブルドアによって森番になったらしい。しかし、それは冤罪だと言うのだ。
五十年前のホグワーツで、ハグリッドはとある魔法生物を飼っていた。そして、そのことがトム・リドルにバレて、追放された。でも、その生物(ハグリッドは頑なに正体を教えてくれなかった)は人を襲うような奴じゃない、飼っていた箱から出したこともないと言っていた。そして、それらはハグリッドの記憶で確認している。ま、プライバシーを考慮して生物の種類は見ないようにしたけど。
……あれ?なんで、ハグリッドを追放したことで事件が収まった?なんで、人を襲わない怪物を逃したことで、人が襲われなくなった?なんで、トム・マールヴォロ・リドルはハグリッドが犯人だと思った?……これらから考え出される結論は一つだけ。どこぞの死神みたいな名探偵ならすぐに思い浮かぶ結論だろう。
『トム・マールヴォロ・リドルが継承者で、何かの事情(おそらくマートルの殺害)で犯人を仕立て上げなくてはならなくなって、ちょうど怪物を飼っていたハグリッドに濡れ衣を着せた』
それなら、あの日記に残留思念的な何かがあるのも頷ける。アレは少なくとも一回だけなら、姿には影響はないはずだから。
単純なアナグラムだ。リドルはヴォルデモートで、彼なら秘密の部屋を開けることができる。少しヒントがあれば、聡明な人なら気がつくだろう。ダンブルドアもわかっているだろうし。
日記が危険であることはわかっている。でも、一日やそこらで支配できるほど強力ではない。あの中にあるのは、ただの切れ端、残留思念。
「ハリーなら、そんなものに負けるはずがないのさ」
絶対に、ね。
「日記、どうだった?」
「五十年前の出来事を見せられた。その中でもハグリッドが犯人ってなってたよ」
「僕は見てないんだよなぁ。でも、ハグリッドがマグル生まれをこっそり襲えると思うかい?隠し事が下手なのに」
「無理ね」
「ねぇ、その日記ってやっぱり危険なの?」
「多分危険。だって……いや、これは時が来たら話そうか」
「教えてくれてもいいんじゃないか、リーナ」
「うーん、精神衛生上今聞くのはまずいかも」
大広間でみんなと話す。今はまだ、リドルがあのお辞儀だと言わないほうが得策だろう。
「そういえば、ダンブルドアって五十年前も先生をしてたんだね」
「そうなの?」
「うん。校長ではなかったけど、姿は今みたいだったよ」
「……あの人何歳?」
ダンブルドアって、命の水を使ってるのかな?
そう考えていると、
「ミネルバ、もうやっかいなことはないと思いますよ。今度こそ、部屋は永久に閉ざされましたよ。犯人は、私に捕まるのは時間の問題だと観念的したのでしょう。私にコテンパンにやられる前にやめたとは、なかなか利口ですな。そう、今、学校に必要なのは、気分を盛り上げることですよ。先学期のいやな思い出を一掃しましょう!今はこれ以上申し上げませんけどね、まさにこれだ、という考えがあるのですよ……」
嫌な予感しかしない。ロックハートの考えは、
大広間がピンクに染まっていた。
一番前には、ピンク色のローブを着たロックハート。その周りに並ぶ先生たちは石のような無表情。基本的に笑顔を絶やすことのないダンブルドアでさえ能面みたいで、マクゴナガル先生はほおを痙攣させ、スネイプは『許可が下りたら手足を捥いでやる』とか思っていた。
「バレンタインおめでとう!今までのところ四十六人のみなさんが私にカードをくださいました。ありがとう!そうです、みなさんをちょっと驚かせようと、私がこのようにさせていただきました。しかも、これが全てではありませんよ!」
ロックハートが手を叩く。すると、玄関ホールにつながるドアから、無愛想な顔の小人が十二人入ってきた。金色の翼をつけ、ハープを持っている。ロックハート、かっこよさを出したいなら指ぱっちんのほうがよかったと思う。
「私の愛すべき配達キューピッドです!今日は学校中を巡回して、みなさんのバレンタイン・カードを配達します。そしてお楽しみはまだまだこれからですよ!先生方も(長いので省略)」
ロックハートは『愛の妙薬』がどうとか、『魅惑の呪文』がどうとか言ってたけど、惚れ魔法なんて一時的なものだから意味がないと思う。既成事実を作ることにしか使えないんじゃないかな。
午後になったけど、ロックハートが言ったことのウザさがはっきりとわかった。小人は一日中教室に乱入してくる。ハリーに歌のメッセージを届けようとした小人もいたけど、後ろから持ち上げて湖に落としておいた。