「ッ!」
土曜日の夜の談話室。何かに驚いたかのように、ハリーが急に飛び上がった。
「どうしたんだい?」
「何か聞こえたんだ。みんなは?」
私は聞こえなかったし、ロン、ハーマイオニー、ネビルも首を横に振る。
「みんなには聞こえなかったの?あんなに、骨の髄まで凍るような声だったのに?」
「ハリー、疲れてるんじゃないか?ここ最近、ロックハートに追い回されたりしてたろう?」
「ロン、彼はただハリーが心配なだけよ。有名人の大変さを理解しているから、ハリーにその大変さを乗りきる方法を教えてあげようとしているんだわ」
「ロックハートのことはどっちでもいいけどね。ハリー。僕らにも、どんな声だったのか教えてくれるかい?」
「私からもお願い。もしかしたらがあるし」
「わかった。確か……殺してやるとか言ってたね。引き裂いてやるとか、八つ裂きにしてやるとか。幻聴ならいいけど、もし本当なら……」
殺してやる、ね。ハリーも気づいているだろう。おそらく、これがドビーの言っていたことで、今年、私たちが巻き込まれる面倒ごとだということを。
状況整理。ハリーだけに聞こえる声。ハリー以外には聞こえない。骨の髄まで凍るような声。殺してやるとの言葉。……ここでピックアップするのは、ハリーにしか言葉が聞こえなかったと言う事かな。私は一つ、知ってる限りではハリーにしか聞こえない声を知っている。蛇語。もしかしたら、ハリーももう思い当たってるかもしれない。
蛇による殺人。
……よくわからないね。ホグワーツで蛇と言えばスリザリンだけど、ホグワーツの生徒を殺すような真似はしないはず。
「悩んでても仕方がないしね。もう寝よう」
ハリーの言葉で、みんなはそれぞれの部屋へ向かう。私とハリーはまだ残ってるけど。
「リーナ。まさか、蛇?」
「やっぱりその結論になるか。私もそう思ってるよ。でも、何か蛇で思い浮かぶことある?」
ハリーは少し考える素振りを見せたあと、こう言ってのけた。
「蛇と言ったら……バジリスクとか?」
あ……蛇の王、だと?
「いやいや、ハリー。まさかホグワーツでも、さすがに
「いや、森にケンタウルスとか、ユニコーンとかいるじゃん」
うん。いないとは思いたいけど、いないと言い切れないのがホグワーツ。M.O.M.分類XXXXXの生物はいないと信じたい。そう思いながら、私はハリーに挨拶し、部屋に戻っていった。
十月、寒気がやってきて、雨が多くなってきた。が、ウッドによるクィディッチ練習は少しも休みになることはなかった。
ハロウィン数日前にも、嵐の中を飛ぶことになり、濡れて凄く寒い。それに、泥だらけだ。それに、ニンバス2001はやっぱり速いらしい。フレッドとジョージからの情報だ。ハリーの箒よりは遅かったとその後に続いたが。
濡れたまま廊下を歩く。ハリーも一緒だ。あの声はあの時の一回しか聞こえてないらしい。
「あれ?」
ハリーが声を上げる。廊下の先には、『ほとんど首無しニック』が何やらブツブツ言いつつ立っていた。
「……要件を満たさない……たったの一センチ、それ以下なのに……」
……?どうしたんだろう。
「やあ、ニック」
「やあ、こんにちは」
ニックはよほど物思いにふけっていたのか、私たちが近づいていたことにも気がつかなかったようだ。振り向いたニックの手には、彼と同じように、透き通った手紙があった。
「おや、ポッター君にディメント君。こんなところでどうしたのですか?」
「寮に帰る途中。何か悩んでいたようだけど、どうしたの?」
「いえ、たいしたことではありませんよ。とあるゴーストによるクラブに入会できないかとね。しかし、どうやら私は『要件を満たさない』」
なるほど、さっきの手紙はニックが入会のために送った手紙の返事か。それで、何かしらの要件を満たさないから断られたと。
「クラブ?」
「ええ。首無し狩クラブです。私は四十五回ほど、切れない斧で首を切りつけられました。しかし、それでも首は落ちませんでした。ああ、スッパリ落ちてくれた方が、どれだけ良かったか!その方が、痛い目をみずに、はずかしめを受けずにすんだのに!」
手紙を見せてくれるニック。内容を要約すると、ニックは首と胴体が分かれていないから、要件を満たしていないとの事だった。
切れない斧で首を切りつけるかぁ。拷問として使えるかな?」
「リーナ、言葉にしちゃってるから」
あれ?声に出てた?あ、ニックが引いてる。うーん、これよりもやばい拷問とかあるのに。地面から首の上だけだして、竹製の鋸で引くとか、心臓から遠いところから縄で縛って細ーい糸でゆっくり切り落として行くとか。大切な人にこれをやって、それを見せるのを拷問にするのもいいね。もしくは、大切な人を操って拷問させるか。あ、爪を全部剥がして、指先から鑢で削っていくのもいいかも。感覚強化の呪文があったら、痛覚を強化してさらに痛みを与えられそう。
「リーナ、ミセス・ノリスが見てるけど」
ハリーの言葉で現実へ引き戻される。ミセス・ノリスがいるということは、フィルチがもうすぐやってくるということだ。
「二人とも。フィルチは今機嫌が悪い。特に、汚れには敏感だろう。三年生の誰かが地下牢の天井いっぱいにカエルの脳みそをくっつかせたらしい」
それ、赤い毛の双子じゃない?さて、ここから急いで離れよう。と、歩き出したとき、
ドンッ
「痛っ」
何かにぶつかった。……フィルチだった。
「汚い!ああ、くそっ!もうたくさんだ!ポッター、ディメント、ついてこい!」
ため息をついて、フィルチについていく。ついたところは、フィルチの事務室だった。窓がなく、壁に沿って並ぶファイル・キャビネットには処罰した生徒一人一人の細かい記録。しかも、ウィーズリーの双子は引き出し一つを占領している。机の後ろの壁には、ピカピカに磨き上げられた鎖や手枷があった。
「足枷と枷につける重りがない」
「うむ……申請しておくか」
なんとなくの呟きに、フィルチがまともに反応した。
「いい部屋だね。元々があるなら懲罰房かな?」
「ああ。あとは校長が体罰を認めてくれれば完璧なのに」
「いや。体罰じゃ足りない。精神的にも追い詰めないと」
「ほう。規則に逆らえないように?」
「うん。単純な子なら、ちょっとの洗脳で狙ったように動かせるよ?」
見つめ合う私とフィルチ。手を差し伸べて、握手をした。
「意気投合しちゃったよ……」
何やらハリーが呆れているが気にしない。さて、どんな処罰が下されるかな?軽いのだといいけど。
バーン!
天井の上から大きな音がした。ピーブズの仕業らしい。フィルチはすっ飛んでいった。
「……何これ」
フィルチの机の上を見ていたハリーが、何かを見つけたようだ。
「クイックスペル?」
……見ないでおこう。フィルチにも、色々あるんだろう。ハリーも見るのを止めたようだ。
少しして、勝ち誇った様子のフィルチが戻ってきた。
「あの『姿をくらます飾り棚』は非常に値打ちのあるものだった!」
ホグワーツにも『姿くらますキャビネット棚』があったのか。ボージン・アンド・バークスにもあったけど、ここのとつながっているのかな?フィルチの言葉だと、壊れちゃったみたいだけど。
「なぁ、おまえ、今度こそピーブズめを追い出せるなぁ」
フィルチはミセス・ノリスを抱き上げている。そして、私たちに向かって言った。
「ピーブズを追い出せるかもしれない祝いだ。それに、趣味が合うようだしな。今回は無罪にしてやる。私はピーブズの報告書を書かねばならん。早く行け」
ピーブズ感謝。私たちはさっさとフィルチの事務室を出て、先ほど下りてきた階段を上った。
久々の黒いリーナ。
リーナが吸魂鬼であることは、三巻時点でバラそうかなと考えています。無理だったら、五巻ですかね。