「闇の魔術には三つ、最も厳しく罰せられる呪文がある。知っている者はいるか?」
何人かが手を挙げる。もちろん、その中には私も入っている。その三つの呪文なら知っているし、使えるからね。
「では、ミスター・ウィーズリー。答えてみろ」
「えーと、パパが一つ話してくれたんですけど……〈服従の呪文〉とか何とか?」
「ああ、その通りだ。お前の父親なら、確かにそいつを知っているだろう。一時期、魔法省を手こずらせたからな」
ムーディ先生は机の引き出しを開けて、三匹の大蜘蛛が入ったガラス瓶を取り出した。その中から一匹を掴み出したムーディ先生は、その蜘蛛を手のひらに乗せて、杖を向けた。
「〈
一瞬だけピクリと身震いした蜘蛛の意識は、幸福感に包まれた。そして、自分の意思とは関係なく踊り狂い始めた。
みんなはそれを見て笑った──ムーディ先生と、私以外は。
「この呪文は完全な支配だ。わしはこいつを、思いのままにできる。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさせることも、誰かの喉に飛び込ませることも……この呪文で動かされている人間を見分けるのは難しい。普通の闇祓いには一仕事だった……ディメント家を除いてな。
三つの呪文のうち、唯一〈服従の呪文〉への対抗策のようなものはある。これからそのやり方を教えていこう。しかし、これには個人の持つ強い意志の力が必要だ。誰にもできるわけではない。できれば、呪文をかけられぬようにするのがよい。油断大敵!」
彼は蜘蛛をガラス瓶の中に飛び込ませたところで呪文を止め、再び、同じ質問を聞いてきた。
「他の呪文を知っている者は?ミス・ディメントは知っているだろうから、手を挙げても指名せんぞ」
残念、釘を刺されてしまった。
周りを見渡すと、先ほどと同じ顔ぶれが手を挙げていた──ただし、ロンの手が下がってネビルの手が代わりに挙がっていたけど。
「何かね?」
ムーディ先生の目がネビルを見据える。物怖じしながらも、ネビルはその呪文の名前をきちんと答えた──自らにとって、嫌悪の対象であろうその呪文の名前を。
「一つだけ──〈磔の呪文〉」
ムーディ先生が目を見開き、出席簿に視線を走らせた。
「お前は……そうか、ロングボトムか」
マッド-アイ・ムーディなら確かに知っているだろう。ロングボトム夫妻にその呪文をかけた四人を捕まえたのは彼なのだから。
「〈磔の呪文〉。それがどんなものかわかるように、少しばかり蜘蛛を大きくする必要がある。〈
蜘蛛が膨れ上がり、引き気味だったロンはとうとう恥も外聞もかなぐり捨て、椅子を引いてムーディ先生から遠ざかった。
「少々、気分が悪くなるかもしれんから気をつけろ……〈
途端に、蜘蛛は苦しみ始め、ネビルの感情は恐怖に染まった。杖を向けられている間、どんどん蜘蛛にかかる苦痛は大きくなっていく。
「もうやめて!」
ハーマイオニーが金切声を上げる。ネビルが心配になったんだろう。
呪文の支配から解かれた蜘蛛は、未だに痙攣を続けている。縮小呪文を蜘蛛にかけて、瓶に戻したムーディ先生は再び話し出す。
「苦痛。この呪文は死の方がマシだと思えるほどの苦痛を与える。何時間もかけられ続けていれば、いずれは精神が壊れてしまうかもしれん。そして何よりも厄介なのが、必要なのが杖と気持ちだけだということだ」
精神が壊れてしまうと言った時の彼の目は、ネビルに向けられていた。つまり、その話のモデルはロングボトム夫妻だということだ。ムーディがそんなことを話すかな?そもそも、ムーディはこんな授業を……しそうだね、うん。
でも、九月始めにムーディの家で騒動が起きたんだし、少し気になる……よし、覗いてみるか。
これは……アズカバンでの記憶?それに、目の前の吸魂鬼は私?横の檻にいるのは……あの時、私が喰べたレストレンジ二人とベラトリックス・レストレンジかな?だとすると……この男は、バーテミウス・クラウチJr.なのかな?
もう少し思考を読み進めると、「ハリーをポートキーでホグワーツから連れ出して例のあの人を復活させる」という考えが見つかった。その詳細な計画も。
この授業の間は見逃すとしても……終わり次第、捕まえにかかるとしよう。
Jr.身バレ。アズカバンでの記憶云々のところはPrologueⅦに書いてあります。