打ち上げ兼親睦会が終わったあと俺は自分の部屋でゆっくりしていた。
ライルと後で会う約束をしたものの、まだ来る様子はない。
あまりにも暇すぎる。キンケドゥがせめて起きていてくれれば話し相手になってくれただろうが、すでに寝ていた。
俺の方が疲れているのだから先に寝させてくれと言いたかったが、起こすと怒るので代わりに顔に落書きをして遊ぶ。
“肉”とかいておくのもいいが、アレンジをして猫の髭を描いてやった。
我ながら上手くできたと感じる。つい上手くできたので写真を撮っておく。
「…何してるんだ?」
いつの間にかライルが部屋の中に入ってきてたようだ。イタズラに集中してたせいで気付かなかった。
「…とりあえずついて来てくれ」
了解した、だがその前に写真を撮っておこう。こういうのはそうそう出来ないのだから。
☆
先程打ち上げをしていた食堂に再び来ていた。すでに片付けは済んでいて当然誰もいなかった。
昨日の夜と同じくように端のテーブルを貸し切り、ライルは話しを始めた。
「セシリアのことなんだが、その何から言うべきか」
話しづらいことなら話さなくても構わない。
無理に話したって辛いだけだろう。
「いや、話させてくれ。これは伝えておきたいことだ」
ライルからは真剣な表情が感じ取れる。それはライルの覚悟なのだと察した。
ライルはそっと口を開き、話を始めた。
★
俺には双子の兄がいた。名前はニール・ディランディ、自慢の兄さんだったよ。
セシリアが呼んだニールってのは俺の兄さんのことなんだ。
兄さんはイギリスのお坊ちゃんが通うような中学に入学し、俺は日本に留学した。
それから半年後に、兄さんはセシリアという女の子と付き合うことになったという手紙を送ってきた。
流石にその時は驚いたけどな。流石、俺の兄さんだよ。
でも兄さんとセシリアの幸せは長くなかった。呆気なく終わってしまったんだ。
俺の家族とセシリアの両親が列車の事故に巻き込まれた。
生存者は誰1人として見つからなかった。
俺は葬儀のためにイギリスに帰国していた。
俺がセシリアと出会ったのはその時が初めてだった。
セシリアは俺のことをニールだと思い込んでいた。そうでもしなきゃすぐに倒れてしまうほどセシリアはやつれていた。
一両親と恋人を失うことがどれほど辛いか、
お前にだってわかるだろ?
俺は兄さんの振りをして恋人を演じ、セシリアを支えた。
そのままイギリスに残って、セシリアの隣でずっと兄さんの振りをしていたんだ。
それからは知ってる通りISの適正を持つ俺はIS学園に入ることが決まって、そして今に至るってわけだ。
☆
「おっと、もうこんな時間か。悪いが話はこれで終わりだ。寮に戻ろうぜ」
ライルが席を立ち上がり、食堂を出ようとしている。俺は話を聞いてから動くことが出来なかった。
なんて理不尽な話だろうか。
つい呟いてしまう。
「そう気にするなよ。これは俺の問題なんだから」
背を向けたまま返事を返してきた。
この背中にはどれほど重たいものを背負ってきたのか想像もつかなかった。
仲間を頼ってくれ。
俺が言えたのはそのくらいだった。
「ありがとうな」
ライルはこちらを振り向くことなく食堂を出ていった。
俺は未だに椅子に座りながらライルのことを考えていた。
★
刹那はセシリアと旧友であるライルがイチャついてるのを見てから気を失っていた。
(まさか、原作が始まる前に攻略されてるとは…)
既に打ち上げは終了していたが、立ったまま気絶していた刹那に話しかける人物はおらず、食堂の置物と勘違いされて放置されていた。
仕方なく寮へと戻ろうとしようとした時、セシリアとイチャついていたライルとレーンが食堂を訪れていた。
2人共、刹那に気づかずに話を始める。
今、動いてしまっては気まづくなるのが目に見えていた刹那は、自分を物置だと言い聞かせて動かずにいた。
(ロックオンにそんな事があったのか…それなのに俺は…)
中学は同じだったがイギリスに帰国してから連絡を一切取っていなかった。そんな事情があるとは知る由もない。
刹那は自分を恥じていた。ライルの事情も知らずにセシリアを攻略するなど考えていた自分がどれほど愚かなのか。
それからしてライルは食堂を立ち去り、レーンと刹那だけが食堂に残っていた。
(くっ…足が震えてきた。さっさと帰ってくれ!)
レーンは未だに椅子に座って考えごとをしていた。勿論レーンは刹那が食堂にいることなんて知らずゆっくりと考えていた。
(早く…早く……)
この1時間程後、警備員に注意されてようやくレーンは食堂を出ていった。
☆
「という訳で1年1組の代表は刹那・F・セイエイ君に決まりました」
副担任からクラス代表が決まったことが告げられると、クラスはざわつき始める。
「先生〜何で刹那君になったんですか?」
「エイムは生徒会役員としての仕事がある。だからセイエイに任命した。他に質問は?」
担任から補足される。これは校則に記載されていてるらしいが、今までしらなかった。
結果、トーナメントで準優勝のセイエイが1組のクラス代表となった。
「それでは、授業を始める。前回の続きからだ。」
担任からの指示でみんなノートを開いて教科書を読み始める。俺も同じように読み始めたが、内容がさっぱりだった。
2週間程、ISのトレーニングに明け暮れていたせいで授業をまともに受けれてなかったのだ。
その日も担任に頭を叩かれた。
☆
ようやく午前中の授業が終わり、食堂でゆっくりしていた。いつもと変わらず混んでいる。
適当に空いてる席に座ってから今日の日替わり定食を食べ始める。この日の日替わり定食は珍しくワンタンメンだ。
世界各国から生徒が集まるだけあって国ごとの料理もしっかり揃っていて、今日のラーメンも日本風ではなく中華系のお店で食べるような本格的なワンタンメンだ。
味を楽しんで食べていると後ろから席は空いてるかと声を掛けられた。とくに誰かと約束したわけでもないのでどうぞと返した。
隣に来たのはキンケドゥだった。こうして一緒に昼飯を一緒に食べるのは久しぶりな気がする。
何を頼んだか聞いてみると、こっちを振り向き
「見りゃあわかるだろ?」
とテーブルの上のワンタンメンを指した。
恐らく同じ日替わり定食を頼んだのだろう。
ちなみにこの時のキンケドゥの顔には昨日の猫髭のいたずらが残っている。
あまりに予想していなかったので笑ってしまうと、キンケドゥに不思議がられた。後で顔を洗うことを勧めておいた。
キンケドゥが気づいた後に蹴られたのは言うまでもない。
☆
午後はISの実習だが、俺のペーネロぺーは修理中なので訓練機でやることに。専用機持ちということでクラスメイトに教えることになったのだが上手く教えられず、終始キンケドゥに頼りっぱなしだった。
ちなみに俺の説明はまだマシな方だったらしい。セイエイの説明が酷かったらしく、みんな織斑とキンケドゥによっていったそうだ。
ちゃんと俺の説明を聞いてくれたのは相川と布仏だけだった。
期待の眼差しを向けていた布仏には申し訳なかった。
ところで織斑は何故あそこまで上手なのだ?やはりキンケドゥから教えられるとみんなああなるのか?
織斑を羨ましがっているとキンケドゥから
「…お前にも教えてやるから」
と赤面しながら言われた。教えてくれるのは凄く助かるが、そんなに顔が赤いと心配になる。体調には気をつけろと言っておいた。
その後、キンケドゥが風邪を引いたのが発覚し、俺が看護をすることになったのはまた別の話だ。
☆
時間は変わって放課後、生徒会長からお呼び出しをくらい生徒会室にいる。
「この後1年生の転校生がやってくるから、レーン君にはその子の案内をして欲しいの」
何故俺がというと、生徒会長と布仏先輩は事務作業でとてもじゃないが無理。布仏は簪のところに行ってるから、空いてるのは俺だけなのだ。
しかしこの時期に転校生とは珍しい。普通なら入学式に合わせると思うが、1ヶ月遅れたということは何か事情があったのかもしれない。
とりあえず生徒会長から言われた場所でその転校生を待つことにしよう。
☆
指示された場所で待ってみるも転校生は一向に来る気配がない。アリーナを使っていた生徒も少しずつ寮に戻っていくのが見えるほと、時間が経っている。
「あれ?何やってるんだレーン?」
ISスーツを着た織斑がこっちに来ていた。どうやらこいつもアリーナでISのトレーニングをしていたようだ。
生徒会の仕事でここに居ると言っておいた。
そっちは訓練をしていたようだが、どうだったか聞いてみる。
「今日は1組の人達が多かったな。キンケドゥや刹那もいたし、クラスのみんなもいたぜ」
それは羨ましいな。生徒会がなかったらそっちに行ってたくらいには。といっても今はISを修理に出しているからどっちにしろ無理だったがな。
「ハハハ、また今度誘うさ。その時は相手してくれよ」
こちらこそ宜しく頼む。
織斑は手を振ってから寮に戻っていく。俺も案内を済ませたら1度部屋にもどろう。
「あんた、もしかしてレーン君?」
懐かしい声がして、声の方向を向くと凰がいた。中学の時以来だが何も変わっていないようだ。
しかし何故凰がここにいる?
「なんでって、私はここに転校してきたのよ」
じゃあ転校生というのは凰のことだったのか。こうして顔を合わせるのは二年ぶりだったか。
「正確には1年半よ。久しぶりの日本だし早くみんなに会いたいわ」
キンケドゥの居場所のなら知っているので後で教えてやるが、今は先に事務室に行って手続きを優先しよう。
長旅で疲れただろうし、凰の代わりにバックを持ってやることにした。
「あら気が利くじゃない。そういう男はモテルわよ」
生憎と既に嫁が居る。これ以上モテても困るだけだ。
「あんた結婚してたの!?」
何を言っているんだ。
俺はまだ高校生だから結婚なんて…
今、俺はなんて言った?既に嫁がいる?結婚した経験はないぞ。俺の頭がおかしくなったのか?
…きっとボケっとしていたら変なことを口走っただけだ。考えるのはやめよう。
「…あんた大丈夫?」
大丈夫だ、ちょっと疲れていただけだ。それよりも移動しようか。
俺はさっきのことを考えないように、足を動かして余裕をなくていた。そうでもしなければとても正気じゃいられない気がしたのだ。
☆
その日の夜、キンケドゥは凰の部屋に泊まりに行ったので自室には俺しかいなかった。
もう寝ようと思うほど、つい今日口走ったことを思い出してしまう。何も考えないようにするほど逆に意識してしまう。
気分が想像以上に優れていない。気分転換に少しだけ外を歩こう。何か変わるかもしれない。
☆
何故か夜遅くまで開いている食堂。この時間によくライルと会うことはあったがとうぜん今はいない。
というか居るほうがおかしいのだ。こんな時間にうろついていれば警備員に注意されるのだから。
しかし俺の隣には布仏が座ってお菓子を食べている。一体どうしてこうなった?
「ん~とね、お腹減っちゃったからかんちゃんにバレないようにここに来たらレーミンがいたんだ~」
状況説明ありがとう。相変わらず甘い物好きなんだな。だが夜食にお菓子は太るからやめた方がいいぞ。
「む~!レーミンそれはいっちゃいけないよ~」
頬を膨らまして抗議してくる。かわいい。
ついぷくっと膨らんだ頬に指を指してしまう。ぷにぷにとした感じが愛くるしい。
「やめてよ〜レーミン」
やりすぎてしまった。布仏に頭を下げてあやまる。
「そう言えばレーミンはどうしてここにいるの〜」
ちょっと眠れないから散歩していただけだ。少しも悩みなんてない、とは言いきれなかった。
布仏を前にして嘘をつくことが出来なかった。
「相談にのるよ〜」
話せばきっと布仏は全て受け止めて俺の悩みを解決してくれる、そんな甘い考えがよぎる。
話してもいいのだろうか。
「レーミンは私を頼ってもいいんだよ〜?」
布仏の目がこちらを真っ直ぐと見つめてくる。その瞳を目視していると吸い込まれてしまいそうになる。
俺は…
「お前ら何話してんだよ〜俺も仲間に入れてくれよ〜」
誰かも分からない男が俺の隣に座ってくる。こんな奴は知らないし他のクラスでも見たことはない。
誰なんだこいつは。
「あれ〜副会長もお菓子食べにきたの~?」
「そうだよ(便乗)」
副会長?もしかして生徒会長が言いづらそうにしていたのはこの男のことか。
俺以外の転生者も生徒会にいるとは知らなかった。
「そう言えばレーミンには言ってなかったね~。副会長のやじゅう先輩だよ〜」
「よろしくオナシャス!」
一応、自己紹介を返す。
改めて見直すと、とても学生には見えず社会人のような顔つきだ。本当に同い年なのか?
「やじゅう先輩は17歳でね~レーミンの1つ歳上なんだ~」
「学生です(半ギレ)」
何故彼は怒っているのだろう。
ともかく副会長が来たのでとても布仏に相談できそうにはない。今日はもう寮に戻ると伝えた。
「ねぇレーミン、私の部屋にこない?」
「ファ!?」
つい吹き出してしまう。
なにも口に含んでなくてよかったと心底思う。
しかしいきなり何を言い出すのだ。こんな時間に部屋に誘うとは、変なことを考えてしまうではないか。
「さっきの続き〜まだ相談聞いてないよ~?」
そういうことか。
聞いてもらえるのは嬉しいが隣にいる副会長がこちらを睨んでいるせいではいと答えづらい。
気持ちは有難いが今日はもう遅いし、また今度にしよう。その時に改めて相談するよ。
「約束だよ~。ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリの〜ます、ゆびきった!」
布仏が俺の小指を勝手にとってゆびきりを交わす。まるで子供のようだが、微笑ましく暖かい気持ちになれた。
「じゃあ戻ろっか~」
「あっ、おい待てぃ(江戸ッ子)お前なにしてんだぁ!?」
急に大声を出されたので耳がキーンとする。布仏も同じように耳を塞いでいたが、ダボダボの袖で手を耳に当ててる姿がとても可愛かった。
「かわいいだなんて照れるよ〜」
声に出てしまっていた。こちらまで恥ずかしくなってしまう。
互いに目を合わせることが出来ずにいる。
なんだこれは初恋をした中学生か?
「ファ!?ウーン……(心肺停止)」
俺と布仏のやり取りを見て副会長が倒れる。
どうしようかと布仏の方を見るとまだ頬が赤に染まっている。
「……部屋に戻ろっか」
もじもじしながら言う布仏の姿がマスコットみたいに可愛い。
「もう~レーミン!」
また声に出てしまった。今度から口にガムテープを貼っておかないといけないな。
馬鹿げた考えが浮かぶくらいには気分転換が出来た。これも布仏のおかげだろう。
本当にありがとうな。
「どういたしまして〜」
☆
その日は夢をみた。
大切な人と砂浜を歩いている夢だ。
その女性は急に駆け出し、俺も追いかけるように走る。まるでカップルのようだった。
しかし俺はその人に追いつけず、最後にはとり残される。
それでもと走ろうとするほど足が砂浜に埋まっていき、体さえも飲み込まれてしまう。
声も出ないまま砂に包まれる。
体はどんどん沈んでゆき、完全に砂に埋まったあとも落下していくような感覚が襲ってくる。
このまま落ちきったらどうなってしまうのだろうか。
そんなことを考えているとき、地面に叩き付けられて目が覚める。
ベッドから体が落ちたせいで起こされたようだ。ここまで寝相が悪いのも随分と珍しかった。
時間もまだ起きるには早かったので二度寝することにした。
たまにはこんな日があってもいいだろう。
《後書き》
やっとテスト終わって投稿できました…チカレタ
これからは週1くらいで更新出来たらいいなぁ(白目)
-追伸
日間ルーキー4位&お気に入り1500件突破しました!
本当にありがとうございます!