インスタント・HERO ~180秒で世界を救え!~   作:トクサン

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いつもと比べて短いです、申し訳無い(凡そ4000字足らず)


ここから始まる

「心配、したんです、とても」

 

 捜査官の四人組を殺害し捜査範囲の攪乱を終えた俺は隠れ家へと帰還した。一応即死する程度の力で容易く屠ってきたが、やはり効率を重視した分移動時間が増えた。結果、約束の時間から二分だけオーバーしてしまった。その俺を出迎えたのは、大粒の涙を零しながら淀んだ瞳で突っ立っていた澪奈。そしてその背後で鉄仮面を被ってピクリとも表情筋を動かさない弥生だった。

 

「お帰りなさい」

「あぁ、今戻った」

 

 弥生の言葉に頷きながら、こちらへと突っ込んで来た澪奈を受け止める。俺の胸にぐりぐりと額を擦りつけながら、強い力で俺を抱きしめる。俺は少しの罪悪感を持ちながら、「ごめん、二分遅れた」と口にした。

 

「二分じゃありません、二分と十三秒、です」

 

十三秒、足りません。随分と細かいところまで見られているモノだと思う、実際そう言われると返す言葉が無い、「……あぁ、ごめん」と口にして澪奈の髪をそっと撫でつけた。そのきめ細かく、甘い匂いのする髪を指で梳く。

その背後から弥生が一歩踏み出してくる、その瞳は真剣そのもの。 

 

「お疲れ様、首尾は?」

「捜査官を四人、確かに()()()、生き残りは居ない筈だ」

 

 念の為周囲も調べたが特に捜査官らしき影は無かった、無論超能力による自身の隠蔽や存在秘匿をされれば別だが。そう言った能力者が最初から身を潜めているとは考えにくい。

 今俺達が一番恐ろしいのは、俺の後を付けられ本拠地が敵に露呈する事。だからこそ、誰一人として逃がす事は許されない、どこからどんな情報が洩れるか分かったモノでは無いから。

 

「明日もこの作戦を続けよう、なるべく範囲を広げて、連中の網を攪乱する」

「分かった、情報は集めておくわ」

「頼んだ」

 

 自分の胸に頬を擦り付ける澪奈を強く抱き締め、その髪に鼻を埋める。息を吸い込むと優しく甘い匂いが鼻腔を擽った。胸元の澪奈が僅かに蠢き、熱い吐息が心臓に吹き付ける。とても落ち着く匂いだ、どこか幸奈と似た――

 脳裏に彼女の笑顔が浮かぶ、まだ生きていた頃の美しい幸奈。

 連中はこの子を見つければどうするだろうか、多分迷わず殺すのだろう。俺の前から幸奈を奪った時の様に。それは酷く独善的で、歪で、腐った理由(ワケ)

 

この弱い女の子を守る為に、この理不尽な世界から救うために。

「殺さなきゃ、殺されるんだ」

 

―― 容赦はしない

 

 

 

 その後も俺の捜査範囲の攪乱は続き、その策はある一定の効果を残したと思う。実際問題連中が俺達の潜伏場所に気付く事は無く、五日目を終えて計三十人近い捜査官を殺害した。その頃には捜査官側も攪乱を狙った捜査官狩りだと分かったのだろう、通常四人から三人行動の所を、倍近い六人から八人行動に変えた。

 何よりも驚いたのは、捜査官は研究所の超能力者と行動を共にし始めた事だった。超能力者犯罪の捜査は研究所の管轄では無い、あくまで脱走者を捕らえる事が優先される。そして一度研究所からの脱走者が表に出れば、後は捜査官達の仕事だ。本腰を上げたという事なのだろうか、それとも万全を期してか――

恐らく過去ここまで連中とやりあった奴が居なかったのだ、研究所の制御官が率いる超能力者は軒並み【Ⅲ】や【Ⅳ】の連中、通常の能力者では太刀打ちすら出来ない人材が揃っていた。初日に襲撃した捜査官は【Ⅰ】や【Ⅱ】の寄せ集め、随分と高く評価されたものだと独り笑う。

 

「この後は、どうするべきか……」

 

 一人天井を見上げ呟く、その木目を見ていると何となく気分が落ち着いた。場所はリビングのソファ。隣には体温の高い澪奈がぴったりと俺に引っ付いている。薄着で更に汗を掻いている為、色々と見えちゃいけないモノが見えてしまいそうだがそこは極力目を向けない様にする。

 この捜査攪乱は時間稼ぎが目的だった。時間を稼ぎ、後は連中の目の届かない場所へと住処を移す、其処で着実に力を蓄え連中を打倒する時を待つ、そういうシナリオだ。今日も捜査官を五人、この手で殺害した。俺は殺した人間の最後の顔を良く覚えている、恐怖と憎悪に支配された顔だ、べったりとタールの様にこびり付いた記憶。それを額の汗と一緒に手の甲で拭いとる、そして隣で船を漕ぐ澪奈を見た。

日に日に澪奈の密着度合いと拘束時間が長引いているのは心配故か、守ると決めた手前跳ね除けられないのが辛い所だ。無論、そんなつもりはないけれど。

 

「雪那」

 

 自分を呼ぶ声がした。声のしたリビング出入り口に顔を向ければ、弥生が端末を手に俺を見ていた。俺はそっと唇の前に指を立てる、澪奈を起こしてしまわない様に。隣で船を漕いでいる澪奈を見た弥生は―― 一瞬だけ眉を顰め、しかし直ぐに表情を消す。そのまま静かに俺の近くまで歩みを進めると、その端末画面を見せる。

 どうやら明日の捜査官達の捜査予測範囲らしい。その範囲にこの場所は含まれていない、成果は上々と言ったところか。

 

「次はどの連中を襲うのが良いと思う?」

「俺は、此処か……若しくはこっちだな、なるべく此処から離れている場所の方が良い、円型にならない様には気を付けるけど」

「なら、多分一番良いのは此処」

 

 弥生が指差した地点が拡大され、詳細がマップとして表示される。どうやら市外れの街道、その寂れた住宅街らしい。人目があるが問題無い、どうせ数分の出来事なのだ。

 

「よし、じゃあ次は其処だ、あとは――」

 

 言葉を続けようとして、弥生が異様に俺を見つめている事に気付く。思わず口を閉じて弥生を見上げた、その瞳は相変わらず光を持ちながらもどこか黒く淀んでいる。

 

「どうした……?」

 

 俺がそう問いかけるも、弥生は何も答えない。汗の張り付いた額と、フォーマルな格好を好む弥生はYシャツの上ボタンを二つ開けている。漂う色香に脳を揺すられながらも、俺は真っ直ぐ弥生を見つめた。

 

「……いえ、何も」

「……そうか」

 

 何か言いたげな弥生に俺は、しかし踏み込むことを躊躇う。弥生も特に何の反応を見せる事無く、「じゃあ、明日の準備はしておくから」と踵を返した。その背を見送りながら、俺は何とも言えない不安感を抱く。最後、リビングの扉の前に立った弥生は俺を振り返り、ふっと微笑んで見せた。

 

「雪那」

「……うん?」

 

 振り返った弥生の瞳を見る。

 そこには濁った黒と同時に、何かを信じる光が灯っていた。

 

「きっと、貴方は大丈夫、生きられるから」

 

 最初、彼女が何を言っているのか分からなかった。だから俺は怪訝な表情を浮かべる事しか出来ない。

 言葉は理解出来たが、その言葉の意味が理解出来なかったと言うべきか。

 弥生の笑みは美しいものだった。それは聖母の様に優しく全てを受け入れる慈愛に満ちた表情、けれど見方を変えれば全てを諦めた様な、そんな退廃的で、けれど寛容な、そんな微笑みだった。

 

「だって、貴方は正しいもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「【Ⅴ】を動かすので?」

 

 白が全てを埋め尽くす世界、その中心で老人が笑っている。その表情はこれから何が起こるかをよく理解していて、その光景を待ち望んでいる人間の顔だった。皴が顔に緩急を作り、その瞳は三日月を描く。それは酷く歪な笑みで見る者に悍ましさを与えた。

しかし、目の前の人物はそんな老人の笑みを直視しても眉一つ動かさない。革張りの黒椅子に座る男は老人と比較して年若く、しかし対峙しているだけで肌が泡立つような威厳を纏った男だった。

 

「こういう時の為のランク【Ⅴ】だ、使()()のはセクタⅩの【予定調和】(完全予知)、解放の準備をしておけ」

 

 男がスチール製のデスクの上に一枚の書類を取り出す、其処には一人の少女の写真と詳細が書き込んである。それはセクタⅩに隔離されているランク【Ⅴ】、予定調和と呼ばれる能力者。

 

「ははぁ、あの少女ですか、これはまた大事になりますな」

 

書類を受け取った老人は言葉で面倒そうに、しかしその笑みは変わらず悍ましさを湛えて頷く。「大事にしない為のコレだ」と男がゆっくりと席を立ち、老人の隣へ歩みを進めるや否やその肩を叩く。表情はピクリとも動かさず、目は此処では無い遠いどこかを見つめている。老人はこの男の事を良く理解していた、だから男の心情は手に取る様に分かる。

 

「いい加減、警察側が煩くてな、連中存外やれるらしい、殉職する捜査官が増加の一途だそうだ」

「ほほほ、それは何とも、警察側には申し訳無い話ですが、是非拘束して弄り回してみたい能力者ですな」

 

 男がふっと笑みを浮かべ、老人もまた笑う。

 良き理解者だからこそ示せる証と言うべきか、男の目が老人の濁った瞳を射抜く。

 

「拘束出来ればそれが良い、きっと素晴らしい被検体になってくれるだろうさ」

「それは……可能であれば拘束せよとのお達しで?」

「解釈は任せる」

 

 それは言外の指揮権委任。

 「頼んだぞ」と一言だけ告げ、男はそのまま隣を抜ける。

 男が出口に向かい、その黒いスーツ姿が扉の向こう側へと消えた。老人は手にした資料にもう一度目を落とし、その笑みを更に深くした。その目線の先にあるのは予定調和の少女。この世に二つと存在しない特大級の能力保持者。

 

「楽しみですねぇ」

 

 目を細め、喜々としてその残酷な未来に想いを馳せる。

 その先にはきっと、自身の望む結末が待っていると信じて。

 

 

 

 




 この主人公は最強です、少なくともタイマンなら【Ⅴ】の能力者でも勝利します。
ただし三分という時間制限付きと、タイマンという条件ならば……です。




以下小説とは何も関係のない話 ※ヤンデレニウム含む

 前回後書きでヤンデレと攻防した件なのですが、気付いたら高校の同級生が彼女になっていました。
 何を言っているか分からないかもしれませんが私も何が起こったのか全然(ry

 あれは休日の昼頃でした……
 一人で黙々とゲームをしていたら、突然小学校から付き合いのある親友からlineが飛んで来まして。「なぁなぁ、〇〇さんって知ってる?」との事。その友人は大学が遠くの方になってしまって、最近ではあまり連絡も貰っていなかったので少し驚きました。

「〇〇さん‥‥?」

 私の脳内に浮かんだのは高校時代、ぶっちゃけリア充(DQNとも言う)の巣窟だったあの場所で静かに友人と話したり、本を読んだりしていたクラスメイトの姿でした。第一印象は大人しい、それでいて真面目、(主観的ですが)そこそこ可愛らしい容姿だったと覚えています。確か卒業間際は自分の席に近かったはず。覚えていると言えば覚えている、しかしその実その人とどんな事を話しただとか、どんな人だったとかは凄くぼんやりとしか覚えていない。
 結局どこか喉につっかえるものを感じながら、「あーっと、うん、一応知ってる、クラスメイト」と私は答えました。

 自分の学校は極端に男子の数が少なく、うちのクラスなどは男子四人に対し女子三十人とかだったので、正直もう女子生徒の名前とか覚えていませんでした。しかし辛うじて記憶の琴線に引っ掛かる位には印象的な人物だったのです。
 といっても、本当に辛うじてですか。

 ― マジか、実はそのクラスメイトさんからlineが来たんだけど

 なぬ?
 私は少しだけ戸惑いました、親友とそのクラスメイトには明らかに接点が見えなかったからです。同時に、何故私にそんな話を振ってきたのかと疑問にも思いました。そしてゲームをポチポチしながら次、ラインを開いたとき、その文が目に飛び込んできたのです。

 ― 何か、トクサンの彼女なんですけど、 とか言って来てるんですが。


「えっ、何それ知らない」


※この文章は七割の真実と二割の脚色、そして一割の「どうか本人の目にとりませんように」という願いで構成されております。

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