インスタント・HERO ~180秒で世界を救え!~   作:トクサン

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生きる為に

 

 

俺が目覚めてから三日が過ぎた。

その三日間殆ど寝たきりで、今朝方ようやく自分で歩けるまでに回復した。

澪奈の能力はあくまでも本人の治癒能力を高める力である為、治療時に使用されるエネルギーなどは全て本人から差し引かれる。その為俺の体は衰弱しており、昏倒していた期間も含めると五日間は寝たきりだったらしい。その間澪奈は献身的に看病を続けてくれた。

歩ける様になってから一番最初に確認したのは、火傷の痕である。寝たきりだった時もしきりに手で触って確認していたが、どうにも喉元まで続いている様な気がする。歩ける様になって一階の洗面所で自分の姿を確認した時、その感触が正しかった事を知った。

皮膚がゲル状に溶け中々にグロテスクな焼け跡となったソレは、俺の思っていた通り首の半ばまで続いていた。澪奈曰く、もう少し長い間拳が皮膚に接触していたら、肺が焼かれて手遅れになっていたらしい。皮膚だけで済んだのは僥倖だったと言う事か、それでも骨は折れたし皮膚はもうボロボロだった。もし顔面まで続いていたら一生顔を隠す生活をする羽目になっただろう。

もう首が出るタイプの服は着て外を出歩けない、首をすっぽり覆うタイプの服を買って来なければならないだろう、この火傷痕で特定されてしまうなんてマヌケだから。

 

寝たきりの三日間、俺は澪奈や助け出した秋、そして俺の言う通りに動いてくれていた()()の三人から、それぞれ事の顛末、これからの事などを聞いていた。秋は逃走時仲間であった朱音を殺害され、憤っていた。もう一人の仲間である由愛も見つかっていないらしい、一人でも探しに行くと言っていたそうだが、弥生と澪奈が引き留めたとか。流石に今単独で動く事が自殺行為であると分かっているのか、すぐに冷静になり謝罪したと言う。

仲間を殺され、もう一人は行方不明。確かに、飛び出したくなる気持ちは分かる。

今は粛々と日々を過ごし、胸の内にある研究所や捜査官に対する憎悪を煮詰めていると言った所か。きっともう一度連中と対峙した時、それは爆発するだろう。そんな確信に近い予感が俺の中にはあった。俺と話す時、俺を気遣いながらも瞳の奥で燃えている憎悪が隠しきれていなかったから。それが俺に対するモノでなくとも、感じる身としては中々堪える物がある。ただし今の環境は大分気に入っているのだろう、澪奈から久々にインスタントカレーを作って昼食に出したら「美味ッ!?」と絶叫したと聞いている、研究所の粗悪な飯と比べればインスタントでも十二分に美味しいらしい。何だかんだ言いつつ久々の自由を全身で感じているのだろう、そこに影がある事を除けば普通の生活そのものだ。

 

弥生は俺が頼んだ通り、一度研究所に『()()うの体で生き延びた』と言う形で戻って貰い、集められるだけの情報、(カラード)の外し方、外すための機材などを持ち出して来て貰った。持ち出せる物は可能なら限り持ち出せと言っておいたが、まさかバンの後部座席を潰す量を盗み出してくるとは思っていなかった。彼女曰く『貴方に褒められたくて無茶をした』らしい、勿論痕跡を残す様なヘマはしていない。そのバンも研究所の所有物である、追跡装置(トレーサー)は既に取り外し普通の乗用車と変わりない。これで彼女も追われる身となったが、後悔はしていないらしい。両親は既に他界し親しい友も縁者も居ないと言う、一体どういう人生を送ってきたのか気になったが、そこには触れなかった。

澪奈や幸奈が俺の居た場所に急行出来た理由は、この弥生が原因だった。丁度俺が現場に向かった直後、必要なモノを掻き集められるだけ集めた弥生がバンに乘って帰還、そこに丁度幸奈が居合わせ、藤堂雪那の協力者だと口にした弥生に頼み込み現場に急行したと。澪奈は既に弥生が俺の説得によって改心したと思い込んでいる、彼女の働きは正しく俺達の味方そのもの。無論、地下での件は秘密であると弥生自身には言い含めてある。たとえ仲間であろうと、裏の事情まで知る必要はない。

弥生が持って来たモノはバンや(カラード)を取り外すための器具、取り外し方の情報など頼んだものは一通り、その他にも単純な金銭や基礎能力値を測定する為の機器、懐能薬や防壊薬なども含まれていた。取り敢えず役立ちそうなものは粗方持って来たという彼女、それを一日で実行してしまうのだから末恐ろしい。

何よりも驚いたのはアタッシュケースで札束を持って来られた時か、中には一万円札がギッチリと詰まっており総額三千万だと言っていた。元々セクタDの超能力者に投与する薬品の開発費用だったらしく、この金額でもまた一部でしかないらしい。秘密裏に政府より回されている金額は莫大な量であり、元よりこの金は表に出ない『存在しない金』、例え使っても咎めようの無い金だと言う。使った金で足が着かないかと不安に思ったが、そこは心配ないらしい。数日待って貰えれば、すぐに使える様にしますと言った彼女はとても良い笑顔だった。それが何に対する笑顔だったのか、俺は素知らぬ振りをする事にした。今更だが国家超能力研究所なんていう場所に務める人間だ、色々な意味で優秀なのだろう。

 

さて、高々一週間、いや既に二週間近いか、その程度の日数しか共に過ごしていないが、恐らくこの数日で澪奈と俺の関係は大きく変化した。俺自身の変化もあるが、恐らく澪奈の変化の方が大きいだろう。何よりまず、お互いの距離感が変わった。

何があろうと無かろうと、常に俺の傍を離れなくなったのだ。

寝起きだろうが朝ご飯の時だろうが弥生と今後を話すときだろうが、兎に角俺に引っ付いている。それはもう、見ている弥生の目が極寒になる程ベッタベタに。受け入れると決めた手前離れろと言う事は出来ないし、個人的にも言うつもりはない。それが彼女の希望ならば受け入れよう、それくらいしか俺には出来ないから。尚、一度少しの間で良いから離れていて欲しいと言ったら、この世の終わりばりの絶望顔をした。カタカタと震え出し無言で泣き出すさまは何処か気迫を感じた。

それ以来、少しでも距離を離す様な言動は慎んでいる。

しかし、そう、しかしである。

流石に風呂とトイレにまで付いて来ようとするのはマズい。

トイレは普通に羞恥心が勝るし、少女の前で用を足して喜ぶ性癖は持ち合わせていない。風呂に至っては「背中、流しますから」なんて言って突入してくる為、断るに断れない状況が出来つつある。突き返そうとすれば血の気が引き潤んだ瞳を向けて来る、この前など実際に泣かれてしまい秋に白い目で見られてしまった。女の涙は兵器だと言うが少女であれば尚更、これで断れと言うのが無理だ。最近では体を洗うという行為に慣れてきたのか段々と上手くなっている気がする、寝たきりの時も毎日澪奈が体を拭いてくれていたし、やはりコツなどがあるのだろうか、いや別に深い意味は無いけれど。風呂に突入して来る度、頬を赤くしてどこか息を荒くしているのは俺の気のせいだと思いたい。あと、何となく俺の体を洗う時の手つきが―― いや、きっと気のせいだ、そうに決まっている。

 

それと朝起きるといつの間にか布団に潜り込んでいるのも頂けない。

気が付けば、本当にいつの間にか隣に居るのだ。

俺とて男だ、夜の添い寝程度ならまだ千歩、いや一万歩譲って耐えられるが、朝起きたら隣に少女が寝ているなんて状況は心臓に悪い。この間など朝起きた瞬間目に飛び込んだ光景は、俺の股間を凝視する澪奈の横顔だ。

朝の生理現象をマジマジと見られながら起床する俺の気持ちを考えて欲しい。純粋な好奇心で見られると何とも複雑な気分になる。「ポケットに何か入れているんですか?」なんて聞かれたらもう、俺は何と答えれば良いのか。

澪奈は十二歳である、年齢的には中学一年生か、小学六年生と言ったところか。まだまだ身長は小さいし、物事を良く理解していない節がある。五年前に研究所へ入所したと聞いているが、そうなると七歳で親元から引き離されたことになる。まだ自己を確立する前に研究所で被検体とされたのだ、彼女は人に甘える方法も、自分を表現する方法も知らない。だからという訳ではないのかもしれないが、彼女は接触によってそれらを表現しようとする気がする。

背後をトコトコと付いて回り、服の裾を摘まんだまま守護霊の様に佇む。特に何かを話そうとしたり、何か俺からされる事を期待している訳でも無いので、時折振り向いた瞬間驚く事がある。背後に音も無く立たれればそれは驚くだろう、どこぞの暗殺者ではないのだ。しかし今の所は上手く付き合って行けていると思う、ちょっと、いやちょっとでは無いかもしれないが、寂しがり屋の女の子だと思えば可愛いものだ、多分。

 

まぁ色々あった、色々あって今がある。良くも悪くも俺達はその環境で生きて行かなければならない。問題は山積み、由愛の行方は分かっていないし、弥生の持ち帰った情報の整理もまだだ、後この場所を近々離れて新しい隠れ家を見つけなければならない。

俺達は少々派手に動き過ぎた、きっと研究所の連中はこの周辺に俺達が潜んでいるとアタリを付けたのだろう。弥生の報告によれば街に超能力犯罪捜査官の姿をチラホラ見かける様になったとか。先の一件で俺達は捜査官とも敵対してしまった、恐らくもう二度と平穏で退屈な学生生活に戻る事は出来ない。けれど別にソレは良い、一番最初にこの世界へと踏み入れた時から覚悟していたから。今更呑気に学生生活を送った所で、きっと俺は耐えられない。幸奈にも顔向けできなくなってしまう。

幸い金はある、適当にでっち上げた家族設定で遠く離れた場所に家を借りても良いだろう。見つからなければ問題無い、超能力研究所の連中を叩き潰す方法だってある、場所が変わる事に問題はない。ただ幾つかある懸念事項は――

幼馴染の美月と両親。

この土地から離れるに辺り、その二つがネックだった。

両親はまぁ、別に大丈夫だろうと楽観視。元々放任主義を極めた様な人達だ、自己責任が当たり前、半年や一年程度姿を消した位では動じないだろう。それに最悪敵側になってしまう人間だから。

問題は美月の方だ、彼女は俺と昔から付き合いのある幼馴染だが、事あるごとに俺の世話を焼く生粋の暇人だ。正直俺の母親よりよっぽど母親らしい、今回はソレが仇となった。

けれど、まだ時間的余裕はある。俺が少し活動範囲を増やして遠方で騒ぎを起こせば捜査範囲の攪乱も出来るだろう、だから別段今すぐ解決しなければならない問題ではない、俺達が住まいを移すまでに何とかすれば良い。

だから今は――

 

 

 

 

「………」

 

 今俺が立って居る場所には、小さな造花が一つ添えられている。不自然に盛り上がった土は他と色が異なり雨で固められた土砂が僅かに光沢を放っていた、俺はそれをただじっと見つめている。

家から五分程歩いた獣道の影にソレはある、普通に見るだけでは分からない、コレは『墓』だった。

何か騒ぎがあってはマズいと細心の注意を払い、火葬は見送ったらしい。俺が寝ている間に弥生と秋が掘ったそうだ、隣には山に咲いている野花が一輪だけ無造作に添えられていた。朱音と言ったか、あの超能力者の分かもしれない、二輪でない事に少しだけ秋の心の中を覗いた気がした。

 

「ごめん、幸奈、少し遅くなったね」

 

これは幸奈の墓だ。

この土の向こう側には幸奈の死体が埋まっている、既に意識の無い屍が。そんな実感は無かった、やはり墓石と対面する様な、どこか虚無感だけが湧き上がった。

何か話そうとして、けれど言葉が出てこない。助けられなかった事を謝るべきだろうか、それとも助けてくれた事に礼を言うべきだろうか、守れなかった事を悔やめば良いのか。どれも違う気がした、そんな事では彼女はきっと喜びはしない。

それを口にするのならば、言葉では無く行動で証明する他無い。

そもそも幸奈はこの世に存在しないのだ、だから全ての言葉は自分の自己満足でしかなかった。だから俺は自分の気持ちを確かめる様に、全てを吐き出す。

 

「もし死後の世界があるのなら、黄泉の国(天国)で見ていて欲しい」

 

小さく、墓と言うは簡素で何もない、ソレに埋まった幸奈へと手を合わせる。そしてふっと顔を上げると、緩く笑みを浮かべた。

 

()がきっと、何年、何十年掛かっても、地獄に落ちるその日までに――」

 

胸の内で言葉を綴る、全ては己の中で完結した。

周囲の葉が騒めき、風が頬を撫でる。そのまま幸奈の眠る墓に背を向けて―― ずっと俺の背後に佇んでいた弥生に目を向けた。

弥生の目は俺だけを見ている、その手には小さな端末を握っていた。そこには大きなマップと幾つかの赤いサークルが爛々と輝いている。

 

「郊外に捜査官が四人、どうやら私達が潜んでいると予想した場所を虱潰しに探すみたい……此処からは結構離れているけれど、どうする?」

 

捜査を攪乱する為に必要な戦闘、騒ぎを起こすなら隠れ家から遠ければ遠い方が良い。だから俺は「勿論、決まっているさ」を口にして、手を差し出した。それを見て弥生はふっと笑みを浮かべる。

 

「必要なら、新調するけれど」

「いや、それが良いんだ」

 

そう言うと、弥生はずっと後ろ手に持っていたのだろうマスクを差し出して来た。前の戦闘で炎が表面を焼き、すっかり右半分が真っ黒に焦げてしまったマスク。俺はそれを受け取って指で表面をなぞる、ザラザラと焦げた表面の塗装が剥げて何となく俺の内面の様だと笑った。

 

「能力で現地まで()んだら、どれくらい掛かるかな」

「三分以内には到着出来ると思う、だけど戦闘をするには心許(こころもと)ないよ」

「いや、変身時間は大丈夫、一つ試したい事がある」

「試したい事……?」

 

 弥生が首を捻り、俺は笑みを象ったまま「能力の効率的な使い方」とだけ答えた。後はマスクをそっと被り、山頂目指して歩き出す。柔らかな土と野草の感触が足裏を押し返し、木々の合間から見える空を見上げた。けれどふと、大切な事を思い出して、その場で再び弥生の名を呼ぶ。

 

「弥生」

「ん、何?」

 

振り返ると弥生はじっと此方を見たまま佇んでおり、俺は「澪奈に、十分以内に帰ってくるって伝えておいてくれ」とだけ伝えた。本当ならもっと早く帰って来るつもりだが、何が原因で遅くなるかも分からない。一応、出掛けて来るとは言っておいたが、最近の澪奈はやけに俺の姿が見えない事を怖がる。

 

「……分かった」

 

弥生は静かに頷き、そっと踵を返した。恐らく澪奈に伝えに行くのだろう、その行動は主に俺を主軸としている。俺の言葉ならどんな無茶でも押し通す危うさを感じた、実際その通りなのだろう、そこは俺も何となく理解している。だからと言って何を感じる訳ではない、弥生は内側に入っていない人間だから。

 

「よし―― 行くか」

 

マスクをしたまま、火傷の痕を隠す様に服を顎先まで引っ張る。

そして山頂で一気に駆け抜け、捜査官の捜査網を攪乱すべく行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

捜査官に降りた命令は、超能力者犯罪捜査課に多大な被害を与えた超能力者の捕縛、或は殺害。並びに同行している超能力者が居た場合は同じく対象の捕縛、殺害命令が下されていた。今回捜索する場所は前回戦闘があった町から大分離れた郊外にある廃墟、一応持ち主は居るらしいが管理が杜撰(ずさん)で今回超能力犯罪捜査課が連絡を取った時、ようやくその存在を思い出した程だった。各捜査官は公務車両にて現地入りし、目の前に聳え立つ建物を見上げる。三階建てのソレはちょっとした屋敷とも言えるが、外側に(ツタ)やら苔が生えており放置されていた事実をありありと示している。

四人の捜査官の内、若い男と女が重い溜息を吐いた。

 

「命令だから従うけれど……誰かが住んでいる気配(なん)て皆無よね?」

「言うな、一応候補地の一つなんだ、とっとと調べて帰ろう」

 

男が蔦の絡みついた玄関と思わしき扉に手を掛ける、しかし押せど引けどビクともせず、男が思わず舌打ちを零した。見れば縦横無尽に張り巡らされた蔦やら苔が扉を開けなくしている、流石に能力で壊す様な真似は他人の持ち物だから不可能、結果手持ちのナイフで蔦を一本一本切断する事となった。ベルトポーチから折り畳みのナイフを取り出し、太いモノから切っていく。

 

「おい、何をモタついているんだ?」

 

後ろで周囲を観察していた捜査官の中でも初老の男性が若い男へと問いかける。すると「これ、蔦が絡まって扉が開きません、かなりの期間放置されているみたいですよ、尋常じゃない位強く絡んでる」と若い男が首を横に振った。

 

「微調整効く様な能力持っている人、此処に居ませんし、地道に切っていくしかないでしょう」

水致(みずち)、お前の【発熱】で焼き切れないのか?」

「馬鹿言わないで下さい、私の上限温度知っていて言っていますか?」

 

 初老の男性が若い女性捜査官にそう問うが、にべもなく断られる。その様子を見ていたもうひとり、妙齢の女性捜査官が初老の男性に向かって言った。

 

「そこまで言うなら、悟郎の【空洞】で穴を空けた方が良いんじゃない?」

「それこそ馬鹿を言うな、扉ごと貫通しちまう」

「……ホント、極振りね」

 

呆れた様子を見せ、そのまま黙り込む女性。そうして若い男がせっせとナイフで蔦を切断する様子を見ながら三人はそれぞれこの任務への鬱憤を溜まらせていた。

そんな時――

 

「ねぇ、私も手伝――」

 

若い捜査官の手際の悪さに、妙齢の女性が声を上げた。しかしその声は途中で掻き消されてしまう。女性は何が起こったのかも分からなかっただろう、視界は突然真っ暗になり一瞬で命を落としたのだから。

隣に居た初老の捜査官が目を見開く、彼が見た光景は上空より何かが落下して来たと言う事だけ。下敷きになった妙齢の女性捜査官がミンチになり、骨や肉片、臓物、血液が宙に撒き散らされる。一体何が? その思考を最後に男の視界も黒く染まった。男の頬に拳が突き刺さって、その首を三回転させた。

ゴキュッ、と音が鳴り響き骨が砕かれる。()じれた首元から血が吹き上がり、初老の男性は白目を剥いて倒れ伏した。即死、ガクンと頸が垂れて屍になる。

そして轟音と砂塵に晒された残りの若い二人が、一拍遅れて呆然とその光景を眺める。凡そ数秒の出来事だ、たったそれだけで捜査官の中でもベテランの二人が死に絶えた。周囲には立ち上がる砂煙と、死体から噴き出る血が視界を覆う。

果たして、その血と砂利に塗れた姿で現れたのは――

 

「ッ、仮面(マスク)野郎ォッ!」

 

先の戦闘で計十二名の死傷者を出した超能力犯罪者だった。

その姿は悪魔の様だ、返り血に染まり赤黒く染まる服。そして顔面には顔を隠すための仮面。その半分は真っ黒に染まり、白と黒の不気味な仮面となっている、白い面に付着した血はペイントの様で実に狂気染みている。男はゆっくりと足を持ち上げると、グチャリと捜査官の臓物を踏み潰した。そして面を上げるや否や、二人の捜査官を見る。

ゾッと、二人の背筋を薄ら寒いモノが走った。

それは二人が感じたことの無い恐怖、男が放つ【殺してやる】という圧力。

それが物理的な重さを伴って二人の肩を押し潰した。相対している男の体が、何倍にも大きく見える。宛ら巨人を相手にしているのかと思ってしまう程。

 

「――まぁ、何て言うかさ」

 

男が声を上げる。低く、腹に響く声だ。

 

「運が悪いとか、無知が悪いとか、色々原因はあると思うんだけど、俺が思うに、そう、強いて言うなら」

 

 ただ―― 男がそう言葉を続けて、二人は息を呑んだ。

 

「【弱いのが悪い】」

 

 

 

 

――  変身

 

 

 





 書く度書く度、文字数が多くなる不思議。
そしてヤンデレ書きたいのに中々出番が回ってこないもっと不思議。
でもちょっとだけ描写出来たから少し幸せ。
でももっと書きたい不思議。

 感想はちゃんと読んでいるのですが、返信出来ず申し訳無い(´・ω・`)
ちょっとリアルがマッハでハチの巣にされていてヤバイです。

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