インスタント・HERO ~180秒で世界を救え!~   作:トクサン

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能力を得た日

超能力というのは存外、僕らの身近に存在する。

最初超能力が発見された時は、誰もがアニメや漫画の中にあるトンデモ能力を期待した。瞬間移動したり念力で巨大な岩を持ち上げたり炎を操ったり、まぁそんなものだ。

 

 けれど実際の超能力はちょっと規模が違う、というのも瞬間移動や念力も使えるは使えるのだ。けれど瞬間移動出来ても数十歩の距離だったりとか、持ち上げられても自分の体重の一割未満だったりとか、指先からマッチの火レベルでしか出せないとか。

実際見せて貰うと「凄いのは凄いけど、何か思ったよりショボい」と言うのが真実である。だから数メートルの瞬間移動とか、自分の体重の三割より重い荷物を念力で運べるとか、そういう能力者は珍しい。そういう奴は何でも『優位能力者』と呼ばれて、国から保護されるらしい。この前テレビのニュースで十歳の男の子が【世にも珍しい完全透視能力者】として保護されたと言っていたのを思い出した。

見ようと思えばレントゲンみたいに人間を透視出来て、難病の早期発見に役立つとか何とか。結局能力者と言ってもピンからキリで、必要なのは運と才能か、なんて友人と肩を落としたのは記憶に新しかった。

 

 そんな僕に転機が訪れたのは大学一年生の夏、周りに合わせて普通に勉強して普通に入学した大学、その初めての夏休み直前。国が行っている『全国超能力者発現検査』にて、僕は遂に超能力の発現が認められた。

 最初は驚いて、そしてその次に期待した。

 僕の超能力はどんなモノだろう、腕から炎でも出るのか、空でも飛ぶのだろうか、それとも透視とか念力とか……等々、色んな想像をめぐらせた。

 僕だって人並みに超能力と言う奴に憧れていたのだ、小学校の頃、超能力が発現しただけでちょっとしたヒーローだったみたいに、そんな俗物的な思考だった。

 或は、かっちゃんとの約束を果たせるかもしれないと、そう思った。

 その後、僕は結果を聞いて落胆する事となる。

 

―【変身】

 

 それが僕の能力だ。

 何でも【自分の心から望むモノに変身できる能力】だそうだ。変身する対象は能力者のイメージに左右され、生物というカテゴリに限定される。もし無機物に変身出来れば優位能力者だったかもしれない、そう担当者に言われた。

 しかしまぁ、無機物に変身出来ようと余り嬉しくは無い、何はともあれ超能力、それも中々汎用性に富んだ能力ではないか。落胆した気持ちを持ち上げて、僕は帰宅後さっそく変身を試してみた。

 僕の頭の中にある変身のイメージは、メタモルフォーゼとか、自分を偽装する様なイメージだった。

 大学から徒歩十五分ほどの距離にあるアパート、背負ったバッグを投げ捨てて扉に鍵を閉める。それから「よし」と気合を入れてイメージした。

 

僕のイメージした対象は『正義のヒーロー』

 

 笑う事なかれ、これでも幼い頃より僕はヒーローという奴に憧れていたのだ。

 良いじゃないか、ヒーロー。

 こんな理不尽と糞に塗れた世界で、単純明快で、光そのもの。なれないから人は憧れるのだ、折角変身なんていうお誂え向きの能力を手に入れたのだから姿形だけでも真似てみたい。

 なにより、それが約束だった。

 だから例え外見だけとは言え、僕は嬉しくなる。

 

「……折角だからポーズでも取ってみるか」

 僕は形から入るタイプなのだ、やるからには拘ろう。

 そうして鏡の前で「こうか? それともこう?」とポーズを披露する事十五分、結局TVの某ライダーの様にベルトタイプ(と仮定した)ポーズになった。後は実際に変身するだけだ。

「いざ……」

 

 

― 変身

 

 

 瞬間、体が強烈な衝撃に襲われる。能力が僕のイメージを反映させ、肉体そのものを再構成、光が前面から押し寄せ体を覆った。部屋全体が光に包まれる、そしてー

 

「……すげぇ」

 

 再び目を開けた時、目の前に立っていたのは本物のヒーローだった。

 黒と赤をメインカラーにしたメカメカしいデザイン、どこか近代的な姿でありながら『ヒーロー』を体現するマスク、スーツ、何より首元で揺れる真っ赤なマフラー。見下ろせばソレを着こんでいるのは他でもない、僕自身で。

「ぉお……ぉおお!」

 テンションが上がった、コスプレ何て目じゃない、アニメや漫画で見る恰好そのままだ。そのまま鏡の前で色んなポーズを取り、体の感覚を確かめたり、衝動に流されるまま心ゆくまでヒーロー姿を堪能した。

 

 しかし、僕の能力には致命的な欠陥があったらしい。

 

「おぉ、おおぉ……お?」

 

 鏡の前で必殺技などを考案していると体から淡い光が発せられ、あっと言う間にヒーロースーツが消え去りいつもの見慣れた僕の姿へ変わった。途端、両肩に圧し掛かる疲労感。なにこれ凄く疲れる、というか戻るの早くない?

 時計を見ると、僕が鏡の前で変身してから凡そ三分。

 秒にして凡そ百八十秒。

 僕の脳裏に一つのイメージが湧く、そう言えば某巨人ヒーローは三分の時間制限付きだったなぁと。

 

「……マジか」

 

 どうやら僕の能力は、それも採用してしまっているらしい。使いどころが難しいというか、三分何て殆どあって無いようなモノじゃないか、殆ど誤差の範囲内だった。

 やはり担当者の言った通り、この能力は余り使えないモノなのかもしれない。

 盛り上がっていた胸の内が段々と萎んでく。何だか宝くじを買って当選したのに喜んでいたら、五等とか、とてもしょっぱい結果に終わった気分だった。

 けれどまぁ、費用要らずのちょっとした本格コスプレごっこが楽しめる能力だと思えば悪くない、日常に加わるちょっとしたスパイス、そういうものだと割り切れる。

 けれど折角手に入れた能力が、姿形だけを偽るモノだという事実に落胆は隠せない。

 確かに約束した形に近い能力ではあるけれど、それは中身を伴っていない虚像だ、だから僕は重く長い溜息を吐き出した。

 

「コンビニ、行くか」

 

 能力何て殆どオマケ、僕は別に大層な力が欲しい訳でも無い、ただ彼に追いつきたいだけだ。だからこれまでどおりの生活を送って、まぁ偶に能力を思い出してちょっと使う位が丁度良い。

 そう切り替えた僕はコンビニへと食料を調達に行く、丁度時刻は昼過ぎ、腹部も空腹感を訴えて鳴りやまない。冷麺でも買ってこようか、それとも敢えて夏にグラタン系で攻めるか。

最近は食生活が塩分過多の様な気もするけれど、まぁ大学生の一人暮らし何てそんなものだろう。

 そうして僕の超能力の確認は終わった。

 

 

 

 …本当の事を言うと、少しだけ期待していたのかもしれない。

 超能力と言う分かり易い非日常があれば、或はこんな生活の「何か」が変わるのかもしれないと。

 それは根拠も何もない、願望と言っても良い想いだったし、実際そんな事になら無い事は自分が一番良く分かっていた。優位能力者なら違ったのかもしれない、けれど僕の手に舞い込んだ小さな力は、【変身】という自身の姿を変えるだけの能力で―

 

 大学で友達相手に超能力を見せびらかして、話のタネにしたり、ちょっとしたドッキリに使ったりして。ほんの少し鼻を高くし、超能力者という枠組みに入った事を嬉しく思ったりしちゃって。

 そうやって僕の能力もまた、無難に周囲の友人と折り合いを付けて過ごして行くのだろう。パッと見は今までと変わらない一生徒で、ちょっとした時に「あぁ、そう言えば超能力者だったなぁ」なんて思い出す様な、そんな日々。

 

 超能力者だからなんだとか、異能を持っていないからなんだとか、そんな事は全然関係無くて、今まで通り何も変わらず、何も得られず、その代わり何も失わない、そんな日々を送るのだと思っていた。

 

 

 

 結局僕はその日、能力者と、ただの人である事の溝を思い知らされることになる。

 




続くかどうかも分からない作品をポンポン上げる私です(^v^)
昨日友人に「最近めっちゃ投稿されてるね」と言われました、何本か書いてはいるのですが続きそうにない奴はお蔵入りです。

 取り敢えず今日中に一杯投稿する予定です、初期の戦車これくしょんみたいな感じですね(`・ω・´)

 プロットとか無いのでお気をつけて、あとストックもないです、今から書きます
5/14 11:33

 ちょこっと加筆を行いました

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