インスタント・HERO ~180秒で世界を救え!~ 作:トクサン
一週間、国家超能力研究所の裏側を知り追われる身となって七日、能力発現からの非日常とは打って変わって、実に平穏な日々を僕らは過ごしていた。誰かが死ぬことも無く、黒いスーツを着た怖い連中が扉を叩く訳でも無く、僕が今まで過ごして来た自堕落で平穏で平凡な日々そのものだった。一度裏側を知ったからこそ分かる、この平穏が何と心安らぎ求めていたものか。
三人揃って過ごし始めた最初の日、澪奈はやはり久々の食事に涙を流して喜び、次はあれが食べてみたい、コレが食べたいと食に拘りを見せる様になった。これは腕の奮いどころだと僕はレシピなどをインターネットで調べる様になり、ここ最近の生き甲斐は澪奈の「美味しい!」を聞き、その笑顔に見惚れる事である。僕自身、こんな男の手料理で涙を流してくれるという事実に嬉しさを感じ、少し調子に乗っている自覚はある。
けれど幸奈だって美味しそうに食べてくれるし、作った方が安上がりだ。
あれだけ僕の周りを飾っていたコンビニ弁当は、気付けば全く目にしなくなっていた。
幸奈は元々本を読む事が好きだったらしく、今はあまり手入れされていなかった祖父の書斎で本の虫になっている。どうやら研究所では娯楽はおろか、本すら限られたモノしか与えられなかった様で、初めて祖父の書斎を見た時は嬉しい悲鳴を上げていた。
では研究所で超能力者はどうやって過ごしていたのか幸奈に聞いてみた、幸奈は殆ど国語の教科書の様な本を読んでいるか、ぼうっとしているか、寝ているか、そのどれかだったらしい。何とも息の詰まりそうな環境だ、僕だったら一日で逃げ出したくなるだろう。最も、逃げ出したくなったからと言って、逃げられる訳じゃないけれど。
一目惚れの件についてはあれ以来触れてきていない、けれどふと僕を見て頬を赤らめたり、何となく距離感が近くなった気がするので全く意識していないという訳でも無いのだろう。もし本気で迫られたらどうしようと偶に戦々恐々したりする、こちらから告白紛いの事をしておいてゴメンナサイなど出来る筈も無いのだから。
けれどまぁ、そんな事はあり得ないだろうけど、と今日も高を括って生活していた。
あの日、幸奈と澪奈をこの家に招いてから二人は久々の自由を謳歌している、二人とも五年以上研究所に囚われていたのだから当然と言えば当然だが、世界は彼女達を置いて進んでいた。
当時好きだった漫画が既に完結し、自分達の知らない情報がテレビからは流れる、技術も何もかも進歩した世界に二人は戸惑っていた。
けれどその表情は悲観的では無い。それよりも自由と言う枷を外した今が楽しくて仕方ないと言った表情だった。
僕はそんな二人の姿を見て、あぁ、やはり僕は間違っていなかったと思う。
超能力者だから研究所に閉じ込めて、社会への貢献やら人類の進化やら、そんな大層な大義の為に個を磨り潰す何て間違っていると。こうして幸せそうに日々を過ごし、当たり前の日常を謳歌する二人の姿は同年代の人達と何ら変わらない。
彼女達も超能力がなければ、或は五年も無駄に浪費する事無く退屈だけど平穏で、何も失わない日々を送れていたかもしれない。
そう思うとやはり、僕は国家超能力研究所の連中に嫌悪の感情を抱く。
だから今日も僕はこの階段を降りる、彼女達の為に、或は僕の為に、そして
扉を開くと金属の錆びた音がコンクリートで覆われた部屋に響き渡った、当初はその音に過剰な程反応し、鼓膜が破れると思う程騒ぎ立てていた弥生だが、既にその気力も尽き果てたか項垂れてピクリとも動かない。
けれど微かな呼吸音は聞こえるし、胸も上下している。
生きてはいる、僕にとってはそれで十分で、弥生の前に置いた椅子に腰かけながら「話す気になった?」と問いかける。けれど彼女はソレに答えず、ゆっくりと視線を僕に向けた。はらりと髪が一房垂れて、その口角を僅かに上げる。
「ぁ……来て、くれたんだ」
未だに目隠しは取っていない、だから弥生に僕の姿は見えない。だから彼女は声だけで僕だと判断していた。
その表情は既に青を通り越して真っ白だ、肌色は最悪、碌な食事も摂っていない為少し細くなった様な気もする。僕の方を見ながら弱々しく笑いかける彼女は、既に宇多弥生という一つの人格を失っていた。
水は二日に一度、食事は栄養補給食品のゼリーを気紛れで四日目に一パック、彼女はそれだけを希望に生きて来た。
最初は僕が部屋に来る度に怒鳴り散らし、何故自分がこんなにも理不尽な状況におかれなければならないのだと、不満を爆発させていた。体全体を揺らし、拘束を解けと有らん限りの力で叫ぶ。
それに対し僕は淡々と「話す気にはなったか?」と問い返すだけだった、それが彼女の怒りを誘発し、結局彼女は数十分間僕を罵り続け、やがて怒鳴り声はすすり泣きに変わり、僕は席を立つ、背後から聞こえて来る引き留める言葉、懇願を無視し部屋を後にする。
そんな日々を送って一日が経ち、二日が経ち、三日経過する頃には彼女は今に近い状態になった。怒鳴りもせず、泣きもせず、ただ僕が来るのを粛々と待ち続ける。
彼女にどんな心境の変化があったのかは分からない、数日前まで有らん限りの罵倒を僕に浴びせ「人殺し」とまで罵った彼女が、今は僕を前にして嬉しそうに微笑んですら居る。視界を奪われ、食事も水も満足に与えられず、自分をこんな環境に置く男を前にして笑うなど、どうにも狂ってしまったのかもしれない。
まさか媚を売るって魂胆か? 最初はそうも思ったが、彼女の様子を見る限り本心でこんな事をしている様にも見える。人を見る目はあるつもりだった、これでも数少ない僕の誇れる点だから。
「……ごめんなさい、もう、話せる事はないの」
僕の「話す気にはなったか」という問いに、弥生は申し訳無さそうに身を竦ませながらそんな事を言う。国家超能力研究所の情報については、弥生は既に
実動員として働く弥生は研究者と違って
それでも尚、何故彼女を拘束しているのか。
彼女は五日目で情報を吐き出した、だからもう此処に拘束している意味など無い。
けれど、強いて言うならこの二日間は『予備期間』であった。もし彼女の反抗心が残っていて、重要な情報を漏らさずに居たのなら。そう考えて、僕は「まだ全てを話していないだろう」と突き放し、未だ弥生をこの部屋に閉じ込めていた。
五日間、時間にして凡そ百二十時間、椅子に縛られ動く事もままならず、孤独に過ごした彼女の精神は限界だっただろう。僕の言葉を聞いた彼女は、まるでこの世の終わりの様に項垂れ涙を零した、しめった目隠し布から漏れ出した一筋の涙を僕は確かに見たのだ。
それから二日、四十八時間、昨日も一度様子を見に来たが今日と同じだ、「ごめんなさい」と謝り、話せる事はもう無いのだと申し訳無さそうに言う。乾いた喉から出る声は擦れ、水分を欲しているのだろう、彼女は頻繁に喉を鳴らしていた。
ここまで来て、僕は
けれど三日で殆ど狂いかけた様な人間が、それを超える七日間、情報を隠したままじっと耐える事が出来るのか? 僕は今の弥生を見て、それは無理だと判断した。
例え話せば殺すと言われていても、放っておかれれば死ぬのだ、口約束の死よりも目前に迫った現実の死の方が余程恐ろしいに決まっている。それだけの事を僕は弥生にしているのだ。
「……口を開けろ」
喉が渇いては話したくても話せまい、僕は足元に置いていたソレを手に取る。
上から持参した500mlのペットボトル、中身は無味無臭の天然水。
席から立ち上がってキャップを開くと、「あっ」と嬉しそうな声を上げた彼女が上を向き、大きく口を開けた。その姿は親鳥から餌を貰う
ボトルの飲み口を唇に付け、ゆっくりと水を流していく。透明な液体が渇いた唇に潤いを与え、口の中に流れた水を舌が受け止めた。溢れた水が彼女の喉を伝って胸元に消える。
「んっ、んっ……ぐ、んくっ」
少しずつ水を飲み下し、喉が鳴ってペットボルの中身の半分が消える。そこまで飲ませたところで一度口から離し、「まだ要るか?」と問いかける。すると彼女は大きく息をしながら、首を横に振った。
「出来れば、その……股に、掛けて貰えると」
恥ずかしそうに足を擦りながら、そんな事を言う弥生。僕は極めて機械的に「あぁ」と答えると最初から持って来ていた二本目のペットボトルも開け、両ボトルの中身を弥生の下半身、主に股を中心に振り撒いた。
当たり前だが、人間は排泄をする。
固形物を与えていない為便は出ないが、水を与えれば当然尿は出る。透明なソレは水を掛けてしまえば余り分からないが、弥生から匂う強い女性の匂いと微かなアンモニア臭が全てを物語っていた。
最初こそ羞恥に塗れながら僕に「鬼畜」やら「変態」やら罵倒を飛ばした弥生だが、今では当然の事の様に受け入れている。慣れたのか、それとも羞恥心を捨てたか、或はどこかしらおかしくなってしまったのか。
対応する僕も感覚が麻痺してしまっていた。
ボトルの水を全て使い終わると、キャップを閉めて椅子の足元に置く。「ありがとう」と頬を染めて礼を言う弥生を無視しながら、僕は彼女をどうするべきか決めかねていた。
★
一日目は、それほど辛くは無かったと思う。
目隠しをされて身動きも取れず、空腹と喉の渇きに耐えるだけであれば大丈夫だと、どこかそんな楽観的な考えを持っていた。私は、超能力者という存在を人間とは別のナニカだと見ていたから、最終的には私を助ける筈だと根拠のない自信を抱いていた。
私の中で国家超能力研究所という存在は大きく、職場に対する盲目的な信頼もあった。あの環境は特殊で、普通の人間が超能力者というある種の才人を管理し、そこに長く入り浸っていた私は「超能力者は普通人に逆らえない」という刷り込みがなされていた。
職業病だろうか、
それが正しいと信じて。
実働員としてはマニュアル的態度だとしても、それを自覚するには余りに長く研究所に身を置き過ぎたのだ。
だから私は暗闇と身動きの取れない状況に耐え、一日に一度足を運ぶあの男に有らん限りの罵声、罵倒を浴びせた。それによって今より状況が酷くなるなんて考えもしなかった、無論研究所の情報を漏らす何て論外だ。
罵倒を浴びせ続け、そして男は私の叫びに耳を貸さず部屋を去る。男が去ると異様な寒気が私を襲った、何も見えず、自分の声しか聞こえず、動けないと言う事実は私を予想以上に苦しめた。何度叫んだかも分からないし、手首の皮膚が擦り切れてしまう程もがいた、けれど結局抜け出す事は出来なくて、いつしか私は声を出す事も億劫になってしまっていた。その頃になると時間の感覚が全くなくなり、今が何時で、何日目なのか分からなくなった。
男が再度この部屋を訪れた時、私は気力だけで男を罵倒した。乾き擦れた声で精一杯罵声を上げたつもりだったが、前と同じく酷く機械的に「話す気にはなったか?」と問うてくる男。
私の声を気にも留めない。
それが何か血の通っていない機械を相手にしている様な気がして、ゾッとした。
その日男は私に水を与えた、一応それなりの期間生かす気はあるのだろう、頭から水を掛けられた時は何事だと思ったが、水分だと気付いた時には無意識にソレを求めて口を開いていた。味は無く、匂いも無く、恐らく天然水か水道水か、どちらにせよ私にとっては随分久しぶりに感じる水分。ただの水がこれほど美味しく感じたのはいつ以来か、私は胃が水で満たされるほど口にし、僅かな幸福感に浸る。
「話す気にはなったか?」
私はその日も、罵倒でその質問に答えた。
三度目は殆ど朧げだ、正直半ば発狂していたと思う。
自分の股を濡らす尿も、引っ付く服も、全て煩わしい。
見えない視界、動かせない体、襲い来る飢餓、同じ姿勢で居る為体の節々から鈍痛が続いている、それがまた私の精神を突いて思考が狂う。
けれど衝動に任せて喚き散らす事も、暴れる事も出来ない、それを行うだけの体力も精神力も底を着いていた。頭の中で回る思考は、何故自分がこんな目に遭わなければならないのか、自分はただ職務を全うしていただけなのに、全てあの男のせいだ、そんな事ばかり。
そしていつも通り扉が開き、あの男がやって来る。
最初はこんな女性を放置して、ましてやこんな羞恥を晒させる事に変態やら何やらと叫んだが、男は変わらず「話す気にはなったか?」と問いかけるだけであった。その事に、あぁもうこの人に何を言っても無駄なのだと、頭の片隅で理解した。
それから男はいつも通り水を私に与え、部屋を後にする。事この空間に於いて私以外の存在は男だけであった。唯一この渇きを癒せるのも、この環境から脱する機会を与えるのも、会話をするのも、男だけ。
「嫌っ、待って、お願いッ、行かないで……っ!」
この場に至って、私の罵倒は懇願に成り果てていた。
もうこの環境を抜け出せるなら何でも良かった、例え自分をこんな場所に閉じ込め、ましてや苦痛を生み出している元凶だとしても。その水は私の喉を潤し、機械的であっても声が聞けた、この変わらない空間で男だけが救いだった。
けれど無情にも男は去る、伸ばそうとした手は動かず、その事に絶望しながら私は再び項垂れるのだ。
ただ、ただ、この苦痛に耐え続けて。
私の世界は、殆ど私と男で完結していた。
何も考えず、何も思わず、何も得ず、何も失わず、彼が来たことを純粋に喜び、与えられ、そしてまた時を待つ。
四度目の際に口に入れられたゼリーの様なモノは、久々の栄養で、久しく感じていなかったモノを噛む感覚に涙が出そうになった。そんな事に幸福を感じる私自身を悲しく思うも、本心では既に彼への感謝すら抱き始めていた。
少しの栄養源を得られた私は、僅かに取り戻した理性を使って彼へと吐露する、その内容は勿論『国家超能力研究所』について。
もう私は、この情報を隠す事に意味を見出せなくなっていた。
私の知っている全てを話した、研究員では無い為超能力者の詳しい待遇や
私が話す中、彼は特に口を離す事も促す事も無く、粛々と話を聞いていた。
そして私が全てを語り終え、「これで、全部」と言うや否や、「そうか」とだけ言って席を立った。そして
「ね、ねぇ、私、もう全部話したよ? 知っている事は、全部……だ、だから」
もう解放して。
その言葉は、彼の放った一言で飲み込んだ。
「まだ全てを話していないだろう」
さっと、私の中からが血が引いた。
「そ……んな、わ、私っ、本当に、もう何もッ」
そう言い縋るが、硬質な扉が閉められる音が木霊する。それが意味するところは彼が去り、そして私は再び地獄の時間を味わう事になるという未来。
その事実を目の前にして、私は最後の希望すら失われる音を聞いた。
項垂れ、既に枯れ果てた筈の涙が一粒零れる。
話せば全てが終わると思っていた、例え死んでも構わない、今の環境よりはずっとマシな筈だ。けれど結局は現状のままで、解放される事も死ぬことも出来ない。いや、或はこのまま緩やかに死を迎えるのかもしれない、ただ話す事さえも難しくなってきていた。
このまま緩やかな死を迎えるとして、きっとその過程は酷く辛いモノになるのだろう。今よりずっと苦しくて、不快で、辛くて、考えるだけで自然と絶望してしまう様な。
どうしてこんな事になったのだと、既に答えの出ていた筈の疑問が再び私の中に浮かび上がった。
けれど、その答えは本当に正しいのか? 間違っているのは、私の方なのではないか?
そんな事を思う。
そう、正しいのは彼で、間違っているのは自分。
そういう事ではないのか。
彼はどうして私をこんな場所に閉じ込めるのか、情報が欲しいから? けれど、話せる情報なんて残っていない。じゃあ別な事を望んでいるの?
分からない、それを考えるには余りにも私の頭は働かない。
だから私は碌な思考もせず、考えも巡らせず、ただ単純な結果として今をあるがまま受け止め、結論付けた。
私が間違っているから、こんな目に遭っているのだと。
私が間違っていて、彼が正しい。
でなければ、おかしい。
私が今苦しんでいるのは間違っているから。
誤っているから。
なら正しい彼に従えば、許して貰えれば。
私は楽になれるのだろうか。
次に彼が来るまでの時間は、私には無限の様に感じられた。長かった、
宇多弥生という人間の生きて来た人生が一度失われ、新しい私が生まれるまでに要した時間は酷く長く感じられた。いや、正直に言えば宇多弥生という人間の人格が死んだと、そういう実感は無かった。
ただ、自分が間違っているのだと気付いただけであって、その結果生じる事象は当然であり疑問に思う事は無い。私は彼を待ち続け、この空腹感も、喉の渇きも、羞恥も、不快感も、鈍痛も、全てが全て彼が私に課した罰だと思った。
罰を与えるという事は、つまり許される可能性があるという事。
だから私は謹んで罰を引き受けた、すると不思議とその痛みが和らいだ気がした。或は感覚が麻痺してしまっているのかもしれない、けれどそれでも良かった、寧ろ好都合だ。
彼が再び部屋へやって来た時、再び問うた。
「話す気にはなったか?」と
「ごめんなさい、もう、話せる事はないの……」
私はそれだけを口にして項垂れた、ただ申し訳無い気持ちで一杯だった。私が研究者であれば、もっと上位の情報開示権を持っていれば、彼の役にも立てただろうに。
けれど彼はそんな私に水を飲ませ、ついでに汚れた私の体を洗い流してくれた。
それだけ十分だった。
★
「えっ」
その声は部屋の中に大きく木霊した、水分を得たばかりの喉は瑞々しい声を発する。声の主は弥生、僕は彼女の手を縛っていた紐を切っていた。ナイフはすんなりと彼女を拘束していた紐を断ち、パサリと紐がコンクリートの床に落ちる。
後ろ手に回っていた手が戻り、久しぶりに動かした為か弥生は「いたっ」と声を上げた。続いて足を拘束していた紐も切断し、僕は未だ戸惑う弥生の目隠しを乱暴に取った。
「……いきなり目は開けるな、失明する、最初は光に慣れさせるんだ、慣れたらゆっくり開け」
確かめる様に手を動かし、足を動かし、背を伸ばしてから電球へ目を向ける。
その瞼は閉じたままで、たっぷり三十秒程瞼越しに光を眺めた弥生は、ゆっくりと目を見開いた。
「……見える」
弥生の目には光が見えない、正確に言うのならばどこか
恐らく長い間使われていなかったからだろう、そう結論付けて彼女の腕を掴む。
「来い、まずは汚れを何とかする」
そう言って引っ張ると、弥生は慌てて「あっ、待っ」と声を上げた。しかし一拍遅く、僕に引っ張られた弥生の体が傾いて倒れそうになった。それを見て慌てて支えるが、弥生の足は震えて本来の役割を果たせていない。殆ど寄り掛かる様な形で弥生は立っていた。
「ご、ごめんなさい……まだ、歩くのは」
そう言って目を伏せる弥生。
どうやら思っていた以上に拘束の弊害は大きいらしい、僕は少し考えた後、無言で弥生に背を向ける。背後から戸惑う気配が感じられるが、「早く乗れ」と口にすると、恐る恐るといった風に弥生が背に負ぶさった。
「……ありがとう」
「別に、お前の為じゃない」
監禁していた人間に感謝される、何とも妙な体験。
ただ無感情を貫こうと、弥生を背負って部屋を後にした僕は。
書けば書く程長くなる~、ようやくそれらしいところまで来れたッ……!
ヤンデレぱぅわぁーが発揮される事に期待!(`・ω・´)
明日の私頑張れっ!\( 'ω')/