インスタント・HERO ~180秒で世界を救え!~ 作:トクサン
「かっちゃんスゲー!」
学校の裏庭、僕らが秘密基地として好むそこは放課後になると人の気配が全くなくなる。時刻は夕刻、太陽が沈み始め薄暗い視界の中で、ぱっと光が生まれた。
目の前で指先に炎が躍る、それは変幻自在に形を変えて時にはマッチの様に小さく、時には渦を巻く様に、時には動物の形になったりして僕を楽しませた。
指に炎を灯らせた少年は、「凄い凄い」と騒ぎ立てる僕を見て、それはもう嬉しそうに笑う、そして最後に一際大きな炎を見せると、ぐっと拳を握って炎を消し去った。
「先生が言うには、えんねつ? 系の能力なんだってさ、上手く行けば『ゆーい能力者』っていうのにもなれるって」
「すげぇ! 良く分からないけど、かっこいいね!」
小学生の時期。
一番最初の全国一斉超能力発現検査―
それによって能力を発現した、かっちゃんの姿。
相変わらず、この頃の僕は語彙力に乏しかった。
けれど僕なりに凄いって事を伝えたくて、少し大げさなくらいに喜んで、声を上げて、我が親友に笑いかけていた。その目の前の親友は、僕の喜びように頬を緩ませて満更でも無い笑みを浮かべる、そこには超能力を発現した嬉しさ以上に、僕との絆を強く感じられる笑みだった。
能力は【炎熱】、単純に炎を操れる能力、個人差によって火力は異なるが、かっちゃんの場合は中の上と言った所だった、ギリギリ優位能力者に認定される熱量。けれど危険種と判断される程では無く、成人するまでは自由に進路を決める事が出来るとされていた。
「でも、超能力って、本当にあったんだね」
自分でも驚きだよと、未だに信じられないと自分の掌を見下ろすかっちゃん。そんなかっちゃんに僕は、「いいなぁ、いいなぁ」と体を左右に揺らした。
「僕も欲しいよ、かっちゃんみたいなの」
「んー……でもさ、こんなの、お風呂沸かすとか、料理するとか、そんなのにしか使えないと思うよ?」
小学生の考える火の使い方に、僕は「そうかー…」と考え込む。そしてふと、「どんな能力だったら、かっちゃんは嬉しい?」と問うてみた。
「そうだね、とー君と楽しく遊べる様な、そんな能力が良かったなぁ」
炎は危なくて、あんまり使えないし。そう言ってかっちゃんは肩を落とす、僕は必死に「そんな事無いよ!」と先程の衝撃を体全体で表現した。この頃、純粋な炎など目にした事が無かった僕は、その美しさに見惚れていたと言っても良い。
「なら、あれだ、僕が能力を『はつげん』するよ!」
「とー君が?」
「うん! そうだなぁ……」
かっちゃんを元気付ける為に、考えて考えて、思い立った僕は近くの古びた長椅子によじ登り、その上でテレビの向こう側と同じポーズを取った。口で「シャキーン!」と効果音も付けて、ぐっと顔は笑みを象る。
「【正義のヒーロー】になれる能力! とかどうかな!?」
正義のヒーローになって、悪者をやっつける。そういう遊びを僕らは幾度となく繰り返して来た、悪者は僕らの想像の中、そんな奴らを蹴散らして僕らは世界で一番強く、カッコイイヒーロー。
椅子の上に立ってポーズを決める僕を、かっちゃんはどこか眩しそうな、嬉しそうな目で見つめて、大きく「うん、良いね、それ!」と頷いた。
「待ってろよ、かっちゃん! すぐに能力が『はつげん』して、一緒に遊べるようになるから!」
「うん、待ってるよ! ずっと待ってる!」
僕が変身ヒーローで、かっちゃんは『えんねつ』系ヒーロー。
姿はどんなので、名前はこんな感じで、必殺技はどういうのが良いか。
僕らはまだ見ぬ想いを馳せて、見回りの教師に見つかるまでずっと話し続けていた。
それから九年、結局僕は能力を発現させる事が出来ず、かっちゃんは高校卒業と同時に『超能力犯罪捜査官』となった。
炎熱系の能力を使って、超能力犯罪を少しでも減らすらしい。
それが彼なりのヒーロー、【正義】への道だった。
僕は超能力を発現させる事が出来なかったけれど、かっちゃんはそれでも僕と普通に接してくれた、ずっと親友で居てくれた。
あの時の約束は既に色褪せてしまったけれど、彼は未だに諦めていない。
「待ってるから、とー君」
「……うん、待って、必ず、追いついて見せるから」
能力が無いからなんだ、能力者だからなんだ。
僕らはこうして、手を取り合って生きていける。
何も正義を行うのに能力は絶対じゃない、僕は僕なりの道を、かっちゃんと一緒に歩ければそれで良いのだ。
それで良いのだー
プロローグとして挿入しました。
話に厚みがないとアドバイスを頂いたのでφ(..)