私の上司はデコポンポ   作:fukayu

18 / 18
 初代リメイク決定と言う事で久しぶりの投稿です。
 偽りの仮面もだいぶ昔にやったものなのでアニメやら漫画やらで復習しながら書いてます。そろそろネコネ以外とも絡めるかな?


教えて、ラウラウ先生!

 拝啓、ラウラウ先生。

 貴方様の作品はいつも楽しく拝見させてもらっています。こう見えて流行りモノに弱いですからね、私。

 

 それはそうと、今回は先生にどうしても質問したい事があるのです。

 日頃から、男達のくんずほぐれずな姿を描写している先生にとって受けとか攻めとかの定義など私が改めて説明するまでもない事だと存じ上げます。というか、私自身そこら辺は詳しくないのでよくわかりません。

 そもそも、お金になりそうなものを広く浅く調べるのが私の主義なのですよ。はい。

 

 すみません。

 前置きが長くなりました。

まぁ、何が言いたいのかというと。

 

「今のこの状況を説明してください!」

 

「アトリ様! アトリ様ッ! わたくし、やっと見つけましたよ! やっと見つけたのです!」

 

 ヤマトの北方にある小国マルルハ。

その国の皇女である彼女を初めて見た時、正直言って私は心配になった。あまりに世間知らずで平気で他人に無償の愛を振る舞ってしまいそうなこのお人好しが色んな意味で混沌としていて弱者に対してあまりにも無慈悲な捌きを下すこの帝都で本当にやっていけるのだろうか。そんな細腕でもし悪漢に襲われた時どう対処するんだ、と。

 

 でも、その心配は最初から必要なかったと私は今身をもって体感している。やっぱこの娘、ヤマトの姫だわ。……勿論、悪い意味で。

 

「アトリ様、ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

「あの、ルハナ姫? 痛いんですけど、なんか身体中からミシミシと怪しげな音が聞こえるんですけど!?」

 

 現在、ルハナ姫は私に馬乗りになってその細腕で締め付ける様に私の身体を拘束していた。俗に言うマウントポジション。そこそこ鍛えている筈の私が一切抵抗できないところを見ると恐らく本気を出せばギギリ程度は絞め殺せると推測する。故に、我に逃げ場無し。

 

 今思い出せば、最初にあったとき賊に身ぐるみ剥がされたという割に随分と身なりが綺麗なままだったのはあちらさんが流石に貴族に手を出すのはマズいと思って手を出さなかったんだと勝手に勘違いしてたけど、物理的に強すぎて手を出せなかったんですね。さっきも戦闘時は杖を使って援護ばかりしてたから戦いは不得手だとばかり思ってたけど、マルルハって立地的にちょくちょくウズールッシャからちょっかい出されてるからなんだかんだで帝の御膝元で平和な帝都より荒事になれてるってのも考えてみれば当たり前ですよね。

 

 でも、これは流石にスキンシップの範疇を越えているでしょう。

 

「あーはい、わかりました。探し物が見つかってうれしいのはわかりましたからいい加減離れましょうね? 私もそろそろ目覚めちゃいそうですから」

 

 別にルハ×アトとかそういうのじゃない。というかどちらかというと私は攻める方が好きなので本来はアト×ルハなはずなのだ。でも、以前クジュウリのルルティエ姫が掛け算の前と後は状況によって入れ替わるとも言っていたから所詮にわかな私には判断に困るところだ。教えて、ラウラウ先生!

 

「やっぱり、以前帝都の文献で見たものと一致するです。正直まだ信じられないですが、これはマルルハの国宝で間違いないかと……というか、まだやっていたのですか」

 

 私達が抱き合っている中、一人自分の中の知識を総動員して調べ物をしていたネコネ嬢が何か不快なものを見るかのような視線を主に私に向けながら結果を報告してくる。

 

「あの、ネコネ嬢? この場合どう考えても私が被害者だと思うですが」

 

「どうせまたアトリさんから何か始めたに違いないのです」

 

 どうしよう。ネコネ嬢の私に対する信頼度が低すぎる。とはいえ、自分でも思い当たる節が無い事は無いので深くは突っ込まないでおこう。日頃の行いって大事だよね!

 

「ゴホン、とは言え。この場にルハナ姫が帝都に来る際に運んでいた積み荷の一部があったことは事実。次は何故こんな所にそれがあったかと言う事ですが、ルハナ姫。もう一度聞きますが、貴女を襲撃したのはギギリではないのですね?」

 

「は、はい! ギギリ様方では無かったとお、思います……」

 

 改めて聞くのも変な話だが、犯人についての情報をここで整理しておく必要がある。私からようやく離れたルハナ姫だが、その言葉にはどこか自身が無さげで先ほどまでの抱擁のような力強さは感じられない。

 

「思います、ですか。確か、襲われた時のことはよく覚えていないんでしたね」

 

「ええ、あまりに突然の事でしたので……お役に立てず申し訳ございません」

 

 まぁ、流石に相手がヒトか蟲かの違い位は分かるか。それよりも、私としてはギギリ様の方が気になる。何故このお姫様は蟲に敬称を付けているのだろう。

 

「本当はギギリが犯人ならよかったんですけどね。一応これらは帝への献上品という扱いなので少なくとも誰が何のために狙ったのかくらいは調べておかないと後で報告するときに色々と面倒です」

 

「また、そうやってすぐに面倒だなんだと。少しは兄様を見習って真面目に働いたらどうなのですか!?」

 

「いやいや、いくら知り合いだからって婚約者でもない他国の姫の護衛に仮にも中央の重鎮が身分を隠してまで付く方が異常ですから。ネコネ嬢には上手い事言っていますけど、本当はあちらに想い人でもいるんじゃないんですか?」

 

「お、想い人!? あ、兄様に限ってそんな事―――あり得ないのです!」

 

「いつも通りの反応ごちそうさまです。あ、クジュウリならシスさんとかお勧めですよ。ある意味では似た者同士ともいえますし」

 

「それはどういう意味なのですか!」

 

 確かオーゼン殿の長女であるシス姫は政略結婚を反故にして出戻り中だと聞く。皇族に生まれておいて正直それはいかがなものかとは思うが、妹が心配なら仕方ない。彼女のアレは一種の病気だ。同じく妹を溺愛していると言っても過言では無いオシュトルとは気が合いそうなものだが、流石に彼女と同列に扱うのはかわいそうだ。

 

「貴方の兄上の事はさておき、私としては他にもっと気になる事があるんですよね」

 

 いつもの如く兄様に関わる事にはしつこいネコネ嬢を放置し、先ほどから挙動不審なルハナ姫の方を見る。

 

「ルハナ姫、あまり答えたく無さそうだったんで今まで聞いてきませんでしたが、帝都へは何人ほどで向っていたんでしたっけ?」

 

「そ、それは」

 

「まさか一人とは言わないですよね? 先程の驚異的な力を実感した身としては有り得ないと否定できないのはつらいですが仮にも一国の姫です。更には国宝まで持たせていたらしい。私、聞いてないですよそんな大事な情報」

 

 この時期、姫殿下への誕生日である生誕祭に向けて続々と上京してくる周辺諸国の皇や貴族の子息達だが、当然ながら祭り見たさに集まっている訳では無い。

 生誕祭自体、元々は有力者の後継者である彼らを人質として帝都に囲い、教育をするための仕来りであったことからも分かる通りこの時期に上京する者達はいわば国の代表だ。帝都にいる期間、彼らは様々な職場を体験し自らの見聞を深め、また今まで親によって施された教育の成果を周囲に見せ付ける役割を持つ。そんな重要な人材を一人で送り出すなどあり得ない話だ。特に、今のマルルハにそんな余裕はない筈。最初から送らないというならともかく、形だけ送るにしても帝都との関係にひびを入れかねない事をあの皇が行うだろうか。

 

「もう一度聞きますね。ルハナ姫、貴女達は本当は何人で来たんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アトリちゃん! 皆に話を聞いてきたよ!」

 

「それで、どうでした?」

 

「えっとねー。この先の洞窟で拾ったみたい」

 

 ルハナ姫から全てを聞き出した後、持ち前の異能でギギリ達からの情報収集を行っていたレラに案内の元、マルルハの国宝を見つけたという洞窟の前に私達はやってきた。

着いた時点でわかったが、中からは独特の臭気が漏れ出していてこの奥で一体何が行われたのか想像することはそれほど難しくはなかった。

 

 ギギリ達はここで拾ったと言ったが、本来あの蟲にホロロン鳥の様に光物を集める習性は無い。あの場に有ったのもほとんどが彼らにとって使い道がなく、廃棄されていたという方が正しいだろう。

 

「うぅ、お兄様!」

 

「駄目ですよ。ここまで死臭が漂ってきているんです。何の準備も無しに入ればただではすみません。貴方とネコネ嬢はここで待機です。レラ、ギギリを数体道案内として雇えますか? こちらも兵士を何人か連れていきます」

 

「いいよー」

 

 今にも飛び出していきそうなルハナ姫を有無を言わさず半ば拘束するような形でその場に縛り付け、兵士の中から何人か離れした者達を選出する。当然というかなんというか殆ど私の私兵みたいな者達ばかりの構成になってしまったのを見て思わず笑いが込み上げる。ネコネ嬢たちと同じく顔色の悪い一般の検非違使と違って、誰も彼もがこういった事には慣れていると言わんばかりに顔色一つ変えやしない。そういえばこいつら、ギギリ退治の時も黙々と草刈りでもするかのように対応していたっけ。

 まぁ、こういう仕事柄色々やりますからね。そりゃあ、自然とそういう人間ばかりが残りますよ。

 

「では、行きましょう。宝探しの時間です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルハナ姫によると、今回同行していたのは彼女の実の兄であるマルルハの皇子で以前よりウズールッシャとの外交に関しては徹底抗戦派の中心的存在だったらしい。ヤマトとかの国の現状を知る身としては最早絶望的としか言いようがないが一応ごく少数存在すると言われる和平派であるルハナ姫とは対極の位置にいると言っていい。私の上司ほどではないが、頭に血が上ると中々に周りが見えなくなる性質らしく、今回の生誕祭に対してもマルルハが今も尚ウズールッシャからの侵攻に苦しんでいるというのに帝都では何を呑気に祭りをやっているのかと猛反対していたらしい。

 そんな皇子が何故、それほど反対していた生誕祭へのルハナ姫の参加を認め、あまつさえその護衛を買って出たのかというとひとえに火種が欲しかったからとしか説明のしようがない。

 

「いくら徹底抗戦を唱えているからと言って実の妹をその生贄にしようとかよく考えられますよね」

 

「えー、そうかなぁ。生きる為なら普通だと思うけどー?」

 

「貴方の基準はあれでしょう? ボロギギリのメスが産卵時に体力をつけるためにつがいのオスを食べるとかそういうの。私が言っているのはヒトの社会での話です」

 

「そんなに変わらないと思うけどなー」

 

 国が大変な中、帝への謁見へと出かけた優しき姫が旅の途中で敵国の兵士に惨殺され無残な姿で発見される。命からがら生き延びた彼女の兄は姫の形見である国宝を持って国へと帰り、悲しみに暮れる民にこういうのだ。

 

『やはり、和平など無理だったのだ。敵にまで心を砕いていたの妹を殺した奴らは最早人ではない―――――。』

 

 その先の馬鹿長い演説の内容はどうあれ国内の和平派の勢いを削ぎ、ヤマトという大国を統べる帝のただ一人の血縁である姫殿下の生誕の祝いを血で汚したという事実を持って腰の重い帝都の重臣達を動かそうとしたのだろう。

 彼らの誤算はその場で殺すはずだったルハナ姫が予想外に強く、毒殺にも生来薬物の利きにくい体質であるため一時的に意識を奪う程度しか効果は無く、如何に皇子の命令とは言え自国の姫を殺める事に両親を咎めた兵士が偽の証拠を用意していたと言う事だろう。その結果ルハナ姫は単独で置き去りにされ、一人で帝都まで辿り着いてしまったわけだ。

 ここまで、ルハナ姫の証言から予想した内容だが、

 

「うん、ガバガバ過ぎますね。というか、民からの人気的によほどうまく言いくるめないと逆に護衛に付きながら守り切れなかった自分達に責任が行くとは考えなかったんですかね?」

 

「でも、ここにいるっていう事は住処にも帰れなかったんだよね?」

 

「まぁ、今は生誕祭の時期ですからね」

 

 何度も言うように本来生誕祭の時期に上京してくる子息達は皇達に対する人質だった。当然、そんな扱いに納得がいかず途中で引き返そうとする馬鹿が毎年何人か出るわけだが、彼らの通る整備された道には一定の間隔で逃走防止の関所が設けられている。形骸化した今でも一度定められた規則というのは中々撤廃することで出来ず、行きは問題ないが期間中に大荷物を抱えて引き返す場合は確実に捕まる。特に今回は私の伝手で本来はヒトが通らない場所にも検問を敷いていたので見つからないように移動するのは至難の業だったはずだ。

 

「そんなこんなで辿り着いたのが繁殖期真っ盛りのギギリ達の巣穴とは何とも不運な事ですね」

 

「みんなにとってはご馳走が来てくれたわけだから大助かりだけどねー」

 

「ご馳走ねぇ」

 

 辺り一面に転がっているのは抵抗したのか原形を留めないほど破損してしまっている元兵士の残骸だ。彼らが孤軍奮闘してくれたおかげでギギリ達の生存本能が高まり、今回の様に通常ではありえない規模の群れが誕生してしまった結果私達がお呼ばれされることになったというのは何とも皮肉なものだ。

 

「アトリ様。この先に明かりが見えます」

 

 先行していた兵士が足を止めて警戒をするように呼び掛けてくる。

 いくら通常より知能が発達しているとはいえ、ギギリ達は火を扱わない。つまり、この先にいるのはギギリ以外の生物と言う事だ。

 

「なんか臭いね。みんなこの先には行きたくないみたい」

 

「死体の数もだいぶ減ってきましたね」

 

 特殊な香でも炊いているのか道案内をしていたギギリ達が一斉に足を止める。

腐敗した肉の匂いを好むギギリが嫌う臭いか。いくつか心当たりはあるけど、これはあまり嗅いだことの無いものだ。そういえば、ルハナ姫にはどうして彼が徹底抗戦を唱えているのか聞くのを忘れていた。まぁ、こういうのは人伝で聞くより本人から聞いた方が速いので特に問題ない。というか、()()()()()()()()()聞いてない。

 

「というわけで、ごきげんよう。マルルハ国、第一から第三皇子さん?」

 

 明かりの先、総じて土気色になった集団の中にそれっぽいのが三人ほどいた。

 

 えっと、誰がどれだっけ?

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。