私の上司はデコポンポ   作:fukayu

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 お久しぶりです。
 二人の白皇の攻略に時間がかかってしまい更新が遅れてしまいました。すみません。

 『最高の最後を!』という言葉が嘘偽りでは無い名作でした。

 特に序盤のデコポンポ様達との決戦は作中屈指の難易度でしたね。
 ボコイナンテの攻撃を受けられるのがオシュトルしかいなかったり、突然デコポンポ様が巨大な怪物に変身した時は驚きました。流石八柱将、あの方も仮面のモノだったのですね。
 
 その後も姫殿下に試練を与えるためにデコポンポ様(真)が分身して現れた時は涙がとまりませんでした。後から現れたムネチカ殿に姫殿下を託すシーンなどは前作で憎まれ口を叩きながらも実は信頼し合っていたという事がよくわかる場面ですよね。

 後これはネタバレになってしまいますが、個人的には実は生きて他デコポンポ様が主人公達のピンチに颯爽と現れ、ラスボスに向かって「結局お前は親の七光りでここまで来たボンボンにゃも!」と言い放ってくれた時は胸がスッキリしました。
 それだけでも名シーンなのにエピローグでもしっかり付き合ってくれて特に関わりないのに裏ボスへの特殊セリフがあるデコポンポ様には感服するしかありません。
全く、どこかの左近衛大将も見習ってほしいものですね。



 あ、今回は蟲少女視点のお話です。


レラ視点 はじめてのともだち 

 レラには生まれつき不思議な力があった。

 

「なっ、無詠唱で呪法を!?」

 

 レラよりも幼い少女が驚愕に満ちた顔で叫ぶのを聞きながら周囲に集まってきた風を使って飛ぶ。

 小さい頃から持っていて、何時しか自分の意思で使えるようになったレラだけの力だ。生まれて初めてできたヒトの友人にカムカムイと名付けられた力は自由自在に風を操る事が出来る。彼女曰く、普通のヒトは特別な儀式をしないとこんな事は出来ないそうだ。

 

 でも、そんな事はレラにとってはどうでもいい。

 今重要なのはこの子たちを逃がすこと。その為ならこの力だっていくらでも使ってやる。

 

「みんな、早く逃げて! ボクが時間を稼ぐ!」

 

 レラは物心つく前に両親と離れ離れになった。理由は知らない。

 気づいた時には山奥でギギリ達に育てられていて、レラは彼らと気持ちを交わす事が出来た。それだけで十分だった。生きるために必要な情報は揃っている。時折、レラの元を訪れるレラと同じ種族の老人は彼らの言葉を話せないレラに言葉を教えるついでに自分の身体を燃やしていた。もしかしたら燃やすついでに言葉を教えていたのかもしれない。レラが風を纏うのを見て凄く羨ましそうにしていたから。

 

 レラの種族――ヒトの言葉を覚え、老人が教えてくれた知識で群れを広げながら生活する毎日。

 別れは突然訪れた。

 

 生息域を広げ過ぎたレラの群れはとうとうヒトの縄張りにまで入ってしまったのである。

 自分達が生きるために相手を殺す。それは自然に生きるギギリ達にとっては当たり前であり、もう数百年も前からずっと繰り返されていたことだった。当然、ギギリに育てられたレラもその考えに染まっていた。

 

 でも、ヒトは違う。

 自分達の生活の安定のため、どんどん生息域を広げるヒトは障害と成る生き物に対しては容赦はしない。毒があり、食べることの無いギギリであってもだ。今までも何度かヒトを襲ったことは有る。しかし、縄張りを広げ集落を襲い始めたレラの群れはヒトにとって見過ごせる限度を超えていた。

 

 攻撃が開始される。

 火の矢が飛び、仲間が次々と燃やされる。

 レラも親代わりのボロギギリの背中に乗って戦った。今までヒトと戦ったことは有った。レラの風の前ではヒトの使う武器である刀も矢も効かない。逃げ惑う敵の中を掛け進み、ヒトの群れの中央まで一気に進む。何故中央に進むのか、それはギギリの長はいつも中心にいるからだ。

 

 かくして、敵の波を切り裂き中央に辿り着いたレラが見たのは自分よりも少し年上の少女だった。

 

「わ、早いですね」

 

「お、ま、え、が、おさ?」

 

「長? 指揮官という意味ですか? 違いますよ。本当はついさっきまでいたのですが、いつの間にかいなくなってしまいまして。この椅子も大切なものらしいので私はここで死守しなきゃいけないんですよ」

 

 意味が解らなかった。

 椅子というものは知っている。二足歩行のヒトが腰かけるものだ。ボロギギリに乗るレラも見方を変えればボロギギリを椅子にしているといえるだろう。彼女は大切な仲間だ。敵からは守らなければいけない。それはわかる。

 では、少女が今座っている無駄に金色に輝くあのぶかぶかの椅子は少女の仲間なのか。

 

「ん、どうしました? あぁ、この椅子ですか。多分、私と貴方からすればゴミみたいなものですが、価値的に言えば私なんかよりもずっと高いらしいですよ、これ」

 

「ご、み? な、んで、まも、る?」

 

「私としても命と天秤にかけて、危なそうだったら捨てる事は勿論考えますよ。ですが、それは最後の手段であり、守りきれるなら可能な限り守ってみせるのが一応部下としての責任らしいですから」

 

 瞬間、レラ達に向かって隠れていた敵が矢を放つ。

 

「む、だ」

 

 軽く手を振るって全て風で叩き落したレラは再び少女に向き合う。

 レラの風がある限りこんな攻撃は通用しない。無駄な行為だ。

 

「驚きました。本当に儀式無しで呪法を使うんですね。全く、一、二回試して効かないなら次の手を考えればいいのに」

 

 驚いた。

 そう言った少女の表情はレラにとって初めて見るものだった。ここに来る途中、同じように矢をはじき、刀を折った時は皆信じられないという顔をしていた。あの老人に初めてレラの力を見せた時にされた表情を同じだから間違いない。

 

 でも、この少女は違う。

 驚いたといいながらちっとも驚いた顔をしていない。それどころか、楽しそうに笑うのだ。それは、獲物を見つけた時よくレラが浮かべている表情と同じだった。

 

 何かがおかしい。

 そう思った瞬間、いきなり耳をつんざくような爆音が響いた。それも一度や二度じゃない。何度も、何度も同じ音が響く。そして、それは仲間たちが居た場所だと気付くのにそう時間はかからなかった。

 

「みんな!」

 

「ふむ、やっぱり爆破は有効でしたか。貴女の近くじゃないと風の加護はあまり受けれないようですし、この策は有効ですね」

 

「なん、で?」

 

 何でここまでする。

 あれじゃあ、ギギリといえども身体がばらばらになるのは避けられない。当然、食べられる部位も無くなる。ギギリは生きる為なら仲間の死体でも喰らう生き物だ。死んだからといって決して無駄にはしない。

 

 でも、ヒトは―――この少女は違う。

 

 殺すため。

 ただ勝つためにギギリを殺した。

 そこに一切の迷いも妥協も無い。あるのはただ次はどうしようかという考えのみ。

 

「理解できませんか? 私がこうまでする理由が。 ま、そうですよね。でも、私はよく理解していますよ。このまま何もせずにいれば私は貴女に殺される。仮に生き延びたとしても、その後またギギリが村を襲い続けるようなら作戦失敗の責を取らされてどうせ殺されます。では、かって生き残るしか私が生きる道は無いと言う事です」

 

「どうしました? 風を使えるのは貴女だけじゃないんですよ? 少し準備いりますけどね?」

 

「そうですよ。私は生きたい。まだ死ぬわけにはいかない。それは貴女も同じでしょう? だから戦うのです。そして戦うからには勝たなければいけない。貴女達にとっては食べるための戦いなのでしょうが、私にとっては生きるための戦争なんですよ」

 

 少女から放たれる火球。

 咄嗟にいつもの様に振るった風は火球にぶつかると同時に爆発した。

 

「ッ!?」

 

「やはり、風で矢は防げても爆発までは防げないようですね」

 

 爆発で閉じていた眼を開けた瞬間、さきほどまで椅子に座っていた少女の姿が直ぐ近くにあった。

 

「こ、の!」

 

 振り上げられた刀を風で力任せに砕く。

 これでいつも通りだ。これでこの少女も驚いて――。

 

「えっ?」

 

「どうしました? 風を使えるのは貴女だけじゃないんですよ? 少し準備入りますけどね?」

 

 粉々に砕け散った筈の刀の刀身がまるで見えない糸に繋がれているかのように元に戻っていく。いや、それよりももっと性質が悪い。破片の一つ一つがまるで生き物の様に動き回る。それはまるでギギリのようで、力任せに風で払っても何個かは通り抜けてレラが乗るボロギギリの殻で覆われていない関節や口の中に入り込んでいく。

 

「ギシャアアアア!!!」

 

「や、だめ!」

 

 レラと少女の違いは一つ。

 相手に勝つためにどうすればいいかよく考えているかいないか。

 

 レラは飛んでくる攻撃を防御していればよかった。そうすればギギリ達が何とかしてくれる。

 対して、味方が次々と逃げ、自分の身を守りつつ勝たないといけない少女は手段を択ばなかった。相手の懐に飛び込み、レラがボロギギリを傷付けないように力を押さえていると知った上で自分の最も小回りの利く風の呪法で砕け散った欠片を操り少しずつでも傷をつけていく。数少ない残った部下に援護させることも忘れていない。コレのせいでボロギギリも少女に攻撃する余裕がなくなっているのだから大したものだ。

 

 結果的に勝敗は仲間では無く、自分の命よりも重い椅子を守るために戦った少女に傾いた。最初から決死の覚悟で来る少女に対して、あくまで仲間であるギギリの命を優先した少女が負けを認めたのである。

 

 負けを認めると言う事は死を受け入れると言う事だった。

 これはギギリの世界でも変わらない。同じギギリなら群れを維持するために必要な食糧があるのなら受け入れるが、それが無いのなら切り捨てる。それが異種族なら選択の余地はない。レラという存在は本当に貴重なのである。戦う事無く、最初からそこにいた事で死を免れた。仮に一度でも戦っていれば間違いなくレラは殺されていた。

 

 だが、ヒトは違った。

 自分達の生活を豊かにするため、負けた相手を吸収して大きくなったヒトの群れはいつしか国と呼ばれるものになり、かつてとは比べ物にならないほど強くなった。生きる為では無く、豊かになる為。ギギリ達よりも純粋に欲深かったからこそ、ヒトはここまで強くなれた。

 

 完敗だ。

 自然界に生きていたからこそ。この事実はよくレラ達にはわかっていた。

 

「ごめ、ん。ごめんね!?」

 

「なるほど、そう言う感覚なんですね。納得。わかりました。私達はどうやら友達になれそうです」

 守る力があったのに守る事の出来なかったレラは涙した。それに応えるようにギギリ達も寄りそう。せめて最後は一緒にいられるように。そう願って―――

 

「あ、それ言葉通じるんですか?」

 

 覚悟を決めたレラ達を引きとどめたのは勝者である少女だった。

 椅子を守る為に戦った少女は守った椅子の上を何度か跳ね回っていたが、飽きたように飛び降りるとレラ達のところにきてそんな事を言い出した。

 

「言葉が通じるなら解散してもらっていいですか?」

 

「え?」

 

 一瞬何を言われているのか理解できなかった。

 

 先程まで命懸けで殺し合っていた相手とは思えないほどやる気の無い気の抜けた声。いつの間にか纏っていた殺気も何もかも霧散していた。

 

「いや、この数を処分するのは流石にこちらとしても労力的にも精神的にも辛いですし。解散してもらえるならそれでお願いしたいんですが」

 

 それから少女はレラに対し、残ったギギリ達がどこで生活すればいいのかとか、ヒトであるレラだけは一緒に彼らの国である”ていと”に来てもらいたいだとか、あまり期待してはいないがギギリ達が何か宝物をため込んでいないかだとか色々丁寧に質問や説明をしてくれた。

 中でもレラ達が自分達の縄張りに入ってきたヒトの群れを排除した時に手に入れた何に使うのかよくわからない光る石などはとても気に入ったようで、「これまさか金? デコポンポ様に見てもらわないと分からないけど本物だったら今回の負けある程度取り消せるかも……」と言って終始無表情だった口元がわずかに吊り上がっていた。

 

「これ、本当に貰ってもいいんですよね?」

 

「いい、たべれないし」

 

 少女が欲しがるものにレラは何の未練も無かった。

 ギギリが好んで食べるのは肉だ。これを持っていたヒトならば食料として使えるが、食べれない事は無いとは言えこんな硬そうなものをわざわざ好んで食べる者はいない。

 

 そう、説明すると少女の周りのヒト達は一斉に武器を構えたが、当の少女に関しては一瞬難しい顔をした後納得したようにうなずいた。

 

「なるほど、そう言う感覚なんですね。納得。わかりました。私達はどうやら友達に成れそうです」

 

「ともだち?」

 

「そうですよ。私は貴方のお仲間を助け、貴方は私の欲しいものをくれた。しかも互いにその事に関して未練が無い。私はギギリ狩りが趣味ではありませんからね、今回も仕事じゃ無ければ屋敷でゆっくりしていたかった。それなのに全く、あの上司と来たら! 手柄欲しさに勝手に挙兵した挙句真っ先に逃げ帰るとか。ま、いいですけどね。勝てましたし、お金貰えるし、椅子だけ守ってればいいんですし」

 

 段々とうつむきながら「フフフ、お金お金」と呟きだした少女に周囲の中まであるヒト達が引いているが、レラにはよくわからない話なので唯一理解できる”ともだち”という言葉に一人浮かれていた。

 それは老人に最初に教わった言葉だ。老人が言うにはレラと固い絆で結ばれているギギリ達は家族で有り友達なのだそうだ。正直、ギギリ以外でそんな相手が出来るとは思っていなかったが、何故か少女を友達と呼ぶことには抵抗が無かった。主に同族という意味で。

 

「ふふ、ともだち! よろしくね!」

 

「む、何やら今蟲風情と同列扱いされたような気がしますが、お金をくれるならまあいいでしょう。さあ、金策(友達)! 私を案内するのです!」

 

 


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