秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語 作:メトロポリスパパ
黒森峰女学園学園艦
機甲科、戦車道チーム隊長の「西住まほ」は、丘の上から双眼鏡を覗いていた。
午後から行われている攻守に分かれての紅白戦に措ける評価を行うためである。
その隣で副隊長の「逸見エリカ」も双眼鏡を覗いていたが・・・目線はチラチラと隊長のまほに行っていた。
「隊長は既にご存じなのだろうか・・・もう・・・一体どういう事のなのよ・・・」
訓練開始前には「大洗廃校」の報は隊員に知れ渡っていた。
逸見もネットで確認してそれを知った。
「一体・・・何なのよ・・・」
前年度の高校戦車道全国大会、そこで黒森峰は決勝で当時の副隊長「西住みほ」のある行動でプラウダ高校にフラッグ車を撃破され10連覇の夢が潰えた。
そして、西住みほは・・・黒森峰から去った。
本年度の全国大会、無名の高校が決勝戦で黒森峰に立ちはだかった。
《大洗女子学園》
そして黒森峰は、西住みほが隊長の大洗女子学園に敗退した。
大洗は廃校を賭けた大会で優勝し廃校を免れた・・・筈であった。
しかし、大洗は廃校になる事に。
10連覇を逃した事も、西住みほが抜けた事も、大洗に負けた事も、全部がまるで無かった事のように・・・。
今までの努力や、これからの努力、気持ちも、全て無かった事のように・・・。
でも、それ以上に隊長の、西住まほの負けた意味さえ奪われてしまった・・・。
居たたまれなさと悔しさ、虚無感が入り混じった複雑な心境のエリカ。
「エリカ、今私を見る必要はあるのか?」
エリカはまほに注意され、ハッとして「申し訳ありません」と言い双眼鏡を覗きなおした。
廃校の事はもう知っているのだろうか?まだ知らないのだろうか?
訓練直前までまほは隊長室に居た為分からない。
今も特に変わった様子もない、何時もの隊長であった。
紅白戦が終わり、今から隊長室でまほとエリカは評価の為の軽いディスカッションである。
まほは隊長室中央のソファーに座り、エリカも対面に座った。
エリカが書類や地図を机に準備している所でまほは言った。
「エリカ、何かあったのか?」
エリカはドキッとする。
聞くべきか、聞かざるべきか・・・。
「いえ、特に何もありませんが・・・」
「そうか・・・」
エリカは、聞かない方を選んだ・・・。
今は知らなくても、耳に入るのは時間の問題である。
が・・・今知らないなら、少しでも知らない時間が長い方がいい・・・。
エリカは本心を押し殺し、そう思うようにした。
夕方。
訓練も終わり、まほは隊長室で一人書類を眺めていた。
ジリリリリン♪ジリリリリン♪
電話のベルが鳴り、まほは電話の受話器を取った。
「はい」
「戦車道隊長室でしょうか?隊長の西住まほさんは居られますか?」
「わたしですが」
「聖グロリアーナのダージリンという方からお電話が入っておりますが」
「分かりました、ありがとうございます」
まほは電話のボタンを押した。
「西住まほです」
「ごきげんよう、ダージリンですわ、まだ学校に居られると聞きましたので、ご迷惑かと思いましたがこちらにお電話させて頂きました」
「いや、構わない、ただ、ダージリンから電話とは珍しいと思ったが」
「フフ、そうね・・・所でまほさん、大洗の件はもうご存知?」
「・・・知っている」
「・・・そう・・・」
しばしの沈黙の後、ダージリンが話し出す。
「一つだけ・・・お知らせしたかったの」
「・・・」
「大洗は・・・戦車だけは守る事が出来ましたわ」
「そう!・・・なのか・・・」
「ええ・・・だから、彼女達の道は、まだ続いているんじゃないかしら」
「なぜ・・・それを私に?」
「そうね・・・わたくしが知らせたかったから・・・じゃ駄目かしら?」
「・・・すまない」
「いえ・・・よろしくてよ。お知らせしたかったのはそれだけ・・・では、ごきげんよう」
「ああ」
まほは受話器を置き、椅子の背もたれにドッともたれ込んで天井を見つめ、ふぅ、と息を吐いた。
翌日
まほは家で自室の机に向かっていた。
ブオー、ブオー
と携帯電話のバイブレーションが動いた。
まほは携帯の画面を見る。
みほ・・・。
まほが携帯に出る。
「まほだ」
「お、お姉ちゃん?みほ・・・だけど・・・」
「ああ、久しぶりだな、元気だったか?」
「うん、私は・・・大丈夫」
「そうか、で、どうした?」
「あ、あの・・・実は・・・」
みほは言いにくそうにしていたのでまほから切り出した。
「大洗・・・廃校になるそうだな」
「えっ?!・・・うん・・・それでね、お姉ちゃん・・・」
まほが優しく聞く。
「どうしたんだ?」
「あのね、他の学校に転校する事になるんだけど、保護者に承認を貰わないといけなくて・・・書類に印鑑を押してもらうのに・・・そっちに帰ろうかなと・・・思って・・・」
「そうか、帰って来るのか・・・何時くらいに到着するんだ?」
「えーっと、今日の晩に船で出るから・・・明後日の朝9時くらい・・・かな」
「そうか、わかった、気を付けて来るんだぞ」
「あ・・・あのね、お姉ちゃん」
「なんだ?」
「えと・・・ううん・・・なんでもない・・・それじゃあ、切るね」
「ああ」
ピ!と携帯を切り、しばらく携帯を見つめた後、まほはどこかに電話を掛ける。
トゥルルル、トゥルルル。
「はい!逸見です」
「エリカ、今は大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですが、なにか?」
「すまないが、明後日の朝練に私は遅れて行く事になる、終わりまでには顔は出せると思うが」
「わかりました!」
「すまないが、よろしく頼む」
「はい」
「それと・・・すまないな、気を使わせてしまったみたいだな」
エリカは察したのか
「いえ、大丈夫です」
「そうか・・・ありがとう」
携帯を切り、まほは本棚に置いてある写真立てに目をやる
そこには、幼い頃のまほと、みほが一緒に写った写真が飾ってあった・・・。
次回
もう一つの物語が動き出す!
【Begins to move is another story】
よろしくお願い致します。