秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語 作:メトロポリスパパ
翌日・・・。
無線室にて北海道上陸と大洗対大学選抜の試合に参戦するにあたってのブリーフィングに参加する西住まほ。
その後ろで、メモを取りながら聞いている逸見エリカ。
試合に参戦する為のギミックは昨日に聖グロへメールで送信済である。
エリカは、この試合に参戦する各校の面子に驚いていた・・・。
「プラウダや・・・それに継続も参戦を検討しているなんて・・しかし、知波単・・・大丈夫だろうか?・・・」
ブリーフィングが終わり、まほはエリカに指示を出す。
「エリカ、聞いた通りうちからは4両だ。14時より編成会議を行う」
「了解しました」
14時頃・・・。
隊長室にて、まほとエリカは編成を練っている。
「この試合・・・我々に求められているのは火力だ。だがこの広いフィールドでの足の遅さはネックになる・・・。ならティーガーⅠ212号車とエリカのティーガーⅡ222号車で火力を。そして汎用性を考慮しつつ、火力、防御、スピードを考えるなら残りはパンター・・・になるか・・・」
「私もそう思います」
エリカも同意する。
「後は人員だな・・・私は直下を推薦したいのだが、もう一人、エリカが決めてくれ」
「私は・・・」
エリカは高校戦車道決勝戦での両校挨拶の時の事を思い出した・・・。
「私は・・・赤星を推薦します」
まほの表情が少し柔らかくなる。
「赤星か・・・そうだな・・・わかった。ではエリカ、エリカ車の隊員と直下車、赤星車の隊員を隊長室に呼んで来くれ。私の隊員は、私が呼ぶ」
「了解しました」
エリカは一礼し隊長室を出ていく。
まほは携帯電話を取り出し電話を掛けた。
一時して・・・。
直下と赤星と、その隊員達が隊長室の前に到着する。
直下は八の字眉毛を更に八の字にして赤星に言う。
「なんだろうね?話があるからとしか聞いてないんだけど・・・私達何かしたかな?」
赤星も首をひねる。
「多分叱られる・・・何てことは無いと思うんですけど・・・心当たりがないね」
不安を覚えながら直下が扉をノックする。
コンコン。
「直下、赤星、以下8名到着しました」
まほが答える。
「入ってくれ」
直下が扉を開ける。
「失礼します」
中に入り扉を閉めて整列する直下と赤星、隊員達。
隊長席にはまほが座り、向かってその左側に隊長車の隊員が横に整列し、こちらを見ている。
全員3年生の黒森峰の頂点の人達である。
まほから向かって右側の傍らに副隊長のエリカ。
そして、右側の壁際にはエリカの乗員が整列している。
まほは立ち上がり、直下と赤星の前に歩いて来る。
「直下、赤星、突然呼び出してすまない。聞いてほしい話がある・・・」
まほはすべての事を話し、二人とその隊員に向かって頭を下げる。
「すまない。責任はすべて私が取る。隊に加わってもらえないだろうか・・・」
まほの隊員、エリカとエリカの隊員も頭を下げる・・・。
直下は困惑し自分の隊員達を見るが隊員達も左右を見ながら困惑していた。
だが、赤星と赤星の隊員は真っすぐにまほを見ている・・・そして・・・。
Ob's stürmt oder schneit, Ob die Sonne uns lacht,Der Tag glühend heißOder eiskalt die Nacht.|:Bestaubt sind die Gesichter,Doch froh ist unser Sinn,Ist unser Sinn;Es braust unser PanzerIm Sturmwind dahin.
赤星は突然、パンツァーリートを歌いだした。
赤星の隊員、まほの隊員も靴を踏み鳴らし歌いだした。
直下とその隊員も初めは困惑していたが、頷き合い歌いだし、エリカとエリカの隊員も歌いだす。
「お前達・・・」
赤星が言う。
「隊長も歌ってください!」
まほは隊員をゆっくり、ぐるりと見まわし歌いだした。
♪嵐でも、雪でも、日の光さすときも、
うだるような昼、凍えるような夜、
顔がほこりにまみれようと、我らが心はほがらかに
我らが戦車、風を切り、突き進まん♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エリカさん・・・エリカさん!」
エリカは呼ばれたことに気付き、声の主の方へ振り返る。
「ああ、赤星さん・・・ごめんなさい、ちょっと考え事をしてて」
「いえ・・・隊長はどちらに行かれました?」
エリカは少し難しい顔をして答える。
「家元の所へ行ったわ・・・」
赤星は俯き・・・。
「そう・・・ですか・・・きっと大丈夫ですよ!だって私達は勝ったんですから」
「そうね・・・」
この試合に参加すると決めた時点で腹を括ったつもりでいたが・・・。
不安を拭えないエリカであった・・・。
観覧VIP席
西住流家元 西住しほの元へやってきたまほ。
しほの傍らに立ち、覚悟を決めたように話し出す。
「お母さま・・・お話が有ります」
しほは立ち上がり、まほの方へ向き、まほが話をする前に話し出した。
「まほ・・・この度の試合、見事でした」
「え?・・・」
叱責を受ける事を覚悟していたまほは困惑している。
「しかしお母さま・・・私は、言いつけに従わず・・・」
「まほ!」
しほは、まほの話を遮る。
「私は言ったはずです、編成はまほに一任すると・・・そして、見事この厳しい戦局を乗り切り勝利しました。戦車道にまぐれ無し!いつも言っているでしょう?」
「お母さま・・・」
しほは一瞬微笑み・・・。
「私はこれから連盟との会議や、やらなければならない事があります・・・・。まほは・・・《お友達》の所に行ってあげなさい」
しほは踵を返し、つかつかと歩いて行った・・・。
呆然と立ち尽くすまほ・・・そこへ・・・。
「ごきげんよう、まほさん」
まほは、はっとして振り向くと、日傘を差したモダンな姿の女性が立っていた。
「お久しぶりですわね・・・」
島田流家元 島田千代であった。
「家元・・・」
まほは一礼する。
「昔みたいに千代さんでいいのよ、まほさん」
「は、はい・・・」
まほは島田千代が苦手なようである。
千代は会場の方を向き、撤収作業や各校同士が談笑する姿を眺めながら話し出す。
「まほさん、私からも言わせてください。この度の試合、お見事でした。少し、お聞きしたいのですが・・・よろしいかしら?」
「はい」
「彼女たちは・・・貴女が招集したの?」
まほは、首を横に振る。
「いえ、彼女達は・・・自分達の意志でここへ来ました・・・」
千代は少し微笑み・・・。
「そう・・・私は黒森峰から22両の増援を出すと聞いていました・・・。貴女達は私や、色々な大人の思惑に、毅然と『NO』と答えた訳ですね・・・」
「・・・申し訳ありません」
千代は首を横に振り。
「いえ、違うの。貴女達を見ていると、これが本来の戦車道の姿なのではないかと改めて思い知らされました。多分しほさんも・・・次は、蟠りのない試合をしましょう。そして、来年はよろしくお願いしますね。大学戦車道の未来は明るいですわ。・・・では、私も行きますわね、まほさん。みほさんにも、愛里寿をよろしくとお伝えください。それでは・・・」
千代は軽く手を振り歩いて行った・・・。
どうやらお咎めは無いようだ。
ふぅ・・・。
まほは息を吐き、肩に乗った荷物がいっぺんに降りたような・・・そんな気持ちになった。
黒森峰の待機場所に戻ってきたまほは隊員達に囲まれる。
エリカは心配そうに聞く。
「隊長・・・その・・・大丈夫でしたか?」
まほは答える。
「みんな聞いてくれ。家元は仰っていた。この度の試合、見事でしたと・・・」
隊員達は顔を見合わせ笑顔になる。
まほが続けて話す。
「直下、赤星、すまなかった。早々に二人を失ってしまった事は私のミスだ・・・すまない」
直下は首を横に振り、赤星が言う。
「いえ、隊長。まさかワイルドカードがカールだなんて誰も思いませんよ。それに・・・私達を試合のメンバーに選んで頂きありがとうございました!うれしかったです」
「・・・そうか」
エリカも労いの言葉を掛ける。
「隊長・・・本当にお疲れ様でした」
「ああ・・・ありがとう」
エリカが手を叩き言う。
「さあ!撤収作業の続きをするわよ!」
「はい!」
隊員達が持ち場に戻って行く。
まほは健やかな気持ちになっていた。
すべてがクリアになっていく、そんな気持ちであった。
ただ・・・。
あと一つだけ・・・みほに言いたい事があった・・・。
それは・・・・・・・・。
これで、もう一つの物語は完結になります。
あとがき等、ボチボチと書いていきますのでたまーに覗いてあげてください。
後、表紙や挿絵など募集いたしております。1枚からでも構いませんのでお待ちしております。
ありがとうございました。