秋の日のヴィオロンの...もう一つの物語   作:メトロポリスパパ

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大洗女子学園の存続を賭けた戦いの後・・・まほは西住流家元の元へ向かう。
その後ろ姿を見て、エリカは思い出す・・・。

(おまけの補完話です)


【After math】①

「大洗女子学園の勝利!!」

 

蝶野亜美のアナウンスにより大洗の勝利が確定した。

 

「よっしゃー!お嬢ー!」

 

「え?なに?勝ったの?」

 

「ハラショー!ピロシキー!」

 

「バンザーイ!」

 

「イエーイ!」

 

履帯が無くなり補助転輪も吹っ飛び、満身創痍のあんこうチームⅣ号戦車を西住まほのティーガーⅠが牽引し待機場所に戻ってきた。

それを大洗連合の隊員達が出迎える。

まほは降車し、ティーガーの側面を軽く撫でエリカの方に振り返る。

 

「隊長、お疲れ様でした」

 

「うん・・・」

 

Ⅳ号の横では、あんこうチームのメンバーを各校の隊員が囲み祝福の言葉をかけている。

 

「おめでとう!」

 

「いい試合だった!」

 

大洗女子学園戦車道隊長 西住みほが深々と頭を下げる。

 

「皆さん、本当にありがとうございました!」

 

大洗の隊員も頭を下げる。

 

「ありがとうございました!」

 

知波単学園の西は返礼する。

 

「こちらこそ!お礼を言わせていただきたいです!」

 

そうしていると、ヴォイテクをモチーフにした熊の乗り物に乗った少女が西住みほの前にやってきた。

熊の乗り物を降りた少女。

大学選抜戦車道隊長 島田流 島田愛里寿がみほの前に立ち、ポケットからボコのぬいぐるみを出してみほに差し出した。

 

「私からの勲章よ・・・」

 

みほは一瞬驚くが、すぐに笑顔になる。

 

「ありがとう、大切にするね!」

 

恥ずかしそうにしている愛里寿からボコを受け取り抱きしめるみほ。

 

「フフ・・・」

 

その様子を見届け、まほは振り返りエリカに言う。

 

「エリカ、私は今からお母様の所に行ってくる。すまないがその間の事は任せてもいいか?」

 

「はい・・・了解しました」

 

「よろしく頼む」

 

まほはそう言い、観覧席の方へ歩いて行った。

 

「隊長・・・」

 

エリカはまほの背中を見ながら、あの時の事を思い出す・・・。

 

夕方・・・。

座椅子に座り、ポッキーを咥えながら卓袱台の上に置いたノートパソコンに向かいぼぉ~っとネットサーフィンを

していたエリカ・・・そこへスマホの呼び出し音が鳴り画面を確認する。

隊長の西住まほからの電話であった。

すぐさま応答するエリカ。

 

「はい隊長!逸見です!」

 

「エリカ、今は大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「そうか・・・私は今、艦に戻っている所だ。後1時間程で寮に戻れると思うのだが・・・よかったら一緒に外で食事でもどうだ?話したい事が有るのだが・・・」

 

「は?・・・はい!よろこんで!」

 

「では、世界時計の所で待ち合わせとしよう。時間は今から1時間後。私は直接向かう」

 

「わかりました!」

 

「うん・・・」

 

電話を切り小さくよし!とガッツポーズをするエリカ。

しかし・・・話とはなんだろう・・・?

そう思いながらシャワーを浴びる準備をするエリカであった・・・。

 

1時間後・・・。

日が落ちて間もない頃、世界時計の下で待っていたエリカの元へまほがやってくる。

 

「エリカ、待たせたな」

 

「いえ、私も今来た所です」

 

「そうか・・・休みの所に呼び出して申し訳ないな」

 

「いえ・・・喜んで御供致します」

 

「すまないな・・・さて、何処で食事をしようか?エリカ、おすすめはあるか?」

 

エリカは目を上に向けて考える。

 

「そうですね~・・・では、最近できたハンバーグの美味しいお店があるのですが如何でしょう?ここからも近いです」

 

「そうか、うん、そこにしよう」

 

「わかりました。では行きましょう。あちらです」

 

方向を示し、そちらに歩き出す二人。

日の落ちた町中をウインドウショッピングしながら歩いて行くと・・・。

 

「隊長、あの看板のお店です」

 

エリカが指を差し、まほはその方向を見た。

 

「『炭焼き すこやか』・・・変わった名前の店だな」

 

「フフフ・・・そうですね。静岡県では有名なお店だそうです。げんこつハンバーグというのが名物で、一度行かなくてはと思っていたんですよ」

 

「ははは、そうか・・・丁度よかったな、よし、入ろう」

 

二人は店内に入り、ウエイトレスさんに席を案内され着席する。

メニューを見て、ウエイトレスさんを呼び注文をする。

 

「隊長は決まりましたか?」

 

「ああ」

 

「では隊長から・・・」

 

「わかった、私は・・・ハンバーグと焼き野菜カレー、それをAセットで、セットはライスとノンアルコールビールを」

 

「かしこまりました、そちらの方は」

 

「私は・・・げんこつハンバーグを、それとAセットでライスと、私もノンアルコールビールを」

 

「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいですか?」

 

「はい」

 

「承りました」

 

ウエイトレスさんが下がり、エリカがハンバーグのうんちくを語っている所でジョッキに入ったノンアルコールビールがやってきた。

二人はジョッキを手に取り掲げ。

 

「Prost!」

 

ゴキュ!ゴキュ!といい音をさせて喉へ流し込む。

プハー!と二人がジョッキを置いたところで、まほの顔つきが変わり話し出す。

 

「エリカ、この間も話したが・・・大洗の件で気を使わせてすまなかった」

 

「いえ、隊長・・・私こそ訓練中に気を逸らしてしまい申し訳ありません」

 

苦笑いをするする二人・・・そして、エリカは、まほの目が若干泳いでいることに気付く。

まほは小さく深呼吸して話し出した・・・。

 

「エリカ・・・聞いてくれ。大洗女子学園の試合が決定した。対戦相手は大学選抜。大洗はこの試合に勝てば廃校は撤回される・・・」

 

「え?・・・」

 

「夕方、実家に居る時にお母さまから電話が有った・・・」

 

まほは西住流家元 西住しほから聞いた話をそのままエリカに話した。

エリカは頭の中で情報を整理してまほに聞く。

 

「隊長・・・つまり、うちから22両の増援を出して島田流と対峙するという事でしょうか?」

 

まほは少し間を置き答える。

 

「いや・・・私はお母様からの電話の後、聖グロリアーナのダージリンに電話を掛け、今の事をすべて話した」

 

「それは・・・何故ですか?隊長・・・」

 

まほは少しうつむき加減に答える。

 

「島田流と戦争をするつもりは無い。私は・・・戦車道でこの試合に勝ち、大洗を奪還したい。ダージリンには・・・そう話した」

 

「隊長・・・それで・・・ダージリン隊長はなんと・・・?」

 

「私達も参戦すると・・・各校にも増援を呼び掛けてくれるそうだ」

 

そこでまほは頭を下げる。

 

「エリカ、すまない。副隊長であるエリカの・・・そして隊員達の意見も聞かず身勝手な行動だと思っている、そしてみんなを巻き込もうとしている・・・私はあの時・・・みほを助けることが出来なかった・・・家の重圧に押し潰されていくみほを・・・」

 

「隊長・・・」

 

エリカが言う。

 

「・・・頭を上げてください。わかっています。あの時、隊長は副隊長・・・みほ・・・さんの事を心配していた事。先輩や後援会からのバッシングを受けても隊長の所にすべて行くようにしていた事も・・・なのにみほ・・・さんはうちから去ってしまった。その事に憤りを感じた事もありましたが・・・今は違います。みほさんは自分の戦車道を見つけました。そして、みほさんの居る大洗は黒森峰、私達の戦車道で叩き潰す相手!今廃校になってしまってはそれが出来ません!ならそれは阻止しなければならないのではないでしょうか?」

 

「エリカ・・・すまない・・・すべての責任は私が取る」

 

「こうなったら一蓮托生ですよ隊長。私たちの戦車道は隊長と共にあります」

 

そうしている間にウエイトレスさんが料理を運んでくる。

 

「お待たせいたしました。こちらがげんこつハンバーグとライスです。こちらがハンバーグと焼き野菜カレーとライスになります」

 

「さあ、食べましょう隊長!おいしそうですよ」

 

「ああ、そうだな・・・」

 

エリカは明るく振る舞うが・・・・。

この事を家元が知った時にどうなるのだろうか・・・勝っても隊長は何かしら処断されるのではないか?

負けてしまえば破門もあり得る。

だが・・・そんなのは私には関係ない。

隊長の判断は間違っていない!なら一緒に進むのみ!それが私の西住流・・・。

そう思いながら、焼けた鉄板に乗ったげんこつハンバーグを眺めるエリカであった。

 

「エリカ・・・肉汁が白いワンピースに跳ねまくっているがいいのか?汗」


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